206: 2012/06/12(火) 18:02:21.99 ID:U0vej8je0
姫「疲れた、おんぶして」勇者「はいはい」【1】
姫「疲れた、おんぶして」勇者「はいはい」【2】
伯爵王「やあ」
勇者「……」
伯爵王「明日、私の戴冠式をするんだが……君に何かスピーチを頼みたい」
勇者「…………貴様は外道の屑だ」
伯爵王「NOか、そうだろうと思った」
勇者「姫にまだ王位継承権がある!! 伯爵に王位を継承する資格はない筈だ!!」
伯爵王「ふふ、姫様は魔物に連れ去られ、殺されましたよ?」
勇者「デタラメだ!!」ドガッ
207: 2012/06/12(火) 18:10:46.15 ID:U0vej8je0
伯爵王「では証拠があるとでも? 王女様が、姫が生きているという証拠がね!」
伯爵王「答えは否ッ!! 皆無!! 何も無いだろう!?」
勇者「っ……」
伯爵王「ふふ、しかしそんなに君が意地になるならば私も悪魔じゃない……チャンスをあげよう」
勇者「なに……」
伯爵王「君が、姫を助け出して来れば良いよ……そうしたら彼女に王位は譲ろうじゃないか」
勇者「…………」
208: 2012/06/12(火) 18:16:44.09 ID:U0vej8je0
―――――― ピチョンッ
まほうつかい「ケケッ、食事だぞ人間」
< がたんっ
まほうつかい「……けっ、返事もしねーのかよ」
姫「………」
209: 2012/06/12(火) 18:27:33.92 ID:U0vej8je0
姫(……ご飯、食べないと)ズル
姫(………)ドサッ
姫「だるい……や」
姫「……っ」ググッ
姫(っ)ドサッ
姫(………動けないよ、勇者)
210: 2012/06/12(火) 18:30:18.15 ID:U0vej8je0
姫(竜王に私の話を聞かせたのはいいけど……)
姫(……こんな洞窟の牢屋に入れられるなんてね)
姫(………最悪、だなぁ……)
ウルッ
姫(…………寒いよ)
姫(……おなか、すいたよ………)
211: 2012/06/12(火) 18:33:33.41 ID:U0vej8je0
スライム「ぴきーっ!」タッタッ!
姫「……?」
スラ「ぴーっ、ぴーっ!」ズズ
姫「……食べろって?」
スラ「ぴー……」コクンコクン
姫「………スプーン、とって」
スラ「ぴきーっ!」カチャ
212: 2012/06/12(火) 18:36:29.30 ID:U0vej8je0
姫「……ありがと、助かったわスライム」
スラ「ぴきーっ! ぴっぴきー!」
姫「……ごめんね、勇者とは違って私には君の言葉が分からないの」
スラ「ぴーっ…」
姫「………」
姫「もしかして、この間……お城の台所に忍び込んだスライム?」
スラ「ぴきーっ♪」コクン
213: 2012/06/12(火) 18:40:07.63 ID:U0vej8je0
姫(……そっか、あの後勇者がこの子を逃がしたから……)
姫(………勇者)
ぴょこっ
スラ「ぴー?」
姫「…!」
姫「スライムなら、勇者を呼べる?」
214: 2012/06/12(火) 18:50:19.77 ID:U0vej8je0
悪魔の騎士「……グォ…ッ」ガシャッ
悪魔の騎士(ば、馬鹿な!! この俺が手も足も出ないとは……)
悪魔の騎士「貴様、人間ではないのか……」
勇者「……勇者だよ、ただのな……」
―――――― ザクッ
215: 2012/06/12(火) 19:00:18.11 ID:U0vej8je0
―――――― ギィンッッ!!
ゴールドマン「……オソロ、シイ・・・キサマ、ナニモノダ」
勇者「……姫はどこだ」
ゴールドマン「……コタエナイナラ?」
勇者「ここ一帯に住む魔物を全て頃す」
ゴールドマン「…………」
ゴールドマン「【メガンテ】」カッッ
勇者「!!」
216: 2012/06/12(火) 19:07:14.20 ID:U0vej8je0
大魔導「ご報告致します」
竜王【 聞かずとも我には分かる、勇者が本格的に動き出したか 】
大魔導「……」
竜王【 どうかしたのか、大魔導よ 】
大魔導「お言葉ですが竜王様、我々は早急に姫を頃すべきだったのでは?」
竜王【 何が言いたい、大魔導 】
大魔導「……勇者は姫を探す為にたった2日で50を越える魔物を虐頃しています、あの悪魔の騎士やゴールドマンの『メガンテ』すら凌いだそうです」
217: 2012/06/12(火) 19:14:35.70 ID:U0vej8je0
竜王【 ・・・ 】
竜王【 クックック、クク・・・ふはははははははは!! 】
竜王【 面白い……!! 奴はどうやら姫の命が風前の灯火にある状態なのが分かるらしい 】
竜王【 そして今、あの男は極限の力を持って姫を探している訳か!! 】
大魔導「……」
竜王【 大魔導!! そなたを含む四天王全員を姫のいる洞窟に集結させよ! 】
大魔導「!?」
竜王【 ロトの勇者が全力を出し切り、そして大切な者を守れずに殺される様を我に見せよ!! 】
218: 2012/06/12(火) 19:23:00.57 ID:U0vej8je0
―――――― ガシャァン! ドサッ
スラ「ぴきーっ!? ぴーっ!」
姫「……」
スラ「ぴきーっ! ぴきーっ!」
スルッ
姫「…」トクン…トクン…
スラ「ぴきーっ!?? ぴーっ! ぴーっ! ぴきーっ!!」
219: 2012/06/12(火) 19:25:44.73 ID:U0vej8je0
氏神の騎士「……シー」ガシャッ
スラ「ぴきーっ!! ぴきーっ!!」
氏神の騎士「……」
ひょいっ
ぽーん!
スラ「ぴぎ!?」ドサッ
氏神の騎士「シー……」
スラ「ぴきーっ!! ピィィッキィィィィ!!」
氏神の騎士「…」イラッ
220: 2012/06/12(火) 19:36:38.01 ID:U0vej8je0
氏神の騎士「シッ……!」ドガッ
スラ「ぴぃっ!」ドサッ
氏神の騎士「……」スタスタ
スラ「ぴぃっ……ぴぃっ!」タッタッ!
氏神の騎士「!」
ドラゴン「……グルル(そのスライム、どうしたんだ)」
氏神の騎士「シッ(さあな、姫に情が芽生えた馬鹿なスライムだ)」
ドラゴン「ガゥ?(丁度ヒマだし殺る?)」
氏神の騎士「……シー(勝手にしろ、同胞を斬る剣は無い)」
221: 2012/06/12(火) 19:40:50.28 ID:U0vej8je0
ドラゴン「ガァアアアアアッ!!」ギュォッ
スラ「ぴっ?」
―――――― ゴシャァ!!
