403: 2015/05/19(火) 23:02:38.22 ID:0ygxf3IM0


前回:赤城「……さて、と」提督「昔話を、しようか」【4】
この章の初め:赤城「……さて、と」提督「昔話を、しようか」
最初から:提督「…さて、と」

ハンガーにて


北上「もーすぐ出撃だよぉ。皆、どんな感じー?
サセンさん達も準備してたけどぉ」

北上と大井が、ハンガーに様子を見に来た。

摩耶「バッチリだぜ。もう出撃許可待ちだよ」

陽炎「今日はなんだか行けそうな感じね!」

北上「うはは。良いねぇ気合入ってるねぇ」

大井「……」チラ

陽気な二人とは対照的に。
翔鶴と金剛は集中力を高めている。

翔鶴「……」

金剛「……」

二人は目を伏せ、無言で瞑想していた。
「艦これ」ピクトリアルモデリングガイド 大和編: 『艦これ』提督のための艦船模型ガイドブック

406: 2015/05/19(火) 23:07:51.43 ID:0ygxf3IM0
ふと、金剛が目を開け、閉じていた右手を開く。
そこには何かが握られていた。
それを見つめながら、呟く。

金剛「……Si vis Pacem, para bellum」

汝平和を欲さば、戦いに備えよ。

金剛「To East, to West. To North, to ……South.」

東へ西へ。北へ……南へ。

金剛「We, navy, guardian of the discipline.」

我ら海軍は、秩序を守る者。

金剛「By force, by wisdom.」

力で、知恵で。

金剛 「We fight to the last stand.」

最期の瞬間まで、闘う。

金剛「For the peace, through the strength.」

力による、平和の為に。

最後に拳をグッと閉じると、立ち上がった。

407: 2015/05/19(火) 23:08:23.51 ID:0ygxf3IM0
北上「……アレ、いつも実戦前に言ってる奴だよね?」

大井「……そうね。訓練や演習であのジンクス?ルーチン?を実行してるのは見た事、無いけど」

北上「……うーん、仕上げてきたね、ゴッさん。第18戦隊の旗艦様が本気だぞぅ?
摩耶と陽炎は浮ついてるけど、大丈夫か?」

北上が真面目な顔をして言う。

大井「まぁ……あの人からしたら、醜態は晒せないわよね」

北上「……どーなるんだろね、この演習」

大井「……いくら私達が居ないとは言え……最前線の部隊が、僻地防衛隊に負けるのは……失態よ」

北上「……」

大井「ま、なるようになるんじゃないかしら?」

北上「……そだねー。アタシ達が心配してもしゃーないか」

ちょうど、通信が入る。

太郎『こちら司令室だ。艦隊、聞こえるか』

翔鶴「……はい。聞こえております」

太郎『よし。出撃の時間だ』

408: 2015/05/19(火) 23:08:53.54 ID:0ygxf3IM0
金剛「……Aye.」

摩耶「っしゃ!」

陽炎「ふふん!」

太郎『こちらのコールサインは以下、コマンドとする。注意されたい。
これ以降、無線はこのバンドに固定、常にオープンにしておけ』

翔鶴「了解、コマンド」

太郎『では、出撃を許可する。第18戦隊、抜錨せよ』

金剛「Weigh anchor!」

409: 2015/05/19(火) 23:10:15.91 ID:0ygxf3IM0
ハンガーにて、サセン隊側


艤装を装着する手が震える。
上手くハードポイントに接続出来ない。
苛立ち、無理にはめ込もうとして、でも失敗して。
ガチンガチンと音が鳴るだけ。

鳳翔「……」

足柄「……大丈夫?鳳翔さん」

そんな鳳翔を心配して、足柄が近寄ってきた。

鳳翔「……ごめんなさい。少し、昂ぶってしまって」

そう言って、力無く微笑む鳳翔はしかし、どう見ても昂ぶっているようには見えない。

足柄「……寝てないわね」

足柄がやれやれといった風に言う。

410: 2015/05/19(火) 23:10:57.02 ID:0ygxf3IM0
鳳翔は何も言えずに目を伏せた。
敏い人です、と思う。
一瞬で見抜かれるのは、彼女がいつも周りを気にかけている証拠だ。

足柄「……」

しかし、気付いた所で今更どうしようもない。
足柄は、下手に言葉を掛けるよりはと、鳳翔の艤装装着を無言で助ける。

鳳翔「ありがとう、御座います」

足柄「ん」

足柄はそのまま何も言わずに去っていった。
いつもなら気の利いた一言でも出てくるのだろうが、今の足柄にその余裕はない。

鳳翔「……」

はぁ、と溜息。
不安がある。
否、不安しかない。

艤装と艦載機の最終確認を行いながら、思案する。

自分は戦場から離れて久しい。
相手は格上。
生徒が、隼鷹が見ている。
提督が……見ている。

411: 2015/05/19(火) 23:11:39.71 ID:0ygxf3IM0
鳳翔「……」

自分が訓練所でなんと呼ばれていたかくらい、知っている。

口先だけの鬼教師。

自分が大事にしているモノから、そう呼ばれる事は。
たとえわかっていても。
シンプルに、辛い。

まだあの頃はそれでも良かった。
教え子を失う事に比べれば、この程度の苦痛、甘んじて受け入れようと。

しかし、今は違う。
サセン島の7人は仲が良い。
これまで生きてきた中では考えられない程に。

隼鷹は大事な教え子であると同時に、対等な仲間であり。
笑顔の素敵な、快活な艦娘で。
今までの教師と生徒の関係とは、明らかに違う。
彼女は自分に、親愛の情を抱いてくれている。

こんなもの。
目の前で無様に失敗など、出来ない。

鳳翔「……はぁ」

溜息。
もう、こんなクヨクヨと考えるようになったのは貴方のせいですよ、提督、とここには居ない人を責めてみる。

412: 2015/05/19(火) 23:13:09.84 ID:0ygxf3IM0
不思議な人だ。
あの人は敢えて、艦娘に時間を与えているらしい。
訓練や哨戒のスケジュールを練り、纏まった自由時間を作り出しているのだとか。

これまでは、自分はあまり悩む事が無かった。単に仕事に忙殺されていたからだが。
特に主計課に移ってからは忙しく、深く悩む時間は無かった。

しかし、ここに来て時間ができると。
自然と様々なことに思いを馳せてしまう。
悩んでしまう。

今も、苦しい。

艦娘にそんな事をさせて。
提督が、何を考えているかはわからない。
ただ、自分達が大切にされている事は感じる。
言葉の端から、行動の一端から。
だから、思う事がある。

鳳翔「……失望、されたくない……」

思わず本音の呟きが漏れた。
提督に失望されたくない。
嫌われたくない。

最近気がついた、この淡い気持ち。

……だって。
だって、私は提督にーー。

413: 2015/05/19(火) 23:14:10.65 ID:0ygxf3IM0
提督「鳳翔。期待が重荷か?」

鳳翔「ひゃいっ?!」

想いを馳せていた相手にいきなり背後から声をかけられ、鳳翔は飛び上がった。

提督「すまんすまん、驚かせたな」

ははは、と笑う。

鳳翔「ど、どうしてここに……司令室にいらっしゃるのでは」

提督「まぁ、見送りさ」

よく観察すると、汗をかき、息が少し上がっている。
おそらく此処まで走ってきたのだろう。
足柄が呼んだのだろうか。

提督「……期待が重荷か」

鳳翔の混乱する思考を他所に、提督は再度問うた。

鳳翔「……それはーー」

ーーそう、いうことなんだろう。
でも、言えない。
期待が重荷です、なんて、言えない。

提督「ははは、まるで期待されるのは今回が初めてかのようだな」

提督は鳳翔の言葉の先を察して笑う。

鳳翔「……初めて、ですよ」

そう。
よく考えたら、自分が期待される事は初めてだ。
このプレッシャーを感じるのは、初めてだ。

だが、提督は。

提督「おいおい、そんな事は無いぞ」

414: 2015/05/19(火) 23:14:55.93 ID:0ygxf3IM0
鳳翔「……?」

可愛らしく小首を傾げる鳳翔。
提督はその頭にぽんぽん、と手を置き。

提督「俺は会った時からずっとお前達に期待している。だからあんな小っ恥ずかしいスピーチをしたんだ」

鳳翔「……むぅ」

提督「たかが演習、されど演習。まずはやってみろ。もし失敗しても、そこから学べ」

鳳翔「……」

提督「自分は型落ちで前線を退いた身だから、教官だからと学ぶ事をやめるなよ。それは慢心だぞ。
お前にはまだ、伸び代がある筈だ」

鳳翔「……!」

提督「プレッシャーに慣れろ、鳳翔。
お前が氏なない限り、俺はお前を見捨てない」

このプレッシャーはずっと付いて回るぞ。
提督は笑ってそう言う。

鳳翔「……はい」

見捨てないと。
そう言って貰えて。
少し、気が楽になって。
鳳翔も自然と、笑顔になっていた。


足柄「じーかーんー。金剛さん達はもう出たわよー」

そんな二人に、足柄がジト目で告げる。
その隣にはニコニコしている榛名と、どこか不満気な雷。
それぞれ艤装の最終確認を終え、出撃待機中だった。
鳳翔も、慌てて最終確認を済ませる。

