1: ◆myeDGGRPNQ 2009/07/18(土) 15:03:01.59ID:5M1ozcGO0
 ――私はいつだって馬鹿にされてきた

 一生懸命頑張っても 結局最後は破綻した

 どんなに考えても 結局最後には何もない

 これだけ努力しても叶わないのなら もう いい

 さあ 覚悟しろ健常者

 これは 私たちの 挑戦であり――

 ――復讐だ
映画「けいおん!」【TBSオンデマンド】
6: 2009/07/18(土) 15:08:16.24ID:5M1ozcGO0?2BP(2000)
「おねえちゃーん、そろそろ起きないとー」

 朝、現在の時刻は7時。
 今日も変わらず、妹は私の部屋に侵入する。
 ノックもできないのだろうか。周りはよくできた妹というが、姉のプライバシーも
守れないのでは、人として失格だろう。
 だが、それを口にすることはない。私という存在を、皆に容認してもらうために
ここはいつもの平沢唯でなくてはならないのだ。
「ういー、朝ごはんー」
「はいはい。リビングにパンがあるから、それ食べてね」
 朝食はウナギにしてほしい。もしくはアイスだ。パンなんて庶民じみたもの、私
の胃袋が拒絶することも、この無能な妹は気がつかない。

「ギー太も、なに嗤ってんのさ――」

 ベッドの脇に置いてある私のギター。
 それも、私を嘲笑っている気がする。

7: 2009/07/18(土) 15:14:17.68ID:5M1ozcGO0?2BP(2000)
 通学路は、至って平凡だ。
 なにか変ったことなんて起きない、そんな道を漠然と歩く。背負った
ギターが重い。こんなことならば、もっと軽いギターにするべきだったと
今更ながら後悔する。平沢唯という人間を皆に認識させるには、こうい
ったアイテムのチョイスすら気を使う。
「あら唯ちゃん、おはよう」
 この時間、いつも犬の散歩をしているおばあさんにあいさつをされる。
こういう挨拶という儀式すら、私を形作るのには重要だ。挨拶をしないの
なら、それは平沢唯ではなく、コミュニケーションに障害を持つ者だから
だ。
 ……それはまるで、澪ちゃんみたいだ。
 心の中でくすりと笑う。あの黒髪の少女は初対面の人間に対して異常な
までの警戒を抱く。
 それはまるで、私以上に障害を持っているようにも見えて滑稽だ。
「おはよー。おばあちゃんもポチも元気ー?」
 心で思うコトを口に出せるなんて、平沢唯はできはしない。
 これからも、私は平沢唯を、知的障害者を装って生きていくのだから。

8: 2009/07/18(土) 15:22:30.17ID:5M1ozcGO0?2BP(2000)
「おっす、唯」
 教室に入ると、クラスメイトの田井中律が挨拶をしてきた。
 軽音部のドラム担当にして部長の彼女は、いつも元気で男っぽいのだ
が、ある条件が加わると、一気に普通の女の子に変身する。
「おはよーりっちゃん! 今日もおでこが可愛いねー」
「へっへー! でもな、前髪を下ろすと――」
 律がカチューシャを取り、前髪を下ろす。
 茶色がかった髪が彼女の顔を覆い――
「ほれ、貞子!」
「あらあらあらあらあらあら」
 いつの間にかこの場にいた琴吹紬が律の姿に感嘆する。
 おっとりしてはいるが、それは彼女の家系、つまるところ『財力』という
圧倒的権力による余裕なのだ。金さえなければ、このような女には何も
ない。
「貞子だ! 澪ちゃんにも見せてあげなきゃ!」
「!?」
 一瞬、律の体が強張った。
 それは偏に、ある人物の名前を出したからだ。秋山澪の名前は、彼女
を一変させる一つのキーワードともいえる。
「い、いいって! アイツには部活の時で――」
「りっちゃん、その時には梓ちゃんにも見せてあげましょう」
「そうだな!」
 やはり、彼女にとって秋山澪は絶対だ。