スラ「ぴぃっ……!!?」ドサッ
スラ「ぴっ……ぴきぃ……」ズルズル
ドラゴン「ガゥ♪(トドメ♪)」スッ
―――――― ガシィッ
222: 2012/06/12(火) 19:55:06.91 ID:U0vej8je0
ダースドラゴン「ゴガァアアアア!! (ドラゴン貴様、同胞に何をしている!!)」
キースドラゴン「ギャオオオ……(スライム如きをいたぶって楽しいか貴様)」
ドラゴン「ガルル……っ」
ダースドラゴン「ゴガァア!! (大魔導、来てくれ!!)」
大魔導「何事だ」ズウッ
ダースドラゴン「グルル(そこのスライムにホイミをかけてやってくれ)」
大魔導「………いないが?」
223: 2012/06/12(火) 20:02:55.08 ID:U0vej8je0
スラ「ぴぃっ……ぴっ……」ズルズル
スラ「ぴきー……」ガサッ
『偉いね……ありがとう、どこから持って来たの?』
『あのね、もし私に……余り、待つ時間が無い時この手紙を勇者に届けて欲しいの』
『なに? ……あはは、今のは私でも分かるよ……『どうして直接行かさないのか』でしょ』
『………信じてるから、勇者ならきっと助けに来てくれるって』
スラ「……ぴきぃ」ズクン
スラ「っ……」ドクドクッ
ドサッ
スラ「……ぴぃっ」ズルズル
224: 2012/06/12(火) 20:05:35.89 ID:U0vej8je0
―――――― ザァァ・・・
勇者(……姫が浚われて、一週間)
勇者(手掛かりは何も無い……『太陽の賢者』や『雨の賢者』達も竜王の城しか分からない)
勇者(・・・)
勇者(嫌な、雨だ……)
225: 2012/06/12(火) 20:12:52.93 ID:U0vej8je0
―――――― 降りしきる雨の中、一匹のスライムは長い距離を歩き続けた。
身に負った傷の深さを考えれば自殺行為。
それはわかっている、しかしスライムは止まれない。
幼き日の、とある少女と少年。
その2人にスライムはかつて命を救われたことがあった。
しかし成長した少女が覚えていないのは直ぐに分かった。
そしてそれにも理由があるのを知った。
少年がどれだけ成長したのかを知れた。
スライムは自身の体に限界が来るのを無視し、歩き続けた。
彼は、100年近く生きていた理由を知ったから。
小さな自分にできる事を彼は成し遂げる。
226: 2012/06/12(火) 20:14:26.86 ID:U0vej8je0
次回
勇者「……必ず、約束するよ」
スラ「ぴきーっ♪」
235: 2012/06/13(水) 16:44:04.72 ID:cSlkh2Z80
―――――― 『……だれか、いないのかな』
―――――― 『………真っ暗』
薄れ行く意識。
それは静かに、確かにぼくに近づいていた。
見栄を張って森の深い所になど入らなければ……
そうすれば、こんな事にはならなかったかもしれないのに。
236: 2012/06/13(水) 16:51:04.31 ID:cSlkh2Z80
―――――― 『スライムの癖に生意気なんだよ』
―――――― 『なんだ? やる気か』
―――――― 『ハハッ、そうだよなぁ! たかが100年くらい生きてたからって調子に乗るなよ?』
『お前はただ生きていただけだ』、そう言われたのが堪らなく悔しかった。
だから、少しでもぼくの勇気を見せたかったのに……
―――――― 『…………だれか……いないのかな………』
ぼくは崖から落ち、道に迷い、力尽きて動けずにいた。
なんてぼくは馬鹿なんだろう、そう思う度に涙しか出なかった。
237: 2012/06/13(水) 17:02:39.49 ID:cSlkh2Z80
そんな時だった。
誰もいない筈の闇に包まれた森の中で、1つの光が照らしていた。
――― 『ほらね! この子スライムでしょー』
――― 『危ないよ姫ちゃん、僕の後ろにいて!』
――― 『危なくなんかないよ? 怪我してるよ、ホイミしてあげてゆーしゃ!』
・・・小さな2人の子供。
真っ暗な森を照らしていたのは少し大きな男の子だった。
238: 2012/06/13(水) 17:14:22.26 ID:cSlkh2Z80
幼勇者『大丈夫? ホイミ』
男の子がぼくの傍に来て、呪文を唱えた。
驚いた、こんな小さな人間の子供が100年生きたぼくでも習得出来なかった呪文を使うなんて。
―――――― 『……あったかい』
……何より、淡い癒やしの光はとても温かかった。
こんなに温かい光があるのかと、ぼくは感動した。
239: 2012/06/13(水) 17:20:19.14 ID:cSlkh2Z80
幼姫『ゆーしゃ、やっぱり来て良かったでしょ?』
幼勇者『うーん……肝試しのおかげでスライムを助けられたし、良かったのかな』
幼姫『良いに決まってるよっ! ねー?』なでなで
スラ『ぴ、ぴきーっ♪』
240: 2012/06/13(水) 17:39:12.09 ID:cSlkh2Z80
―――――― ザァァ・・・
メイド「……勇者、このスライム………」
勇者「…………」
スラ「…」
ギュッ
勇者「……ありがとう、ここまで知らせに来てくれたのか……」
メイド「っ……酷い、どうしてこのスライム……」
勇者(・・・)
241: 2012/06/13(水) 17:44:30.48 ID:cSlkh2Z80
―――――― 『ゆーしゃ! 見て見て~!』
―――――― 『ぴきぃぃ!?』
―――――― 『……スライムが可哀想だよ?』
―――――― 『えへへ、私とスラリンはお友達だもんね~?』
―――――― 『……ぴっ?(お友達?)』
―――――― 『うん、君と姫ちゃんは友達だよ』
―――――― 『あー! またゆーしゃとスラリンだけお話してるー! 私も仲間に入れてぇっ』
―――――― < 『わぁっ、泣かないで……というか、スラリンってスライムの名前?』
―――――― < 『うん! 可愛いでしょ!』
―――――― 『ぴきー……』
242: 2012/06/13(水) 17:49:11.88 ID:cSlkh2Z80
―――――― 『ぴきーっ♪(久しぶり勇者っ♪)』
―――――― 『……スラリン、か』
―――――― 『ぴきっ?(どうしたの、元気ないよ?)』
―――――― 『あのさ……少し、姫と会えなくなりそうなんだ』
―――――― 『ぴきー! ぴっ?(なんで! どうして?)』
―――――― 『………凄く、姫の体調が悪いんだ……もしかしたら……』
―――――― 『…………ううん、なんでもない』
―――――― 『ぴきー…?』
243: 2012/06/13(水) 17:52:24.16 ID:cSlkh2Z80
勇者(……ごめんな、それと…本当にありがとうな……)
スラ「…」
勇者(あんなに、一緒に遊んでたのにな……この間来た時、遊べなくてごめん……)
勇者(俺のせいで……)ギュッ
スラ「…」
244: 2012/06/13(水) 17:59:48.23 ID:cSlkh2Z80
(……久しぶりに来たけど、姫ちゃんと勇者…元気かな)
(あ、あれっ? 抜け道がなくなってる……)
兵士「zZZ」
(……しずかにすれば、大丈夫大丈夫……)
兵士「むにゃ…」
(ひっ)びくっ
兵士「……zZZ」
(ホッ)
245: 2012/06/13(水) 18:06:17.31 ID:cSlkh2Z80
(……どこに姫ちゃん達いるかな)
メイド「~♪」すたすた
(あっ……)
メイド「……っえ、ぃ」
メイド「キャー! スライムが台所に……!」
「ぴきー!(見つかっちゃったー!)」
<「大丈夫? 私がついてるわっ」
(え……姫ちゃん?)
246: 2012/06/13(水) 18:13:38.82 ID:cSlkh2Z80
< 「こらこら、女の子脅かしちゃダメだろ」
勇者「……」すっ
「ぴっぴきぴー!(勇者! 姫ちゃん! ぼくだよ、スラリンだよ!)」
勇者「え…?」
勇者「……だめ、姫は怖がりだから」
姫「余計なこと言ってないで追い出してよ!」
(……えっ?)
勇者「(まずいな…)はいはい」がしっ
「ぴきー……(姫ちゃん、ぼくを覚えてないの……)」
247: 2012/06/13(水) 18:18:12.79 ID:cSlkh2Z80
勇者「……悪いなスラリン、久しぶりの再会なのに」
「勇者、姫ちゃんはどうしたの? ぼくを忘れてしまったの?」
勇者「ああ……スラリンと最後に会ったあの日、姫はそれまでの記憶を失ったんだ」
「え……じゃあ、それじゃ……」
勇者「ごめんなスラリン、もう姫はお前とは遊べないんだ……俺もな」
「……そんな、何があったの……」
勇者「………言えない」
「…!」
248: 2012/06/13(水) 18:25:33.78 ID:cSlkh2Z80
―――――― ザァァ・・・
勇者「……あの時、お前…凄い寂しそうな目をしてたよな」
スラ「…」
勇者「姫を守れなかったせいで、寂しい思いさせたよな……スラリン……!」
メイド「……」ポロポロ
勇者「………疲れたよな、痛かったよな…今ホイミするから……」
メイド「勇者さん……もうその子…っ」ポロポロ
勇者「このままじゃ可哀想だろ……?」
249: 2012/06/13(水) 18:31:46.49 ID:cSlkh2Z80
勇者「……ホイミ……」ポウ
スラ「……」
勇者(………必ず)
スラ「…」
勇者(必ず、姫を助けるよ……)
勇者(きっと守る)
250: 2012/06/13(水) 18:34:11.68 ID:cSlkh2Z80
勇者(だから、応援してくれ……)
勇者「……必ず、約束するよ」
スラ「ぴきーっ♪」
251: 2012/06/13(水) 18:38:34.82 ID:cSlkh2Z80
―――――― 【スラリンのココロを手に入れた】 ――――――
勇者(……今、スラリンが笑った気がした)
メイド「勇者さん、この手紙もこのスライムと一緒にありました……」ガサッ
勇者「……ありがとう、後は任せてくれ」ガサッ
メイド「あの、スライムはどうしますか・・・」
勇者「…頼む、少ししたら埋葬してやってくれ」
メイド「……はい!」
252: 2012/06/13(水) 18:52:58.81 ID:cSlkh2Z80
―――――― ザァァ・・・ッ!!
雨は数時間前に比べその勢いは増していた。
叩きつけるような雫の塊、そんな中を突風が切り裂き進む。
雨粒が触れるより速く、勇者の体はその雨粒をむしろ弾くように突き進んでいた。
その手には、雨と僅かな血が滲んでしまった手紙。
勇者「……!!」
走る、駆ける、雨を切り裂く。
急がなければならなかった。
もはや一刻の猶予は存在しない、スラリンが自身を犠牲にしてでも手紙を届けるのを優先したには意味がある。
253: 2012/06/13(水) 19:06:31.62 ID:cSlkh2Z80
――― 勇者へ ―――
勇者、無事ですか?
