1:◆ll6J2md5hg 2015/04/08(水) 03:16:47.06 ID:5pYYoCeG0
2: 2015/04/08(水) 03:18:26.53 ID:5pYYoCeG0
加賀「暇ですね」
隣に腰を下ろしている秘書艦が呟いた。
穏やかな波を連れた春の海風が彼女の髪を撫でる。
空は不気味な程の青で、長くなりだした太陽は海面に踊っていた。
提督「そーだな」
彼女の呟きに答える。
こういった呟きは彼女が構って欲しいときによく聞く。
加賀「釣れそう?」
提督「こればっかりはわからん」
背の低い堤防に胡坐をかいて餌のついていない針を沈めている。
結果はどうでもいい。俺は釣り糸を垂らしていたい。
いつだったか彼女の野暮な問いに答えたことを思い出した。
3: 2015/04/08(水) 03:19:44.12 ID:5pYYoCeG0
深海棲艦との戦争から早一年。
問題は今も多々存在するが、平和な日々を送っていた。
主戦力である艦娘たちはその役目を終え、それぞれの道を歩き出した。
ある者は社会に溶け込み、ある者は隣にいる加賀と同じように軍に残った。
それは艦娘だけではなく、俺たち提督も役目を終え、スリム化によって地位を流された。
俺のように細々と提督をやっている者も少なからず存在する。
功績を上げた者を散りばめ防衛網を巡らすという大義名分に反感を覚えた者もいたが、俺のように現状に満足している者も存在する。
俺の中の幸せはあまりに小さく、そして贅沢過ぎるものなのだ。
沈黙が続く。不思議と落ち着く時間だ。
彼女とのこういった時間も俺の幸せなのだ。
加賀「提督、そろそろ戻りましょう」
不覚、時間が経っていることすら認識できていなかった。
明日もまた昇りだすであろう太陽は海との別れを告げていた。
足取りは軽い、今日もいい日であった。
4: 2015/04/08(水) 03:21:16.13 ID:5pYYoCeG0
_______
吹雪「提督、今週の土曜日お時間有りますか?」
提督「デートか?」
セクハラです。隣の加賀が箸を休め言う。
人数とは不釣り合いな大きな食堂でのことであった。
吹雪「ち、違いますよ!これです!」
吹雪から渡された書類に目を通す。
加賀「授業参観?」
『授業参観の案内』
実施日は今週の土曜日。読めたぞ俺に来いということか。
吹雪に顔を移すと少し不安げな表情を浮かべていた。
隣の加賀に手を差し伸べ、スケジュールを確認する。
ペラペラとページを捲り、少し可愛げのある文字を土曜日に見つける。
提督「大丈夫だ、問題ない」
良い返事が聞けてほっとしたのか、吹雪は緊張を解いた。
俺の返事への緊張かそれとも提出期限がギリギリであったことの緊張かは気にしない。
俺も良く書類ギリギリに出して拳骨を食らった覚えがある。
5: 2015/04/08(水) 03:22:18.75 ID:5pYYoCeG0
加賀「夜には帰ってきてくださいよ」
少し拗ねた声を出した。
安心してほしい、お前らとの酒には十二分に間に合う。
吹雪「それでは司令官!よろしくお願いします!」
軽い足取りで去っていく吹雪を見て思う。
彼女が通っている学校にはうちの奴ら全員の面倒を見てもらっている。
となれば全員の教室に顔を出せ、ということなのであろう。
もしくは吹雪しか俺に見てもらいたくないか。
どちらにせよ、少し嬉しい。戦時中初期の人形のような振る舞いから、大いに変化した。
成長ととらえていいのか、兎も角嬉しい。
加賀「嬉しそうですね」
提督「ああ、嬉しい」
目を合わせた後、再び食事を再開した。
少し冷えた筈の肉じゃががひときわ美味に感じた。
6: 2015/04/08(水) 03:23:01.53 ID:5pYYoCeG0
_________
加賀「ネクタイ曲がってますよ」
提督「慣れん服だなぁ」
意外と身支度に戸惑った。
いつも着ている軍服とは違うだけでこうも手こずるものなのか。
試着を手伝ってくれた加賀の手つきにも迷いがある。
加賀「あら、似合ってますね」
提督「元がいいからな」
紺色のスーツである。
第一線で奮闘してきたわが身には少し窮屈だ。
提督「昔上司に言われ買ったものを今着るとは」
加賀「早々に退職するのかと思われていたのでは?」
提督「冗談はまだまだだな」
加賀「練習しておくわ。いってらっしゃい」
提督「いってきます」
天候は上々。スーツを着ているせいか少し熱い。
学校まで三十分ほどである。
今から行っても指定された時間までまだ余裕がある。
俺も軍人である前に人である。行き慣れていない場所には時間を三十分つける。
