1: 2009/08/14(金) 23:54:24.75 ID:fvjiTZzZ0
紬「・・・」

5: 2009/08/15(土) 00:16:25.40 ID:N+lqqmXt0

「お金儲け、したいんですっ」

静まりかえる軽音部部室。
人気の少ない放課後だから静かなのではない。
部員達のおしゃべりティータイムを中断させるほど、紬の一言が異質だったからだ。


「これ以上儲けて何が欲しい…」

「そうだよー。紬ちゃんが望めば、何だって手に入るのにー。
回らないお寿司だってっ、ブランド物のお洋服だってっ!
あーもー紬ちゃんお嫁にしてー!」

「愛までは買えんよ」

「かっこいいこと言ったつもりか? 男っ気無い癖に」

「なにおーっ!」
さわこ
「…買えるよ」

「夢壊さないでよ教師の癖にっ!?」
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8: 2009/08/15(土) 00:31:12.71 ID:N+lqqmXt0
律「金儲けなんて、何でまた急に…」

紬「だ、だって…この前、進路の話をパパとしたら
『紬は一生働かなくていい。パパが一生養ってあげる』
なんて言うんですもの…」

律「紬パパって独身?」
澪「うぉい! 友達の親を狙うなっ!」

紬「わたしだって…っ、働きたいんです!」
唯「紬ちゃん…っ」

唯は真面目な表情で紬の肩に手を乗せる。
紬の言葉に、何らかの感傷を受けたのか、いつになく真剣だった。

唯「わたしは……働きたくない」
紬「え…」
唯「働きたくないよ、一生」
澪「唯、お前…」

澪は唯に対しての『最低だな』という台詞を飲み込んだ。
唯の無職に対する姿勢があまりに真摯すぎて、
一般人並の就労意欲を持つ自分が踏み込んではならないと思ったのだ。

11: 2009/08/15(土) 00:50:58.57 ID:N+lqqmXt0
律「でもさー、バイトは去年皆でやったろ?」
梓「え…皆で、ですか…?」
律「あずさはまだ居なかったっけ。
唯のギター買うために、四人でバイトしたんだよ」
梓「はぁ…そうなんですか」

あずさは小声でいいなぁ、とつぶやき、去年の四人を想像する。
バイト経験が羨ましい、というよりも、四人でという部分が気になった。
今年から入った自分は、先輩達の去年を知らない。
自分の知らない思い出を楽しそうに語られるのは、少しだけ寂しいと思ったのだ。

律「どんなバイトがいいか…メイド喫茶とか?」
あずさは無言のまま顔を背け、律の続きを聞かないようつとめた。
思い出よりも、羞恥心を守り抜くことを選んだのだ。

澪「絶対嫌! つーかしょっちゅうコスプレしてるだろ!?」
律「もてるぞー。手っ取り早く彼氏作りたいなら
バイトが一番効率的みたいだし」
澪「そ…そんな不純な動機でっ……まぁ、他のなら考えてもいいけど」
澪は毛先をくるくるいじりながら、バイト自体は拒否しなかった。
音楽に勉強に忙しいとは言っても、澪は華の女子校生(女子高生じゃないよっ)なのだ。
恋愛絡みの話になると、多少の期待はしてしまう。

律「澪にバイト出来るかー? 去年だって相当緊張してたじゃん」
唯「お皿を割ってしまった澪ちゃんは、閉店後、悪徳店長に呼び出され、深夜のお仕置きを…」
澪「嫌ああああああぁ!?」

12: 2009/08/15(土) 01:04:17.80 ID:N+lqqmXt0
紬「バイトは、ちょっと…」
律「何でだよ。お金稼ぐっていったら、
普通にバイトするか、いかがわしいバイトするしかないじゃん」
澪「その二択はおかしいぞ!」
律「澪がいかがわしいバイトするしかないじゃん」
澪「あたしだけかよっ!?」

紬「バイトは…儲からないですから」

澪「…え?」
紬「そういう、こつこつした労働で生活費を稼ぐというのは、
あまり必要性は感じませんし…」
さわこ「労働者代表で殴っていい?」
梓「仕事放ってお茶してる人が代表ですか…」

唯「紬ちゃんっ!」
唯はがしっと紬の肩を掴み、

唯「わたしも、凄くそう思う」

働いたら負けだと思っている、というのが唯の持論だった。
彼女は本気で、妹に養って貰おうと思っていたのだ。

15: 2009/08/15(土) 01:18:56.01 ID:N+lqqmXt0
律「儲け話かぁ………コミケとか?」
澪「…コミケ? 何だそれ」

紬の眼が怪しく光った。
コミケと呼ばれる物に対して、紬には何の予備知識も無い。
ただ、嗅ぎ取ったのだ。
コミケという文字から放たれる、隠しようもない腐臭を。

律「ほら、年に何回か、漫画を持ち寄って売るみたいな事やってるらしいんだよ。
ネットでちらっと見たんだけど…そのコミケってので売ってる漫画が、
凄く高値で取引されてるらしい」

唯「漫画ってそんなに高いっけ? どんな漫画?」
律「えOちなの」

えOちという言葉に、最近女性向け雑誌で性知識を蓄えている澪の顔は真っ赤に染まり、
ペOスをペットの名前だと吹き込まれ最近まで信じていたあずさは
『えOちなのはいけません』とまほろじみた事を言い、
唯はHが何の略語だかわからず思考停止し、

