145: 2015/04/16(木) 21:21:38.44 ID:aaucakwS0

提督「夏祭り?」

元リー「うっす」

居酒屋鳳翔。
残暑を過ぎた季節に不釣り合いな風物詩が開かれる。
そう報告したのは何かと面倒を見てやっている元リー。
まだ未成年というものもあり、酒は飲ませてやれないが
その顔つきは成年男性と比較しても深く、同年代を思わせるものだ。
昔の杵柄だろうか、顔の至る所に見られる古傷はその顔つきに
スパイスを加えるものとなっている。

提督「夏ってのは厳しいよな」

元リー「過ぎた夏を惜しむ祭りらしいっすよ」

提督「それで、お前は何すんだ?」

元リー「イカ焼きっす」

御世話になっている漁師さんからの提案で
一種の宣伝に近いものを行うらしい。
艦隊これくしょん -艦これ- 艦娘型録 弐

146: 2015/04/16(木) 21:22:05.36 ID:aaucakwS0

鳳翔「まぁ、今年も楽しみですね」

店主の鳳翔さんが言う。
俺はというと、この祭りに参加したことがない。
例年祭りは夜に開かれ、中々の賑わいらしい。
祭りごとは好きな方ではあるが、例年何かと仕事が入ってしまうのだ。

実はこの季節、意外と仕事が忙しい。
例年夏の日差しにやられたのか、海賊などと言ったものが現れる。
直接手を下すわけではないのだが、近隣海域の調査などの依頼が舞い込む。
加え、過ごしやすい季節になったのをいいことに
船に乗って勝手に遠出する若者もいるので、救出等に駆り出されるのだ。

147: 2015/04/16(木) 21:22:31.99 ID:aaucakwS0

提督「どーせ今年もなんかあって行けないんでしょーっと」

酒の誘いが強くなった。
提督と言えども俺も人間。
ストレスとか色々たまるものなのだ。

元リー「…忙しいとは思うんですけど」

提督「ん?」

瑞鶴を貸してほしいとのことだ。
暑苦しい屈強な海の男たちだけでは客の層も狭くなるという。
そういうものなのかは知識がないので計り知れないが
砂漠に咲く花をみずみずしいと感じるのと同じだろう。

提督「持ってけ持ってけ」

元リー「仕事の方は」

提督「事務的なものだから大丈夫」

148: 2015/04/16(木) 21:23:01.89 ID:aaucakwS0

大人に気を使い過ぎである。

鳳翔「私もお手伝い致しましょうか?」

からかうような笑みだ。
鳳翔さんもちょびちょび酒を飲んで、酔い始めたのだろう。

提督「やだなぁ~、野暮ってもんですぜ」

鳳翔「そうでしたね~」

二人で笑い声を上げた。
元リーはというと照れというより困惑気味である。
酒に酔ったいい大人たちの餌になるなど気の毒な男だ。

提督「今日はもう遅い。さっさと帰って勉強して寝ろ」

助け舟か送り船だかわからなくなったが船を出す。
提督だけに船を出すのは得意なのだ。
飲み過ぎたようでそんな冗談も浮かんでくる。
元リーが去った後も閉店まで酒を煽る。