って、元気よね そうに決まってる。
遅いわよ、今私はマイラって村から南……かな? そこの洞窟にいるの。
最悪よ ご飯も美味しくないし寒いし。
はやく きなさいよ ばか
からだが、へんで あたまがいたいの
むかえにきてよ おそいよ
ゆうしゃ
254: 2012/06/13(水) 19:16:27.26 ID:cSlkh2Z80
勇者(この手紙は書きかけだったが、字がおかしい……それに姫が初めて『頭が痛い』と言った)
勇者(間違いない、このままじゃ また 姫が氏んでしまう!!)
踏み込み、そして濡れた大地を蹴る。
一歩で数十mもの距離を縮め、更に大地を蹴る。
恐ろしいまでの速度で勇者はアレフガルドを走り抜けて行く。
雨の勢いは既に最高潮に達したのと同時、勇者の纏う風圧は更に増す。
否、他者から見ればそれは風ではなく、『覇気』そのものに見えただろう。
それ程に勇者は凄まじい気迫で雨粒を切り裂いていた。
255: 2012/06/13(水) 19:33:42.60 ID:cSlkh2Z80
氏神の騎士「……シー」
竜王直属の配下、四天王の1人『氏神の騎士』は何かを感じて立ち上がった。
ダースドラゴン「グルル……」
キースドラゴン「…グルル」
そして同じく四天王の『ダース』『キース』のドラゴン達も、喉を鳴らし、辺りに殺気を散らした。
……竜王の右腕、『大魔導』もまた、彼等よりも正確にそれを把握する。
そうしながら、幕を上げようと言わんばかりに彼は言う。
大魔導「……来たか」
―――――― ゴバァァンッッ!!
256: 2012/06/13(水) 19:44:46.57 ID:cSlkh2Z80
轟音と共に鋼鉄の巨大な扉が弾け飛んだ。
『魔法の鍵』が無ければ開かない筈の、大魔導が張った結界をただの力技で破ったのだ。
轟ンッ!! と凄まじい勢いで飛んで来る扉。
その威力は如何に魔物といえども直撃すれば致命傷になる。
しかし、彼等はただの魔物ではない。
氏神の騎士「シャァァアアアアアアアアアッッ!!!!」
踊り舞う巨大扉の前に飛ぶ氏神の騎士。
キンッと、氏神の騎士が持つ黒い刃が軌跡を空中に残す。
そして次の瞬間。
257: 2012/06/13(水) 19:54:02.08 ID:cSlkh2Z80
―――――― ギィンッッッ
鋭い火花、金属が両断される断末魔。
それらが起こった時には巨大扉は既に左右へ、氏神の騎士達四天王を避けるように後方へ吹き飛んでいった。
洞窟内を揺るがす衝撃。
同時に、扉が無くなった入り口からは嵐のような雨が入り込み始める。
だけでなく、1人の影もそこにはあった。
大魔導率いる竜王軍最強の四天王と、その男は対峙する。
勇者「……姫を、迎えに来た」
息を切らし、右手に血の滲んだ手紙を握り締めたまま彼はそう宣言した。
彼は命を賭け、必ず大切な者の命を救うと約束した後だった。
264: 2012/06/14(木) 18:37:04.89 ID:gSnTwmtP0
・・・洞窟の中は意外にも広かった。
元々が岩山を削って作られたのか、頭上の暗闇を様々な鳥達が飛び交う音が鳴り響いている。
何より、勇者が吹き飛ばした巨大扉の残骸はかなりの距離を飛んだのにも関わらず姫のいる牢まで届いていない。
そして……三体のドラゴンが待ち構えてられる時点で、ただの洞窟でない事がわかる。
勇者(……俺を罠にかけて、充分に向こうが戦えるスペースを作ったのか)
その読みは的中。
大魔導のローブが不気味に揺らいだ。
大魔導「ここが貴様の墓場だ、勇者……!!」
莫大な閃光が決戦の火蓋を斬った。
265: 2012/06/14(木) 18:50:37.26 ID:gSnTwmtP0
洞窟全体を瞬間的に照らす程の『閃光』は凄まじい熱波となり、勇者が立つ入り口を簡単に粉砕する。
辺りに散る鬼火がその凄まじい威力を物語っていた。
大魔導はローブに包まれたまま笑った。
大魔導(この洞窟は特殊な作りで、一時的に魔力の集まりやすい場所になっている)
大魔導(その神聖なる魔力の泉で私は奴が来るまで集中していたのだ、単純な破壊力は竜王様の『ギラ』を越える)
―――――― ジュゥゥ・・・
熱波の余波で発生した蒸気が視界を濁す。
しかし見るまでも無いと大魔導は感じていた、呆気ないとすら感じていた。
―――――― だが
266: 2012/06/14(木) 18:58:06.33 ID:gSnTwmtP0
氏神の騎士「シィッ!! (上だ、上を狙え大魔導!!)」
突如襲う、氏神の騎士の怒号。
ハッと我に帰った大魔導は呪文の詠唱と同時に頭上を仰いだ。
大魔導(この男・・・いつの間に!?)
―――――― カッッ!!
『ベギラマ』の閃光が上空の勇者を迎撃する、しかしその狙いは大魔導の油断が大幅に外れてしまう。
そしてその刹那に、勇者の左手が閃光を放った!
大魔導「……!!」
267: 2012/06/14(木) 19:05:00.39 ID:gSnTwmtP0
即座に大魔導はローブで少しでも自身を覆って防ごうとする。
そのタイミングは遅く感じられたが、まだ彼は肉体に熱は感じない。
大魔導「…………!!」
……熱はまだ来ない。
大魔導(なに!?)
―――――― シュタンッ
勇者「破ぁッ!!」
瞬時に大魔導の懐へ飛び込んだ勇者の拳が握り締められる。
268: 2012/06/14(木) 19:14:20.98 ID:gSnTwmtP0
―――――― ガァァンッッッ!!
勇者「……!」
氏神の騎士「シィィィ………」
轟音、そして縫い止められる勇者の拳。
氏神の騎士が持つ盾によって必殺の一撃は防がれていた。
直後、
バォォッ!! と唸る竜の息吹き、三体のドラゴン達が一斉に火炎を撒き散らしたのだ。
勇者「―――ッ―――」
飛び、火炎の渦の隙間を懐潜る。
その動きは既に人間の速さでは無かった。
269: 2012/06/14(木) 19:21:28.38 ID:gSnTwmtP0
―――――― シュインッッ
その着地した瞬間には氏神の騎士が追撃の刃を振るう。
黒い軌跡は勇者の頬を掠め、そして乱舞の如く斬りかかる!
勇者「……ッ」
―――――― シュインッッ
―――― シャキィッ
―――――― ズドォッッ
ジャリィッッ
凄まじい連撃を勇者はいなしてかわし、そして刃の側面を弾き避ける。
270: 2012/06/14(木) 19:35:46.99 ID:gSnTwmtP0
勇者「……………」
トン。
そんな風に軽く勇者は地面を爪先で鳴らし、後ろへ下がった。
同時に、左手から閃光が氏神の騎士を襲う。
氏神の騎士「シャァアアアアアアアアアッッ!!!」
逃がさない、そう言うかのように黒い軌跡が勇者の胸元を浅く切り裂いた。
氏神の騎士は勇者の放った『レミーラ』の閃光に怖じず、踏み込んで行く!
271: 2012/06/14(木) 19:42:07.58 ID:gSnTwmtP0
ダースドラゴン「―――――― ヒュゥ」
大魔導「―――――― !!」フォォォッ
挟み込むように、ダースドラゴンと大魔導が閃熱火炎の追撃を放つ。
ダースドラゴンの爆炎が広範囲に炸裂し、その上から大魔導の『ベギラマ』が叩き伏せる!!
勇者「ッ……」
勇者(1つ1つを丁寧に避ける余裕は無い……!)
額から汗の雫が一粒飛ぶのと同時、勇者の両腕に莫大な閃光が収縮される。
272: 2012/06/14(木) 19:49:02.61 ID:gSnTwmtP0
―――――― ゴォッッ!!
空気が悲鳴を上げ、勇者の両腕が放った『ベギラマ』が大魔導達の追撃を更にねじ伏せた。
そして瞬時に、勇者の足元に転がっていた巨大扉の残骸を軽々と蹴り上げ―――
―――― ギロチンの如く、踏み降ろす!!
氏神の騎士「…ッ!!?」
ゴガァァアッ!! と強大な一撃が氏神の騎士の片腕を盾ごと砕き折る!
氏神の騎士の動きが一時的に止まったのを確認した勇者の姿は即座に闇に消え去る。
273: 2012/06/14(木) 19:54:07.33 ID:gSnTwmtP0
キースドラゴン「ゴガァ・・・カッ!?」
その勇者が消えたタイミングに合わせ、キースドラゴンの顎が打ち上げられた。
―――――― ズドォッッ!! ガガガガガッッ!!!