提督「すまんすまん」

提督は謝るが、足柄はジト目のままだ。

足柄「折角見送りに来て頂いたし……なんか、締まる一言ちょーだい?」

提督「……弱ったな……」

足柄の言葉に、提督は苦笑しながら艦娘達を集めた。
が、直ぐに真顔になる。

415: 2015/05/19(火) 23:16:40.40 ID:0ygxf3IM0
提督「……さて、と」

ふぅ、と深呼吸。
適当な言葉を探す。

提督「……約200時間」

皆の顔を見渡した。

提督「これは直近の二カ月、サセン島で行われた訓練の時間だ」

艦娘達の表情が少し険しくなる。
訓練時間の短さは、全員の懸念事項だったからだ。

提督「短い?……当然だな」

しかし、提督はそれを一笑に付した。

提督「アレはコレの準備運動だろ?」

勘を取り戻すための。

一同「……!」

一喝する。

提督「貴様ら!ウォーミングアップの時間は終わりだ!」

一同「「「……はい!」」」

提督「艤装のコンディションは最高か!」

一同「「「はい!」」」

提督「武装の確認は済ませたか!」

一同「「「はい!!」」」

提督「気合いは入っているか!」

一同「「「はいぃっ!!!」」」

提督「だったら……いつまでここに可愛らしく突っ立っている?!
とっとと行って、敵を叩き潰して来い……!」

一同「「「了解ぃ……!サセン島防衛隊、出撃致します……!!」」」

416: 2015/05/19(火) 23:20:10.84 ID:0ygxf3IM0
ここまで

鳳翔回……鳳翔の掘り下げがしたかった……
二回出撃したみたいになってますが、ご容赦

次回からやっと演習

場所決めは、スミマセン、完全に記述抜けてました
一応第三者が決めているという設定です

422: 2015/05/20(水) 16:21:32.29 ID:PNoNYX0GO
指定海域、開戦時刻ーー


金剛「We're on the clock. 時間ネ」

旗艦・金剛が静かに時間を告げる。

太郎『全ユニット、こちらコマンド。ラジオチェックワンツースリー、オーバー』

金剛「コマンド、金剛。I hear you loud and clear. How copy, over.」

太郎『金剛、コマンド。ラウド・アンド・クリア』

無線強度は正常だ。
そしてこの通信試験は、演習開始の合図でもある。

太郎『翔鶴、コマンド。偵察機を方位2-1-0から30°刻みで五機、15°ずらして30°刻みで五機、オーバー』

翔鶴「コマンド、翔鶴。五機五機了解、アウト」

偵察命令を出してから、太郎は思案する。

太郎『(さて……海図を見る限り有効な侵入経路は二つ……。北か、南か。
北は地形的に侵入するのは極めて不利だ。
南からの方が、向こうからの氏角も多いが、敵が待ち伏せしている可能性は高い……)』

423: 2015/05/20(水) 17:24:26.52 ID:PNoNYX0GO
太郎はまだ迷っていた。

太郎『(北から入る事が出来れば、敵陣地まで身を隠しながら進軍可能だ)』

目を瞑る。

太郎『(……今回の小戦力で艦隊を分割するのは避けたい……。
しかし、それは相手も同じ事……。
択だな)』

太郎『(……)』

太郎『(……南だ。
相手は北を警戒せざるを得ない。
初めから経路を南に絞り、高速で侵入。
航空機による戦力の漸減を経てから、正面からの殴り合いに持ち込む)』

ポテンシャルで勝っているならば。
正面戦闘でゴリ押せる。
そう決断を下し。
太郎は無線で喋る。

太郎『艦隊、我々は海域南部より敵陣に侵入する。
ブレイク、航空戦力比を利用して、南部島群での戦いを有利に運べ、ブレイク。
艦隊針路2-1-0、オーバー』

金剛「針路2-1-0!」

陽炎「針路2-1-0了解」

摩耶「針路2-1-0了解ぃ」

翔鶴「針路2-1-0了解です」

太郎『中途目標、距離3000の小島』

金剛「Aye.」

金剛ら四人は南西に舵をきる。

翔鶴「翔鶴より通達。
彩雲発艦完了。僚艦は頭上の友軍機に注意されたい。アウト」

太郎『彩雲発艦了解。敵の見落としのないように』

金剛「さーて……お手並み拝見ネー」

呟く金剛の口角が、獰猛に吊り上がった。

424: 2015/05/20(水) 17:30:49.51 ID:PNoNYX0GO



提督『……そろそろだな』

足柄「……やるか」

先程まで黙って瞑想していた足柄が目を開く。

提督『あー、無線感度確認。本日は晴天なり』

足柄「本日は晴天なり。無線感度良好」

提督『了解。こちらも鮮明に聞こえる。
さて、作戦は移動中に伝えた通りだ。まずは北だ』

足柄「了解」

提督『……よし、時間だ。演習状況を開始する。艦隊針路0-4-5』

足柄「針路0-4-5、ヨーソロー」

榛名「針路0-4-5、ようそろ!」

雷「針路0-4-5、ヨーソロー!」

鳳翔「針路0-4-5、ヨーソロー」

足柄以下4名は勢い良く北東へと進みだした。

提督『肉を切らせて骨を断てよ、諸君』

「「「了解」」」

425: 2015/05/20(水) 17:36:50.08 ID:PNoNYX0GO
………
……



観戦室


北上「さぁ始まって参りましたぁ第18戦隊vsサセン隊演習ぅ!
実況はこの北上、解説の大井さん、ゲストは隼鷹さんでお送りしておりますぅ。
以下敬称略!」

大井「よろしくお願いします」

隼鷹「(なんだこのノリ……)よろしくお願いします!」

北上「えー、現在提督は北東へ、太郎は南下してるねぇ。
太郎は艦載機を展開していて、提督は未だ無し……」

大井「艦載差が絶望的だから、鳳翔が偵察機を積んでいない可能性は大いにあるわ。
艦攻あたりで偵察を行うのかしら?」

北上「今のところ、太郎が位置的に一歩リードかな?」

大井「北からの侵入を読んでの事でしょうけれど……」

北上「……お、翔鶴の彩雲が提督の艦隊から見えたぞ」


……
………

426: 2015/05/20(水) 17:51:08.53 ID:PNoNYX0GO



翔鶴「翔鶴より通達。
7番、8番、9番彩雲から敵艦隊を視認。敵針路0-4-5、距離60000、KST25」

太郎『(海域の北西域か……やはり北からの侵入を警戒されている)』

金剛「コマンド、金剛。中途目標到達、standing by, over.」

太郎『艦隊針路2-7-0、速度維持せよ』

金剛「針路2-7-0、copy.」

金剛らは、四角形の海域、その底辺と平行な進路を取る。
翔鶴もそれに追随して進路を変えるが、意識はまだ彩雲に乗っていた。

翔鶴「……敵艦載機の発艦を確認。彩雲、退避します」

敵の動きに呼応して、翔鶴が事務的に彩雲を撤退させる。

427: 2015/05/20(水) 18:33:37.11 ID:PNoNYX0GO
翔鶴「コマンド、翔鶴。標的周辺外の彩雲の帰投許可を、オーバー」

太郎『翔鶴、コマンド。帰投を許可する』

その言葉を言ってから、太郎はある事をふと疑問に思い、それを口にした。

太郎『翔鶴、コマンド。
現在地周辺及び全彩雲から敵の偵察機は見えるか、オーバー』

翔鶴「コマンド、翔鶴。
未だ見えず、オーバー」

太郎『翔鶴、コマンド。了解、アウト』

太郎『(……まさか偵察機を積んでいない?……この狭い訓練海域ならあり得ぬ話ではないが。
艦攻で代用か……?
それか単純に会敵してない?この狭い海域で?……無いな)』