149: 2015/04/16(木) 21:23:37.51 ID:aaucakwS0

加賀「飲み過ぎですよ」

提督「あり?どったの?」

加賀「鳳翔さんからのSOSです」

泥酔してしまったようで
我が愛しの妻のお手を煩わせてしまったようだ。
ふらついた足取りで加賀のもとまで辿り着く、重労働である。

加賀「ご迷惑をおかけしました」

鳳翔「ご贔屓にさせてもらっているのですから、構いませんよ」

会話が聞こえてくるが、頭に入ってくる単語が乱反射している。
我ながらどうしてここまで飲んでしまったのだろう。
今日は特別に嫌なことなどなかった筈だ。

我が身を振り返りながら、加賀に支えられ夜道を歩く。
加賀もその点にはご立腹である様子だ。

150: 2015/04/16(木) 21:24:04.70 ID:aaucakwS0

提督「子供の頃に戻りたいなー」

星空を見上げながら勝手に口が動いた。
今日の暴飲の原因はこんなことだったのか。
自分の口から自分の知らない言葉が出ることに新鮮さを感じた。

加賀「年寄りみたいなこといって、まだ若いでしょ」

提督「若いと子供は違うんだよ」

加賀「はいはい。後で聞きますから家に帰りましょう」

提督「かがー」

加賀「なんですか」

提督「愛してるぞー」

加賀「はいはい。私も隣にいますからねー」

彼女は軽くあしらったつもりだろうが
今の俺には限りなく私服な言葉だった。





151: 2015/04/16(木) 21:24:40.87 ID:aaucakwS0





頭蓋が内側から殴りつけられる衝撃を味わう。
完全な二日酔いである。
どうしようもない気持ちの悪さを感じるが思考は働く。
ありじごくのような作業が続く。

加賀から少し説教をされた。
飲み過ぎて仕事に支障をきたすな、とのことだ。
戦争は確かに終了したが、責任感を失ってはいけない。
もっともなことであり、ぐうの音もでない。

加賀「提督。お仕事の追加です」

全ての感情を捨て作業マシーンと化した俺の仕事を加賀が増やす。
もう苛めないでと心が叫んでいるが誰にも届くことはないだろう。

仕事の確認をする。
やはり期待はするもので、夏祭りと被っていないかとチェックしてしまう。
無慈悲とはこのこと、出張につき夏祭りには迎えない。

152: 2015/04/16(木) 21:25:12.29 ID:aaucakwS0

提督「不在中のことは任す」

加賀「了解しました」

提督「それと、ちび共には祭りを楽しめと」

加賀「そのように」

憂鬱である。
夏祭りにいけないことも原因の一つだが
もう一つは出張の目的についてである。
加賀も雰囲気で察してくれたのか、余計な口を挟まず作業に戻る。

153: 2015/04/16(木) 21:25:44.09 ID:aaucakwS0

各地の防衛を任された各々の鎮守府の代表が集まる集会。
昔馴染みと顔を合わせるのは悪いものではないが
この各地が忙しい時期に収集されることは滅多にない。
あるとすれば、急を要する問題が起こったときだ。

明日の海の様子がどんなものか気になった。
出航の予定もないし、出張も明日でない。
それでも太陽の棺の先にある闇から、一抹の予感がひしひしと感じられた。
と同時に、平和な海に最終決戦の名残を感じた。

明日の海は、荒れる。





154: 2015/04/16(木) 21:26:11.73 ID:aaucakwS0




各々が社交辞令を終え、席につく。
会議の空気は重く、議長である元帥殿はその厳格な面を更に深めていた。
集会は初めてであろう、俺の隣に座る後輩の顔色も悪い。
各々の顔つきも予感をうかがわせるようなものだ。
恐らく俺の顔もそうなっているであろう。
ここにいる皆全員が、同じ心境に立っている。
その事実がまた、緊張のねじを締め続けている。

元帥「今日集まってもらったのは他でもない」

元帥「外からの圧力が本格的なものとなってきた」

憲兵の顔を思い出した。
彼の語った危惧が、現実のものとなり始めた。
ようするには我が国が良い金づるとなることだ。
敵などこじつけ、焚き付ければいくらでも出来上がる。
それをぶつけ、救済するという自作自演にも似たやり口。

155: 2015/04/16(木) 21:26:45.31 ID:aaucakwS0

元帥「政治家も話を進めているらしいが雲行きは怪しい」

元帥「我々は一人でも戦えることを証明しなければならない」

何と戦うというのか。
全員の疑問であった。
深海棲艦との戦いには決着がついた。
戦うものはこの海にいないはずだ。
最悪な選択肢が脳をちらつく。

元帥「最悪の選択はしない」

元帥「今から指名するものは、外の海での戦闘に終止符をうってもらう」

場がどよめく。
つまり、未だに紛争が続く海域に出向き、海外との連携を取り
主戦力となり深海棲艦を叩けとの命令だ。
それによって外様の目の前で、我らの力を証明するというのだ。

