98: 2014/12/28(日) 23:32:59.21 ID:y3UYyoTy0


前回:大和「前職…ですか?」
最初から:木曾「艦娘の前職を知りたい?」

明石「…え?前職ですか?」

明石「何ですか藪から棒に、教えませんよそんなこと」

明石「…はあ?指揮に活かす?」

明石「まーた適当なことを言って」ハア

明石「どうせ単に興味があるとかその程度でしょう?どうしても聞きたいなら、それがどう指揮に活きるのか説明してみせてくださいよ!」

明石「…えっ」

明石「…ほ、ほう」

明石「…いや、なんかすいません」

明石「確かに指揮に活きるかもしれないですね…私の考え足らずでした」

明石「分かりました、お教えします」

明石「ただしほかのみんなには言わないでくださいね?約束ですよ?」
艦隊これくしょん -艦これ- おねがい!鎮守府目安箱 1 (電撃コミックスNEXT)
103: 2014/12/28(日) 23:54:43.57 ID:y3UYyoTy0
明石「私、親がとある大学の教授だったんです」

明石「一応生物学の権威、とか呼ばれてたらしくて」

明石「なんかこう…私も大きくなったら学者になるみたいな風潮が家の中にあったんですよね」

明石「残念ながら母親は私が生まれたときに亡くなってて」

明石「兄弟もいなかったので、父にとっては私だけが頼りのようでした」

明石「これまた残念なことに、父は私が大学を出る直前に亡くなりましたけど」

明石「…いえ、私飛び級したんですよ」

明石「何ですかその顔は!!信じてませんね!?」

明石「これでも小さいころは神童と呼ばれていたんですよ!?」

明石「元素周期表は2歳ですべて覚えましたし高校化学と物理はは10才で…っ!!」

明石「…はあ、もういいです。続けます」

106: 2014/12/29(月) 00:01:46.29 ID:EMfVvU6t0
明石「で、わたしが大学を出たのは15歳の時でした」

明石「…ですからその顔やめてください!!腕へし折って直してまたへし折りますよ!!?」

明石「もう!…で、私はそのまま国立科学研究所に入りました」

明石「私はそこで研究者として働き始めたんです」

明石「それがえーと…18年前です」

明石「…なんですか33歳って!!その前に艦娘になってますから肉体年齢はその時で止まってますよ!!」

明石「ああもう腕へし折ります!!絶対にへし折ってやりますから!!!」


107: 2014/12/29(月) 00:10:58.29 ID:EMfVvU6t0
明石「…で、です、ね」ハアハア

明石「ふう…なぜ私は自分の身の上話を怒りながら話さないといけないのでしょう…」

明石「…続けますよ?」

明石「研究所に勤務した翌年のことです」

明石「あの事件が起こりました」


明石「…深海棲艦による首都襲撃事件」


明石「国立研究所は都心から少し離れたところにありましたので、大きな被害は受けずに済みました」

明石「同時に、深海棲艦に対抗する術を探すことが最優先の業務へと変更されたんです」

明石「全職員が自分の進めていたプロジェクトを凍結して、その業務にあたりました」