裏拳で勇者は高速で連打する。
息をさせる僅かな隙すら与えずにドラゴンを仕留める!!
「…………ゆう……しゃ………?」
274: 2012/06/14(木) 19:55:09.04 ID:gSnTwmtP0
勇者「……!」
勇者の動きが、時間が止まった。
283: 2012/06/15(金) 17:30:47.13 ID:HLuZepu50
勇者「……ひ、め…………」
視界の中心。
視線の先に、『彼女』は地面にぺたりと座り込んだままこちらを見ていた。
それも儚く散ってしまいそうに、勇者が声を出すのに躊躇してしまう程に。
大魔導(……王女? なぜ牢から出て…………)
大魔導(……………)
ふと、大魔導は洞窟内の広さに気づいた。
284: 2012/06/15(金) 17:44:28.36 ID:HLuZepu50
勇者がこれだけ四天王と戦えるのですら驚愕すべき事かもしれない。
しかし、幾度と包囲を抜けるのは大魔導の計算に余りにも合わないのだ。
そう、例えば『味方の数が少ない』とかである。
大魔導(!!)
勇者の視線の先に座り込んでいる、王女の方へ大魔導もそちらを凝視する。
そして・・・彼は最悪のモンスターを見た気がした。
285: 2012/06/15(金) 17:51:50.85 ID:HLuZepu50
―――――― 姫の背後に、一頭の『ドラゴン』が君臨していた。
ドラゴン「 ・・・ガパァ・・・ 」
恐ろしい程に牙を闇に光らせ、開かれた口からは多量の唾液がザブッと流れ落ちる。
おぞましいまでにその一頭のドラゴンは、ただただ『悪意』に満ちていた。
初めて勇者が叫ぶ。
勇者「逃げろ姫ぇぇえええええ!!」
286: 2012/06/15(金) 17:58:41.15 ID:HLuZepu50
勇者の絶叫に含まれた『何か』を感じた大魔導が、全身に震えが走った。
それは『ドラゴン』以外のそこにいた『四天王』全員が感じ取った。
彼らはその感覚の正体を知らない。
数百年前、彼らの先祖は今の『ドラゴン』と同じく初代ロトの前である事をした。
その結果、何が起きたのか?
それこそが答えであり、これから始まる事なのだ。
全てのモンスターが自身の遺伝子に刻み込む程の、『過ち』が起きる。
287: 2012/06/15(金) 18:09:54.98 ID:HLuZepu50
―――――― フワッ
華奢な姫の体が、ドラゴンの牙先に引っ掛かるように浮き上がった。
洞窟の闇の中で、姫の体が上空へ飛ばされる。
余りにも軽く、人形のように、糸が切れたマリオネットのように。
勇者「 ―――――― 」
勇者の漆黒の瞳に彼女がゆっくりと落下していく姿が映る。
勇者の体は、固まったように動かない。
288: 2012/06/15(金) 18:16:40.27 ID:HLuZepu50
ガパァッ!! と、ドラゴンが姫を飲み込もうと口を開く。
―――――― バクンッッ
異様な 音が 鳴った 。
それは 人が 飲み込まれた 音 だ 。
勇者「 ・・・ 」
だ れ が の ま れ た ? だ れ が こ ろ さ れ た ?
289: 2012/06/15(金) 18:19:45.18 ID:HLuZepu50
―――――― 『 勇者 』
―――――― 『疲れた、おんぶして』
290: 2012/06/15(金) 18:29:00.66 ID:HLuZepu50
ズバァアアアンッ!!!!
ドラゴン「 カッ? 」
―――――― ゴドンッッ!!
ドラゴンの首が根元から滑り落ちる。
巨大な頭蓋が地面に落下し、岩のように鈍い重低音が鳴り響く。
辺りには 金色の軌跡 がゆらりと漂っている。
291: 2012/06/15(金) 18:34:06.04 ID:HLuZepu50
姫「……ゆぅしゃ……」
「……迎えに来たよ、疲れたろ? 寝てくれ…姫」
『勇者』と呼ばれた青年は、静かに姫の瞼にゆっくりと指を乗せる。
そして「『ラリホー』」とだけ唱えると、王女は静かに眠った。
『勇者』と呼ばれた青年は、姫の体をしばらく抱き締めていた。
その姿には微塵の油断も感じられなかった。
292: 2012/06/15(金) 18:44:58.37 ID:HLuZepu50
大魔導達『四天王』は動けずにいた。
その彼らの姿は、一週間前に竜王と出会った時の勇者に酷似している。
然り、全く同じなのだ。
しかしそこには竜王以上の畏怖が存在していた。
―――――― 果たして、『勇者』とは髪が金色だったろうか?
―――――― 果たして『勇者』とは、視覚化出来る程の魔力を周囲に撒き散らせるだろうか?
―――――― 今まであの『勇者』が、凄まじい殺気を圧して来た事があっただろうか?
大魔導(………これが、先代魔王『ゾーマ』を倒した 【史上最強の化け物】 )
覚醒させたのは怒りか、悲しみか。
いずれにせよ、大魔導が竜王から勇者の話を聞いてから恐れていた事が現実となったのだ。
293: 2012/06/15(金) 18:52:48.78 ID:HLuZepu50
大魔導(竜王様を越える『ゾーマ』様を倒したロトの勇者………)
大魔導(……その力に覚醒した奴に、竜王様にすら及ばない我々が勝てると?)
大魔導は隣にいる『氏神の騎士』を見た。
カタカタッ・・・
鎧の中で、何かが震えている。
氏神の騎士が、怯えているのだ。
294: 2012/06/15(金) 18:57:59.98 ID:HLuZepu50
ダースドラゴン「ガァアアアアアッッ!! (我に続けぇぇ!!)」
ダースドラゴンが吠え叫んだ。
それは彼が誇り高い竜族である事の最後の証明でもあった。
―――――― ギュゥン!!
深紅の火炎弾がダースドラゴンの喉から撃ち出され、空気の壁を飲み込み貫く。
圧縮された爆炎は凄まじい破壊力を生み出した。
295: 2012/06/15(金) 19:10:48.04 ID:HLuZepu50
「…………」
ただ勇者は片腕を向け、その場から動こうともしない。
しかしその片腕には金色の魔力が集中されている。
―――――― ゴバァッッ!!
直撃。
その余波は周囲の地面に僅かに残っていた枯れ草が、全て燃え散った程である。
だが、唯一勇者の背後で横たわる姫は余波の風すら当たっていない。
296: 2012/06/15(金) 19:15:30.94 ID:HLuZepu50
「……」
チラリと、背後で横たわる姫を『勇者』は見る。
「………直ぐ戻るから、安心してくれな」
蒼くなった瞳で、『勇者』は大魔導達へ目を向ける。
それから静かに彼は呟いた。
「頃す」、と。
297: 2012/06/15(金) 19:20:15.04 ID:HLuZepu50
キースドラゴン「ギャオォォォッ!!」
ダースドラゴン「ガァァアアアッ!!」
豪ッ!! と二頭のドラゴンが瞬時に火炎弾を放つ。
渦を巻く業火灰迅は凄まじい物だった。
しかし――――――
―――――― バシュゥッッ!!
刹那に火炎弾が虚空へ消し去られ、洞窟に闇が突如戻った。
黄金の軌跡が走り抜ける。
298: 2012/06/15(金) 19:25:24.96 ID:HLuZepu50
氏神の騎士「シィィィッ!!」
迫り来る黄金の軌跡を迎撃すべく、神速の斬撃を放つ!!
―――――― ガシィ!
氏神の騎士「……!?」
勇 者 「…」
バリィンッ!!
掴み取った漆黒の『アックス』を刃ごと粉砕した。
299: 2012/06/15(金) 19:30:14.14 ID:HLuZepu50
―――――― カッッ!!
大魔導「おおおおおおお!!!!」
全身の魔力をフル活動させ、全力の『ベギラマ』を三連続で撃ち出す!
莫大な閃光の群が洞窟全体を震撼させ、『勇者』に最強の熱波を与える!!
勇 者 「 『デイン』 」
300: 2012/06/15(金) 19:35:08.88 ID:HLuZepu50
―――――― ゴォオオオオオオオオオオッッ!!!
