598: 2015/05/31(日) 23:24:19.96 ID:1MAWl3G60


前回:赤城「……さて、と」提督「昔話を、しようか」【6】
この章の初め:赤城「……さて、と」提督「昔話を、しようか」
最初から:提督「…さて、と」




金剛がいきなり振り向いて。
砲撃された。

榛名「……っ!」

それは、輪形陣へ突入するつもりだった榛名の虚をつく形となり。

ドン!

上がる水柱。
直撃弾は無し。
金剛の砲撃は、急回頭に伴う慣性力により狙いが狂ったのだ。

しかし、至近弾は榛名の体制を崩す。
お陰で、榛名はスムーズに射撃姿勢への移行が出来なかった。

榛名(やりますねぇ……)

ストレスを与えつつ、目の前に脅威をぶら下げて。
更に、敢えて反撃を貰うことで意識を完全に釣り上げる。
鳳翔主導の、上手い陽動だった。

にも関わらず、まるで榛名の存在がわかっていたかのような、振り向きざまの攻撃。
「艦これ」ピクトリアルモデリングガイド 大和編: 『艦これ』提督のための艦船模型ガイドブック

599: 2015/05/31(日) 23:25:41.05 ID:1MAWl3G60
榛名(運が良い……というのは過小評価ですね。
読まれましたか)

舌打ち。

金剛が再装填し、狙いをつけようとしている。
目の前に、金剛の砲撃を避け、膝立ち状態の摩耶も居て。
その摩耶もまた、すぐにでも動き出せる状況の中、砲を構えようとしていた。

対空砲火に勤しむその他の二人も、榛名の存在は把握している。

榛名(不意打ち失敗……
何か対策を講じねばなりませんね)

これが実戦ならば榛名は艤装の砲塔等、機関部以外の部位を全てパージ、身軽になって格闘戦を挑むが……

榛名(訓練で艤装を海中投棄するのはご法度ですし。サルベージが大変ですから……)

四門の主砲が重い。
動きが鈍重にならざるを得ない。

榛名(……せめて格闘戦が許可されていれば……)

眉をひそめる。

訓練用の砲弾がある砲撃戦とは違い、格闘戦では訓練でも普通にダメージが入る。

実戦では格闘戦がある程度有効な為に、訓練としての格闘戦を禁じる規則は無い。
しかし、特に最前線の部隊は損害を嫌って、格闘戦を行わない事を不文律としている。

不文律と、している。

格闘戦を禁じる規則は無い。

格闘戦は、起こりうる。

榛名(……)

600: 2015/05/31(日) 23:26:45.98 ID:1MAWl3G60
榛名は、英雄提督の忠実な僕だった。
理性がある以上。
たかが演習で暴走し、提督の信頼を失う訳にはいかない。

が。

榛名(……私の)

大切な男の名誉が失われる事を、榛名の心は許さなかった。

榛名(私の私の私の提督が……18戦隊?なんて……
聞いたこと無いような部隊にぃ……
負ける事は……この私が許しませんよ……)

しかし。
ここで自分が敵を撃破出来なければ負けるだろう。

思考する。

榛名(摩耶さん……
応接室で、好戦的な視線を私に向けていましたね……)

金剛との会話を思い出す。

榛名(最近珍しい近接武闘派、らしいですね……
でも、実戦経験は浅そう。
そして同僚との仲も良い……)

薄ら笑いを浮かべながら出した結論は。

榛名(……取り敢えず煽ってみるか)

601: 2015/05/31(日) 23:27:44.51 ID:1MAWl3G60
どうせ自分の体勢は崩れている。
砲撃は止めだ。

そう決めると、榛名は前のめりのまま、摩耶に向かって全速力を維持して突っ込む。

摩耶「……!」

摩耶も反応する。
この重巡もまた砲撃を断念し、位置取りに専念するようだ。
再装填を終え、左前方で砲を構える金剛の射線を考慮し、前に出る榛名の右から背後へ抜けようとする。