7: 2015/04/08(水) 03:23:47.74 ID:5pYYoCeG0
提督「なんの授業だったか」
俺に報告してきた吹雪の時間割を確認する。
提督「外国語か」
海外の戦術を学ぶために一心不乱に勉強したのを思い出した。
初期の深海棲艦と日本における戦争は分が悪かった。
二次大戦以降日本は牙を抜かれ、身の丈に合わない剣ばかり背負っていた。
もちろんノウハウは叩き込まれていたが、経験が全くない状態であった。
そのため海外からの人材が多く日本にやってきた。俺もその一人である。
いつ何事にしても新しいことは不審に思われがちだ。
俺は不審者であったようで、俺の戦術は評価が悪かった。
空母を用いての奇襲。
当時は、今もそうだが納得できない。
俺の戦術などどの時代どこの国でもやってることだ。
珍しいことでも新しいことでもない。ただの局部的で断続的な敵を混乱させる奇襲。
やれ資材の無駄だの、奴らは混乱しないだの。
結局この国はあまり変わっていないのだろう。何度も愛想を尽かした。
8: 2015/04/08(水) 03:24:33.43 ID:5pYYoCeG0
職員「どうぞお入りください」
昔のことを思い出すと時間のたちが早い。
促されるまま学校に入り、吹雪の教室に入る。
授業開始前であり友達であろう生徒と笑顔の吹雪を見つけた。
目があったがすぐに友達に向きを直す。気持ちはわかる。
チャイムが鳴り授業が始まった。
教師のテンションが高いのは緊張しているからだろう。
教師「吹雪、この問題解いてみろ」
吹雪「は、はい!」
どうやらこちらも緊張しているようだ。
チョークを持つ手も少し震えている。スペルが違うのは勉強不足か。
書き終わった吹雪は黒板に背を向け正解を待つ。
吹雪と目が合い俺がほくそ笑んでいるのを見たのか、急に向き直り間違いを探し出した。
慌てようからか教室に陽気な空気が流れる。
吹雪が正解を書き終えたのを確認して教室を出る。まだまだ見る奴らがいるのだ。
9: 2015/04/08(水) 03:25:43.34 ID:5pYYoCeG0
良い時間というのはすぐに過ぎていく。
もともと短い時間がより一層短くなった。
満足感を胸に帰路につこうとしたとき
上司「提督!」
提督「おや、上司殿ではないですか」
戦時中何度も聞いた声であった。
俺の上司で俺の艦隊と共に戦術を展開した方である。
終戦後の引退以来お会いしたことはなかったが、こんな所であうとは。
提督「この学校にお勤めで?」
身なりや荷物ですぐにわかった。
こんなに近くにいたのなら言ってくれれば良かったものを
上司「戦友に会うと笑われると思ってな」
提督「では何故お声を」
上司「吹雪の教師としてな」
声色が変わった。
歩く上司の後を追いかける。
10: 2015/04/08(水) 03:28:30.83 ID:5pYYoCeG0
通されたのは来客室。
来客用のソファーに促される。
上司「思春期なようだ」
提督「年頃でしょう」
上司「艦娘であることにコンプレックスを感じているみたいだ」
彼女の友達から私のほうに相談がきてな、との付け加え。
上司「学校に来て勉強をしてくれてはいるのだが、考え込むことが多くなっている」
提督「委細承知」
上司「任せる」
短いやり取りを終え、席を立つ。
提督「上司殿」
上司「なんだね」
提督「誰も貴方を笑いません。どうぞ飲みにでも連れて行ってください」
上司「…考えておく」
誰が貴方を笑うものか。
未来を導く子供たちの教育に精を燃やしている貴方は、あの頃よりもより強い。
今回の一軒にしてもである。上司殿は多くの信頼を得ている証拠である。
自分のことを俺に伝えないという願いも、きっちり守られている。
いや、今は吹雪のことだろう。メンタルケアには自信がないが、俺はあの子たちの家である。
11: 2015/04/08(水) 03:29:24.11 ID:5pYYoCeG0
帰路につく、丁度生徒たちが学校を後にしている時間帯である。
親と一緒に帰路につく生徒を多く見るあたり、まだ終わって間もない。
吹雪は部活には参加していない。友達と遊ぶか勉強するタイプである。
吹雪「…提督?」
提督「おう」
良いタイミングだ。
まさか向こうから声をかけてくれるとは。
提督「英語は苦手だったか?」
吹雪「あれは緊張ですよ!」
提督「俺でよければ何でも聞いてやろう」
沈黙が続く。
学校を出て十数分、人気のない田舎道に出た。
提督「上司先生から聞いたよ」
吹雪の動きが一瞬止まる。
ぎこちない笑みで吹雪は応える。
提督「何を悩んでいるんだ?」