太郎『翔鶴、コマンド。
彩雲は迂回しながら撤退せよ。
我々の位置を気取らせるな、オーバー』

翔鶴「翔鶴、了解。アウト」

428: 2015/05/20(水) 18:39:30.19 ID:PNoNYX0GO



鳳翔「本部、こちら鳳翔。不明機を3機確認。こちらも迎撃機、発艦しました」

提督は、到達が早いな、と驚く。
偵察機は初期位置から飛ばしている筈だ。
足の速い、かなり良い偵察機であると推測された。

鳳翔「全不明機、ブレイクして退避していきます。どうやら偵察機のようです」

提督『……本部了解。引き返していった方向から母艦の位置を推測出来るか』

鳳翔「現在は旋回するように逃げていますが……初動から南方の可能性があります」

空母の癖に、艦載機を退避させる時、反射的に自分の方に向けてしまう、と言う物がある。
それは深海棲艦、艦娘両方に共通する特性だ。

提督『……ふむ』

提督は海図に目を落とす。
侵入経路を南の一本に絞って来たなら……敵の現在地は……と、海図の南部分を指で押さえつつ思案した。

提督『(やはり南か……ダメ押しに北に足柄の水偵を飛ばして確認させよう。
……北からの侵入を断てば……あとは鳳翔と……雷次第だな……)』

足柄「こちら足柄。本部、指示を」

提督『艦隊、このまま北の島影に入れ。
艦戦も深追いするな。まだ偵察機がそこら辺に居てもおかしくない。それを追っ払わねばならん』

鳳翔「鳳翔了解」

提督『足柄、水偵あげろ。方位0-8-0から1-1-0まで15°刻みで3機。北方及び中央部を走査』

足柄「足柄了解」

足柄は艤装のカタパルトから水偵を3機、北西から西にかけて飛ばした。

提督『(敵の速度を考えて、万が一、北か……中央から北上して攻めてくるならば……この水偵から見える筈だ)』

429: 2015/05/20(水) 18:48:21.98 ID:PNoNYX0GO
………
……



隼鷹「うーん……?提督はなんで水偵を北に回したんだ……?南に送れば、太郎達が見えて良いんじゃ無いの?」

大井「恐らく水偵を大事に使っていきたいんでしょうね」

隼鷹「……?」

大井「水偵は足が遅いから。敵を発見してから逃げても、出てきた迎撃機に追いつかれるの」

隼鷹「んで、敵が居ないであろう場所に、って事かぁ」

大井「ま、北に誰も居ないから、逆説的に南に居るなんて判断、狭い演習海域以外では出来ないでしょうけど」


……
………

430: 2015/05/20(水) 19:29:03.90 ID:PNoNYX0GO



翔鶴「7番、8番、9番彩雲、敵の艦載機を振り切りました。帰投します」

翔鶴が少しホッとした声音で言う。
しかし、安心している暇はない。

太郎『翔鶴、コマンド。
敵艦隊付近に、依然偵察可能な彩雲はあるか、オーバー』

翔鶴「コマンド、翔鶴。
10番と6番の彩雲が空域にて待機中、オーバー」

太郎『翔鶴、コマンド。
10番は偵察へ直行。6番は敵を迂回するように飛行。時間差で敵を後ろから観察せよ。オーバー』

翔鶴「翔鶴、了解」

太郎『(……針路は南で良かったな。これで相対位置的に有利が取れる可能性が……)』

手元の海図を元に、かかる時間や想定される敵の動きを計算していると、しばらくして再び翔鶴から無線が入る。

翔鶴「翔鶴より通達。
10番彩雲、島を視界に捉えました。敵影見えず、航跡無し」

太郎『……島影に隠れて居るようだな……完全に北からの侵入に掛けているのか?
……偵察も無しに……?』

呟きが漏れる。

太郎『……翔鶴、コマンド。10番彩雲は帰投させろ。敵が見えない以上、深追いは不要だ。オーバー』

翔鶴「翔鶴、了解。アウト」

金剛「……」

431: 2015/05/20(水) 20:15:02.14 ID:PNoNYX0GO
太郎『艦隊、針路そのまま、速度を維持せよ』

金剛「Steady roger.」

翔鶴「コマンド、翔鶴。
島を利用した航空攻撃を提案します、オーバー」

翔鶴の進言に対し、しばし思案し、もう一度確認する。

太郎『翔鶴、コマンド。敵航空機の影はあるか、オーバー』

翔鶴「コマンド、翔鶴。依然として敵機の影無し。低速帰投中の彩雲からも確認出来ず、オーバー」

太郎『(なんだ……相手は一体何を考えている……?どんな作戦だ……?)』

もう一度海図を見る。

太郎『(意図がわからない……が、だからこそ早急に叩くべきだ。兵は拙速を尊ぶ……何かを為される前に、決着を付けたい)』

決断。

太郎『……翔鶴、コマンド。
攻撃を許可する。
艦戦12機及び艦攻48機の発艦用意、オーバー』

432: 2015/05/20(水) 20:16:31.06 ID:PNoNYX0GO
敵4艦に対し、48機。
これだけの密度で攻めると、こちらの被害も多いだろうが……やるからには、徹底的に。
飽和攻撃だ。

