92: 2012/08/11(土) 23:18:34.67 ID:4ltRcd3J0
学校近くの最近整備された遊歩道を、千歳と二人で歩いて行く。
とくに目的があるわけではない。今日の学校は午前中で終わりだったので、少しお散歩でもしてみようと思ったのだ。

「綾乃ちゃん、歳納さんをデートに誘ってみたりせえへんの?」

いつもの笑顔で、千歳が語りかけてくる。私は顔を真っ赤にして反論するも、その柔らかな笑顔にすべて受け流されてしまった。

「歳納さんを遊園地デートに誘う綾乃ちゃん。愛し合う二人は、夕方の観覧車で身体を寄せ合い、愛の……愛の蜜をぉぉぉ!」

……鼻血を出すのも、いつも通りだ。

「けど、奇遇ね。ちょうど私、遊園地に誘おうと思ってたんだ」

千歳を、ね。

「……なんでうちなん? 勇気を出して、歳納さんを誘ってみようよ。うちも協力するから……」
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93: 2012/08/11(土) 23:21:38.07 ID:4ltRcd3J0
「いいの。私は、千歳と一緒に行きたいんだから」

「うちなんかで我慢してたら、あかんよ」

「我慢なんかじゃないわよ」

「じゃあ、妥協?」

「それも違うわ」

「じゃあ……逃げてるだけと違う?」

……なんでよ。なんでそんなに嫌そうなの。
千歳こそ、私と一緒じゃ不満なの?

「私は! 千歳と二人で行きたいの! 確かに歳納京子とも行きたいけど……でもやっぱり、千歳との時間も、大切にしたいっていうか……」

「……綾乃ちゃん、ありがとうな。けど……」

「もう! 私は千歳とデートしたい気分なの! 歳納京子とか関係ない! 私じゃ……不満?」

「ううん! そんなこと絶対ないで! 綾乃ちゃんと遊べるなら嬉しいわ」

94: 2012/08/11(土) 23:23:10.55 ID:4ltRcd3J0
……本当に?
最近千歳との間に、溝ができた気がする。
普通に見ればいつも通りなんだけど……
私との間に、若干距離を置かれているというか。
なんだか……このまま千歳が、遠くに行ってしまいそうで、私は怖かった。

「綾乃ちゃんが歳納さんと上手く行き始めたら……もう二人きりで遊ぶのは、やめにせなあかんしな。今だけは……綾乃ちゃんと……」

「……え?」

「だって、綾乃ちゃんと歳納さんが恋仲になったのに、うちがいつまでも綾乃ちゃんとべったりだったら……歳納さんに申し訳ないやろ?」

そ、それは……
考え過ぎよ、なんて言えなかった。

……ああそうか。千歳は、私の恋を応援してくれているからこそ、私と距離を置き始めたんだ……

「そんなの……そんなの嫌! 千歳と離れるなんて……嫌よ!」

97: 2012/08/11(土) 23:30:55.64 ID:4ltRcd3J0
「何かを得るには、何かを失わなあかん。綾乃ちゃんの恋は、女の子が相手なんやで。だったら、他の女の子と一緒に遊ぶのも浮気と取られてもしゃあないやろ?」

「でも……」

「大丈夫。うちはそれでも……綾乃ちゃんの友達やから」

痛々しいほど眩しいその笑顔に耐えかねて……
私は千歳を抱きしめた。

「あ、綾乃ちゃん!?」

「わからない……わからないよ! 私、自分の気持ちがよく……わからない……」

歳納京子と結ばれるためには、千歳と離れなければならない? そんなの認めたくない。けれど、千歳は真摯に応援してくれている。私もその期待に答えなければならない。だけどだけど!

「やっぱり……一番大切なのは……私にとって一番大切なのは、あなたよ。千歳……」

98: 2012/08/11(土) 23:35:44.72 ID:4ltRcd3J0
「えっ、えっ、ええ!? そんな、何言うてんの綾乃ちゃん!?」

失いかけて初めて気づいた。
本当に手に入れたいものは、すぐそばにあったこと。
いつまでも一緒にいたい人。私のすべてを預けられる人。私にすべてを預けて欲しい人。
これから先も、共に歩んで行きたい……
最愛のパートナー。

「千歳……好きよ」

返事を聞かせて、くれるかしら……

「綾乃ちゃん、気持ちは嬉しいんやけど……」

「……ここ、少ないとはいえ人いるわけやし、恥ずかしいわ……///」

……うっかりしていた。
ここは真昼の遊歩道だったのに……!


……あれから10年が経った。
当時の告白は今でも笑いの種にされていて、その度に恥ずかしい思いをしている。

「まったく、私の奥さんったら……」

まあ、ニコニコほほ笑むその笑顔の前では、暖簾に腕押しだけどね。
本当に……可愛い人なんだから、千歳は。


おわり

引用: 千歳「短編集やで~」千鶴「だばー」