156: 2015/04/16(木) 21:27:16.19 ID:aaucakwS0

元帥殿は最悪の選択をしないといったが
俺には戦いの全てが最悪に思えた。
甘いとは思う。実際にそうしない限り、将来は暗いものになる。
だがそれ以上に、自分の未来を自分で決めようとする彼女たちを
再び戦場に駆り出す行動の方が重かった。
軍人失格であろうがなかろうが、俺は彼女たちを愛していた。
あの煉瓦造りは俺の家であり、皆俺の家族であるのだ。

元帥「提督は」

自分の名前が呼ばれた。
指名するといった時点で、わかりきっていたことだ。
友人もいない。かつての戦友はそう多くない。
その中で今もその座にいるものが選ばれるのは、当然のことであった。
戦いの場は修行をつんだ国であった。
俺の留守は後輩が見てくれる形になった。

157: 2015/04/16(木) 21:27:43.95 ID:aaucakwS0

後日、酷く疲れ切った顔をしていると加賀に指摘された。
何があったのだと問い詰められたが、答える気にはなれなかった。
僅かな望みを天に祈るだけである。
かの地での戦争の終結。もしくは俺の家族が戦場にいくことのないこと。

奇跡的に、後者の祈りが通った。
思わず大声を上げて喜んだ。
すぐに加賀のもとに駆け込み、力いっぱい抱きしめた。
彼女はひどく困惑したが、そっと抱き返してくれた。
触れ合った体温が命を意識させる。

しばらくは味わえないだろう体温が俺を勇気づけてくれた。
確かに彼女たちは戦場にいくことはなくなったが
国の名を守るために、俺はその地に向かい指揮を取ることとなった。
旅立ちの時、結局彼女たちには海外出張とだけ言い残した。

俺の戦いの幕開けである。




158: 2015/04/16(木) 21:28:12.69 ID:aaucakwS0





かの地の戦況は良いものではなかった。
戦力は互角。
しかし敵の防御力を上げた陣形が、迫りくる壁となり
じわりじわりと追いつめる形となってしまっている以上
もはや不利と断定する他ないだろう。
現地の司令官とも情報を交換した。
想像していたほどの差別を感じなかったのは
この地の英雄が我が師であったことと関係しているのであろう。

159: 2015/04/16(木) 21:28:41.11 ID:aaucakwS0

早速訓練を開始する。
この地の号令は全て記憶している。
大体思うように動いてくれたが、俺の戦いに対応してくれるか心配だった。
何より、彼女たちに愛着を持てないことに違和感を感じた。
結局俺が愛しているのは、俺の家族だけなのだろう。
丸裸にされたかつての正義感が今の俺を責める。
自己嫌悪に何度襲われても、酒を飲むことはなかった。
愛すべきものたちがいたからこそ、酒が美味かったことを痛感した。
同時に自分が、この地の者たちを愛せない度量の少ない男だと
再び自己嫌悪が襲った。
その度に、早く決着をつけ、あのぬくもりに顔をうずめたくなった。

戦況は絶望的な所に立たされてしまった。
俺や現場の者たちの奮起もあり、何とか戦線は持ち直したが
良い打撃を加えることも出来ずに、延長戦になってしまったのだ。
短期決着は誰もが望むものだ。何分資材がないからだ。
何とか資材をかき集めても、十分な戦闘も出来ない。
艦娘も司令官も、焦燥しきっていた。

160: 2015/04/16(木) 21:29:06.29 ID:aaucakwS0

窮地に立たされた俺に我が国から資材の支援が来た。
支援の通達が来たときは彼女たちが来るのではと
無力なわが身を呪ったが杞憂に終わってくれた。

何とか持ち直し、奮起の結果、敵に打撃を与えることに成功。
最終決戦に持ち込むことが出来た。
慢心はしていない。敵も最終決戦とだけあって
見たこともないような大部隊であった。
臆することはなかった。この戦いが終われば、彼女たちに会えるのだ。




