77: 2013/05/08(水) 16:09:09.34 ID:y9M/z2Za0
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ああ、ここを訪れたのは何度目になるだろうか。
最近こそ回数は減っていたが、今回に関しては無理もない。
室内温度と湿度を保つ為に重ねて設置されている自動ドアをくぐる。
どこまでも白く眩しいリノリウムの床の上を歩く。
全てを浄化するかのような、一点の曇りのないリノリウム。
受付でいつものように、彼女の名を告げる。
顔を覚えてくれているのか、にっこりと笑って対応してくれる。
エレベーターで目的の階で降り、廊下を歩く看護士に会釈する。
降りてすぐ、左にある小窓からは、月の光がこぼれていた。
俺はこれで本当によかったのだろうか、と思案する。
最近の彼女は、以前のようではないとはいえ、それでも。
アイドル活動を、心から楽しんでくれているように見える。
けれど、その分、苦しみを負うリスクが増えているのだから。
こんな事を加蓮に伝えれば、間違いなく怒るだろう。
入院している部屋の前に着く。表札には北条とだけ、記載されている。
名を馳せてきた今、ファンがお見舞いと称して押しかけないように。
呼吸を整え、ドアをノックする。まだ起きているだろうか。
「どうぞ」
79: 2013/05/08(水) 16:11:48.73 ID:y9M/z2Za0
がらがら、と音をたてるスライド式のドアを開けつつ、彼女に声をかける。
『加蓮、身体は…その、大丈夫か?お見舞いにきたんだ』
『仕事を急いで終わらせてきたんだけど…それでもこんな時間になって、ごめん』
「お見舞い、来てくれたんだ…」
「風邪くらいすぐ治すから待ってて。早く、一緒にお仕事したいから…!」
そう言いつつも、加蓮は咳き込む。まだ、もう少しかかるだろう。
病室の棚には、事務所のアイドルからのお見舞いが置かれている。
『ああ、そうだ、何か食べられるものがあればと思って、買ってきたんだけど』
『どれがいいか、わからなくてさ。全部買ってきちゃって…冷蔵庫借りるよ』
「こんなに食べきれないよ…もう…ふふっ、どれから食べようかな…あ、じゃあ一緒に食べる?」
『そうしようか』
消化にいいだろう、と判断していくつかのゼリーを買ってきていた。
フルーツが乗った柑橘系のものだから、味の薄い病院食よりは食欲を煽るだろう。
「うん…おいしい」
『よかった』
『………』
訪れる沈黙。けれど、そこには確かな心地よさがあった。
嬉しそうに笑ってくれている加蓮を…悲しませる話はするべきではない。
今は、何か…明るい話題を振ってあげよう、そうだ、事務所の話でも――――。
「…あの、さ。プロデューサー」
80: 2013/05/08(水) 16:15:10.97 ID:y9M/z2Za0
「…私は、後悔してないよ」
『………』
見抜かれていた。表情に出ていただろうか。
心臓の鼓動が早くなる。平静を保たなければ。
「私の身体のこと、心配してるんでしょ」
「自分が、アイドルに誘ったから、加蓮が…なんて」
「プロデューサーは、そう思ってるかもしれないけど」
「今…私は、とっても幸せ。これ以上ない、ってくらいに」
「寝てる時に、アイドルに憧れてた頃の夢を見たの」
「でも今は夢じゃない…。叶えてくれたのは、プロデューサーだよ」
そう言って、彼女は儚げに笑ってくれる。
俺が加蓮を元気づけに来たはずだというのに。
「初めて会った日の事、覚えてる?」
「アイドルなんて無理だと思ってた私に、夢を見せてくれたよね」
ああ、覚えてる。忘れるはずがない。
今でも、加蓮との思い出は、何1つとして忘れてはいない。
「…今日は、少しだけ。私の過去を知ってほしいな」
春の訪れを祝うかのような暖かい風が、月明かりに照らされた病室を吹き抜ける。
微かに開いた窓から入るそれに揺れる、黒い空に対照的な、白いカーテン。
今にも消えてしまいそうな、彼女の儚げな姿に、俺は目を奪われていた。
「まずは、私の小さい頃のお話をしようかな」
81: 2013/05/08(水) 16:15:52.46 ID:y9M/z2Za0
パッと思いついたネタでした…ありがとうございました。
82: 2013/05/08(水) 16:20:09.52 ID:paN/1KJCo
で、いつ続きを書くのかね
引用: モバマスSS練習スレッド



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