21: 2015/04/08(水) 18:08:26.43 ID:5pYYoCeG0

タコと酸味は強敵である。
口の中の中で確かな存在感を示す触感と、噛み締めるたびに溢れ出す旨みが
それを再認識させる。
マリネの残心を甘口の酒で洗い流し、イクラを載せた白米を口に放り込む。
プチプチと響くイクラを白米の湯気が上へ上へと押し上げ、顎を動かすと
色のついた湯気が口内に漫然なく広がり、白米を失った旨みにマリネを放り込む。

提督「美味い」

『居酒屋鳳翔』
書類に営業、現場で傷ついた男たちのナイチンゲールである。
傷口に薬が沁みるのと同じで、酒が体に沁みわたっていく。
艦隊これくしょん -艦これ- 艦娘型録 弐

22: 2015/04/08(水) 18:09:22.29 ID:5pYYoCeG0

仕事の勤労具合がブレブレな我が鎮守府。
暇な時もあれば、そうでない時もある。
今日という日は後者を持ってきたわけだ。

鳳翔「お疲れ様です」

夜間営業の店主がもう一杯と酒を差し出す。
この方には本当に頭が下がるばかりである。

鳳翔「今日はお一人なのですね」

提督「女子会というやつだそうです」

名の通り女の子の会である。
つまり男は禁制というやつだ。
鎮守府なんて女ばっかなんだから毎日が女子会だなんて思う。

23: 2015/04/08(水) 18:10:12.59 ID:5pYYoCeG0

鳳翔「普段は提督とご一緒ですから、たまには女の子同士も良いのでは?」

提督「顔に出てました?」

鳳翔「ふてくされておりましたので」

急に恥ずかしくなり、口内のタコに八つ当たり。
しかし考えてみればそうである。
彼女といえどもリラックスしたいはずだ。
今度何か願い事があれば聞いてやろう。

24: 2015/04/08(水) 18:10:47.65 ID:5pYYoCeG0

がらがらっと戸が開かれた。
珍しいものを見た。
絶滅危惧種の巨大なリーゼントである。
居心地が良いのか暖簾はリーゼントに腰を下ろしたままだ。
何とも滑稽である。

リーゼント「鳳翔さん!食材持ってきました!」

提督「こんな時間に?」

鳳翔「取れたてのイカです」

ほう、これは上々。
俺以外の客も喉が鳴る。

提督「刺身で」

満場一致である。
鳳翔さんはイカを受け取り早速調理に入る。

鳳翔「貴方も一つどうですか?」

リーゼント「まだ仕事があるんで、お気持ちだけ」

ご馳走様!と言い残すあたり見た目によらず中々粋な男なのかも知れない。

提督「彼は?」

鳳翔「不良だったそうですが、今はしっかり働いている方だと」

提督「となるとあの頭は」

鳳翔「ポリシーらしいです」

今夜の記憶は鮮明に覚えることであろう。
時間も時間なので帰路につくことにした。

25: 2015/04/08(水) 18:11:24.55 ID:5pYYoCeG0



加賀「なんだか騒がしいですね」

提督「外か」

仕事を片付けお茶をしているときであった。
窓をから入る波音に雑音が混ざっていた。

ノイズの元凶を確認するため窓から身を乗り出す。

提督「おや」

加賀「五航戦と…不良ですか」

すぐに思い出した。
鳳翔さんのところで見た兄ちゃんだ。



26: 2015/04/08(水) 18:12:07.26 ID:5pYYoCeG0


翔鶴「認めるわけにはいきません」

瑞鶴「翔鶴姉ぇ…お願い」

リーゼント「よろしくお願いします!」

暇なので近くに来てみたがなんだか穏やかではない。

提督「何事だお色気担当」

翔鶴「誰がですか!」

やだちょっと怖い。
リーゼントと目が合う。
この様子だと客の中に俺がいたことに気が付いていないらしい。

提督「鳳翔さんとこで会ったな」

リーゼント「もしかして…イカ持ってきたときの」

然り。
しかしてこの状況は一体どういうことなのか。
温厚な性格の翔鶴が憤りをあそこまで表にしているのは珍しい。
加賀が二人に事情を聴いているようだ。

提督「身内の喧嘩か」

リーゼント「そんなもんっす」

目でこの男の本気具合が伝わってくる。
何に対してかのものかは定かではないが、凄まじい剣幕が目でわかるほどだ。

27: 2015/04/08(水) 18:12:36.28 ID:5pYYoCeG0

提督「まぁ何にせよ少し静かにな」

鎮守府からざわつきを感じる。
これ以上野次馬が増える前に撤収したほうが互いにとって得である。

加賀の方も聴取と注意が終わったのか目で指示を待つ。

撤収。そう合図すると加賀は二人を鎮守府に促す。

リーゼント「俺!」

空気が震えた。

リーゼント「諦めませんから」

恐らく翔鶴に切った啖呵だろう。
翔鶴は走り去っていく彼を敵を見据える目で追いかけた。


28: 2015/04/08(水) 18:13:22.18 ID:5pYYoCeG0

提督「野暮なことだが立場上」

翔鶴「瑞鶴があの男にたぶらかされました」

瑞鶴「翔鶴姉!違うって!」

提督「話が進まん。加賀」

頷き加賀は翔鶴を連れ部屋を出る。

こういった出来事が起きた場合は提督という立場上
事情を聴き、最善を尽くさなければならない。
戦後の課題となった艦娘の社会的地位の確立における条例だ。
つまり艦娘のことは提督に任せるという従来のなんら変わりない関係なのだ。
俺としてもこちらの方が有り難い。
見ず知らずのわからんやつよか、自分を頼れば良いと考えている。
それは単なる自己満足なのかもしれないが、それでもと正当化するあたり
俺も彼女たちに愛着を持っているのだ。