が。

その程度の動きが予想出来ない榛名ではない。
榛名は既に右寄りの針路を取っていた。

摩耶が顔を顰める。

結果。二人は交差地点で、艤装が接触する程に接近。

交錯の瞬間。
榛名は勢いよく右手を振り上げた。

摩耶は防御のため、慌てて顔の前で腕を交差させる。

しかし。
榛名は、果たして右手を挙げただけであった。

602: 2015/05/31(日) 23:31:02.07 ID:1MAWl3G60
摩耶は腕を交差させたまま、榛名の右腕の下を、間抜けに通り過ぎる。

攻撃する代わり。
榛名は、すれ違い様に。
無様な摩耶を鼻で笑った。

部隊間、司令官同士の関係に気を遣った、最低限の煽り。

だが。
たったそれだけの事が。
摩耶の目を大きく見開かせた。

そんな摩耶の様子を目の端に捉えつつ、榛名は針路を変えた。

その先には陽炎。
被弾し、弱っている駆逐艦だ。

榛名は、金剛すら無視し。
摩耶に見せつけるように砲を構える。

フリをした。

603: 2015/05/31(日) 23:32:42.43 ID:1MAWl3G60



金剛(摩耶が射線から抜けた……貰ったわ、榛名!)

ニヤリと笑う金剛がいよいよ砲を放とうとする。

金剛(狙いは陽炎?この状況で私を無視するとは、いい度胸ね……!)

最早、砲が外れる距離ではない。
艤装の砲塔、その栓尾に火を入れようとした、その瞬間。

摩耶「撃たせねぇぇぇ!」

摩耶が、榛名に背後から殴りかかっていた。

金剛「What the……
Fuck 摩耶……!
Get the hell out of there!」

味方の乱入で、主砲を撃てなくなった金剛が叫ぶ。

604: 2015/05/31(日) 23:33:17.92 ID:1MAWl3G60
摩耶「んな事してたら陽炎が撃たれるだろうが!」

負けじと摩耶も叫び返す。

金剛(何故?!さっきまで格闘戦に持ち込む気配は無かったのに……!
今、今、撃てていれば確実にもっていけた……!)

金剛は地団駄を踏みたい気分に駆られた。

が、摩耶は摩耶で頭に血が昇っていて。

摩耶(この野郎……!
アタシを、馬鹿にしやがって……
金剛も、陽炎をダシに使うような真似は気持ち良くねぇよ……!)

すっかり榛名の術中に嵌り、摩耶は拳を構える。

摩耶(つまりアタシがケリをつければ良いだろ!
魚雷か何だか知らんが、ぶっ倒してやらぁ!)

狙うは榛名の脊椎付近にある、判定装置。
これを破壊すれば、自動的に轟沈判定となる。

摩耶「シッ……!」

放つ、渾身の右ストレート。

605: 2015/05/31(日) 23:34:27.59 ID:1MAWl3G60



雑魚が掛かったぞ。
榛名はほくそ笑む。

なんと仲間思いで。
なんと御し易い艦娘か。

榛名は、摩耶の右ストレートを艤装で受けた。

ガゥン!

軋む砲塔。
歪む艤装。

榛名「きゃ……!」

わざとらしく声を上げる。
無線がその声を拾うように。

鳳翔の艦攻からもその光景は見えていた。

鳳翔『こちら鳳翔。摩耶さんが榛名さんに格闘戦を……!』

少し焦ったような報告。

提督『何っ?』

提督が驚く。

鳳翔『榛名さんからは攻撃を行ってません……
こ、このままでは……!』

事実、摩耶に向き直った榛名は、摩耶の怒濤の攻撃を受けていた。

素手の攻撃は、面積が小さく。
ガードが難しい。
それ故に、拳が当たる。

606: 2015/05/31(日) 23:36:25.62 ID:1MAWl3G60
榛名「て、提督ぅ……あうっ」

保護欲を掻き立てるような、甘える声で呼び掛け。

榛名は、致命的な技だけを防ぎ、避け、提督の許可を待つ。
格闘戦の許可を。

摩耶「喋くりたぁ、悠長だな、ええ?!」

摩耶は攻勢を強めた。

榛名「くっ……!」

なんとか捌く。

鳳翔『提督……!』

榛名と摩耶は密着している為、攻撃機による援護も難しい。

提督は判断を迫られていた。

榛名を信用していない訳ではない。
訓練でも暴走する事は無く。
何より、本土で黒提督を殺さなかった。

過去に暴走した際も、榛名が艦娘を殺害した事はない。
故に、提督は榛名が艦娘を殺害する事は無いだろうと踏んでいた。
だが……

607: 2015/05/31(日) 23:36:53.76 ID:1MAWl3G60
提督(……太郎くんのとこの新人と、榛名を闘わせて良いのか?)