吹雪「ちょっとしたことです」
提督「嘘つけ」
強めに頭をぐしゃぐしゃかき回す。
自転車を引く足を止め、俯く。
12: 2015/04/08(水) 03:30:04.82 ID:5pYYoCeG0
吹雪「なんで、艦娘だったのかなーって」
提督「ふむ」
吹雪「学校の友達は良く接してくれるけど、やっぱり一線あって」
提督「怖がられていると」
頷く。
吹雪「私だけじゃなくて、学校に通っている艦娘皆思ってます」
吹雪「皆を守ったのに、頑張ったのに、受け止めてもらえない」
吹雪「私は一体何のために生まれて、何のために生きるのかって」
何度もその言葉を自分の中で聞いたことがある。
国のためにと勇み足で勉強し、訓練し、否定され、愛想を尽かしたときであった。
この疑問には今も俺の中で答えが出せていないのだ。
13: 2015/04/08(水) 03:30:51.25 ID:5pYYoCeG0
提督「吹雪」
吹雪「はい」
提督「俺は嬉しい」
吹雪「え?」
提督「話を逸らすようだが、お前が、お前たちがそう考えてくれることが嬉しいよ」
提督「お前たちが自分について悩むことはお前たちがただ命令を聞く兵器でないことの裏付けだ」
純粋にそう思った。
戦場において深海棲艦に対しての有効にして唯一の力であった艦娘。
誰もが兵器として認識していた彼女らも心が有り、今現在自分について悩みを持っている。
純粋に嬉しかった。
吹雪「…」
提督「話を戻す」
提督「俺にもお前と同じ悩みがあった」
吹雪「答えは、出せたんですか」
提督「はっきりとは出せていない」
14: 2015/04/08(水) 03:31:32.88 ID:5pYYoCeG0
空が赤みを帯びてきた。
提督「だが」
振り返る。吹雪も向きを変えた。
昏行く町に萌ゆる木々、烏の鳴き声に春の風。
大地の匂い、人の声。
提督「明日も見てみたいとは思った」
そう、結局俺はただ単純に明日を見たかったのだ。
俺が愛した故郷や人たち。
それら見たさに俺は戦いを続けたのだ。
彼女たちの悩みとはベクトルが違っているのかも知れないが、誰しもが持つ悩みである。
俺の出した漠然とした方向性もまた、誰しもに当てはまっても良いのではないのだろうか。
提督「これは俺の出した方向性だ。君の悩みは君のものだ」
提督「胸を張ってどうどうと向き合え」
提督「寂しくなったら周りの奴らに相談しな」
吹雪「…少しだけ、ほんの少しだけ楽になりました」
結局彼女はこの時間では悩みを解決することは出来なかった。
それでよいのだと思う。生きるといったことは、そういうことであると思うからだ。
提督「よっしゃ好きな食べ物おごっちゃる」
吹雪「…本当ですか!ありがとうございます!」
美味いものを食うのも答えだと思う。
15: 2015/04/08(水) 03:33:17.51 ID:5pYYoCeG0
提督「そーいやお前ら、自分が艦娘でどうとか考えたことある」
その後に宴会の席で良い具合に酔いが回った加賀と赤城に聞いてみる。
吹雪の一軒から同じ悩みを持つものも少なからず存在する。
彼女らの待遇については俺のほうも最善を尽くしているつもりであったが、不安や悩みも多く存在するのだろう。
我が艦隊のエースたちにその実を聞いてみることにした。
焼き鳥を頬張る赤城と器用に枝豆を剥く加賀が目を合わせた。
赤城「急にどうしたんです?」
加賀「そんなこと言うなんて珍しいわ」
提督「色々あったの」
赤城「うーん、私は特に考えたことありませんねー」
加賀「私はあなたとの結婚のことで悩んだことがあるわ」
赤城「あー!ありましたねそんなこと!」
俺の記憶では結構ノリノリだったような気もする。
加賀は加賀で悩んでいたようだ。赤いのは知らん。
赤城「もしかして提督、奥様の悩みに気づいてなかったの?」
加賀「頭にきました。赤城さん、そっち抑えてて下さい」
提督「ばっ!放せお前ら!あっあっ加賀しゃん腕はそっちに回らない!」
彼女たちの指揮に当たってはや数年。
年々笑顔が増え、それと同時に悩みも生まれてくる。
それに向き合い、乗り越え、挫折を知り、挑戦し、成功して、また悩んで
これが愛だとでもいうのか、俺はやはり幸せだ。
嗚呼、明日もまた日が昇る。
16: 2015/04/08(水) 03:35:26.61 ID:5pYYoCeG0
次回書きあがり次第投稿
誤字脱字のご指摘よろしくお願いします
駄文に付き合ってくれた方に感謝を
引用: 提督日和



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