 ――日本人ではない彼女に、田井中律という存在は掌握されているのだ。

9: 2009/07/18(土) 15:30:02.45ID:5M1ozcGO0?2BP(2000)
 ――その日の放課後。

「それでねー、セバスチャン(ブルデー)が臭くってさー」
「それは分かるな、セバスチャン(ブエミ)の匂いは半端じゃないからな」
「確かにそうだな! セバスチャン(ベッテル)はどうしてあんな臭いんだろ」
「まあまあまあまあ皆さん、セバスチャン(ローブ)の匂いは置いといてお茶に
しましょ」
「お茶よりもセバスチャン(ミカエルリス)よりも、練習しましょうよ!」

 取り留めない、音楽室での会話。
 それですら、私にとっては嫌悪感以外はない。彼女たちの低俗すぎる会話
に付いていくのは心身ともに疲労する。
 無論、練習もしたくなんてない。中野梓という、私よりも低レベルな才能と実
力の塊のために機嫌を取って、下手なふりをして彼女の下らない自尊心を保
つなんて、冗談でも笑えない。
 それでも、私は平沢唯であるために今のポジションでなくてはならない。

 私の頭。
 私の顔。
 私の腕。
 私の胸。
 私の脚。
 私の体。

 それらが、平沢唯である以上。
 今の私のたち振る舞いは、変えられないのだ。

11: 2009/07/18(土) 15:37:45.49ID:5M1ozcGO0?2BP(2000)
 それでも、私は変わりたいとひそかに思っている。
 馬鹿げた真似はやめて、私を馬鹿にしているこいつらを見返してやりたい。
 そうすれば、きっとこいつらは私を見直す。今のような待遇なんて、絶対に
在り得ない。
 平沢唯が平沢唯である限り、私が平沢唯でいなければならない。
 そんなコトは、きっとないのに。
 私は私。
 
 どんな私も平沢唯で――

 どんな平沢唯も私の筈だ。

 なのに、どうして私は今のまま変わろうとしないのだろう。
 
 それが分からない。

 自分は、自分だというのに。

 変わる機会を、自らで逃して、正当化する。

 それが、何よりも愚だというコトは分かっているのに。

「どうした、唯。また呆として、ムギのケーキが足りないのかー?」
「う、うん。そうみたい。私、馬鹿だから……」
「はは、そうだな。律、ムギ、梓。休憩しよう」

 こんな低俗なコトをしているのだろう。

12: 2009/07/18(土) 15:44:00.23ID:5M1ozcGO0?2BP(2000)
「じゃあ、今日の練習は終了! 澪は私と帰るように。帰らないと氏ぬ。溶けて氏ぬ」
「なんでさ!?」
「りっちゃんたら……」
 練習は終了し、これからは個人の時間だ。
 律は恋人である澪と共に帰宅し、紬はファストフードのアルバイトだ。皆、個人の時
間を自分たちで楽しんでいる。
 だが、私は楽しめない。
 学校から出ても、今度は妹の前で平沢唯を演じなければならないからだ。否、たとえ
帰宅する道であっても通行人に平沢唯を演じる必要がある。
 それが、どうしても厭だ。本当の自分を隠して、阿呆を演じる必要性が全く分からない。
 そう思うと、吐き気がした――
「ゆ、唯先輩! 大丈夫ですか?」
 靴箱の前で、私は吐き気に耐えられなかった。
 吐き気という、想定外のファクターが、私を少しだけ解放し――

