143: 2011/06/14(火) 20:40:52.24 ID:jdk0HaDj0
「ん~、こんなものかしらね」

軽く背伸びをする芳川桔梗の前には一枚のメモ。書かれているのは一見関連性のない幾つかの事柄。
手元のPCには最近同居人が書いた2種類の妄想小説、端的に言えば第1位の倒し方の考察、が表示されていた。

「ふうっ、本当に笑っちゃうわね。私はどこまで行っても科学者ということなのかしら」

起き抜けに淹れたまま放置して冷たくなってしまったコーヒーをレンジで温めなおし、曖昧な香りに眉をひそめつつ
一息に飲み干す。気持ちをリセットしたところで改めて画面に向きなおすとその作業に埋没していった。
ちなみに、どのくらい埋没していたかというと

「ふんふん、ほうほう、ねえねえ、こっちこっち」チョイチョイ

「へ? ほー、ふむふむ、お!おいおい、これこれ」グイグイ

「ンだァ? はァ? チッ、おい芳川、なンだよそれ?」トントン 

などというやり取りが己の背後で行われているのにも関わらず肩を叩かれて名を呼ばれるまで気付かぬほど。
と言っても気付いてからの方が彼女の真骨頂なのかも知れない。

「あら、あなたたち居たのね。ちょうど良かったわ。見てもらいたいものがあるの」

彼女にしてみれば突然の出現のはず、にも拘らず驚く素振りも見せずあまつさえ自分の言いたいことだけ言ってしまう。
突然の出現者、デコボコシスターズと白い男は図らずも同じ事を思った。こいつ強い……、と。

したたかで甘い、芳川桔梗とはそういう女である。
とある魔術の禁書目録 32巻 (デジタル版ガンガンコミックス)
144: 2011/06/14(火) 20:41:54.92 ID:jdk0HaDj0
「これはミサカ達が書いたお話だよね? ってミサカはミサカは敢えて周知の事実を確認する」

「んで、このメモ何なの? 『真・第1位の倒し方』『時代劇』『矛盾』『2つの小説の相違』『科学と魔法』・・・」

白い男、一方通行はふと何かに気付き赤い瞳をギラつかせ

「オマエ、ひょっとして……?」と問う。

凄みを効かす最凶の男にそれでも顔色も変えず

「あら、なにかしら? 私はただ、彼女達の小説を読むうちに君の倒し方に興味が沸いてきただけよ。で……」

「……、で?」

息を呑む3人を前に、相も変らぬ低い調子で彼女は何事でもないといった風にこう言ってのけた。


「私も小説を書いてみようと思ったのよ」


145: 2011/06/14(火) 20:42:41.22 ID:jdk0HaDj0
その発言に三者は三様の反応を見せた。即ち一方通行はウンザリとばかりに肩を落とし、打ち止めは期待に瞳を輝かせ
番外個体は膝を叩いて下品に大笑いするのだった。
そんな反応などどこ吹く風と、桔梗は番外個体の持つメモを指差し

「それに書いてあるのが話のネタね。といってもまだ作り込みの途中だから全部見せられるわけじゃないんだけど」

と断りを入れる。即反応したのは打ち止めだった。

「はいはーい、ミサカは『時代劇』ってのがなんだか面白そうだなって、ミサカはミサカはリクエスト一番乗り!」

「他のも俺が出る小説のネタとしちゃワケわかンねェけどよォ、確かにこりゃ度が過ぎてンな」と続ける少年は乗り気で無い。


ふふっ、と微笑しつつモニターの画面を移動させていく桔梗は、これは最高傑作になるかもしれないのよね、などと呟きながら
そのコンセプトを説明していく。

「そもそも超能力者は、科学者とはいえ能力の無い私から見ると常識の範囲外の……言葉は悪いけど、そうね。理解し難い者なの」

話を聞く3人の表情がわずかに曇った、が次の瞬間

「特に君達のような規格に収まらない子はね。それならば舞台を江戸時代にしてチョンマゲをつけてみようと」

なんでやねん! と似合わない関西風のツッコミすら出来そうな気分にさせられてしまう。本当に掴めない女なのだ。


「そうすることで、現代の力なき我々の視点でも超能力者の力関係や戦闘での相性などが明確になるんじゃないかと思ったのよ」

「へえ。でもミサカ、時代劇って言われてもピンとこないんだけど?」と番外個体。彼女はまだその手の知識が足りていない。

「そう思って、超定番の水戸黄門をベースに作ってみたから大丈夫。といっても今あるのは次回予告だけね。本編はこれからなのよ」

146: 2011/06/14(火) 20:43:28.29 ID:jdk0HaDj0
[新シリーズ 水戸黄門]パラパー


1「またまた世直しの旅に出るために西山荘を抜け出した水戸黄門御一行。伊賀の抜け忍・美琴はその命を狙うべく襲撃を繰り返すも
逆に諭されお供となる。新たな仲間を加えた珍道中の行く末は? 第1話『くのいちの技? 使わないわよ!』ご期待ください」