剛雷が唸り、凄まじい雷撃が三連の『ベギラマ』を消失させる。
その黄金の輝きは巨大な重圧を大魔導に与えて来る。
今の呪文は、何なのか? と。
大魔導「………な……」
圧倒的。
まさに【史上最強】。
大魔導の眼前に、更に強大な青白い光が轟いていた。
301: 2012/06/15(金) 19:37:29.18 ID:HLuZepu50
勇 者 「 『ライデイン』 」
―――――― 洞窟内に音が鳴る前に、大魔導達は最後の光を見た。
302: 2012/06/15(金) 19:38:46.45 ID:HLuZepu50
あふぅ、あと三回か四回投下したら終わるみたいなの
おやすみなさい
おやすみなさい
313: 2012/06/18(月) 19:17:04.10 ID:cfspbLG/0
―――――― 君はきっと、目を開けた時には僕の事を忘れてしまう。
『悲しいとは思わない』
『寂しいとも思わない』
『怒ったりもしないよ』
『でも……君は怒って良いよ、泣いても良い、寂しいって……僕に叩いて来て良いから』
『全部、全部僕がいけないから……君をこんなにしてしまったのは僕が悪いから』
『ねぇ姫ちゃん、今までごめんね』
『もっと姫ちゃんのしたい事や、食べたい物、見たい物……』
『叶えてあげたら良かったよね』
『だから君は覚えてなくても、僕だけの約束だよ』
『……姫ちゃんの願いは全部叶えるし、病気やお化けからも僕が守ってあげる』
『 僕は、君だけの勇者でいるよ 』
314: 2012/06/18(月) 19:22:04.51 ID:cfspbLG/0
――― 『…ここ、どこ?』
――― 『お目覚めですか、姫様』
――― 『だぁれ? おとーさまはどこ?』
――― 『……姫様、失礼ですが…………あなたは何歳でしょう?』
――― 『えっと、昨日で四歳だよ!』
――― 『………そうでございましたか』
――― 『姫様、今日から貴女には教育係としてお友達が出来ますよ』
――― 『?』
315: 2012/06/18(月) 19:25:47.47 ID:cfspbLG/0
――― 『初めまして姫様、僕は勇者です』
――― 『ゆーしゃ? 何歳?』
――― 『七歳、姫様より3つ年上ですよ』
――― 『私よりお兄ちゃんなんだ!』
――― 『うん、…じゃなくて……はい!』
――― 『私は姫、宜しくね! 髪の毛が金色のお兄ちゃん!』
316: 2012/06/18(月) 19:28:19.07 ID:cfspbLG/0
【明日からの本編】
姫「…………」
「……」
姫「そこに、いるのは誰……?」
「……初めまして、姫様」
姫「…………」
「……」
姫「そこに、いるのは誰……?」
「……初めまして、姫様」
320: 2012/06/19(火) 18:01:46.17 ID:W937Xwdj0
主人「ちょ、ちょっとお客さん! その女の子どうしたんだい!?」
「……何でも、ない、 部屋を借りたい……」
主人「あんたもどうしたんだその髪……生まれつきなのかい?」
「…………悪い、が、何も…聞かないでくれ………」
主人「……わ、分かったよ」
「…………」ズル…ズル…
主人(な、なんなんだ? 体中血まみれだし、髪の毛なんかあんな真っ白に……)
主人(あの抱きかかえられていた女の子はどこかで見たような…?)
321: 2012/06/19(火) 18:07:10.60 ID:W937Xwdj0
「……ッ」ズキッ
(……着替え…よう、それからシャワーも浴びて……少し、寝ないと)
(………もう……10日寝て……な…………………い)
ドサッ
(……動け)
(……………こんな姿、見られる訳にはいかない)
(……)
322: 2012/06/19(火) 18:14:07.16 ID:W937Xwdj0
姫「……」パチッ
姫「…っ、あたまいたい……」
姫(って、どこだろう? どこかの建物?)
姫(……不思議、ついさっきまで体が冷たかった気がするのにあったかい)
姫(勇者もいるのかな)
姫「勇者? いるの?」
――― ズキッ!
姫「っ!? ……頭が…………」ズキズキ
323: 2012/06/19(火) 18:20:06.48 ID:W937Xwdj0
姫「~~っ!!」ズキズキ
姫(い、痛い……!!)
姫「ぅ……ぁ…勇者………」ズキズキ
ドサッ
姫「ぃっ……ぐ、ぁぁ…!」ズルズル
姫「ゆっ…………ゆうしゃぁ! ゆうしゃぁあ!!」
姫(痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!)ズキズキ ズキ
324: 2012/06/19(火) 18:23:53.72 ID:W937Xwdj0
「………っ!」ガバッ
「………………」
(姫……? いまのは、姫、なのか…?)
「姫……!」ズルズル
――― ズキッ!
「がッ……!? っ、体が……!」
(ま、まずい……体の限界を越えて痛みが今になって……)
「……ひ、め…」ズルズル
325: 2012/06/19(火) 18:34:00.30 ID:W937Xwdj0
姫(………ッ、ッ、ッ!!)ズキズキ
姫「………いた…ぃっっ!!」
姫「勇者っ……ぁ……ゆうしゃぁ! ゆーしゃぁぁ…」
――― ぎゅっ
「…………ひめ、だ……ぃじょ………ぶ……」
姫「…………」
「……………」
――― ドサッ
326: 2012/06/19(火) 18:38:27.69 ID:W937Xwdj0
――― 【こんな形であなた方と再会するとは】
――― 【お久しぶりですね、勇者様、そして……名も知らぬ少女よ】
――― 【目覚めなさい、私のかわいい勇者……そして少女】
ルビス「……こんにちは、お二人とも」
勇者「……!」
姫「?」
331: 2012/06/20(水) 16:46:22.68 ID:4ge3x80G0
姫「どうなってるの……って、勇者?」
勇者「姫! 俺が分かるのか」
ルビス「……勇者様、私が誰かは分かりますね?」
勇者「!……【精霊神ルビス】、だよな」
ルビス「覚えていてくれましたね、では何故私が再びあなた方を呼んだか分かりますか」
勇者「…さあな」
姫「えと……勇者、この人は誰?」
332: 2012/06/20(水) 16:52:57.32 ID:4ge3x80G0
ルビス「少女、貴女が『姫』ですね」
ルビス「私は【精霊神ルビス】、かつてロトの勇者と共にこの世界を守っていた精霊です」
姫「……あ、えっ?」
姫「知ってます! おとぎ話によく出て来た精霊ですよね!」
ルビス「……確か私は教会のシンボルにもなっていたのでは」
勇者「世間知らずなんだ、すまない」
姫「?」
333: 2012/06/20(水) 17:05:06.29 ID:4ge3x80G0
ルビス「こほんっ、……それでですね勇者様」
ルビス「今回あなたが使用した【メガザル】、あれが最後になってしまいました」
勇者「!!」
ルビス「もはや時間が無いという以前に、場合によってはあなた方2人が同時に氏ぬかもしれません」
勇者「どういう……事だ、今までそんな事は一度も!」
ルビス「……しかし事態は『竜王』の出現で最悪の一途を辿りつつあるのです」
ルビス「姫様? 貴女が『竜王』に『慈愛の心』を理解させたせいです」
姫「ぇ…」
334: 2012/06/20(水) 17:12:33.07 ID:4ge3x80G0
勇者「悪いがルビス、いくらアンタでも言い過ぎだ!!」バッ
ルビス「勇者様、私は今回限りなく怒りを感じているのです」
ルビス「特に勇者様はご自身の命をまるで薬草のように思い、そして平気で捨てている……」
ルビス「………もう一度言わせて貰います、姫様が何もしなければここまでの危機は迎えなかったのです」
姫「……私が悪い、の? 勇者、何を言ってるの」
勇者「何も姫は気にしなくていい、これは夢なんだ! 幻だ!!」
ルビス「……勇者様、もうごまかすのも隠すのもやめにしましょう」
335: 2012/06/20(水) 17:19:15.36 ID:4ge3x80G0
姫「…………」
ルビス「姫様、これから話す事は何もかもが真実です」
ルビス「……そして貴女は幾つか信じられない事もあるかもしれません、記憶に無いかもしれません」
ルビス「しかしこれは全てが、貴女への最後の『試練』なのです」
姫「……」
勇者「姫、耳を貸すな……!」
姫「……」
姫「話して、精霊さん」
勇者「……っ」
336: 2012/06/20(水) 17:24:00.26 ID:4ge3x80G0
ルビス「……」
ルビス「姫様の体は生まれた時より弱かったそうですね」
姫「? はい」
ルビス「そして本来ならばその年まで生きられるのは不可能とも誰もが言っていたのではありませんか」
勇者「……待てルビス、何を遠回しに言ってるんだ?」
337: 2012/06/20(水) 17:35:01.65 ID:4ge3x80G0
姫「……はい」
ルビス「そうでしょう、貴女は幼少の間に氏ぬ運命だと決まっていたのですから」
勇者「…は、」
ルビス「初代ロトの勇者が大魔王を討ち倒したその後、彼と私は大魔王が予言した事への対策を始めたのです」