「大丈夫だよ、あずにゃん。
 ――あのさ、今日あずにゃんは暇?」

 なんてことを、言ってしまった。

13: 2009/07/18(土) 15:50:03.18ID:5M1ozcGO0?2BP(2000)
 中野梓は、私(ひらさわゆい)を信頼している。

 口でなにを言っていても、彼女が心底信頼しているのは私だということ
に気が付いていたからだ。
 ……それならば、したくもないスキンシップも意味があったともいえる。
「先輩、ここは……」
「――」
 暗い路地裏。
 栄えた繁華街の裏。
 物事は表裏一体。決して切り離せない。
「こんなところで、なにを――」
「かんたんなコトだよ あずにゃん」
 ――ああ。
 いつもの平沢唯ではない。
 本来の私を、ここで解放できる。
 それが、なんて心地いいのか――

「――――――――――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――――――――――あ」

14: 2009/07/18(土) 16:02:04.43ID:5M1ozcGO0?2BP(2000)
 まずは、ギターで頭部を殴りぬける。
 それだけで、16歳の少女の意識を狩り取れた。
 転倒の際、頭部を強くアスファルトの地面に叩きつけたことでさらにダメージ。
 こめかみからは暗闇でも分かるくらいに紅い。綺麗な真紅がテラテラと光。
 まるで、宝石。
 その鮮やかな朱は私の心臓を跳ね上がらせ、鞄から鋏を取りださせる。普段
使っていないため、切れ味は悪いが鈍な鋏で少女を切りつけるのも気持ちがいい。
 服を脱がすことはない。服とは人類にとって最もポピュラーな装飾品。それを剥ぐ
ことは彼女の美しさを殺ぐことになる。
 ……思わず、笑みが零れた。
 完璧ともいえる頭部へのダメージは、同時に彼女の痛覚を完全に奪い去った。
 それ故に、彼女は腹を切り裂かれても声もあげない。
 ――人形遊びにも似た。解体。
 赤い血と、ピンク色の臓器が顔をのぞかせる度に歓喜に満ちる。
 ねずみ色の鋏はとうに赤くなり、さらに切れ味を悪くさせる。
 それでもいい――ああ。それでも、いい。
 腸(はらわた)が引きずり出された、伽藍洞の腹。見ているだけでも
性欲が爆発しそうになる。幼い少女の、中身のない氏体。それがこんなにも
綺麗なモノだなんて。
「あ――、――はは。……はぁ……あ」
 疲労はしたが、嫌悪はない。
 中野梓は、氏んだことにも気付かない。
 せめてギターを持っていって、天国で演奏していてくれ。

 ――放課後ティータイムの、宣伝でもしていてくれ。

15: 2009/07/18(土) 16:13:34.73ID:5M1ozcGO0?2BP(2000)
 ――中野梓は氏んだ。
 この状態に於いて、生きていられる筈なんてなく。心臓は鼓動を止めた。
「ふう……」
 しかし、こうして冷静になると問題が浮かんだ。
 ……逮捕されるのは、厭だ。
 警察に追われるのは絶対に嫌だ。とりあえず、凶器の鋏の指紋は拭き取った
がこと殺人事件。さらにいえばこれだけ残酷な殺人に関して、警察は本気になる。
今の日本は、なんの後ろ盾がない人間は逃げることなんてできはしない。
「でも、私には――」
 携帯電話を取り出し、ある人間へメールを送る。内容は空メールで、送ってすぐに
『間違えましたー』と送る。
 それだけでいい。
 それだけで、私の罪は消えてくれる。

 
 ――その翌日。桜高軽音部部員殺人事件の犯人である『池沼たかし』が逮捕された。

18: 2009/07/18(土) 16:34:52.64ID:5M1ozcGO0?2BP(2000)
5時には帰ってくる。
需要がないなら落ちるかもしれない。

23: 2009/07/18(土) 17:17:47.90ID:5M1ozcGO0?2BP(2000)
 ――ニュースの内容なんて、大して聞いていなかった。
 当然だ。私が仕組んだのだから、こんな真実のない報道を大人しく聞く方がおかしい。
「うそ……でしょ……梓ちゃん…………」
 憂に表情がなくなる。これも当然だ。昨日まで同じ教室で勉強していた友人が、翌日
には氏人として扱われているのだから。
 朝食どころではない。憂は泣き崩れ、学校に行かないとばかりに部屋へと向かった。