108: 2014/12/29(月) 00:19:51.22 ID:EMfVvU6t0
明石「深海棲艦への対処には大きく3つのアプローチがありました」

明石「1つは深海棲艦に対する有効な攻撃手段を作ること」

明石「2つ目は深海棲艦の人間への攻撃性を消すこと」

明石「そして3つ目は、何らかの方法で深海棲艦を一定のエリアへ閉じ込めること」

明石「研究者はそれぞれのグループに分かれ、協力しながら研究を進めていきました」

明石「私は最初のグループで研究をしたんです」

明石「特に深い理由はありませんでしたが、まあなんとなくこれが一番簡単そうだなーと」

明石「結果から言えば、それが大当たりだったんですけどね」

109: 2014/12/29(月) 00:28:04.03 ID:EMfVvU6t0
明石「まず私は簡単な実験から始めたんです」

明石「どんな武器や化学物質が効くのか、どんな手順なら効率よく奴らを倒せるか」

明石「銃器類からサリンまでいろいろ試したんです」

明石「…ああ、実は襲撃の際に何匹かの氏体が回収できてですね」

明石「それを使って実験したんです」

明石「…すると不思議なことがわかりました」

110: 2014/12/29(月) 00:31:59.10 ID:EMfVvU6t0
明石「なぜか使う銃弾や武器によって氏体の損傷度が違うんです」

明石「ロケット砲で傷一つつかないこともあれば、ハンドガンで弾が貫通することもある」

明石「さらに同じ武器でも攻撃するたびにその威力が異なる」

明石「私はそこに何らかの謎があると思ったんです」

明石「そこで実際に使った銃器の出所を詳しく調べた結果、あることがわかりました」


明石「…作られた年代が、違ったんですよ」

111: 2014/12/29(月) 00:38:10.05 ID:EMfVvU6t0
明石「まさかね、と思って調べたところそれは事実でした」

明石「大体作られた年代が10年さかのぼるたびに攻撃力は2倍ほどになるんです」

明石「ただし、ピークは1940年代ごろ」

明石「このころに作られた兵器であれば、もっとも高い攻撃力を持つことがわかりました」

明石「さらに不思議なことに、あくまで『その武器が関与している』ことが攻撃力増加の条件だったようで」

明石「1930年代に作られた銃で発射した弾丸と、1930年代に作られた弾丸を発射した銃は」

明石「ともに同じ攻撃力を示しました」

明石「これがまず、1つ目の成果です」

119: 2014/12/29(月) 10:18:59.60 ID:EMfVvU6t0
明石「次に私は『武器の種類による違い』を調べました」

明石「どの武器が最も有効なのか」

明石「陸上兵器ではどうか、海上兵器はどうか」

明石「ここはかなり上に無茶してもらいましたね」

明石「護衛艦の大砲をぶっ放してほしいと言った時なんか反乱を疑われましたからね」

明石「ともかく、結果が残せてよかったです」

120: 2014/12/29(月) 10:23:30.87 ID:EMfVvU6t0
明石「この実験の結果、深海棲艦にもっとも有効なのは『1940年代に作られた海上兵器』であることがわかりました」