161: 2015/04/16(木) 21:29:33.95 ID:aaucakwS0




天は俺を見放した。
前半の戦いは有利だったものの、天候により足場が崩れた。
後半の戦いは敵部隊の独壇場であった。
連日の戦闘で、俺の方も神経をすり減らし絶望的な状況を受け入れるしかなかった。
夜。何とか生き残ることが出来た。
低く暗い雲が戦場を漂う。氏神のようだ。
まともに動けるものは少ない。
この状況下で野戦の決断を下すことはできなかった。

貴方は故郷に帰れ。ここで氏ぬことはない。
副官を務める男が、俺に言った。
かつての、ここへやってきたばかりの俺ならそうしただろう。
だが俺も浮気性なもので、この地に住む人々に自然と愛着が湧いていた。
自己嫌悪に陥っていたことがばからしくなるくらいに。

162: 2015/04/16(木) 21:30:03.27 ID:aaucakwS0

雪が降ってきた。
暗い雲が送るそれは、地獄への手向けにも思えた。
彼女たちの行く末を見届けることを出来ないのは心苦しいが
自分の未来に向かって舵を進めた彼女たちに
俺のような古びた羅針盤はもう必要ない。
永遠というものはない。必ず別れが来る。
それがほんのちょっとだけ、早くなっただけだ。

覚悟は決まった。
この海が俺の墓場だ。

覚悟が伝わったのか、俺の指示を前場の者全員が待つ。
その眼は俺と同じ目だ。
何物にも代えがたいものを守るために我が身を振るう。
そのことに後悔に後悔など一切ない。
刀のような真っ直ぐな心。

163: 2015/04/16(木) 21:30:35.36 ID:aaucakwS0

何とかなるような気がした。
そんなことなどないのだが、そんな気がした。
無茶なことをする俺を、加賀はいつも諭していたのだが
隣に彼女がいないのならば、止めるものはいない。

加賀「この消耗では野戦は絶望的よ」

覚悟は決まったのだ。邪魔をするな。

加賀「聞いているの?」

話しかけるな

加賀「頭にきました」

もう一度君を抱きしめたかった



164: 2015/04/16(木) 21:31:13.71 ID:aaucakwS0




瞬間、頬をぶたれた。
何も考えることができなかった。
勢いを殺せずに転倒してしまう。
だがその痛みとぬくもりが、妄想などではなく
現実のものだと裏付けした。

何故ここに君がいるのだ。

何故武装しているのだ。

何故俺の家族が皆ここにいるのだ。

提督「…何故」

加賀「隣にいると誓ったわ」

倒れこんだ俺を起き上がらせながら加賀が言う。

赤城「食費」

吹雪「学費」

瑞鶴「同じく」

翔鶴「同じく」

鳳翔「お客」

雪風「司令がいなきゃいやです!」

加賀と雪風以外ほとんどの者が金関係である。
保身だが、がめつくなるよう訓練した記憶がない。
所詮俺は金づるだったのか。
悲しいんだか何だかわからないが目頭が熱くなった。

165: 2015/04/16(木) 21:31:56.62 ID:aaucakwS0

加賀「この地の危機を知った元帥殿が私たちを」

提督「元帥殿が?」

加賀「貴方の全力引き出すのは私たちしかいないらしいわよ」

場がざわめく。
それはそうだろう。
異国の言葉でいきなりぶたれ、今は感慨にふけっている。
そんな現状を目にしているのだ。
だが安心しろよ現地の部隊。

提督「俺はお前たちをもう一度戦いに放り込む」

加賀「御意に」

赤城「ならば」

提督「そうだ」

彼女たちの目はあの日見た目となんら変わりない。
あの日から彼女たちの覚悟は決まっていたのだ。
それに比べ俺はなんと情けない男なのだ。

166: 2015/04/16(木) 21:32:22.74 ID:aaucakwS0

俺が彼女たちの居場所だと?
自信過剰もいい加減にしろ
彼女たちがいるから俺がいるのだ
彼女たちがいなければ、俺はただの無力な飲んだくれだ

その彼女たちが俺のために戦ってくれるというのだ。

ならば

そうだ

提督「連中に誰が海の王たるかを叩き込んでやれ!」

湧き上がる我が部隊。
現地の部隊も湧き上がる。
言葉こそわからないが、それを超えたものを感じたのだろう。
俺も湧き上がってくる力を抑えずにはいられない。
ぐしゃぐしゃに絡み合った血管が激流と化した鮮血で正されていく。
連戦による疲労も深海に沈み、知略の全てが渦を為す。
もはや氏神からの贈り物など、俺にとっては勝利の美酒にすら感じた。