 ――なら、私もそうしよう。
 今、憂の傍にいてあげられるのはきっと、私しかいないと思うから。

24: 2009/07/18(土) 17:31:31.09ID:5M1ozcGO0?2BP(2000)
「憂……?」
「――お姉ちゃん……どうして……梓ちゃんが……!」
 部屋に入ると、憂は私に抱きつき泣いた。
 その顔は私が今まで見たことがないくらいにぐしゃぐしゃで、いつもの
しっかり者の憂はそこにはいなかった。年相応の、友人の氏に無念の
涙を流す少女の姿が、そこにあった。
 憂の白い手が、私の服を掴む。私は昨夜、妹の友人を頃し、妹を泣か
せた元凶だ。それなのに、妹は私に縋っている。
 ――壊れそうなくらいに泣き狂い。私にしがみ付く。
「憂……」
 嗤ってしまいそうな気持ちを必氏に抑え、泣きそうな顔を作る。
 あずにゃんは天国に行った。犯人も捕まったのだから、もう泣か
ないで。綺麗事にもならない。梓は氏んだことにも気付かなかった
のだから。
「どうして……あんな知障に……」
 そう。知的障害者の罪は、罪ではない。
 なにせ、まともではないから。健常者とは違い、常識がズレてしまうから。
犯罪行為も仕方ないというのが、この国の在り方だ。可笑しな話だ。結局、
人の命にも格付けというものがあったのだ。
「お姉ちゃん……!」
「よしよし。傍にいてあげるから、落ち着いて、憂」
 頭を撫でる。
 妹の頭を撫でてやったのはいつ振りだろうか。妹というよりも、母に近い憂が
まるで子供のように感情を振り回しているのを見ると――

 ――どうしても、もう一度命の格を知りたくなった。

25: 2009/07/18(土) 17:56:28.03ID:5M1ozcGO0?2BP(2000)
「ねえ、憂」
「……なに?」
「あのね、あずにゃんを頃したのは、たかしっていう奴じゃないの」
「……なに、言ってるの?」
 憂の唇が震える。
 私の言っているコトの意味が分からない。そう言っている。

「えと……さっき、障害者のコト、『あんな』って言ったよね」

 馬鹿に、したよね?
 私の言葉に、憂は顔色を変える。一気に血の気が引いて、青白い顔
を見せる。
「え……うそ……もしかして……」
「さすがは憂! 察しが良くて助かるよー。
 でも、それもこれでおしまいだね」
 憂の足が震えている。可哀想に、お姉ちゃんが恐ろしいんだね。
 憂の勉強机の上に転がっている万年筆。高校入学祝に、父が憂に与えた
モノだ。
「ねえ、憂……。お父さんたちは、どうして私たちを置いて、どこかにいっちゃう
んだろうね」
「……」
 何も答えない。否、答えられない。
 姉妹だもの。今からすることくらい、わかっている筈だ。

26: 2009/07/18(土) 18:10:13.10ID:5M1ozcGO0?2BP(2000)
「憂……私のこと、好き?」
「――」
 顔面蒼白。絶望に近い表情を浮かべながら、憂はうなずいた。
 それが本心なのかは計り知れないけれど、今の私にはなんとなく心地よかった。
「じゃあ、キス、しよっか?」
「……え?」
 言ってしまえば、憂の愛情なんて分かっていた。異常なまでに私を守ろうと
した。中学の時、私に近づいてきた男の子を立ちなおれなくしたり、軽音部の
みんなが初めて家に来た時も、私が止めなければ毒を盛っていた。
 それぐらい、憂は姉思いなのだ。
 その歪んだ愛情が、私の手によって叶えられるとわかり、憂はまた大きく頷
いた。
「そっか」
 触れるだけのキス。今どき、中学生だってこんなキスはしないというくらい、幼
いキス。