殺害する事は無いだろうが、それでも。

榛名『痛いっ!……てい……とくっ!』

無線から聞こえる、悲痛な榛名の声。
榛名の猫被りを看過できない提督では無い、が。
心を動かされない訳では無い。

決断する。

提督『……くれぐれもやり過ぎるなよ、榛名』

提督は仕方ない、と溜息と共に告げて。

榛名「……ありがとう、ございます」

榛名の口元は歪に吊り上がる。

608: 2015/05/31(日) 23:37:26.72 ID:1MAWl3G60



摩耶(防戦一方かよ……!)

自分の有効打が無い事に苛立つ。

摩耶「口程にもねぇなぁ、オイ!」

榛名「……」

摩耶(埒があかねぇ……投げるか)

摩耶は更に距離を詰める。

右の中段正拳突き。

防がれるが、無論それを読んでの事だ。

摩耶(貰うぜ右手……!)

摩耶は、左手を伸ばす。
その手は、ガードの為に上がった、榛名の右手首を掴み。
引き寄せる。

609: 2015/05/31(日) 23:37:58.64 ID:1MAWl3G60
榛名「わ……」

前のめりになる榛名。
その襟元が空いた。

どう投げる?
腰で投げるには艤装が邪魔だ。
……大外刈りで後頭部から落としてやろう。

摩耶(決まりだ)

榛名は今、体勢を崩しているように見えた。

今のうちに釣り手をとるべし、と榛名の空いた襟に右手を伸ばす。

誘われている事に気付かずに。

610: 2015/05/31(日) 23:38:32.76 ID:1MAWl3G60



榛名はバランスを取るのが得意だった。
敵からは、榛名がバランスを崩しているように見えても、それはフェイントである事が多い。

摩耶も、そのフェイントの餌食となった。
彼女の右手が伸びてくるのが榛名には見えている。

榛名(やりますか……)

自分の右手は掴まれて動かせないが、左手はフリーだ。

襟を狙いに来ている摩耶の右掌を、その左手で掴んだ。

611: 2015/05/31(日) 23:42:07.99 ID:1MAWl3G60
摩耶「……?!」

榛名がバランスを崩していると誤解していた摩耶は、予想できなかった動きに驚愕する。

榛名は顔を上げた。

摩耶と視線が合う。

榛名は歪んだ笑みを見せ。

戦艦の圧倒的な膂力から。
摩耶の右掌を握り潰した。

グチャッ。
ボキボキボキボキ。
と、嫌な音がする。

摩耶「あがっ……!」

激痛に、摩耶の顔が引き攣り。
堪らず榛名の腕を掴んでいた左手を離し、相手を突き飛ばした。
榛名も摩耶の右手を離し、五指と掌の骨をへし折られた手が露わになる。

唇を噛んで痛みに耐える摩耶へ。
両手がフリーになった榛名は追撃を仕掛ける。

612: 2015/05/31(日) 23:43:10.22 ID:1MAWl3G60
摩耶「……畜生……!」

摩耶は榛名の接近に合わせ、榛名を引き離す意図で、左の正拳突きを放つ。

が。

榛名は下がらず。
逆に前へ出ながら左腕でそれを受け。
更に体幹を思い切り左に捻る事で、打撃をいなした。

榛名の流れるような動作により、摩耶は腹部がガラ空きになる。

摩耶(やっべ……)