167: 2015/04/16(木) 21:32:58.08 ID:aaucakwS0



提督「照明弾と探照灯の照準を雪を降らす雲どもに定めろ!」

提督「やれ!」

闇夜を切り裂く勝利の光が氏神に向かって飛んでいく。
二つの武器は、夜戦において効果的な作用をもたらす光源だ。
この光で敵を確認し、それを狙い撃ちにするものだ。
照明弾は周囲を照らすものだが、探照灯の用途は違う。
探照灯の光の矛先は本来敵である。
直接的を照らし、それを撃つ。
この二つの武器を雪雲に放つ。
大量にそして広範囲に渡って、敵のバリケードは照明弾が飛び越える。

提督「加賀!やれるな!」

加賀「空母部隊、全艦発艦準備完了。いつでも」

提督「やれ!」

168: 2015/04/16(木) 21:33:32.11 ID:aaucakwS0

照らすものは海を覆う闇である。
各駆逐、軽巡が武装した光は雲の中で乱反射を繰り返す。
幼いころ、雪の日の雲は何故あんなに眩しいのだろうと思った。
明らかに明るく、その雲の色だけは夕焼けと変わりないと思えた。
幼き日をこの日に再現したのだ。
この明るさならば、俺の部隊であれば、飛ばせる。

全ての空母の第一陣は全機爆撃。
広範囲に渡っての攻撃によりまずは不意打ちに成功。
夜に艦載機を飛ばすバカは俺だけだ。
迎撃の心配も、先に敵を叩き潰せば問題ない。

提督「第二陣、統率を取る者を焼き尽くせ!」

二陣を切るのは威力に長けた艦載機。
混乱の後にやってくるのは指揮ができるものだ。
そいつらは明らかに動きが違う。
それを狙うのだ。

169: 2015/04/16(木) 21:34:11.10 ID:aaucakwS0

敵もこの明るさなら対空射撃に乗り出す可能性もある。
だがそれも対策済みである。
細々と群を為す雲雲の隙間には宇宙へと通じる闇が待ち受けている。
影を用いそれと同化するように飛べば、迎撃のリスクは減る。
思わぬ電撃的な攻撃に、敵の大将であろう艦も対処に時間がかかる。
大将らしからぬその行動は、完全な隙であった。

吹雪「敵潜水艦も沈めました!」

提督「俺に近づいてきた氏神を呪うんだな!」

提督「全艦、氏に損ねた敵に止めを刺せ!」

170: 2015/04/16(木) 21:34:38.53 ID:aaucakwS0

こうなればもはや烏合の衆。
敵大将もその中の一つに過ぎない。
響く轟音、闇を開く光。
暴虐の全てを、深海の名を冠した者どもにぶつけた。

何時間が経ったのだろう。
海域における敵の全滅に成功した。
全艦燃料と弾薬がそこをつき、もはや全力を出し切った状態だ。
乱射を繰り返す光も次第に風に流され
気づけば、暗闇が再び支配する空間に戻った。

提督「各員、よくやった」

提督「我々がこの海の王だ」

勝利の叫びが
水平線から昇る太陽と共に世界に響き渡った。




171: 2015/04/16(木) 21:35:08.07 ID:aaucakwS0





女は怒らせると怖いのは知っての通りだ。
あの海戦の後、散々皆からお叱りの言葉を受けた。
黙って出て行ったことや、勝手に氏のうとしたこと。
いろんな言葉が胸に突き刺さった。
それは痛くもあったが、嬉しくもあった。
生きている実感があった。
その場に存在しているだけではない、生きている感覚。
久しく味わえなかった、私服の時間。

俺の代わりにこの椅子に座っていた後輩は
超絶不機嫌な加賀に何度も泣かされたという。
俺だって時々泣きそうになるから文句は言えない。
むしろしっかりこなしてくれて感謝している。