「憂の初めて、貰っちゃったね。
 私? 私は、もう何度もしたことあるから……」

 憂にとって、きっと絶望にも似た言葉。
 彼女を壊すには、これだけで十分だ。

28: 2009/07/18(土) 18:26:45.99ID:5M1ozcGO0?2BP(2000)
 人間の心というものはひどく脆弱だ。
 愛する者が、汚されているというコトを知っただけで、その真偽を
問わずに人は混乱する。
 さらに、この極限状態。そうなれば、憂は私の言葉を無条件に信じ、
自我を失うだろう。
「お、お姉ちゃん……? 嘘……え?」
「だって、可哀想だったんだもん。
 憂がひどいことするから、あの子凄い落ち込んでたんだよ?」
「……あ」
 念のため言っておくが、私が言っているのは作り話。嘘だ。
 だというのに、憂はそれに気がつかない。人間の心のなんと脆いこと。
「それでね、中二の冬だったかな……。しちゃったんだ……そういうコト……」
 耳元で、呟く。
 ――それで、とどめ。

 平沢憂の自我を崩壊させる、最後のひと押し。

29: 2009/07/18(土) 18:40:35.08ID:5M1ozcGO0?2BP(2000)
「あ、ああ、あああ、ああああ、あああ、あああ」

 ついに、完全に表情が無くなった。
 その様はまるで能面のようで、水面を思わせる平面。
 目には光がなく、嘗ての奇麗だった姉を見ているように焦点が
あっていない。
 その眼は、もう私を見ることはない。
 ――万年筆を憂の目の前に落とす。
 からり、という無機質な音は憂の心を突き動かす。
 
 ――これで、楽になってしまおう――

 父より貰った万年筆。
 私たちを半ば捨てた親から貰ったものを大切にする妹を私は
心底尊敬する。

 ――それを使って、命を絶つのだから――

30: 2009/07/18(土) 18:47:32.52ID:5M1ozcGO0?2BP(2000)







 妹は氏んだ

 さあ 第2の池沼たかしを呼ばなくては







31: 2009/07/18(土) 19:02:13.94ID:5M1ozcGO0?2BP(2000)
 池沼たかしを使えるのはあと5回だ。それ以降は私の犯行になる。
 憂が氏んでから3日。ショックを受けたふりをしているのが骨が折れた。だ
が今日からはまた軽音部に行き、ケーキを食べて――

「――うん、楽しみだ」

 学校へと向かう道。
 数日前まで退屈だった場所。
 でも、今は新たな愉悦。快楽を思考するための道だ。
 それに、平凡なんてものはない。

 まずは、彼女を処分しよう。
 そうすれば、もっと面白いコトになるのだから。

33: 2009/07/18(土) 19:50:29.12ID:5M1ozcGO0?2BP(2000)
これ、重要ある?

50: 2009/07/18(土) 20:20:59.69ID:5M1ozcGO0?2BP(2000)
「それで、どうしたんだ? 唯」

 夕暮れの音楽室。
 練習を早めに切り上げ、憂のお墓参りに行くというのだが、私と
彼女はあることの為に残った。
 ……彼女は張り詰めた表情で私を見つめる。
 その眼には、同情はない。寧ろ、私への軽蔑に近いものが含まれていた。
「……なにが? 澪ちゃん」
 彼女、澪は私の本質を見抜きつつあった。
 妹が自頃したというのに、悲しむ素振りを他人に見せなかった私を、妙だ
と感じたのだ。それ故、澪は私をこの音楽室に引き留めた。
「お前、憂ちゃんが氏んだってのに、随分と冷静なんだな」
「……そう?」
「そうだ。
 正直言って私は、お前を疑っている」
「そう。澪ちゃんは勿体ないよ。そんなに頭がいいのに、世渡りが下手なんだもん」
「なにを言ってるんだ?」
「はは、簡単なコトだよ。
 澪ちゃん、りっちゃんとどこまでいった?」