翔鶴「コマンド、翔鶴。
了解。機銃の確認及び航空魚雷のマウントを開始」

太郎『ブレイク。
飛行編隊は海域中心を大きく迂回するようにして北上後、敵艦隊の真東、島の裏側から侵入する経路を取れ。
ブレイク、オーバー』

翔鶴「コマンド、翔鶴。了解。
機銃、航空魚雷ロード完了。いつでもいけます、オーバー」

魚雷のマウントは一瞬で終わっていた。
流石手慣れている。

太郎『翔鶴、コマンド。全攻撃隊の発艦を許可する、オーバー』

翔鶴「コマンド、翔鶴。攻撃隊発艦許可了解」

翔鶴は右腕の甲板を掲げ、目を瞑る。
魔法のように現れた艦戦12機を北西へ放って数刻後、同様に艦攻48機を北へ放出した。

太郎『翔鶴、コマンド。艦隊周辺にも6機の直掩を出せ。カウンターに警戒せよ、オーバー』

翔鶴「コマンド、翔鶴。了解。直掩機6機、出ます」

翔鶴は更に追加で6機を飛ばし、艦隊の頭上で旋回させ始めた。

433: 2015/05/20(水) 20:27:24.79 ID:PNoNYX0GO



足柄「本部、こちら足柄。水偵からは敵影見えず」

提督『本部了解』

……あの水偵に映らないと言う事は、移動距離を考慮すると、かなり遠くか南に居ると言う事だ。

提督『……そろそろ潮時だな』

呟く。

提督『各艦、針路1-9-0ヨーソロー。速度上げていけ』

足柄「1-9-0ヨーソロー」

提督の艦隊は隠れていた北の島影から出て、南下を始めた。
途中、提督が艦隊に問う。

提督『南東にまだ雲は見えるか』

鳳翔「方位1-7-0に雲あり」

提督『素晴らしい……鳳翔、今のうちに撒け。……作戦、始動だ』

鳳翔「鳳翔了解。第二航空隊、発艦します」

鳳翔の甲板から第二艦戦隊16機が飛び立つ。

提督『艦隊直上にも直掩機を飛ばしておけ。偵察の頻度が高い。……そろそろ敵の本命が飛んで来ても、おかしくない』

鳳翔「鳳翔了解。第三航空隊、艦戦8機発艦します。直上にて旋回」

434: 2015/05/20(水) 20:33:08.07 ID:O81TS0/c0
………
……



隼鷹「翔鶴さんの……ろ……60機編隊……」

北上「飛行編隊は回り込む形で、北の島の裏から侵入させようとしてるねぇ」

大井「完全な飽和攻撃ね。一撃で決めるつもりなのでしょう」

北上「でも、提督が南下を始めたから……超至近距離に出現、ってのはもう無理かな?」

大井「そうね……ただ、これだけの数が有れば……正面からでもかなりの損害を追うことになるでしょうけど」

北上「その間にも18戦隊は南の岩場にズンズン近づいてるぞぉ。
このまま何にも無ければ、30分後くらいに提督と太郎が岩場の中でランデブーだけど……」

大井「……それは難しいでしょうね。被雷したら速力が下がるし。
提督側は48機分の航空魚雷、全部なんて避けられないでしょうし」

北上「太郎有利だねぇ。攻撃側が南の島群に隠れられるような位置取りになっちゃったよ」

隼鷹「ああもう……だから最初から南に展開しておいたらって……」


……
………

435: 2015/05/20(水) 20:35:29.52 ID:O81TS0/c0



翔鶴「翔鶴より通達。
6番彩雲から敵艦隊確認。敵針路1-7-0。島の海岸から既に3000程離れています。
目標上空に直掩8」

太郎『(……このタイミングで南へ動いたか……行動が読めない……)
翔鶴、コマンド。攻撃隊到着までどの程度か、オーバー』

翔鶴「コマンド、翔鶴。
艦攻、ETA600秒。
艦戦、既に目標近傍に到達済み。オーバー」

太郎『(……10分か……充分接近できるな。)
翔鶴、コマンド。
了解した。攻撃続行。空戦に備え、彩雲を有効に使え。オーバー』

翔鶴「コマンド、翔鶴。了解。彩雲、陽動します。アウト」

444: 2015/05/21(木) 17:54:15.17 ID:kyTLZS3nO



足柄「各艦に通報、方位3-0-0に不明航空機単機。背後から偵察に来た模様……艦隊上空付近を突っ切って南東に逃れると予想される」

提督『(南東……南東に逃れられると戦術的に不味いな……)』

鳳翔「本部、こちら鳳翔。指示を」

提督『何としても南東への逃亡を阻止せよ』

鳳翔「鳳翔了解」

足柄「本部、こちら足柄。対空砲の使用を要請」

提督『足柄、こちら本部。要請は却下された。引き続き敵航空攻撃隊を警戒せよ』

足柄「足柄了解」

対空砲は許可されず、ブーン、と4機の艦戦が彩雲に向かい、追い回す事数分。
軽やかな動きに翻弄されつつも、鳳翔はようやくすばしこい彩雲を落とす事が出来た。

鳳翔「敵性偵察機撃破」

提督『ご苦労。引き続き艦戦は戦闘空中哨戒』

446: 2015/05/21(木) 18:08:37.33 ID:9gXipQ/IO
だが。
この撃墜された、小さな彩雲がした仕事の意味は大きかった。

足柄「……鳳翔!方位0-7-0、距離2000!お客さんよ……!」

足柄が声をあげる。
全員がその方を見ると、高空で豆粒ほどの艦載機が編隊を組み、此方に接近していた。
彩雲に気を取られ、敵の発見が遅れたのだ。

鳳翔「(……間の悪い……いえ、彩雲は陽動でしたか……)
……不明航空機編隊視認、第三航空隊残機発艦、直掩8機と連結して艦戦12機で迎え撃ちます……!」

鳳翔は、もう少し早く発見出来ていれば……と歯噛みする。

翔鶴の彩雲が下へ下へと逃げた影響で、直掩機4機は低空にあり、更に速度も低下していた。
そして、新たに発艦する4機についても発艦直後であり、高度も速度も無い。
が、接敵した以上、低速低高度からなんとか迎撃する他無い。

バラバラの速度で編隊を組まずに迎撃するよりはと、低速での編隊連結が鳳翔の判断であった。

447: 2015/05/21(木) 18:19:22.60 ID:9gXipQ/IO



翔鶴(流石に気付かれましたか。追加の艦載機も出てきましたね……)

敵の数を数える。

翔鶴「艦載機通報。
タリー12バンディッツ・ベアリング2-7-0フォー2000」

落ち着いて報告。

翔鶴(しかし12機……此方と同数。確か鳳翔さんの艤装性能は……
うん、あれが第三航空隊ならば、全機出てきている感じですね)

思案する。

翔鶴(出し惜しみは考えにくい……
最小ペイロードを艦戦に振り分けているという事なら……鳳翔さんの偵察機は無いと見て良さそうですが)

しかし、今それをゆっくりと考えている時間は無い。
鳳翔隊はこの間にもグングン高度を上げてきている。

翔鶴「コマンド、翔鶴。
交戦許可を、オーバー」

もうすぐ交戦距離に入ります。
そう判断し、翔鶴は静かに許可を仰いだ。

太郎『翔鶴、コマンド。交戦を許可する』

そして、許可が降りる。
翔鶴は意識を攻撃隊に集中させた。

448: 2015/05/21(木) 18:28:24.48 ID:9gXipQ/IO



鳳翔「……不明航空機編隊の詳細確認。敵艦戦12のみ、ファイタースウィープです!」

ファイタースウィープ。
戦闘機掃討。
一時的な航空優勢の獲得を目指して、戦闘空中哨戒を排除する為行われる空戦だ。

ファイタースウィープは、敵味方双方にかなりの被害が出る。
積極的に行いたい戦闘では無い。
つまり、これが行われる意味は。

提督『了解。足柄、榛名、雷、艦戦への対応は鳳翔に任せ、敵の別働隊発見に尽力せよ。
敵の攻撃隊本隊が近いぞ……!』

「「「了解」」」

449: 2015/05/21(木) 18:29:24.27 ID:9gXipQ/IO
足柄「本部、こちら足柄。水偵の使用を進言します」

提督『こちら本部、要請は却下された』

足柄「……何故ですか!直掩は迎撃に回っています!空からの目が……」

提督『念の為だ』

足柄「な……了解」

何も語らない提督に、足柄はまだ何か言いたそうだったが、渋々了解した。

提督『空戦に気を取られるなよ。
観戦していて、気が付いたらオシャカになっていた、なんて笑えんからな……!』

450: 2015/05/21(木) 18:30:28.12 ID:9gXipQ/IO



上空では、翔鶴がその意識を艦載機に集中させていた。

翔鶴(……ヘッドオンに、なりますか……)

鳳翔と翔鶴、二つの飛行隊は編隊を組み、正面から接近している。

翔鶴(しかし……高高度優速が取れている私の有利)

航空戦は何時だって攻める側が有利だ。
どこからでも、どのようにでも攻撃出来る。
それは、敵が攻める時も同じ。

翔鶴(だから……何かをされる前に、潰す!)

翔鶴は機首を微妙に下げ、更に速度を稼いだ。

増す、相対速度。
敵の影が段々と大きくなる。
上がる心拍数。
敵の姿が鮮明に浮かび上がる。

ファイタースウィープ等の正面戦闘は互いに損害が多い。
だからこそ、実力がそのまま出る。
だからこそ、刺激される闘争本能。

血圧が上昇し、ドックンドックンと音が聞こえる。
この、興奮。

451: 2015/05/21(木) 18:36:34.16 ID:9gXipQ/IO
それを抑える事なく。
ついに翔鶴隊と鳳翔隊が交戦距離に入った。

翔鶴はフッ、と軽く息を吐いて。

翔鶴(……仕掛けます!)

翔鶴は途端に己の艦載機の機首を上げる。
それは、相手にケツを見せて、

翔鶴(誘う……宙返り……!)

ここでもし鳳翔隊が翔鶴隊の尻を追いかけて来たら、縦旋回の下降に伴う加速を得て鳳翔隊の背後を取れたが……

翔鶴(乗ってくれたら楽でしたが……そう甘くありませんよね……!)