そして、紬の口元が不気味にひきつった。
感じ取ったのだ。そこに自分の求める何かがある、と。

16: 2009/08/15(土) 01:25:54.01 ID:N+lqqmXt0
律「ようは、転売ってやつだよ」
唯「『てんばい!』って何?」

何でも平仮名で四文字にすれば売れると思ったら
大間違いだとさわこは思ったが、
実際に売れているので否定出来ず、 
表だって京アニを貶める言葉を口にすることは無かった。
ただ、これだけは譲れない。
これからの時代はシャフトだ、とさわこは確信していた。


18: 2009/08/15(土) 01:41:09.70 ID:N+lqqmXt0
紬「転売…聞いたこと無いですね」

律「なんだよー、転売も知らないのかよー。
簡単に言えば、価値があって、数が少ない商品を安く仕入れて、
他の欲しい人へ高値で売る事だよ」

紬「はぁ、そうなんですか……
物を売って日銭を稼ぐという概念が無かったもので知りませんでした」
律「紬パパのケー番教えてくれ」
澪「昼ドラ展開になるからやめろ」

唯「ねぇ、律っちゃん…」
律「あん?」

唯「結局さ………転売って何?」

唯は『聞くぞ』という真剣な顔をする。
唯は、律の話を聞いていなかった訳ではない。ただ、わからなかっただけなのだ。
これ以上無い程やさしく説明したのに、
毛ほども理解出来ない唯を見て、律は唯に何かを期待するのをやめた。

22: 2009/08/15(土) 02:00:40.74 ID:N+lqqmXt0
律「結構堅い商売らしいよー。
これなら紬の言う金儲けってのも可能なんじゃないかな」
澪「で、でもその……えOちな本、だろ? わたしたちが買っちゃ駄目だろ」
律「え、何で?」
澪「何でって…そりゃ……」

あれ、何でだっけ? と澪は首をかしげる。
律の問に対しての解が、さっぱり浮かんで来ない。
何か重要な事がはぐらかされているような気分。
例えるなら、大人の事情によって、大切な常識がねじ曲げられるような
そんな…奇妙な感覚に襲われる。

梓「私達の年で、えOちな本買える訳ないじゃないですかっ!」
律「え、何で? 買えるじゃん」
梓「な、何を…………いって…」

あずさの思考に霞がかかる。あるべき記憶をたどるが…そこには何も無かった。

律「私達、全員18歳以上じゃん。そうパッケージに書いてある」
唯「シールも貼ってあるし」
梓「で、でも女子高生だし…」
唯「違うよあずにゃん。わたしたち…『女子校生』だよ?
『女子高生』はえOちなこと駄目だけど、『女子校生』ならいいんだよ」
梓「……そ、そうだっけ」

あずさは反論出来ない。
大人の見えざる手によって、大人に都合のよい常識に変えられてしまう…
それがこのセカイのことわりだった。
文句があるならソフ倫に言うべきだが、
それが可能なのは……アグネスと野田、ただ二人。

23: 2009/08/15(土) 02:02:11.25 ID:N+lqqmXt0
律「…って展開なら、10万本は堅いと思うんだ」
澪「落ち目のアイドルが脱ぐみたいで嫌だああああああああ」

25: 2009/08/15(土) 02:27:10.95 ID:N+lqqmXt0
紬「転売、凄くいいと思う! 特に、汗水垂らさず楽して
儲けられそうな所が気に入ったわ!」
澪「…紬を見ていると真面目に生きるのが嫌になってくるよ」
梓「先生も何とか言ってあげてくださいっ」
さわこ「う゛ぁああ~~っ! 宝くじ当てて6億欲しぃ~」
梓「こんな大人になりたくないっ!!」

唯「紬ちゃん…」
律「唯、お前も何とか言ってやれ。世の中そんなに甘く無いってことをな」
唯「紬ちゃんは間違ってると思う」
紬「……そんな、唯ちゃんはわかってくれると思ってた」
唯「楽してお金を儲けようとか、そういう考え、違うと思う。
だって私達…学生だよ?」

唯は、紬に優しくほほえむ。
その笑顔は、罪人の罪を赦す聖母のような愛に満ちていた。

26: 2009/08/15(土) 02:28:25.19 ID:N+lqqmXt0
唯「学生はね……働かなくていいの。
お金を稼がなくても、家でごろごろしてても、
気がつくと勝手に財布におこずかいが入ってて…そんな、優しい世界なんだよ」

唯「楽して儲けるだとか、そんなのは間違ってる。
だって、一銭だって自分で稼ぐ必要なんて、ないんだからっ」
紬「唯ちゃん、わたし……わたしっ」

働かなくていい。父から聞いた時は、
なぜだか不自然な感じがして受け入れることが出来なかった。
でも、唯ちゃんから聞いた、『働きたくない』ってことばは重くて…温かかった。
お母さんのおなかの中に居るみたいな…そんなぬるま湯がいつまでも続くような。

紬(…お父さん、やっと意味がわかったよ……わたし、働かなくていいんだ…)

勤労の義務から解放された紬の顔は一寸の迷いも、不安も無く。
親の資産の限界…ピリオドの向こうを見つめたまま、ただただ穏やかなキモチで一杯だった。

転売編  ~第一部完~

27: 2009/08/15(土) 02:31:07.38 ID:N+lqqmXt0
終わりです。
わたしも不況で借金を負い、
あさってのコミケで生活費を稼ぎに行く転売屋のひとりです。
転売屋は一人残らず氏ねと思います。俺、氏ね!

引用: 唯律澪梓「だーいじょーぶー?金持ちキャラちゃーん?」