ルビス「『ゾーマ亡き後、再びロトの勇者がいない世界に強大な魔王が再来する』……この予言を我々は恐れました」
ルビス「『大魔王ゾーマ』に匹敵する何者かが、ロトの勇者様が亡き時代に現れると言われてもどうしようも出来なかったのです」
勇者「………それが、姫の運命とどう関係がある?」
ルビス「姫様の運命は『偶然』なのです」
姫「勇者」
勇者「ッ……分かった、続きを頼む」
338: 2012/06/20(水) 17:46:43.97 ID:4ge3x80G0
ルビス「そこで……私と当時の勇者様、2人の魂と魔力を注いだ『光のオーブ』を予言の時まで保管する事にしたのです」
姫「光のオーブって……もしかして」
ルビス「竜王が貴女の目の前で手にした『光の玉』の事です」
勇者「目の前で? まさか竜王の城に保管してたのか」
姫「ううん、私の前で手を翳したら出て来たのよ」
勇者「そうか……ん? ……!!」
ルビス「今勇者様が考えた通りです、私達は『1人の人間に』オーブを保管する事にしたのですよ」
339: 2012/06/20(水) 17:57:20.60 ID:4ge3x80G0
ルビス「初めは大盗賊のカンダタ、彼は『光のオーブ』が放つ凄まじい魔力を生涯耐えきりました」
ルビス「そうして彼が亡くなると同時に、今度は『光のオーブ』は選んだ人間の中に移動する……」
ルビス「……常人ではとても『光のオーブ』の魔力を受け止めきれず、10年程で氏んでしまいました」
勇者「………今までに何人氏んだ……!」
ルビス「140人、でしょうね」
ルビス「…そして永き時を経て現在のオーブに選ばれたのが、姫様です」
姫「……」
341: 2012/06/20(水) 18:15:28.60 ID:4ge3x80G0
勇者「ふざけやがって!! アンタ達はおかしいんじゃないのか!?」
ルビス「しかし現に今まで無事にオーブは守られて来ましたが?」
勇者「当たり前だ!! 竜王が出るまで平和だったからだろうが!!」
勇者「ロトの勇者とルビスが込めた魔力? そんなもん……要らなかったじゃねえか奪われたじゃねえか意味がないじゃねえかッッ!!」
ルビス「意味が無い? 本当にそう思ってるならば聞かせて下さい、オーブが無ければ勇者様は生き返る事は出来ないのですよ」
ルビス「ならばどうやって姫様を助けに行きましたか、どうやってあの夜生き返るつもりでしたか」
ルビス「今のあなた方がここにいられるのはオーブの魔力が助けているからなのですよ?」
勇者「……」
ルビス「…しかし今となっては勇者様が正しいのですが」
342: 2012/06/20(水) 18:32:15.97 ID:4ge3x80G0
ルビス「話に戻ります、偶然オーブに選ばれた姫様は当然ながら幼い体では魔力の波動に耐えきれず『七歳』で氏ぬ運命でした」
ルビス「ですがそこで貴女は奇跡的な『偶然』に救われた……ロトの子孫である勇者様にね」
姫「……七歳? 勇者に救われたの?」
ルビス「貴女は何歳の時に勇者様と出会ったのですか」
姫「四歳の誕生日……次の日」
ルビス「……本当は貴女が生まれた時から勇者様と一緒にいたのですよ」
ルビス「しかし貴女は記憶を一時的に失うしかなかった、そうするしか勇者様は貴女に【メガザル】を使えなかったのです」
343: 2012/06/20(水) 18:39:14.30 ID:4ge3x80G0
姫「……勇者、メガザルってなに」
勇者「ルビス、ここからは俺が話していいか」
ルビス「包み隠さずお願いします」
勇者「姫は今ルビスが言った通り、七歳の時に一度『氏んだ』んだ……」
姫「…でも生きてるよ」
勇者「生き返らせた……俺の命と姫の『思い出』を代償にしたんだ」
姫「思い出って、勇者との?」
勇者「………あの頃は俺としか過ごしてなかったから、まるで俺との記憶だけ忘れたように感じてるんだ」
344: 2012/06/20(水) 18:47:30.98 ID:4ge3x80G0
勇者「……俺、本当は元々金髪だったんだよ? 覚えてるか」
姫「……ううん」
勇者「金髪だったんだ、でもそこからまた7年して姫が倒れた」
姫「うん」
勇者「二度目の『発作』だったから、姫が氏ぬより先に俺がメガザルを使ったんだ……それでまた一時的に姫の体は元に回復した」
姫「勇者」
勇者「……なんだ」
姫「その時も、そのメガザルで氏んだの? 私を治すために?」
勇者「………あぁ」
姫「わかった、続きを聞かせて」
勇者「……? わかった」
345: 2012/06/20(水) 19:10:05.87 ID:4ge3x80G0
ルビス「ちなみにその当時は勇者様の魔力が充分だったので『思い出』を代償にせずに済んだのですよ」
勇者「ああ、そうだったな」
勇者「……それからまた半年位して、覚えてるか姫」
姫「? 半年…………あ」
勇者「姫が突然倒れた時、その時もメガザルを使った」
ルビス「私は止めました」
姫「…私を……起こすために? 直ぐ目を覚ましたかもしれないのに?」
勇者「ああ」
姫「……えへへ」
勇者「えっ?」
姫「私が変なのかな……深刻な話なのに、なんだか嬉しくて」
ルビス(……この2人は何故いままで結婚してないのでしょうね)
350: 2012/06/22(金) 17:38:17.98 ID:Uf1POa/L0
勇者「嬉しいって……何度も氏にかけてたんだぞ?」
姫「勇者は何度も氏んでるんでしょ?」
勇者「そうだけど、それは……」
姫「どうしてそんなに私を助けてくれるの?」
勇者「どうしてって、…………」
姫「……だから嬉しいの、言葉で伝えられない位の理由があるから私を助けてくれるから」
勇者「……」
ルビス「どうやら姫様にとってはそこまで思い悩む事ではないみたいですね」
勇者「……俺の12年間って一体……」
351: 2012/06/22(金) 18:20:04.44 ID:Uf1POa/L0
姫「試練って言うから、凄く緊張したんだからね!」
勇者「姫は強いな……負けたよ」
ルビス「…」
ルビス(あのスライムについて、勇者様が話す気がないならば私は黙っていましょう)
勇者「ルビス、俺が話したい事はもうこれでいい」
ルビス「では本題に入らせて頂きます」
352: 2012/06/22(金) 18:34:37.78 ID:Uf1POa/L0
ルビス「先程お話した通り、あなた方2人は現在とても危険な状態なのです」
勇者「っ、何故だ? 『あのメガザルが最後』っていうのはてっきり魔力が不充分だからとかだろ」
ルビス「その通りですが、もっと深刻なのです」
ルビス「竜王がついに勇者様が姫様を助け出したのを知り、『光のオーブ』を『ブラックオーブ』に変えようとしているのです」
勇者「ブラックオーブ?」
ルビス「魔界の『暗黒神』達をこの世界に呼び込めるオーブ、今は魔王の素質を持つ竜王にだけ作れる物ですね」
勇者「……まさか『光のオーブ』が闇に染められたせいで?」
ルビス「はい、勇者様と私、そして『メガザル』の魔力で生命力を得ている姫様の全員にオーブの魔力が供給されなくなっているのです」
353: 2012/06/22(金) 18:48:45.94 ID:Uf1POa/L0
姫「全員? ルビスさんや勇者も魔力が無いと駄目なの?」
勇者「………俺と姫の場合はまだ『メガザル』を使用して7日すら経ってないからだ」
勇者「『メガザル』は発動者の命を代償にして人数を問わず発動者の望む人間を蘇らせる、けど……」
ルビス「勇者様は直前の戦闘で魔力を消耗していたのに続けて発動したので……」
ルビス「ただでさえオーブからの魔力供給が止まった中『勇者様の復活』と『姫様の蘇生』を同時にこなし、私を実体化させる魔力すら消耗してしまったのです」
姫「…え、じゃぁ……私達は7日経たないと蘇生と復活が完了しないの?」
ルビス「ええ、しかし後3日の猶予無く魔力が無くなります」
354: 2012/06/22(金) 18:56:07.83 ID:Uf1POa/L0
勇者「何か手はないのか、ここまで遠回しに言ったからにはあるんだろ?」
ルビス「……それが姫様にとっての試練なのです」
姫「?」
ルビス「方法は唯一つ、あなた方2人の全ての『思い出』を代償に魔力を生み出すしかないのですよ……」
姫「……2人の思い出を」
勇者「代償に……だと!?」
355: 2012/06/22(金) 19:05:20.68 ID:Uf1POa/L0
勇者「待てよッ!! 俺1人で充分だろ!? 姫まで記憶を失う必要は……」
ルビス「残念ですが、私はあなた方2人の記憶を魔力に代えても実体化は出来ず、勇者様と姫様2人しか救えないのです」
姫「ルビスさん…消えちゃうじゃない」
ルビス「えぇ、私は再びオーブに光が戻るまで眠りにつく事になります」
勇者「……他に方法は無いのか!? 記憶はどこまで消える!?」
ルビス「あなた方の場合は……互いの過ごして来た思い出を全て失うかもしれません」
ルビス「…それでも勇者様には『竜王は倒すべき存在』として記憶に残るので、世界は救えます」
勇者「………!!」
姫「……」