53: 2009/07/18(土) 20:27:06.87ID:5M1ozcGO0?2BP(2000)
 澪は驚嘆の表情を浮かべる。どうしてこの場に於いてそれを聞くのか
が疑問だったようだ。
 彼女にはどうでもいいことかもしれないが、私には思いのほか重要な
ことだ。聞いておかなくてはならない。
「キスはしたの? もしかして、その先のことも?」
「馬鹿かお前は。今はそんなコト――!」
「関係あるよ。だって、澪ちゃん怖がりだから初めての痛みとか駄目だろう
なって」
 澪が感じている恐怖。得体の知れない何かを見るような感覚が伝わる。
 いつもの平沢唯では、決して尋ねないコトだ。性に関しての興味なんて、
平沢唯にも、私にもありはしない。

「答えてよ。
 りっちゃんのこと、好き?」

 綺麗な黒髪が揺れる。
 私だって気が付いている。私が律とじゃれあった時の、澪の
物足りなさそうな顔くらい。
 耳元で、もう一度だけ尋ねる。

「ねえ、りっちゃんのこと。好き?」


56: 2009/07/18(土) 20:35:15.09ID:5M1ozcGO0?2BP(2000)
 少女の顔。否、全身が震えている。私という得体のしれない何かに
自らの本質を見抜かれてしまう。それが恐ろしいのか、それとも、これ
からされることを悟ってしまったのか。現在の私にそれを計り知ること
はないが、これからそれを計り知る。
「――だよ」
「え?」

「好きだよ! 律のこと、好きに決まってるじゃないか!」

 ライブの時にも、練習の時にも、どんな時にも出さなかった大
声。それが私の鼓膜をビリビリと揺らす。
「へえ、じゃあそういうことも?」
「し、してない……怖いから……でも……キスは、した……」
「クククク。そうなんだ、怖いんだ――」
「――ああ」


「でも、これからすることはもっと怖いと思うよ?」


57: 2009/07/18(土) 20:40:45.63ID:5M1ozcGO0?2BP(2000)
 彼女は臆病だ。
 ガラス片を首にあてがえば、それで彼女の行動は停止する。
 今回は、梓の時のような意識のブラックアウトはさせない。意識が
保たれることで、これからの殺人により大きな愉悦を感じるのだから。
 漆黒の瞳がゆらゆらと揺れる。それは涙なのだろうか。私という存在
はそれを理解できない。いつだって私は平沢唯という人間として涙を
流す真似事をしてきたからだ。
 小さな口は微かに動く。
 『助けて律』。
 『助けて律』。
 ――ああ。救えない。
 これから、貴女はその田井中律に絶望をプレゼントするのだから――

58: 2009/07/18(土) 20:44:17.84ID:5M1ozcGO0?2BP(2000)
 ――準備はできた。

 次は田井中律を此処に呼び出すだけだ。

65: 2009/07/18(土) 21:39:54.04ID:5M1ozcGO0?2BP(2000)
interlude

 憂ちゃんが突然亡くなったコトを知ったのは、意外にもその姉
である唯からだった。
 澪と買い物をしている最中、飛び込んできた一本の電話。

『……憂が、自頃した』
 
 色にするならば無色にして透明。
 冷淡に事実のみを伝えるその声は、まるで妹が別の他人
のような声だった。
 その時から、澪は唯を疑っていた。
 妹が氏んで、悲しまない姉なんていない。
 葬儀の際、涙を流してはいたが唯の目は涙を流すだけで悲
しみの色はほとんどない。
 澪の言っていたことが、本当に思えてきたとき――

 ――その唯から、メールが来た。

 憂ちゃんの墓前。夕暮れの時間帯だった。

66: 2009/07/18(土) 21:43:07.78ID:5M1ozcGO0?2BP(2000)
From:唯
題名:無題
本文
 澪ちゃんが手伝ってほしいことがあるって。
 音楽室に来て!