一瞬遅れて鳳翔隊もピッチアップ。
若干翔鶴隊を追う素振りを見せたものの、こちらのケツを追いかけること無く、同様に宙返りした。

現在、お互い旋回の頂点で逆方向を向いて、海に風防が向いている状態。
つまり背面飛行だ。

452: 2015/05/21(木) 18:42:40.09 ID:9gXipQ/IO
翔鶴(このままループを終えればまたヘッドオン……しかし。
こちらには速度がある……ここは高度を取ります……!)

翔鶴隊はそこで強引に機体をロールさせ、操縦席を太陽に向ける。
軋むエルロン。
更に翔鶴はエレベーターを上げてピッチアップ、追加の宙返りを行う。
つまり、最初の宙返りの頂点で更に宙返りをしたのだ。
強めのラダーを掛けて方向を補正。
二連続のインメルマン旋回である。

その間、鳳翔隊は宙返りを終え、元の地点に戻っていた。

翔鶴(テッペン獲りました……!)

二度のハーフループを経て、再び翔鶴隊のキャノピーは下、海側を向いている。
そこから、斜め前方に鳳翔隊が見えた。

翔鶴(艦攻隊の到着迄、削れるだけ削ります……!)

機首を上げて下降、加速。
翔鶴の操る機体が、高空から鳳翔隊に猛然と襲いかかろうとしていた。

453: 2015/05/21(木) 18:47:00.08 ID:9gXipQ/IO


上を取られた鳳翔は、眉を潜める。

鳳翔(……不利ですね……ループして再びヘッドオンに持ち込みたかったのですが……)

ループの頂点で背後を確認して、敵機がターンに入っているのは確認出来た。
だが鳳翔には、敵に追随して高度を上げる為の速度が足りなかったのだ。
無理に上昇すれば、待っているのは失速だ。
仕方無しに速度を取る為、鳳翔は下降を続ける。

鳳翔(こちらの速度が足りていなかった……
彩雲の処理がもう少し早く出来ていれば……いえ、編隊を連結したのが良くなかった……?)

しかし、それらを今悔やんでも仕方がない。
鳳翔は狙いを分散させ、翔鶴に負担をかける為に編隊を4-4-4機に分ける。

鳳翔(相手は上から突っ込んでくる……もう、うだうだ考えている余裕はありません!)

左の4機は左に、右の4機は右にそれぞれブレイク。

真ん中の4機は若干機首を下げて直進。
パッと見は敵の良いカモだが……

鳳翔(突き上げます……!)

454: 2015/05/21(木) 19:08:58.91 ID:9gXipQ/IO


翔鶴は相手が隊を3つに分割したのを確認、己の隊も4-4-4機に分けた。
右は右を、左は左を、それぞれの獲物を追う。
しかし。

翔鶴(……?真ん中の4機に違和感……?)

上空から高速で接近し、更に左右にも気を割いていた為、翔鶴は気付けていなかった。
その4機の機首下げに。

翔鶴(おかしい……!予想より速い!速度を稼いでいる?!)

翔鶴は攻撃のタイミングを迷った。その一瞬が、鳳翔隊の4機を生かす。
翔鶴は慌てて機銃を撃つが、弾は何もない空間をすり抜けた。

敵の射線を通り過ぎた鳳翔隊はエレベーターが悲鳴をあげるようなピッチアップ。
すれ違いざまに翔鶴機へと銃撃を行う。

翔鶴(上手い!ニアミス……!)

自機の直近を通り過ぎた銃撃に、冷や汗が流れる。

縦旋回して高度を回復しようとする翔鶴隊に、速度を得た鳳翔隊が追随した。
鳳翔隊がその軸線に再び翔鶴隊を捉えようとした瞬間、翔鶴は4機を更に1機ずつの4系統に分け、ランダムなブレイク。

ドッグファイトにおいて、お互いが急旋回を繰り返し、相手を自分の前に出そうとする泥沼のシザース戦の始まりだった。

翔鶴(……厄介な事になりました……!)

455: 2015/05/21(木) 19:15:14.26 ID:9gXipQ/IO



次第に航空機を運用し続ける疲労が頭に蓄積してくる。
嫌な汗が鳳翔の頬を伝う。

鳳翔(……よし……真ん中はなんとか拮抗させる事が出来ました……)

しかし、左右はそうも言っていられなかった。

鳳翔隊を眼下に捉える左右の翔鶴機が、攻勢に転じたのを感じる。

鳳翔(……!来ましたね……!)

翔鶴機は高度差を利用して急接近してくる。
それに対し、鳳翔隊は期を見計らった急旋回で逃れようとした。
しかし、翔鶴はそのブレイクを読んでいたかのように途中で下降を中止、再上昇し再び有利位置を取る。

鳳翔(ハイヨーヨー……!)

急旋回によって速度の低下した鳳翔隊に、タイミングを合わせた翔鶴機が再び襲いかかった。

鳳翔(不味い……!)

456: 2015/05/21(木) 19:18:39.79 ID:9gXipQ/IO
旋回を繰り返すには速度の足りていない鳳翔隊はダイブ。
追う翔鶴機。

放たれる機銃。
外れる。

鳳翔(スクリューで速度を落とす……?いや……
この位置取りで速度を落とすのは自殺行為……!
なんとか……なりませんかね……!)

鳳翔は斜め宙返りを目論んで機体を起こし、横滑りしながら45°バンクして旋回。
自機が一瞬敵の射線に出る。
すかさず放たれる機銃。
外れる。

鳳翔(くっ……左右とも完全に背後につかれている……!)

ループの頂点で逆方向へのターン、インメルマン旋回を試みる。
しかし振り切れない。
更に90°バンクしての急旋回。
追加のターン。
だが。

鳳翔(ぐうう……振り切れない……!)

鳳翔は旋回にバレルロールを組み込む。
機体をロールさせながら横にズレる機動。
軸線を避けながら減速する。
鳳翔はなんとかオーバーシュートを狙いたいが、翔鶴も同じくバレルロールで追従した。
距離は詰まらない。

鳳翔(……苦しい……)

繰り返す三次元的な回転に、目眩がする。
同時に真ん中の4機のシザースもこなさなければならないのだ。
多数対多数の空戦時特有の頭痛が激しくなる。

457: 2015/05/21(木) 19:30:01.34 ID:lGiG5nwK0



翔鶴(ピッチアップ!ラダーもっと……!)

ふーっ、ふーっ、と息が荒くなる。
頭が痛い。辛い。
だが、それは相手も同じだ。
辛いからと投げ出した方が負けるのだ。

バレルロールをしながらループを続ける鳳翔隊に必氏に食らいつく。
追い詰めてはいる……が。

翔鶴(なかなか当たらない……!)

要所要所で相手を射線に捉える事は出来るものの、中々有効弾は無い。
苛立ちが募り、集中力の減衰を自覚する。

翔鶴(そろそろ艦攻隊が到着する……時間がありませんね……かくなる上は……!)

覚悟を決め、翔鶴は真ん中でシザース戦を展開している4機を、敢えてその鳳翔隊の前に出した。
あくまで自然に。
まるで、操縦を間違えたかのように。

これは餌だ。
そして、賭けでもある。

翔鶴(乗ってこい……!)

458: 2015/05/21(木) 19:50:06.23 ID:lGiG5nwK0
鳳翔は瞬時に判断を下す。
真ん中の鳳翔隊は一瞬で翔鶴隊の背後を取った。
そして、左右の鳳翔隊はループの頂点で機体性能ギリギリの急ロールから、水平方向へ強烈なブレイクを行う。
恐らく、翔鶴の集中力が切れたと判断し、それに乗じての離脱を計ったのだろう。

同時に、翔鶴は、真ん中の自分の機が被弾している感覚を味わう。

翔鶴(乗ってきた……!)

悪くない。
これは鳳翔が今、そちらに気を取られている証拠だ。

翔鶴(……ここが、正念場ぁ……!)

鳳翔のブレイクに対して、翔鶴は。
敵の旋回とは、逆側へと。
バレルロールを繰り出した。

翔鶴(……誘う、バレルロール……!)