2「西山荘の留守を任された尼僧。その身に危機との知らせを受け長身の破戒僧は一行を離れ単身水戸へ戻る。彼を待って居たのは異
国の呪い師。摩訶不思議な技の前に尼僧と彼の運命や如何に。次回『姫神です。時代劇でもそのま』ご期待下さい」

3「人里離れた山の洞窟で毎夜行われる不埒極まる企み。単身調査に乗り出した美琴の前に現れたのは、刃圏に入った者全てを斬る、
眉目秀麗の女剣士・沈利。美しき女達の戦いの行く末は? そしてその企みとは? 次回『巴里巴里巴里巴里!』ご期待ください」

4「伊賀の里で外法により生み出された美琴の妹達。彼女達を犠牲にすることで電発式九百三十型の操縦者・一方通行は神の駆動力を
得ようとする。人の世の理を踏み違えた企みを水戸黄門が打ち砕く。次回『圧縮圧縮、油圧で圧縮』ご期待下さい」

5「箱根の山を騒がす天狗騒動。それは己の根性を鍛えるべく鍛錬に励む修験者・軍覇によるものだった。姦計を持って彼の神通力を
利用せんとした悪代官に黄門様の怒りの鉄槌が下る。次回『英語はNG? 判った! すごいパーンチ』……ご期待下さい」

6「駿河の国にて長身の破戒僧と合流した御一行、旅籠で満身創痍の伊賀者に出会う。その様子を見て血相を変えて飛び出す美琴の目
に映るものは一体? そしてその前に立ち塞がる甲賀のくのいちの目的とは? 次回『ほ、ねえ、さま』ご期待下さい」

7「巨大カラクリの操縦者、一方通行はその設計者に為す術もなく敗れ守るべき者を奪われる。他方、異国の侵入により壊滅的被害の
街道を水戸黄門一行は駆け抜ける。果たして騒乱の行く末や如何に。次回『木ィ原ァアア殿ォオオオオオオ』ご期待下さい」

8「尾張名古屋の城下町で起こった大乱。諸藩の隠密密偵入り乱れての攻防は次第に日陰を越え、民草の日常までを侵していく。これ
は水戸黄門様の与り知らぬ悲しき闇の物語。力無き者達の運命は? 次回『楽勝だ、女剣士』ご期待下さい」

9「突然巻き起こる四瓲貨物車と巨大カラクリの戦いにより美濃の街は壊滅。両者が行き着いた先は採石場。そこでカラクリの真価を
見た貨物車の運転手・垣根は十瓲車へ乗り換え、九百六十型は荷台を上げる。次回『時代考証は通用しねえ』ご期待ください」

10「復讐に燃える女剣士・沈利は琵琶湖を渡る船着場で憎き仇を遂に捉える。果たして守るべき者を抱えた非力な下男は暴刃の錆へと
化してしまうのか? そして黄門一行とはぐれた美琴は丸小船を強奪し後を追う。次回『はーまづらあ』ご期待下さい」

11「京の都に怪しい影が差す。帝の御威光を背に民百姓はおろか、豪商、役人までをも意のままに操る公家・操祈の所業に旅の途中の
水戸黄門様が正義の説教を御見舞いする。次回『麿のぉ貴族力でどうとでもなるでおじゃる』ご期待下さい」

12「長旅を終え水戸へと戻った一行を待っていたのは、水戸黄門に恨みを持つ公家・操祈の掌握力により食事を断たれた留守役の尼僧
の変わり果てた姿だった。呪いに支配された彼女の攻撃に黄門様の印籠が光る。最終回『おなか、へった』ご期待下さい」ジャカジャン