提督「瑞っち、一体どうしたの」

瑞鶴「…あの人、私の彼氏なの」

提督「あー…そういうこと」

妹を溺愛している翔鶴が怒るのも無理はない。
俺も最初はただの不良かと思ってしまった。

29: 2015/04/08(水) 18:13:50.26 ID:5pYYoCeG0

瑞鶴「私が高校のとき、一目惚れしたとか言って声をかけてきたの」

瑞鶴「最初はもちろん断った」

瑞鶴「それでもあの馬鹿は声をかけてきて」

提督「折れたと」

瑞鶴「違うの。段々彼と話すのが楽しくなってきちゃって」

瑞鶴「ほらさ、私は艦娘だし周囲とあんまり馴染めてないっていうか」

無理して作った笑いが吹雪と重なった。

瑞鶴「もちろん一般の学校に通いたいって言ったの私だから後悔はしてないの」

瑞鶴「でも少し、寂しかった」

瑞鶴「鎮守府に帰ると暖かく迎えてくれる皆がいる分、ずっと…」

鎮守府は彼女たちにとって職場であり家である。
そのことは重々に俺が理解している。

30: 2015/04/08(水) 18:14:33.97 ID:5pYYoCeG0

ふと思い当った。
この鎮守府は、彼女たちにとって家であり、鳥籠なのではと。
結局自分の居場所は此処だけだと認識させる麻酔。
飛び回りたい鳥を押し込める小さな牢獄。
そんなイメージを持ってしまった。

瑞鶴「私が艦娘だってこと言っても、だからどうしたって」

瑞鶴「悪いことも止めて、卒業した後は働き始めて」

瑞鶴「提督さん、私の帰りが遅いときがあったでしょ」

瑞鶴「あれね、アイツの小さくて汚い部屋が心地良かったの」

瑞鶴「笑いあって、喧嘩したり、ご飯食べたり…」

提督「見つけたんだな、自分の居場所」

瑞鶴「うん」

喜ばしい。たいへん喜ばしいことだ。
だが喜びと同時に寂しさを感じるのは何故だ。
彼女たちの居場所になれなかった自分への罪悪感か。
得体のしれない湿り気の多いモヤモヤした気持ちが溢れてくる。
翔鶴の気持ちも、わかった気がした。

31: 2015/04/08(水) 18:15:26.21 ID:5pYYoCeG0


翌日、リーゼントが再びやってきた。
乱れ一つ無いスーツを着こなし、自らのポリシーである
リーゼントを全て刈り取り、清潔感を漂わせた姿であった。
彼を知る誰もが、瑞鶴ですら驚愕した。

話を聞くに、彼はどんなことがあっても必ず朝リーゼントをセットし
それを保ち続けていた。突っ張ることが生きがいなのだと。
学校側に何度注意され、強引にな手段を用いられても、氏守したそうだ。
ただそれを天秤にかけると、あまりにも軽いものであった。

彼もまた、居場所を求めていたのだという。
信じた道を一人で突き進み続けた彼も孤独には勝てなかったのか。
それとも人を愛することに何かを見つけたのか。
或はどちらもか。

32: 2015/04/08(水) 18:16:12.39 ID:5pYYoCeG0

俺の中にあった湿り気は、彼の熱によって消し飛ばされた。
翔鶴も、彼と瑞鶴の交際を認めた。

必ず瑞鶴を守ること

翔鶴が念を押す。
もはやその心配はないことは、彼女も承知だった。

彼の瞳はあらゆる海原を焼き尽くし
幾千の剣戟を払い、王すら地に伏せるものだ。

33: 2015/04/08(水) 18:16:48.79 ID:5pYYoCeG0

何が来ようと彼を倒すことは不可能だろう。

だがその前に俺がそれら合切吹き飛ばそう。

燻っていたエンジンに火がついた。

彼とは鳳翔さんの家で良く食事をする。
その際には彼に俺が知っている世渡りノウハウや教養を酒と共に叩き込んだ。

十数年後、彼は国際関係の一流企業でその腕を振るうことになる。
その傍らには必ず一人の女性が立っていたそうだ。


34: 2015/04/08(水) 18:17:22.33 ID:5pYYoCeG0


元リー「提督さん」

提督「あんだよ」

元リー「酒とこいつ、相性が良いの知ってますか?」

彼が手にしたのはジャガイモを揚げた菓子。
むっ、となった。

提督「邪道じゃねーのか」

元リー「それが美味いんすよ」

提督「嘘つけ」

怖いもの見たさに一口。
カリカリと固く焼き揚げられた菓子はペッパーの香りと油を残す。
これはと、続けざまに酒を煽る。

提督「…いけるな」

元リー「でしょ」

何にせよ、見た目だけでは判断できないのかもしれない。



35: 2015/04/08(水) 18:21:31.78 ID:5pYYoCeG0

次回仕上がり次第投稿します

駄文に付き合っていただきありがとうございます

次回の方針的には少しシリアスめなものを書こうと思います

恐縮ではございますが、皆様の生活等で
不安に思ったことや、幸せだと感じたことなど書き残してくれると
非常にうれしいです(ネタに餓えた狼)


38: 2015/04/08(水) 20:37:32.57 ID:vGN0QghVO
おつです

リーゼント良いやつだなw

引用: 提督日和