459: 2015/05/21(木) 19:56:04.05 ID:lGiG5nwK0



鳳翔(翔鶴が逆側にバレルロール……態勢を立て直すのでしょうか……ふぅ……)

鳳翔は、離れて行く翔鶴隊の機動を見て、気を緩めた。
気を緩めて、しまった。
その結果、鳳翔の意識は左右の飛行隊から一瞬離れる。

それが命取りとなる事も知らずに。

翔鶴の攻撃は、終わってなどいなかった。

460: 2015/05/21(木) 20:04:40.91 ID:lGiG5nwK0



翔鶴機が。
バレルロールの途中、開始から270°バンクした瞬間。
キャノピーは鳳翔隊の方を向いている。

翔鶴(今です……!上がれぇぇぇ……!)

翔鶴は自機すべての機首を無理矢理起こす。

艦載機にかかる8機分のGが、操縦者である翔鶴の脳に直接負担を掛けた。

翔鶴(ぁぁぁぁぁっ……!)

歯を食いしばって堪える。

翔鶴(フラップぅぅぅ……!)

更に旋回半径を短縮させる為に、ガンガンと鳴る激しい頭痛の中、込み上げる嘔吐感を抑えつけて8機のフラップを微調整する。

その努力は身を結び。

翔鶴は鳳翔隊のブレイクより、更に小さい旋回半径を実現した。
この旋回により、翔鶴隊は鳳翔隊は無防備な上面を翔鶴機の射線に長時間晒すこととなり。

翔鶴(……よし、よし、よし、よし!
合いましたぁっ……!)

照準は数瞬後の未来の敵機、その位置をきっちり捉え。
後は、射撃するだけ。

461: 2015/05/21(木) 20:09:10.76 ID:lGiG5nwK0


鳳翔は、己の艦載機が多数撃破されるのを感じた。

鳳翔(……やられた……!)

鳳翔は己の失策を痛感する。

鳳翔(逆側へのバレルロールで、減速しながらの強引な旋回……
あんな急に曲がれるんですね……)

自分は、真ん中における3機の敵撃墜に対して、左右で6機の被撃墜を食らった。
そして、更に2機が翼や発動機に被弾し、撃墜されつつある。

鳳翔(……真ん中に意識が行った、一瞬で……不覚……!)

そのうち被弾している2機も墜落するだろう。

鳳翔(ほぼ同数、ヘッドオンからのドッグファイトでキルレシオ0.5……これは……完敗です)

不利な状態だったとは言え、負けは負けだ。
悔しさにギリッ、と歯を噛みしめる。

462: 2015/05/21(木) 20:28:36.86 ID:lGiG5nwK0
その音が無線を通して聞こえたのか、提督が鳳翔に状況を確認した。

提督『鳳翔、状態はどうなっている』

鳳翔「……撃墜4、被撃墜8、です。……敵航空優勢」

提督『了解した。なんとか持ち堪えてくれ』

鳳翔「……はいっ……!」

……提督はこうなるのがわかっていて、足柄に水偵を上げさせなかったのだろうか。
水偵を上げている状態で鳳翔が劣勢になれば、敵は必ず水偵を落としにかかるだろうから。
鳳翔は、悔しさにうち震える。

だが、提督はそれを察したのか、言った。

提督『鳳翔、冷静な戦力の分析は勝つ為に一番必要な事だ。……信頼する事と、無責任に任せる事は違う。
そうだな?』

鳳翔「……はい」

自分は翔鶴より弱い。
そう言っている、一見冷たい言葉だが。
同時に、鳳翔を信頼しているとも言っていて。
ヒートアップしていた鳳翔は、一気に冷静になった。

自分が翔鶴に劣る事は、自分が一番よくわかっている。
ならば、今は最善を尽くすのみ。
ふぅ、と軽く呼吸を整え、気持ちを切り替える。

提督『他三名は引き続き周囲の島の上に目を光らせろ!敵の航空優勢だ、低空侵入で仕掛けて来るぞ……対空砲火用意』

気分転換のお陰か、鳳翔の艦載機は4機が翔鶴隊からなんとか逃れ続けている。

しかし、味方の戦闘機が居ては、流れ弾を恐れて対空砲による支援も難しい。
この対空砲は、敵攻撃隊本隊の迎撃用だ。

足柄「了解」

榛名「了解」

雷「了解」

足柄達は、味方が撃破されているのを知りながら、それに目を向ける事すら出来なかった。

463: 2015/05/21(木) 20:29:14.05 ID:lGiG5nwK0



翔鶴「コマンド、翔鶴!
航空優勢確立、オーバー!」

空戦がひと段落した翔鶴が、興奮したまま無線に叫ぶ。

太郎『翔鶴、コマンド。艦攻隊の位置を報告せよ、オーバー』

翔鶴「コマンド、翔鶴!
敵艦隊までの距離3000!島の裏側から低空飛行で接近中、オーバー!」

太郎『翔鶴、コマンド。
良いぞ。敵の艦戦を釘付けにしたまま艦攻隊を突入させろ。オーバー』

翔鶴「翔鶴、了解!艦攻隊、島を越えます!」

480: 2015/05/23(土) 22:12:55.78 ID:a1Zf4IAM0



それを最初に見つけたのは足柄だった。

今日は快晴だ。燦然と輝く太陽の光を、揺れる海の水面はよく跳ね返していた。
もし演習など無ければ、浜辺に繰り出したい、そんな天気。

太陽の反射光が目を焼く。
残光が視界の邪魔をする。
それでも。
チラッと、視界の端、ほぼ水平線上で一瞬、太陽光では無い何かがキラキラと光ったのを。
足柄の研ぎ澄まされた感覚は取り逃さなかった。

距離3000以上先の平坦な島の上、あまりに遠く、小さい。
故に形は見えないが、経験からあれが何かは、わかる。
あれは、プロペラの反射光だ。

呟く。

足柄「……ペラが光った」

榛名「……?」

足柄「敵襲!方位0-7-0、距離3000、島の上空低高度にプロペラの反射光を多数確認!攻撃許可を要請!」

足柄は部隊に告げながら、島に狙いをつけたーー対空砲でなく、主砲で。

481: 2015/05/23(土) 22:14:51.73 ID:a1Zf4IAM0
足柄の艤装は、装着者の意思に呼応するように唸り、弾薬庫から演習用砲弾と装薬を、艤装左右の主砲塔4つへと供給する。
同時に砲の尾栓が開き、揚弾された砲弾と装薬をラマーがチャンバーに叩き込んだ。

提督『攻撃を許可する』

足柄の判断を信頼した躊躇の無い認可と、同じタイミングで砲塔の尾栓が閉まる。
20.3cm砲のチャンバーが、ガギン!と完全に閉鎖された。

足柄「主砲射撃準備良し、撃方始めぇ!」

足柄はグッと腰を落とし、砲塔の射撃によるトルクの発生に備える。

瞬間、装薬の起爆。

チャンバー内で生じた凄まじい圧力に、
ギャリギャリギャリギャリ!と砲弾が砲身のライフリングと摩擦を起こしながら回転飛翔。

果たして砲塔の先から放たれるは、足柄の身長以上もある爆煙、耳をつん裂く轟音、そして、8つの弾頭。

それらの砲弾は、翔鶴の艦載機が越えようとする島へと、ほぼ一直線を飛び。

流石に艦載機には当たらず、地形に着弾する。

作動する信管。

炸裂。

訓練用の弾薬は、大規模な爆発を起こす代わりに、島の斜面を抉りながら、蛍光色の液体を周囲にばら撒いた。

482: 2015/05/23(土) 22:17:43.94 ID:a1Zf4IAM0
ところで、訓練用の砲弾は信管作動時に炸裂するが、中身は爆薬では無い。
代わりに蛍光色で粘度の高い、非殺傷性の流体を搭載している。
それは実際の砲弾と同等の効果半径を持ち、範囲内の物体に付着する。
一度付着すれば、粘度の高いそれは、実際にダメージを受けたかの様に艤装の動きを阻害するのだ。