姫(……勇者との思い出が、三年分とかじゃなくて、全部…消える?………)
356: 2012/06/22(金) 19:14:04.29 ID:Uf1POa/L0
姫「……やだ、勇者との思い出を全部失うなんてやだよ」
勇者「俺もだ……っ!! 3日も猶予があるんならその間に竜王を倒せばいい!!」
ルビス「不可能です、魔力が尽き……果てには髪の色すら白になる程『現実』のあなたは衰弱しています」
勇者「2日寝れば、少しは……っ」
ルビス「それでも竜王に満身創痍のあなたは勝てるのですか?」
勇者「勝てる! 勝つしかないだろ!?」
ルビス「……勇者様は理解している筈、『勇者の儀』を済ませたあなたを一度頃した竜王の強さを」
勇者「………ッ!!」
357: 2012/06/22(金) 19:17:55.71 ID:Uf1POa/L0
ルビス「他に方法はありません、仮にどちらか一方が生き残っていても……八方塞がりです」
姫「勇者だけを生き返らせても?」
勇者「駄目だ!!」
姫「でも私だって勇者や世界のために……!」
ルビス「姫様、勇者様の言うとおりそれをすると勇者様は竜王と戦う事すら出来ませんので」
姫「そんな……」
ルビス(……本当に、特殊な性質の勇者ですからね)
358: 2012/06/22(金) 19:22:38.81 ID:Uf1POa/L0
――― 「……2人に少しだけ時間をあげます」
――― 「その間に覚悟が出来ましたら、私を呼んで下さい」
姫「…………」
勇者「………」
359: 2012/06/22(金) 19:28:35.98 ID:Uf1POa/L0
姫「……あはは」
勇者「……」
姫「勇者、なんか疲れちゃったよ」
勇者「……ああ」
姫「……おんぶ、じゃなくて良いから……」ポロポロ
姫「最後の思い出に……抱っことか、抱き締めてほしいな………」ポロポロ
勇者「……」ぎゅっ
姫「……っ」ポロポロ
360: 2012/06/22(金) 19:33:15.07 ID:Uf1POa/L0
姫「こんなに好きなのに……っ」ポロポロ
姫「こんなにっ…っ、近くにいるのにっ」ポロポロ
勇者「……」なでなで
姫「わ、わすれたくないよっ……やっと勇者の気持ちも理解できて、勇者にどれだけ助けられたのかも知れてっ」
姫「……っ、私の病気の原因もわかって悪い奴の企みもわかってこれから出来る事もわかって……!」
姫「やっと勇者に何が出来るかなって、考えられると思ったのに……!」ポロポロ
勇者「………」なでなで
361: 2012/06/22(金) 19:38:17.29 ID:Uf1POa/L0
勇者「……姫」
姫「……っ、…ひっく」ポロポロ
勇者「今から言う事は、絶対に『勇者の言葉』だと思ったらダメだ」
姫「……?」スッ
勇者「『勇者の家にある本棚の右から三番目の本の表紙を読む』」
姫「…なに、それ」
勇者「記憶しようとしたらダメ、俺の言葉だとも思うな」
勇者「……多分これが俺達の最後の賭けで、最後の『試練』なんだ……」
姫「…………わかった」
362: 2012/06/22(金) 19:41:36.52 ID:Uf1POa/L0
ルビス「……もう、本当に良いのですね?」
勇者「ああ」
姫「……」ぎゅ
ルビス「………」
ルビス「私はもうこれが人間と会える最後の時なのです、姫様にお聞きさせて下さい」
姫「…?」
ルビス「私が出て来たというおとぎ話……どんなお話でしたか?」
363: 2012/06/22(金) 19:46:11.35 ID:Uf1POa/L0
姫「もう長い間読んでないけど、確か……『囚われの身である精霊ルビスを、人間の男の子が助ける』お話だよ」
ルビス「……そうですか」
ルビス「作者は……覚えていますか」
姫「うーん、わかんないや……確か『アルス』とか『アベル』とか……そんな感じだったよ」
ルビス「…!」
勇者「……」
勇者「満足か、ルビス」
ルビス「………ぇぇ」くすっ
364: 2012/06/22(金) 19:52:50.01 ID:Uf1POa/L0
―――――― 君(あなた)はきっと、目を開けた時には俺(私)の事を忘れてしまう。
『俺は……悲しいとは思わないよ』
『私も……寂しいとも思わない』
『俺(私)は……怒ったりもしないよ』
『でも……君(あなた)は怒って良いよ、泣いても良い、寂しいって……俺(私)に寄り添って良いから』
『君(あなた)がいたから、今の私(俺)がいる』
『姫(勇者)、今までごめん……』
『もっとしたい事や、食べたい物、見たい物……』
『一緒に叶えられたら良かったよね』
『だから君(あなた)は覚えてなくても、俺(私)だけの約束だよ』
『……勇者(姫)の願いは全部叶えるし、病気やお化けからも俺(私)が守ってあげる』
『 私(俺)は、君(あなた)だけの勇者でいるよ 』
365: 2012/06/22(金) 19:55:33.03 ID:Uf1POa/L0
姫「…………」
「……」
姫「そこに、いるのは誰……?」
「……初めまして、姫様」
366: 2012/06/22(金) 20:03:39.27 ID:Uf1POa/L0
姫「……」
勇者「お見苦しい姿をお許し下さい、俺は勇者って言います」
姫「…その姿はどうしたのです、髪まで白く……」
勇者「竜王に捕まっていた姫様を助けるため、洞窟のドラゴンと戦った時に魔力を使い切ってしまったようです」
姫「……何故、私のために?」
勇者「あなたはラダトームの大切な王女だからです」
姫「……そうですか」
367: 2012/06/22(金) 20:06:14.75 ID:Uf1POa/L0
メイド「!! お帰りなさい勇者さん!」
勇者「…? 誰かは知らないがありがとう」スタッ
姫「これがキメラの翼ですか……凄いですね」
メイド「……え?」
368: 2012/06/22(金) 20:09:03.65 ID:Uf1POa/L0
メイド「勇者さん、その髪……ていうか今私を知らないみたいに……」
勇者「…?」
メイド「姫様も! なんで勇者さんともっとイチャイチャしてないんですか!」
姫「……だ、誰ですか?」
メイド「……は? 2人とも変ですよ!」
369: 2012/06/22(金) 20:14:13.33 ID:Uf1POa/L0
兵士「……お?」
兵士「勇者!? それに姫様!!」
兵長「おぉ! 姫様をついに助け出したのか勇者! 直ぐに伯爵の奴に姫様の事を伝えなきゃな!!」
兵士「俺は城中に言って来ます!!」
勇者「今夜はパーティーだなきっと」
メイド(……??)
姫「………」
姫(『伯爵』…)
370: 2012/06/22(金) 20:16:20.13 ID:Uf1POa/L0
姫(『パーティー』……)
姫(『伯爵』『パーティー』……?)
姫(あれ、私はどうして竜王に捕まったのだろう?)
姫(どうして竜王は私を妻にしようとしたんだっけ……?)
勇者「姫様」
姫「ひゃっ!?」びくっ
371: 2012/06/22(金) 20:20:06.96 ID:Uf1POa/L0
勇者「俺は今度の戦いでボロボロになった服を着替えに帰りますので、これで失礼します」
姫「えぇ、なんとお詫びをしたら良いか……」
勇者「礼なんて要りませんよ、勇者として当たり前の事をしたんだから」
メイド(……やっぱりおかしい? でも姫様はどこか…)
勇者「ではこれで……」スッ
姫「はい……」ぺこり
372: 2012/06/22(金) 20:21:44.36 ID:Uf1POa/L0
―――――― 【 行かせちゃダメ! 】 ――――――
姫「!」
ガシッ
勇者「!?」
373: 2012/06/22(金) 20:35:00.42 ID:Uf1POa/L0
勇者「……姫様?」
姫「ぇ? ぁ……そのっ」
姫「……」
姫「私も……勇者様のご自宅にまでご一緒して良いですか…」
勇者「あ、あぁ……構わないですよ」
姫(……)
メイド「……?」
387: 2012/06/25(月) 17:00:41.51 ID:mrFTtbuC0
勇者「かなり散らかってるけど、入って」
姫「ありがとう」スッ
姫「……本が沢山あるんですね」
勇者「まあね」
姫「………」そわそわ
勇者「どうかしました?」
姫「いえ、ぁ……何でもないです」
388: 2012/06/25(月) 17:05:39.64 ID:mrFTtbuC0
姫(……なんで、かな)
姫(……)キョロキョロ
勇者「? 今飲み物持ってくるよ」
姫「はい」
姫(………当たり前なのに、『初めて』勇者様の家に来た気がする)
姫(それに、何だか……『本』が気になってしょうがない感じがする)
389: 2012/06/25(月) 17:13:04.00 ID:mrFTtbuC0
姫「……でも、凄い量の本…」
姫「あっ」とんっ
バサッ
姫(どうしよう、勇者様の大切な資料だったら……もどさなきゃ)ガサガサ
姫「……?」
姫(なに? これ……)ガサッ
390: 2012/06/25(月) 17:14:42.65 ID:mrFTtbuC0
●ラダトーム王女、姫の体質
○男性恐怖症
○低血圧
○貧血?
