165: 2016/05/20(金) 10:24:48.19 ID:nGQMFndQO
【ツチヤの場合】

「どう……かな?」

「うーん……やっぱり厳しいね」

 滑らせた背板から西住さんの硬い表情を見上げ、私は首を振った。

「黒森峰戦からこっち、ずいぶん無理させてきたっていうのもあるけど……一番の問題は駆動系だね」

 私はコツコツとレオポンの──オーバーホール中のポルシェティーガーの車体を叩いた。

 時代を先取りしすぎたハイブリッドシステムは調整が難しいっていうのもあるけど。

「なんといってもパーツがなぁ……」

 こんな代物をわざわざ戦車戦用に実働させてるのは日本──いや多分、世界でもウチだけ。

 複雑すぎるシステムを構築するためのパーツが流通してない。自作するにも限界ってものがある。

「やっぱり、廃車にするしか、ないのかな」

「普通のティーガーⅠ買って、パーツ取りに使うとか? まあお金があればだけど」

「うーん……」

 西住さんは眉を寄せている。
ガールズ&パンツァー 劇場版

166: 2016/05/20(金) 10:26:00.25 ID:nGQMFndQO
「わかってるでしょ、来年」

「はい」

「ウチの3年生が卒業していなくなったら……もう今みたいな整備スケジュールは組めない。来年は機甲科新設するって話だけど、冷泉さんクラスの天才が何人も入ってくるぐらいの奇跡が起こらない限り無理」

「はい……」

「せっかく8両体制に増えたところ、悪いんだけど……八九式も廃車にして6両に減らして……一部は外注で整備お願いするとかも考えにいれないとダメかも」

「はい……」

 うなだれた西住さんの首がどんどん下がっていく。私は戦車の下から這い出して立ち上がった。

「ゴメンね西住さん。私にもっと力があればなぁ」

「そんな……」

「私もコイツと同じかな」
 
 レオポンにもたれかかってため息をつく。

「同じ……?」

「出力不足でお役御免ってこと」

「……私ね」

 西住さんは、そっとレオポンの側面を撫でた。

「試合が終わってから初めて見たんです。この子の戦いぶり」

「ああ……」

 黒森峰戦の最後のとこか。あの時はレオポンが突入口を塞いで相手の侵入を阻んだんだ。

「涙が出ちゃった」

 西住さんは俯いたまま、

「めった撃ちにされて満身創痍になってるのに、最後の最後まで屈しないで戦って……」

「まあ、当然でしょ。この子はⅣ号のナイトだからね」

 私は笑った。

167: 2016/05/20(金) 10:29:35.09 ID:nGQMFndQO
「ナイト……?」

「そう。女王様を守る騎士。それでいうと操縦手の私も……西住さんを守る騎士ってことになるのかな」

 あははーなんちゃってー、っておどけてみせたんだけど、西住さんは……

「……」

 頬を押さえてめちゃくちゃ真っ赤になってる! もしかして私、すっごい恥ずかしいこと言っちゃった!?

「と、とにかくさ! なんか弱気になっちゃっててごめん! 私も諦めないでもうちょっと頑張ってみるよ。じゃないとこの子に笑われるからね」

「私も手伝います。一緒にこの子を直して、また一緒に走りましょう」

「ええーっ、それは止めといた方が……西住さんまで汚れちゃうよ」

 私は油まみれになったツナギを見下ろしたけど、西住さんはにこっと笑って手を差し出してきた。

「お願いします、ツチヤさん。私もこの子と……あなたの力になりたいんです」

「しょうがないなぁ……」

 私は煤で汚れた軍手を外したけど、素手でも油で汚れちゃってる。差し出された白い手を汚すのは、やっぱりためらわれた。多分彼女自身にはその自覚はないんだろうけど、西住さんは私たちにとってはお姫様……いや女王様かな? まあなんでもいいや、とにかくそういう存在なんだよね。

 とっさに考えた私は、握手の代わりに身を屈めて……その手の甲に唇を触れさせた。

168: 2016/05/20(金) 10:31:52.00 ID:nGQMFndQO
「なっ……あっ……えっ……!?」

 狼狽したような声が降ってきた。多分また顔が真っ赤になってるんだろうな……でも、それを確かめるわけにはいかなかった。なんでかというと、私の方も頬がすっごく熱くなってるから。

 唇を離した後も、彼女はぷるぷると震える手を引っ込めない。あれ? この後どうしたらいいんだろう? と悩みかけたとき。

 がらがらとシャッターが開いて、外の光が差し込んで来た。

「良い雰囲気のところ失礼するが、二人だけで整備するというのは無理というものじゃないか? ここは援軍を要請すべき局面だろう」

「ウサギチームもお手伝いさせてくださいっ!」

「き、筋力のいる作業なら……任せて」

「駆動系は私がやってみよう」

「差し入れのおやつも持ってきたよ~♪」

 次々と仲間たちが集まってきて、暗くて静かだった格納庫があっというまに騒がしくなる。

 私は西住さんと顔を見合わせた。

「あははは……しょうがないね。じゃあ、いっちょやってみよっか。みんなで……!」

「はいっ♪」

 私の女王様は、にっこりと最高の笑顔を向けてくれたのだった。

引用: 【ガルパンSS】みぽりんとあれやこれや作戦です!【安価超短編】