演習時の轟沈・大破判定はこれを基に、艦娘の頸椎付近に取り付けられた判定機によって行われる。


またこの液体は、艦載機に付着するとその比重から操縦を著しく困難にする。
あたかも被弾したかのように。

低空飛行が災いし、翔鶴隊数機が、巻き上げられた土や、飛び散った液体を喰らって落ちた。

483: 2015/05/23(土) 22:18:23.86 ID:a1Zf4IAM0
榛名「えっと……何にも見えないんですが……」

榛名には砲弾の炸裂しか見えていないらしく、懐疑的な眼差しで足柄に聞いた。

足柄「あなた少し目が悪いわね?
良いから撃ちなさい!
あっこに居るのよ!目の前の地面を抉るの!」

足柄はその疑念を一蹴し、指示を出す。

榛名「……ええい!わかりました!
榛名、火器管制、主砲装填!
射撃態勢よし、撃ちます!」

雷「雷、主砲装填、射撃準備良し!」

榛名に続き、雷も主砲の射撃を行う。
目標の島で、しばらく小規模な爆発が繰り返された。

484: 2015/05/23(土) 22:19:36.01 ID:a1Zf4IAM0
………
……



隼鷹「……鳳翔さんが……負けてる……?」

北上「だね。ま、防衛戦なんてそんなもんだ」

大井「……」

北上「しかし足柄さん、すげぇ目ざといなぁ。マジで編隊の先頭が島のテッペン越えた瞬間に見つけるんだもん。
お陰で翔鶴隊はまともに攻撃食らっちゃってるよ」

大井「早期発見から、攻撃開始までがまた早かった……これは流石と言わざるを得ないわね」

隼鷹「……でもなんで主砲撃ってんだ?当たんないんじゃね?」

北上「落ち着いて考えるんだ、隼鷹っち。見えるか見えないか、そんなサイズの相手に機関砲撃ったところで当たらないよ」

大井「それよりも地面を撃って、土を巻き上げて相手の視界を塞いだ方が落ちるでしょ?
……あなたも空母ならそのうち体験する事になるわ」

隼鷹「うへぇ……」


……
………

485: 2015/05/23(土) 22:26:22.35 ID:a1Zf4IAM0



翔鶴(目が良いですね……対応も早い……しかし、損害はたかが4機。
このまま、押し切ります!)

翔鶴の口角が吊り上がり。
44機の編隊を4機ずつの11系統に分割する。

翔鶴(ふふふ……)

現在の総合操作系統は15。
これは、決して多い数字ではないが、翔鶴の今の能力的には、ここらが限度だ。

正規空母に限らず、軽空母でも翔鶴より操作系統数が多い者は沢山居る。
そんな翔鶴が何故、最前線で戦果を挙げ、士官の寵愛を受けているのか。

その理由がここにあった。

翔鶴(これ……これよ……!
艦攻による攻撃……ゾクゾクするわね……!)

依然艦載機による頭痛は続いている。
が、今は高揚感がそれに勝っていた。
既に編隊は島を越え、海の上を低空飛行している。

空母によっては、ドッグファイトに魅入られ、取り憑かれたように空戦を繰り返す者も居る。
しかし翔鶴は、そのクチでは無かった。

486: 2015/05/23(土) 22:27:29.70 ID:a1Zf4IAM0
翔鶴(どこまで機体高度を落とせるか……)

翔鶴は更に高度を落とす。

翔鶴(もっと低く……もっと……!)

遂に、回転するプロペラが、時折波の先端を叩く程にまで海面に接近する。
あと数センチ下降するだけで、あるいは少しでも高い波があるだけで、機体は海にさらわれ、編隊の大多数が失われるだろう。

それでも落ちない。
翔鶴にはセンスがあった。

翔鶴(うふ、うふふふふふ!
紙一重の領域で、私は今!
生きて、いる……!)

深淵に片脚を突っ込んで、嗤う。

通常、艤装の砲塔は下を向かない。
そして、艤装自体が水平を保とうとする性質がある為、水平より下の標的を狙うのはかなり難しくなる。

つまり、低空飛行は敵の対空砲火を躱す有効な手段だ。
更に低空飛行時の危険を減らす為、鳳翔の直掩機を削る必要があった。

487: 2015/05/23(土) 22:28:02.96 ID:a1Zf4IAM0
しかし、翔鶴にとって、最早この低空飛行はただの回避行動ではない。

破滅の境界線。
それの綱渡りに翔鶴は興奮を覚えていた。
そして、その興奮は、信じがたいほどの集中力を翔鶴に与える。

敵は既に機関砲による対空砲火に切り替えてきている。
張られる弾幕に、既に数機が犠牲となる。
が。
依然として40機弱の艦攻が敵めがけて進んでいた。

翔鶴(さぁ……さぁ……さぁ……!
当て辛いでしょう……?!)

艦攻、艦爆による攻撃こそが翔鶴の真骨頂。
華々しい空戦など、翔鶴は求めていない。
求むは撃破数ただ一つ。

敵までの距離、2000。

488: 2015/05/23(土) 22:28:52.61 ID:a1Zf4IAM0



足柄「ああもう何アレ?!水面滑ってんじゃないの?!」

翔鶴の極端なシースキミングに足柄が呻く。

榛名「マズイですよ……!このままだと仰角が……!」

雷「既にマズイわよ……!高角砲がもう当たんないんだけど?!」

足柄「奴らの前の海面、機関砲で叩いて!操作ミスを誘うのよ!あんだけ低けりゃ、水柱でビビるわ!」

榛名「了解です!」

雷「了解!」

足柄「それと、一応聞くけど、鳳翔、応援回せる?!」

足柄が叫ぶ。

鳳翔「無理です!自分でなんとかなさって下さい!」

鳳翔は足柄の顔を見ずに応じる。
ここに来て、更に動きが鋭くなった敵艦戦からの逃避に鳳翔は手いっぱいだった。

足柄「ですよねー!」

榛名「くっ……中々落ちない、当たらない……!」

雷「18戦隊の正規空母は伊達じゃないわね……!」

足柄「もうすぐ距離1000切るわよ!切ったら打ち合わせ通りの回避航行、良いわね?!射線被らないように!」

榛名「了解!」

雷「わかってるわ!」

足柄「皆、ここが正念場よ!気合い入れなさい!」

足柄が叫んだ時点で、翔鶴航空隊との距離、1500。

489: 2015/05/23(土) 22:31:05.84 ID:a1Zf4IAM0
………
……



北上「うっはー!相変わらず翔ぴーの艦載機はひっくいなー!これ水に浮いてんじゃないの?」

大井「ほんとにいつ見ても危ういわね……ちょっと波が来たら終わりよあんなの……」

北上「いやぁ艦攻の操作、上手いねぇ、翔ぴー」

大井「でも、いつもは艦爆よね。反跳爆撃って言うんでしたったけ、アレ。水面跳ねるの」

北上「そだねぇ」

隼鷹「……皆……」

そして。
遂に。
艦攻隊とサセン隊の距離、1000。


……
………

490: 2015/05/23(土) 22:32:33.18 ID:a1Zf4IAM0



超低空飛行の艦攻。
その目の前の海面を敵の砲が叩き、水面がせりあがった。

しかし、翔鶴の集中は乱されない。艦攻は躊躇なく水柱の中を突っ切る。

無論、抜けれずに水に沈む艦攻もある。破片が命中して、速力の低下した機体も多い。
が、既に彼我の距離は1000。
敵の迎撃限界ラインを超えている。
これ以降の攻撃は無いと見て良いだろう。
その証拠に、敵は既に散開して防御機動を取り始めていた。

翔鶴(うふふ……仕掛けますよ)

攻撃的に嗤う。
36機の艦攻は12-12-6-6の編隊に別れ、魚雷の投下態勢に入った。

491: 2015/05/23(土) 22:33:02.54 ID:a1Zf4IAM0
翔鶴「艦載機通報。魚雷投下、魚雷投下」

距離が500を切り。
水面スレスレの艦載機から放たれた魚雷は極めて静かに入水し、殆ど狙い通りの軌道を描く。

足柄へ10発。
榛名へ12発。
鳳翔、雷へは5発ずつ。
若干の魚雷が脱落したものの、処理能力を超えた数がサセン隊に襲いかかる。
それらは、扇状に、進路を塞ぐように進む。

翔鶴(イイ感じ……これは当たるわ……!)