○足に若干の障害有り(強く踏み込む事が出来ない)
○極度の不眠症(近くに人がいれば眠れるのを12歳の時に確認)
○今までの16年間で三度に渡って意識不明の昏睡状態になる(原因は不明・呪いの可能性有り)
○風邪を引くと咳が止まらない為、吐血する(キアリーで対処可能なのが幼少期に確認)
391: 2012/06/25(月) 17:18:09.73 ID:mrFTtbuC0
姫「……男性、恐怖症…?」
姫「不眠症……? 足に障害?」
姫(…………)
姫(え? ぇ……)
姫(なんで勇者様が私の体質を知ってるの、それに……)
姫「男性恐怖症の私が、どうして勇者様と普通に話せたの……?」
392: 2012/06/25(月) 17:29:21.35 ID:mrFTtbuC0
姫(……おかしい)
姫(絶対おかしい、私はあの宿でついさっき勇者様と会ったはずなのに!)
―――――― 【本棚の右から……番目の本を…………】
姫「っ! ひゃぁっ!?」びくっ
姫(……な、なに今の……勝手に私の口が……!!)
393: 2012/06/25(月) 17:38:27.33 ID:mrFTtbuC0
勇者「どうした、何かあったのか!」バッ
姫「い、いえっ……」
勇者「? あー……紙束落としちゃったのか」ガサガサ
勇者「怪我はないですか? 疲れてるなら少しそこで横になると良いですよ」
姫「ううん、平気」にこっ
勇者「良かった」にこっ
勇者「…」ハッ
姫「っ…」ハッ
勇者「……と、とりあえず飲み物を~」スタスタ
姫「わ、私もお言葉に甘えて休ませて貰います……///」カアア
394: 2012/06/25(月) 17:42:24.82 ID:mrFTtbuC0
姫「…………」
姫(…………)
姫(私、もしかして勇者様の何かを知っていて……向こうも知ってる?)
姫(今の自然な動作と会話、間違いないよね)
姫(うん? でもなんで覚えてな
―――――― 【本棚の……勇者の…………】
姫「……っ」バッ
姫(また? あれ……)
395: 2012/06/25(月) 17:49:02.72 ID:mrFTtbuC0
姫「………っ」ぱくぱく
姫(……唇の力を抜くと勝手に動いてる)
姫(………)
―――――― 【勇者の家にある本棚の右から三番目にある本の表紙を読む】
姫(!!)
姫「本棚って……これ?」ゴトッ
姫(なんで私が知ってるかはともかく……右から三番目? 何段目の?)
396: 2012/06/25(月) 17:54:36.06 ID:mrFTtbuC0
姫「……『錬金釜とは』…?」
姫「……」キョロキョロ
姫(…何を期待してるんだろ、私)
ゴトッ
姫「えっと……『悟りの書』?」
姫(……次、かな)
397: 2012/06/25(月) 18:02:02.16 ID:mrFTtbuC0
勇者「何してるんです?」
姫「ふぇっ!?」ビクゥッ
勇者「本を読みたいなら左から五番目がオススメですよ、描写が凄く細かいんです」
姫「へぇ……」
姫「……?」
姫「あの、『何段目の』ですか?」
398: 2012/06/25(月) 18:08:28.53 ID:mrFTtbuC0
―――― 『ああ! 上から二段目ですよ』
―――― 『俺の目線に合ってるんで、よく手に取る本は上から二段目に入れてるんですよ』
―――― 『ところで、何か食べます? パーティー前だからおやつ程度なら出すよ』
姫「……上から二段目の右から三番目……」
スッ・・・
姫「…………」
姫(……な、なんでドキドキするんだろ……凄く、何か変……)
姫(……)スッ
399: 2012/06/25(月) 18:13:03.93 ID:mrFTtbuC0
姫「………… 『 ぼうけんのしょ 』 ………?」
姫(元は日記帳かな、表紙の字は子供が書いたみたいな……)
パカッ
姫「って、あれ……中身は真っ白?」
―――― パラパラパラパラ・・・
姫「……何も書かれてない」パラパラ
姫「………」パラパラパラパラ
姫「………」パラパラパラパラパラパラ
姫「ぇ、・・・」パラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラ
400: 2012/06/25(月) 18:16:55.47 ID:mrFTtbuC0
姫「何これ、ページがなくならない!?」
姫(……見た目はそこまで分厚くないのに、もしかして何か魔法でもかかってるのかな)
―――――― パラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラ・・・
姫「……」パラパラパラパラ
―――――― パラパラパラパラパラパラパラパラパラパラ・・・………ピタッ
姫「!」
姫「あ、あれ……なんで止まったの? ……ページがめくれない?」ググッ
姫(……よく見ると何か書いてある)
401: 2012/06/25(月) 18:19:20.17 ID:mrFTtbuC0
―――――― さいしょから
姫(?)
―――――― さいしょから はじめますか ?
姫「『始める』って……なにを?」
402: 2012/06/25(月) 18:21:36.93 ID:mrFTtbuC0
―――――― ゴゥンッ!! ゴゥンッ!!
姫「な、なに!? 『鐘』?!」
カッッ!!
姫(本が光っ……)
―――――― ゴゥンッ!! ゴゥンッ!!
403: 2012/06/25(月) 18:28:52.56 ID:mrFTtbuC0
―――――― ・・・
あの日……僕にたった1人の家族が出来た。
昔、初代ロトの勇者は自身の宿命を知った時から『冒険の書』という日記をつけたらしい。
その日記は元はただの日記帳だったが、ロトの勇者が書き続けその人生を物語として描いた事で、魔法の力を持っていた。
僕はそれと同じように、この日記帳に魔法の力が宿る位にこれからの『冒険』をここに書き記したい。
僕は彼女だけの勇者だと、ここにその証を残す。
―――――― ・・・
404: 2012/06/25(月) 18:32:55.99 ID:mrFTtbuC0
姫(……今の、勇者様の声?)
姫(何が起きてるの? 何も見えない、真っ暗……)
―――――― 初めて『姫』と会ったのは、彼女が生まれた時からだった。
姫(………視界が明るくなってく)
―――――― まだ3歳である僕は『見習い教育係』として、僕の父親に姫と一緒に教育された。
405: 2012/06/25(月) 18:38:33.80 ID:mrFTtbuC0
幼勇者『おとうさん、ひめちゃんがかみのけひっぱるよー!』
幼姫『ー♪』ぐいぐい
父勇者『男は女の子の為に痛い思いするもんさ、我慢だ我慢!』
僕が五歳にもなると、二歳になり遊びたい盛りの姫と遊ばされた。
お父さんには、よく『女の子には優しく、痛いのは我慢しろ』と言われていた。
姫(……………)
406: 2012/06/25(月) 18:43:33.34 ID:mrFTtbuC0
勇者母『勇者? 姫ちゃんに薬飲ませてあげて』
幼勇者『なんでー?』
勇者母『姫ちゃん具合悪いのに、どうしてもお薬飲まないのよぅ』
幼姫『だってにがいんだもん……やだぁ』
幼勇者『でも姫ちゃん飲まないとつらくなるよ』
幼姫『うぅー』
幼勇者『僕が背中さすってあげるから、飲もう?』
幼姫『………うん』
407: 2012/06/25(月) 18:49:04.05 ID:mrFTtbuC0
父勇者『勇者、今日はキアリーの呪文をお前に教えるからな』
幼勇者『姫ちゃんは?』
幼姫『わたしもやるー!』
父勇者『こ、こらこら……姫様は魔力がまだ未熟なんだよ』
幼姫『やーだー!! ゆーしゃといっしょじゃなきゃやだー!!』
父勇者『……やれやれ、モテる男はつらいな? 勇者』ニヤニヤ
今思えば、僕が8歳の時のお父さんはニヤニヤする事が多くなっていた気がする。
408: 2012/06/25(月) 19:02:03.91 ID:mrFTtbuC0
姫(……これ、ひょっとして私と勇者様の幼い時?)
姫(でもこんなの全く記憶にないけど……)
僕が九歳になった時、つまり去年の夏だ。
同じ年の使用人の男の子達が、小さな猫を城の庭でいじめているのを見つけた。
姫はとても怒ったが、男の子達は猫を人質にして逆に僕達に条件を出した。
あの時、僕が彼等を蹴散らしていたら『スラリン』と会えなかった気がする。
スラリンとは、僕達が男の子達に条件として『森に肝試しに行ってくる』のを出された時に森で会ったスライムだ。
スラリン『ぴきーっ!』
姫(……!)
409: 2012/06/25(月) 19:09:29.84 ID:mrFTtbuC0



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