68: 2009/07/18(土) 21:49:01.64ID:5M1ozcGO0?2BP(2000)
 そんなメールが来たのが、今から30分前。
 紬は家の方で用事があるらしく、先に帰っていった。というより、
私が帰らせたのだ。
 
 ――なにか、妙な予感がしたから。
 
 音楽室から漂う。黒い空気。
 取っ手を持つ手が震える、不自然な空気。
 それらを感じ取っているのにも関わらず、私の右手は扉を開けた。

 ――パンドラの、箱を――

interlude out

70: 2009/07/18(土) 21:57:09.61ID:5M1ozcGO0?2BP(2000)
「遅いよりっちゃん。澪ちゃんが待ちくたびれてるよ?」

 私がメールを送ってから30分。時間にルーズなのは変わらない。
 律は緊張した面持ちで私を見る。今までそんな表情見せなかったの
に、やはり恋人の安否が気になるのだろうか。
 だとすると、この女も処分する必要がある。もとよりそのつもりではある
のだが。
「――澪は」
「澪ちゃんなら、すぐそこにいるよ」
 律の頭がゆっくりと横を見る。まずは左、その次は右。それでも気がつか
ない。
 ――ああ。そうか。そういうことか。

「そこにあるスイカ、見てみなよ」

 机の上に置いたスイカのようなモノ。
 律が一番初めに見た場所、机の上に。

 ――彼女はいる。

 まあるい、黒髪の頭が――

71: 2009/07/18(土) 22:05:46.61ID:5M1ozcGO0?2BP(2000)
「あ」

 小さな声。
 目の前の状況を把握し、それでも認めたくない声。
 凍った表情は先刻、ガラス片に怯えた澪に似る。
 決して触れることなく、スイカを眺める。
 視線を逸らすこともできず、ただ見ることしかできない。
 スイカの表情を見ることができないのが、彼女の救い。
 ならば、その救いすらも刈り取るのが私の仕事とも言えよう。
 くるり、くるり、くるり。顔を律に見えるように。
 
「頭だけじゃあ、ベース弾けないね。『りっちゃん』」

「あ」

「でも、りっちゃんは壊れちゃやだよ。
 とりあえず、窓は開けておくけど、ね」

「あ」

「でも、澪ちゃん最後まで律、律って言ってたよ。本当に愛されてたんだね。羨ま
しい」

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

72: 2009/07/18(土) 22:11:30.25ID:5M1ozcGO0?2BP(2000)
 律の体は宙に待った。
 
 地面に叩きつけられた体は、まるでバスドラムのような低い音を立てた。

 走り気味で、イマイチ完璧にならなかった律のドラムリズム。

 今、初めて完璧なリズムを奏でた。

 私は彼女の氏体を見るわけにはいかないが、二人同時に処分できて幸運だ。

 池沼たかしを、私はあと4体残せるのだから。

75: 2009/07/18(土) 22:26:24.64ID:5M1ozcGO0?2BP(2000)
Epilogue

 私はまだ池沼たかしを四体残している。

 それだけで十分だ。

 四体いれば、私は頃したい人間を殺せる。

 そうすれば完成する。

 『人類知障計画』が――

平 沢 唯 が 覚 醒 す る そ う で す
                This is all the introductory chapters.

76: 2009/07/18(土) 22:28:11.20ID:5M1ozcGO0?2BP(2000)
終わった。





終わった。

78: 2009/07/18(土) 22:34:18.11ID:5M1ozcGO0?2BP(2000)
最低にして最悪の作品。
作品ですらない。
自省の念を込めてブログにはアップする。

79: 2009/07/18(土) 22:37:13.45ID:3DnUwVlN0
こうしてまた一人のコテがNGリストに葬られる――

81: 2009/07/18(土) 22:42:39.18ID:JwlKGnHWO
結局何がしたかったんだ?

引用: 「平沢唯が覚醒するそうです」