雷撃効果判定を、上空で空戦を続ける艦戦に任せ、艦攻は高度を上げて旋回、南東へと離脱を開始する。
今なら相手は魚雷の対処に追われ、高度を上げても撃たれることは無い。

翔鶴(うふふふ……!皆さん……私のスコアに、なって?)

翔鶴の表情には、普段見せる事の無い攻撃性が宿っていた。

492: 2015/05/23(土) 22:34:16.49 ID:a1Zf4IAM0



足柄「各員回避ー!」

足柄が焦った声で号令をかける。
が、雷は対極の精神状態にあった。

雷(……たった5発?ナメてんのかしら)

既に魚雷は見切り。
雷は他の三人に目をやる。

雷(鳳翔さんは……空戦してるし……多分一発貰うわね……
榛名さん……と足柄さんはもっとヤバい)

特に榛名は12発もの魚雷を撃たれており、必氏に回避行動を取ってはいるが、2,3発被雷するのは目に見えていた。

雷(……仕方ないわね。この雷様にこんな事させるなんて……
あなたの頼みだから、特別なんだからね?)

そう心の中で呟き。
雷は瞬時の判断で榛名に接近する。

榛名「雷さん?!」

榛名が驚愕するが、無視してその前に出た。

見えるのは目前に迫った魚雷。
当然、被雷する。
右足の脚部艤装で小規模な爆発が起こり、訓練用の液体が飛び散る。

雷「うえ……」

付着したベトベトに嫌そうな顔をしつつ、雷はそのままもう一発魚雷を受けた。
今度は反転し、左足で。
またもや飛び散る液体。

榛名「雷さん?!大丈夫ですか?!」

雷に庇われたお陰で被雷しなかった榛名が声を上げる。

雷「大丈夫、まだ大破判定よ」

片脚ずつ受けたからね。
そう、雷は落ち着いた声音で返し、チラリと足柄の方を見る。

493: 2015/05/23(土) 22:35:12.44 ID:a1Zf4IAM0
足柄は魚雷の速度と角度を把握し、未来予測していた。

翔鶴の魚雷は鋭い。
普通に旋回していては被雷する。
だから、艤装が水面に触れるか触れないか、ギリギリのラインまで身体を倒す。
更に足を外側に蹴り出せば、それは凄まじい角度の急回頭。
絶妙なバランスの上に成り立つそれは、少しでもバランスを崩せば艤装が海面に触れて。横転する危険を孕んでいる。
それを恐れず、足柄は冷静にバランスを取り続けた。

しかし、それでも。

足柄「……一発は貰うか……!」

どう考えても避けれない魚雷がある。
舌打ちして、足柄は一気に身体を起こし、姿勢を低くして被雷に備えた。

そして、衝撃。

494: 2015/05/23(土) 22:36:25.40 ID:a1Zf4IAM0
………
……



北上「うっひょう!やるぅ翔ぴー!」

大井「艦隊が出会う前から大破1、中破2……これはかなり決定的じゃないかしら……」

隼鷹「……くそぅ……」

北上「速力も低下してるしねぇ。提督不利だねぇ。翔鶴は第二次攻撃も出来る訳だし」

隼鷹「だぁー!アタシが出れたらなぁ!」

北上「ほほぅ。艦攻を落とせると?」

隼鷹「そうだぜ!こう、バババババってな感じで……」

北上「ふっふっふ……そう思うじゃん?」

隼鷹「おおん?」

北上「前に演習した相手の空母が言ってたけど、怖いらしいぞぉ翔ぴーのケツにつくの。
なんせあんだけ高度低いからな。艦戦って艦攻より下が見えないんだろ?」

隼鷹「……」

大井「艦攻には後部銃座もあるわ。真後ろにつくしかないけど、真後ろについたら撃たれる。
それを避けようとすると、海に墜落、ってな感じね。
落とすのは簡単じゃ無さそうよ」

北上「翔鶴のシースキミングは……芸術だぜ?」 ニヤリ

隼鷹「……ぐぬぬ……」

北上「はぁーっはっはっはぁ!どうだ!まいったか!」


……
………

495: 2015/05/23(土) 22:37:05.42 ID:a1Zf4IAM0



翔鶴「艦載機通報。
攻撃成功、攻撃成功。ウィンチェスター、RTB」

太郎「翔鶴、コマンド。攻撃報告を求む、オーバー」

翔鶴「コマンド、翔鶴。敵駆逐艦大破、空母・重巡中破。艦載機による追撃も無し」

太郎『翔鶴、コマンド。素晴らしい、流石は私の空母だ』

愛しの人に褒められて、先程までの攻撃的な嗤いは鳴りを潜め。
代わりに、翔鶴はとても嬉しそうに微笑んだ。

しかし、すぐに切り替える。
まだ演習が終わった訳では無いのだ。

翔鶴「翔鶴より通達。
敵艦隊上空で確認出来た敵航空隊は一隊のみ。
別働隊が奇襲を仕掛けてくる可能性があります。艦娘各位は上空に十分留意して下さい」

金剛「Roger」

496: 2015/05/23(土) 22:37:50.40 ID:a1Zf4IAM0
摩耶「……しっかし、敵はもう半壊かぁ。こりゃまた出番無しかな?」

摩耶が不満気にボヤく。

陽炎「気を抜いちゃダメよ、摩耶。榛名さんは無傷なんだから」

摩耶「……それもそうか」

頷いて、摩耶はガツン!と拳を打ち合わせ、気合を入れた。

翔鶴「(……問題はそこですね。雷さんが予想外の動きで榛名さんの盾に……)
……まぁ、艦攻隊の補給をして、第二次攻撃でカタが着くでしょう」

翔鶴も、太郎に褒められた時の笑顔のままに応じた。

そんな艦隊を金剛が諌める。

金剛「Hey girls、私語は止めるネ。いくら優勢だからって気を抜き過ぎダヨ」

太郎『その通りだ。まだ演習は終わっていない。気を抜くなよ』

翔鶴「はい!」

しかし、勝っている時に気を抜くな、と言われても、そうするのは難しい。
たとえ気を抜いていない、と思っていても、どこか浮ついてしまうのだ。

それがわかっているからこそ、金剛は自分がしっかりしなければ、と気を引き締める。

497: 2015/05/23(土) 22:38:29.00 ID:a1Zf4IAM0



提督『サセン島防衛隊、被害報告』

足柄「あー……食らった食らった。中破判定よ。速度もおっそいわ」

足柄が液まみれになりながら言う。

榛名「榛名は無傷です……雷さんに守って頂いて……」

雷「その私は大破よ。もうベトベト」

鳳翔「私は中破です……が、甲板は無事です。艦戦も4機、残りました」

提督『把握した。全員、よく耐えたな。雷は良い働きをしてくれた』

雷「当然よね!私が悪い働きをする訳が無いんだから!」

胸を張る雷。

提督『飛行甲板も無傷の戦艦も残った。良いぞ、勝負はこれからだ』

鳳翔「はい」

榛名「はい!頑張りましょう!」

498: 2015/05/23(土) 22:39:24.26 ID:a1Zf4IAM0
足柄「ったり前よ……髪までベタベタなのに……やられっぱなしで黙ってらんないわ」

足柄が文句を言いながら南東の空へと目をやる。

足柄「……ふん。榛名、見なさい、アレ」

離れ行く翔鶴隊を指差す足柄。

榛名「編隊も組まずにふらふらと帰還してますねぇ、敵の攻撃隊。
ね、雷さん」

もう、と言った様子の榛名。

雷「あらあら。敵さん、もう勝ったと思ってるようね、提督?」

ニヤリと不敵に笑う雷。

提督『ほほう。
それは大変だ。なぁ、鳳翔?』

余裕のある調子の提督

鳳翔「……ええ」

最後に、鳳翔はニコリと微笑む。






鳳翔「……教育が、必要ですね」




赤城「……さて、と」提督「昔話を、しようか」【6】

499: 2015/05/23(土) 22:43:21.01 ID:a1Zf4IAM0
ここまで


まだ演習の半分くらい……
今週は忙しいのでペース落ちると思います
ゆったり読んで頂ければ幸いです

引用: 【艦これ】赤城「……さて、と」提督「昔話を、しようか」