元リーは俺が海外に行ったことを知り
海外に興味を持つようになったとかで
瑞鶴と共に外国語の教室に通い始めた。

172: 2015/04/16(木) 21:35:34.77 ID:aaucakwS0

元帥殿も一晩で終わらせるとは想像していなかったらしく
緊急で手配した海外の戦力に無駄な労力を使わせてしまったことを
悔やんでいる様子であった。
だがそのおかげで、海外の戦力に、武を示せた。
俺以外の司令官の活躍もあり、本初の目的は達成した。

が。

提督「誠に申し訳ありませんでした」

問題はこの女、加賀である。
今回の件でとっても頭にきたらしく、海戦後から一週間経った今もカンカンである。
そのくせ、離れようともしないのだから困りものである。

173: 2015/04/16(木) 21:36:04.37 ID:aaucakwS0

提督「マリアナ海溝より深く反省しております」

加賀「………」

誠意を見せて誤ってもこの様子である。

提督「…何がお望みでしょうか」

加賀「では」

勝利の兆しが見えた。
謝罪に反応したのはこの時が初めてである。

174: 2015/04/16(木) 21:36:34.08 ID:aaucakwS0

加賀「外出した際には必ず外出先を伝えること」

加賀「電話には必ず出ること」

加賀「お金の方も私が管理します」

加賀「出張の際は私もついていきます」

加賀「それから」

提督「子供か俺は」

175: 2015/04/16(木) 21:37:10.32 ID:aaucakwS0

加賀「子供です。体のおっきな子供です」

加賀「貴方は私がいないと全くダメです」

加賀「今回の件も私が元帥殿に進言しなければ上手くいきませんでした」

加賀「自分の能力も顧みず一人で背負って」

加賀「身の丈以上のことに遭遇して仕事も全うできずに」

加賀「結局は私に助けられた」

加賀「散々人様に心配をかけて…」

加賀「そうなることを見越して私たちを、私を連れて行かなかった貴方は」

加賀「大人なんかじゃ、ありません」

176: 2015/04/16(木) 21:37:54.37 ID:aaucakwS0

緊張と加賀の荒くなった呼吸が、執務室を埋めていた。
その目は微かに赤くなっている。
荒い呼吸が納まりをみせ、頭に上った血も、ゆっくり帰っていく。
静寂の支配が始まった途端、抱き付いてきた。
何度も胸板に顔を擦り付ける。
確かめるように、自分がここにいるように。
そばにいてくれと。
俺もたまらず抱きしめた。
ずっとずっと抱きしめた。
俺も彼女も互いに互いを必要としている。
言葉は必要ない。言葉なくして判りあえた。

177: 2015/04/16(木) 21:38:26.91 ID:aaucakwS0

生きることは戦うことだと思う

人それぞれに与えられた戦場

不安であったり

孤独であったり

後悔であったり

妬みであったり

絶望であったり

いろんな姿で立ちふさがる

178: 2015/04/16(木) 21:38:58.19 ID:aaucakwS0

どんなに怖くてもその相手からは逃げられない

引かれ合うようにぶつかる

それに勝たなければならない

確かにそれは君の戦いだけど

君ひとりで戦わないといけないわけではないのだ

誰かと共に、友人であったり、愛する人であったり

君もまた、誰かの隣に立ってあげられるかも知れない

誰かが君を必要としているのだ

お婆さんの祈りを思い出した

「どうか明日が来るように」

誰かが言った。
夜明け前が一番暗いのだと

過去になった今が手を振り見送ってくれている

俺も、やっと、新しい朝を迎えることが出来そうだ

降り出した雪は氏神の推薦状などではなく
明日へ向かう俺への花束に見えた。
綺麗な白い花が、静かな海で花を咲かせていた。


179: 2015/04/16(木) 21:41:23.49 ID:aaucakwS0
投稿完了です

戦闘描写とかシリアス上手く書ける人って凄いと思った(コナミ
誤字脱字、アドバイス等御座いましたら
恐縮ですがよろしくお願いします

引用: 提督日和