明石「早い話が、軍艦です」

明石「ただ当然のこととして、そんなもの今は存在しません」

明石「全て沈んだか、廃艦になりましたから」

明石「そこで水底に沈んだり、博物館などで保管されてるものを回収して使うことになりましたが」

明石「その保存状態は最悪です」

明石「なにせ長い間海水に浸かってたわけですから」

明石「船が全体的に腐食してるんです」

明石「ですので、それらをそのまま武器として使うことはできません」

明石「改めて、『武器の関与』という観点から考え直す必要がありました」

122: 2014/12/29(月) 10:32:21.86 ID:EMfVvU6t0
明石「…ヒントは、深海棲艦にありました」

明石「深海棲艦の…人型の奴らの氏体を解剖したところ、驚くべきことが分かったんです」

明石「奴らの脊髄は、金属でできていた」

明石「しかも確認したところ、それらの金属は全て1940年代の艦船のものであることが判明しました」

明石「勿論、体に付けてた武器とかは違いましたけどね」

明石「それに臓器と骨格の一部も金属製でしたが、それも近年のもので」

明石「脊髄だけが、1940年代の艦船に使われていた金属に置き換わっていたんです」

明石「全てが軍艦というわけではなかったですが…」

123: 2014/12/29(月) 10:34:30.21 ID:EMfVvU6t0
明石「私はこれに注目しました」

明石「ある人間の脊髄を1940年代の金属に置き換えて、その人間が銃を撃てば」

明石「『武器の関与』が成立するのでは?と」

明石「そこで実際に実験してみたんです」

明石「…いや、もちろんラットにですよ?」

明石「さすがに初期研究段階で人体実験は無理ですよ。氏人が出るかもしれないのに」

明石「…そのラットには1950年代に同盟国が保有してたある駆逐艦の一部を使って作った」

明石「疑似脊髄を埋め込みました」

明石「どうなったと思います?」


124: 2014/12/29(月) 10:39:48.08 ID:EMfVvU6t0


明石「そのラット、深海棲艦の皮膚をいとも簡単に食いちぎったんです」


明石「当たりだ、と思いましたね」

明石「これを使えばもっとも簡単に深海棲艦を倒せる」

明石「深海棲艦に対抗しうる『兵器』ができる」

明石「…まさかあとで自分もそうなるとは思いませんでしたが」

明石「それが、16年前の出来事です」

125: 2014/12/29(月) 10:46:59.85 ID:EMfVvU6t0
明石「勿論その理論が出来上がってからも、課題は残りました」

明石「より安全にその技術を人間に応用するにはどうすればいいのか」

明石「実は人間に人工脊髄を埋め込むという実験はだいぶ前から行われていたんです」

明石「最初にそれ関連の理論が発表されたのがだいたい30年前」

明石「脊髄の損傷により体が動かなくなった人の治療が目的だったと聞きます」

明石「実験動物相手にはうまくいったらしいんですが」

明石「ただ、人体に対する研究は倫理的観点から遅々として進まず」

明石「やはり不可能なんじゃないかということで今は誰も研究する人がいません」

126: 2014/12/29(月) 10:52:11.46 ID:EMfVvU6t0
明石「私も、ラットに脊髄を埋め込むのはうまくいきました」

明石「すでに『成功例』が昔の論文に発表されてましたから」

明石「ただ、人間相手にはそう簡単にはいきません」

明石「まず第一に、拒絶反応が起きます」

明石「…いえ、実験動物でも起こってますよ?」

明石「施術から5日以内にすべての動物が氏亡しました」

明石「人間でこれが起きたら洒落になりませんし」

明石「まして、長期運用を目的とするならそんな不完全な『兵器』は論外です」

127: 2014/12/29(月) 10:58:08.61 ID:EMfVvU6t0
明石「というのも、その脊髄の作り方が難しくて」

明石「骨格に合う他人の脊髄をベースとして」

明石「それに金属を組み込まないといけないんです」

明石「要は他人の体の司令部が突然自分の体の司令部になるというわけですから」

明石「当然、強い拒絶反応が起きます」

明石「…STAP細胞を使って自分の脊髄を作ればよかった?なんですかそのSTAP細胞って」

明石「…よく分かりませんが、私の知識の中にはそんな細胞ないですね」

明石「えーと、どこまで話しましたか?」

128: 2014/12/29(月) 11:02:17.59 ID:EMfVvU6t0
明石「ああ、そうでした…この問題を解決するのが『免疫寛容』という現象でした」

