135: 2011/06/14(火) 16:44:01.75 ID:jdk0HaDj0
もしこの世に神なんてクソッタレが居るってンなら、そいつは幻想なんて持たねェンだろうな。


小説、映画などのフィクションを楽しむことの出来る生物はヒトのみである、という考えがある。
用意された登場人物や設定をその場限りのものと割り切り、時には現実ではありえない展開にさえ感情移入する。
これには通常の五感を用いた処理に収まらない高度な脳活動が必要であり、それほどの進化を遂げているのは
現状ヒトだけであるという事実認識を持つことで自然とその結論に至るだろう。


他方このような考え方も出来る。我々がともすれば荒唐無稽な作り話にさえ興じることが出来るのは現実に対する
認識が確固としていないからではないか? というものだ。
例えばの話、豆電球を導線で電池に繋ぐと光る原理を完全に理解して他人に説明することの出来る人類はいまだ嘗て
一人も誕生していないのだ。何を馬鹿なと思われる方も居るかも知れないが、これは動かしがたい事実である。
そうした隙を衝かれヒトはフィクションに入り込むのだ。

また、ここでいうフィクションという言葉の範囲は決して

深い深い森の奥には妖怪が住む里がある
未踏の深海には高度に栄えた海底人の国がある
光の速度で生み出された莫大なエネルギーを使えば過去に戻ることが出来る

等の規模の大きな設定に留まらない。TVでお馴染みの歌手が今夜のドラマの中では天才外科医を演じるとして
違和感なく楽しむ事が出来るとすれば、それは本当にその歌手が天才外科医である可能性を完全に捨て切れない
からこそ、なのである。理解が追いつかない諸兄に対してはこのように言い換えるべきかもしれない。
その歌手を一般人よりも良く知るであろう彼の身内が、どれだけそのドラマに感情移入できるだろうか? 

ヒトがフィクションを楽しめるのは完全には程遠い未成熟な存在だから、と纏めておこう。


ではヒトの精神活動が今よりもはるかに高度になるとフィクションは滅びるのだろうか? と言えばこれはおそらく
そうなのだろう。
その世界における小説などは、現在の我々が壁画や石版に見るような古代人の思想を推し量る単なる資料にすぎまい。
他人の意思や過去現在未来の事象を正しく認識し、全ての事柄について完全に理解しているとしたら虚構の立ち入る
隙が無い。後ろを向いても後悔や郷愁などなく、眼前には不安も期待も無い。ならば今ある場所に起こるべき感情の
揺らぎもあるまい。
そこまで行き着いてしまった者こそ全知全能の神と呼ぶべきか。彼は作り話で笑うことも悲しむこともないだろう。

全知全能だが出来ないことがあるのではなく、神にとって感情は虚構であるからフィクションが意味を成さないのだ。
とある魔術の禁書目録 32巻 (デジタル版ガンガンコミックス)
136: 2011/06/14(火) 16:44:53.21 ID:jdk0HaDj0
少年の前には1枚の原稿用紙があった。


一方通行は人間である。それは疑いようの無い事実である、が彼は少々一筋縄ではいかない存在でもあった。
学園都市における能力開発によって序列第1位に立つその超能力は歴史上最も世界の真理に近づく男を作り上げつつ
あったのだ。
『自分だけの現実』で歪められた一人用の、とはいえ彼は全てを観測し、全てを逆算し、全てをほぼ正しく認識して
いく。それはひょっとして、少しずつヒトの心を失う作業だったのでは無いだろうか。神ならぬ身にて天上の意思に
辿り着くもの、とは既に人間の理解の内には無いモノであろう。
その座に最も近づいた人間がどれほどヒトの心を理解しうるのか、その能力は感情が虚構であると認識してしまわぬ
だろうか。

答は、原稿用紙と彼に託されている。


打ち止めと番外個体に「偉そうに批評するならアナタも書いてみろ」などと挑発されその場ではフザケンナ、と
やり過ごした。だが部屋に戻って特にすることも無く、先ほどのやり取りを思い出しムカムカしたので原稿用紙を
取り出し、一気に埋めた。それを見ながら思うのである。
構想を練っただけの段階であるとはいえ

クッソつまらねェ、と。

……だがしかし、たとえ救い様の無い駄作であったとしてもだ。自分にはそれを他人が読んだならばつまらないと
感じるだろうと推し量ることが出来るではないか。そして自分でもそうした感想を持つことが出来るではないか。

(まだ俺は大丈夫だ。まだヒトとして生きている。そのことを確認するためにこのクソつまらねェ小説を書いたンだ。
そォだ、この時間は決して無駄じゃなかった。そうだそうだ、そォに違いねェ)

安心したら喉が渇いた。原稿用紙をクシャクシャに丸めてポケットに突っ込みリビングへ。他に誰も居ないようだ。
冷蔵庫にコーヒーを取りに行くついでにクズカゴに向け先ほどの紙屑を投げておく。

冷たく苦い液体を喉に注ぎ込みながら思う。駄作の言い訳の為に頭フル回転させる俺って、平和だなァと。





……それから数時間後、リビングに落ちていた紙屑を拾って中を見るなり

「これ何かしら? 数式と図形の羅列…………興味深いわね」と呟く女が一人。彼の平和が続くかどうかはまだ分らない。

137: 2011/06/14(火) 16:47:17.86 ID:jdk0HaDj0
以上でした。頭のいい人の書く小説なんて想像できなかったヨ

引用: ▽ 【禁書目録】「とあるシリーズSS総合スレ」-30冊目-【超電磁砲】