147: 2011/06/14(火) 20:44:23.99 ID:jdk0HaDj0
「……」「……」「……」


「どうかしら? あなたたちや上条くん?の話を参考に、超能力者とその関係者への電話取材もして江戸風味で纏めたのだけれども」

それと作者不明の走り書きも使わせてもらったわ、と著作への努力を隠す気も無い彼女に一同は無言で返す他無かった。



「どうかしらって……」沈黙を破ったのは番外個体。

「まず、不完全な予告という形で感想を貰おうという姿勢が小説をナメてるとしか言い様がないよね、全然ダメ」
「次に黄門様?の旅の目的が曖昧で共感出来ないよ。どんな困難があったって、あっそ、で済んじゃいそう」
「といいつつ、この主人公どうやら影が薄そうじゃん。中盤姿が見えないけど何処行ってるの? それでいいの?」
「あと江戸時代だって言ってるのに何で4トントラックが出てくるの? ミサカが物を知らないと思ってバカにしてんの?」
「で、そんな意味不明のものを1クール分無理矢理用意する姿勢があざとい!却って冷めちゃうよ。それとね~」

その外見には似合わぬが文章表現への強い拘りがあるのだろうか、次から次へ指摘を続ける彼女。それを無理に制する事もなく
桔梗はディスプレイに顔を向け

「手厳しいわね。逆に良かったところは何か無いのかしら?」とネガティブな流れを変えようとする。

すると、番外個体の剣幕に押され気味だった打ち止めがおずおずと手を上げ

「ミ、ミサカは、あのね、その……よく分らなかったんだよって……」と、どうにも申し訳なさそうに呟く。

「読ンだヤツに気ィ使わせる話なンざロクなもンじゃねェぞ?」堪らず一方通行も続ける。

「ま、まァ、最初にテメェで断ったとおり予告風しか現状無くて、それでこの反応ってわけだ。推して知るべし、だな」

あるものはやんわりと、あるものは明確に指摘するそれらは、「ツマラネエ」という酷評を様々なフィルターに通した結果であろう。
見るも無残な負け戦の評定は、桔梗がソファから物憂げな吐息とともに腰を上げキッチンに向かうとハッ、と休止した。

148: 2011/06/14(火) 20:45:22.69 ID:jdk0HaDj0
空気を悪くするのは作品ではない。にわか批評者達は等しく「……言い過ぎた?」と各々の発言を振り返る。

所詮は読み物、手に取った者が抱く感想に作者がケチをつけることは出来ない。むしろ人に作品を見せるということは、手酷く雑な
ともすれば筋違いで破廉恥で知性の足りてない罵声すらその心のどこかで期待して行うものである。特にデコボコシスターズは既に
それぞれ短編小説を書き上げ他人に見せている。先輩からの心温まる助言にダメージを受けていては間尺に合わないだろう。
……とはいえ一作品を仕上げるということの大変さを知るものであればこそ、その身と経験に照らし合わせて

自分が理解できなかったから、趣味に合わないから、話の内容に関わらず書き方がダメ、なんかそういう雰囲気じゃね?

程度の理由で作者の努力をただ踏みにじって捨て置くだけ、というのは人道に悖る行為と言わざるを得ない。特に、収束した騒動を
再び巻き起こす不逞など相当な鈍重か無神経な扇動者でなければ行い得ない醜悪な所業といえる。
かといって偽りでも誉れを与えよ、というのも正しくなかろう。そんなものは、滅んだ国の勲章にも劣るのだ。



罪悪感と躊躇、そんな重い雰囲気で誰もが口を噤まざるを得ない中、キッチンで桔梗がインスタントの緑茶をずずーっと啜りながら

「残念ね、一方通行。君には期待していたんだけど」と、自ら置き火に薪をくべる様なマネをする。続く発言に視線が集中する。

「彼女達の作品を読んでの第一声、名前を叫んでのツッコミ……、アレを期待して何日も時代劇CHを見続けたっていうのに」



「……」

別の意味で言葉を失う3人、胸中に去来するは「んなヒマあるなら仕事探せよ」との思いであったろうか。ま、それを伝えた所で
彼女の事、「小説書くのに忙しくてそんな時間が取れないのよね」と返すのだろうが。

「次は叫ばせてみせるわね。…桔ィ梗ォォオオオオオオオオ! って」

本当にそれだけが残念だった、と心からそう思っている。こういう人に私もなりたい。いや、無職とかそういうところではなく。


「だってアレが無いと会話パート、オチが弱いんじゃないかしら?」


芳川桔梗、ひたすらにしたたかで甘い女である。

149: 2011/06/14(火) 20:46:56.91 ID:jdk0HaDj0
以上です、もう振るっても出ません。

引用: ▽ 【禁書目録】「とあるシリーズSS総合スレ」-30冊目-【超電磁砲】