明石「女性は体内にこどもを宿す際、自分と全く異なる遺伝子を持つ細胞を」

明石「体内に10か月もの間保持し続けます」

明石「これを可能にしているのが『免疫寛容』です」

明石「特定の遺伝子に対して体の免疫作用を抑えることで、異なる遺伝子との共存を可能にする」

明石「これをこの手術にも応用できるのではないか、と私は考えました」

130: 2014/12/29(月) 11:08:05.29 ID:EMfVvU6t0
明石「したがって当然、『兵器』になれるのは女性に限定される」

明石「また、機動性及び軍人としての力量から対象は若い方がいい」

明石「私はそこまで研究を進めた段階でお役御免となりました」

明石「そこから先は人体実験が必要な領域でしたし」

明石「さすがに公の組織でそんな実験をするわけにもいきませんでしたから」

明石「実際にどんな過程を辿って『艦娘』ができたのかはわかりません」

明石「たぶん、まともな過程ではないです」

明石「…犠牲者も、出たんでしょうか」

131: 2014/12/29(月) 11:13:03.00 ID:EMfVvU6t0
明石「私のその研究が終わって、艦娘の第一号が完成したのは1年後」

明石「今から15年前のことです」

明石「…大和さんが12年前と言ってた?」

明石「ああ、公式発表は12年前です」

明石「ただ、成功率が低いことやわからないことも多くて」

明石「初成功から3年遅れての発表だったんですよ」

明石「私は研究が終わってからも研究所で働いてました」

明石「主に工学関係の分野で研究をしていて」

明石「あ、ちなみに何個か特許もとりましたよ」

132: 2014/12/29(月) 11:16:43.67 ID:EMfVvU6t0
明石「…事件が起こったのは7年前でした」

明石「研究所が襲撃されたんです」

明石「…そうです」

明石「海軍青年将校によるクーデター」


明石「三・二六事件が起きました」

133: 2014/12/29(月) 11:21:06.64 ID:EMfVvU6t0
明石「目的はいまだに不明とされてますが」

明石「青年将校はまだ10年前の傷跡が残る首都でクーデターを起こし」

明石「国会、首相官邸、警視庁、国の主要機関を攻撃」

明石「最終的な氏者は1500名にも上りました」

明石「研究所も襲撃を受け」

明石「務めていた職員50人ほどが氏亡」

明石「私も銃弾を体に浴び、重傷を負いました」

134: 2014/12/29(月) 11:27:00.86 ID:EMfVvU6t0
明石「病院に運び込まれた時はもう虫の息で」

明石「手術を行ってももう助からないかもしれないというところまで体が破壊されていました」

明石「特にひどかったのが脊髄で」

明石「銃弾によって腰と胸の間のあたりで脊髄が切断されていて」

明石「このままでは多臓器不全になるかもしれないと」

明石「それでも延命措置をするか、とお医者さんは聞いたんです」

明石「…皮肉なことに、私の頭にある一つの解決策が思い浮かびました」


明石「艦娘になれば、助かると」

135: 2014/12/29(月) 11:31:37.81 ID:EMfVvU6t0
明石「医師にそう伝えたところ、すぐに政府から許可が下りました」

明石「一応艦娘の根底を作り上げた人間でしたから」

明石「政府としても見頃しにはできなかったんでしょう」

明石「事件の前、私は面白半分で軍艦適応の検査を受けてまして」

明石「工作艦『明石』の適応があることはわかっていましたし」

明石「幸か不幸か、人工脊髄のベースとなる脊髄を持った氏体はそこらじゅうに転がってましたので」

明石「手術も数日のうちに行われ」

明石「私はなんとか一命を取り留めました」

136: 2014/12/29(月) 11:36:00.64 ID:EMfVvU6t0

明石「その後、一応艦娘は軍属でなければならぬということで」

明石「この鎮守府に配属されたんですが」

明石「なにぶん軍人ではありませんでしたので、艦隊に組み込んでもらうわけにもいかず」

明石「とりあえずの仕事として基地内の酒保の担当を任されまして」

明石「3年間の訓練ののち、提督の交代に伴って艦隊に着任しました」

明石「そして現在に至る…というわけです」

137: 2014/12/29(月) 11:42:32.99 ID:EMfVvU6t0
明石「はい、これで私の自分語りはおしまいです」

明石「最初にも言いましたけど、絶対に誰にも言わないでくださいね!!」

明石「…信じますからね?」

明石「それじゃ、私はこれで…え?質問?」

明石「何を質問するというんですか…もう充分話したじゃないですか」

明石「…深海棲艦について?」

明石「ふむ…」

明石「…これは、絶対に他人に話さないでください」

明石「この事実を知っているのは、政府と軍のほんの上層部だけです」

明石「研究所のみんなも、この艦隊のみんなも知らないことです」

138: 2014/12/29(月) 11:49:36.69 ID:EMfVvU6t0
明石「内容は2つ」

明石「1つは深海棲艦の出所について」

明石「私は深海棲艦の体の構造が艦娘の体の構造を考え付くきっかけとなったといいましたが」

明石「両者には大きな違いがあります」


明石「ベースとなる他人の脊髄が、深海棲艦には使われていないということ」


明石「もっと言えば、内臓の置換や武器の身体への接続は」

明石「明らかに『生まれつき』のものではありません」

明石「…つまり、深海棲艦は自然発生的なものではないということ」

明石「誰かに『作られた』ものだということです」

明石「そして、もう一つ」

明石「同じ顔や体を持つ艦や、そもそも人型ではない艦もあるので最初は気が付きませんでしたが…」

140: 2014/12/29(月) 11:54:39.55 ID:EMfVvU6t0
はい、明石編は以上です
この後赤城編に続きます

次の投稿は夜になるかなーと思います
18:00ぐらいから投稿を再開する予定です

赤城編のあとは川内編を予定してます

ではまた夜に
赤城「…前職?」

引用: 木曾「艦娘の前職を知りたい?」