摩耶の意識は危機を認識するが、左腕は榛名に流され、伸びきっている。
右手に至ってはうまく動かず。
ガードが出来ない。

そんな摩耶を尻目に。
榛名は、左に捩れた体を、今度は勢い良く右に捻った。
腰の回転が、腕に乗る。

そして。

榛名は。
猛烈な右裏拳を。
一切の容赦無く、摩耶の鳩尾に叩き込んだ。

613: 2015/05/31(日) 23:44:00.61 ID:1MAWl3G60
摩耶の鍛えられていた筈の腹筋は、スポンジのように凹み。

摩耶「ごぼっ……」

横隔膜がダメージを受け、呼吸が止まり。
摩耶の体がくの字に折れ曲がり、顎が前に出る。

その、顎を。

撃ち抜く榛名の左アッパー。

摩耶「ガッ」

摩耶は視界が真っ白になる。
脳が激しく揺さぶられて脳震盪を起こし、意識が混濁する。
自分が何処に居るのか、立っているのか、寝ているのかすら。
わからなくなる。

最早勝負はついた。

が、ここで榛名は終わらない。

一瞬で周囲を確認する。

614: 2015/05/31(日) 23:44:45.82 ID:1MAWl3G60
榛名(金剛さんは……私に狙いをつけたまま……
陽炎さんは此方をチラチラ見ながら対空砲火……
翔鶴さんは私を見る余裕は無さそうですね)

金剛は動けないでいた。

閉鎖機に弾を突っ込んだ状態で近接戦闘をすると暴発し兼ねない。
かといって、閉鎖機から弾を取り出すと、隙ができる。

が、榛名も動けない。
摩耶から離れた瞬間、金剛に撃たれる。

榛名(……誰も安易に動けない……ならーー)

ここで。
瀕氏の摩耶を、どう使うか。

榛名(ーーこいつを嬲るか)

決める。

理不尽な暴力が摩耶を襲う事が、決まる。

615: 2015/05/31(日) 23:45:31.73 ID:1MAWl3G60
榛名が繰り出すは下段回し蹴り。
最早抵抗出来ない摩耶の左膝が、曲がってはいけない方向に曲がる。
そのまま、ガクンと膝をつくように、前屈みになり。

差し出された頭を榛名は両手で掴み。
顔に強烈な膝蹴りをぶち込む。

鼻の軟骨が砕け、血が吹き出る。

顔面への膝蹴りによって摩耶の体が跳ね上がり、再び腹部が無防備に晒される。

そこへ、榛名は軽いワンツー。

苦痛から、摩耶の体が再びくの字に折れ曲がる。

差し出された後頭部をつかんで。
再び、顔面へと強烈な膝蹴り。
吹き出る血。

616: 2015/05/31(日) 23:46:18.75 ID:1MAWl3G60
終わらない。

反動で立ち上がる摩耶。
そこへ、胃の付近を右中段前蹴り。
蹌踉めいた所へ、左膝に下段足刀蹴り。
膝をつきそうになれば、顔面へ肘鉄。
後ろへ倒れそうになる頭を掴み、三度目の膝蹴り。

止まらない。

右脇腹へ中段足刀蹴り。
傾いた右側頭部へ上段回し蹴り。
脳天に鉄槌。
崩れ落ちる摩耶の顎に蹴り上げ。
ガラ空きの鳩尾へ、全体重を乗せた諸手突き。

摩耶が血の塊を吐いた。

617: 2015/05/31(日) 23:48:30.32 ID:1MAWl3G60
陽炎「嫌あああああ!
やめて、やめてよおおおおお!
摩耶が、摩耶が氏んじゃううううう!」

陽炎が泣き叫ぶ。

だが、榛名は底冷えのする笑いを浮かべたまま。
摩耶へと暴力を振るう。

悪鬼羅刹がそこに居た。

額への上段正拳。
空いた喉仏へと貫手。
咳き込む摩耶の胸骨への飛び膝。
落ちてくる顔面へと裏打ち。
股間を蹴り上げ。
上がってきた顎に頭突き。

陽炎「あああああ!」

ついに陽炎が、いたぶられる摩耶を見ていられなくなり、憤怒のままに榛名へと突っ込んで行った。

618: 2015/05/31(日) 23:48:59.75 ID:1MAWl3G60
金剛「No!陽炎!」

金剛の制止も聞かずに、猪突猛進に。

榛名は。
それを待っていた。

榛名は、別に好きで摩耶を嬲っていた訳では無い。
18戦隊は艦娘同士、仲が良い。
だからこそ、摩耶を餌にして。
次の獲物を釣り上げようと。
待っていたのだ。

陽炎「摩耶を離せええええええ!」

そうとは知らずに。
全速で、榛名の背後からタックルを仕掛ける陽炎。

陽炎が榛名の間合いに入った瞬間、榛名は摩耶への攻撃を止め。

全力の下段・右後ろ回し蹴りを陽炎へと放った。

陽炎「ーーばっ」

榛名の踵は、陽炎の艤装右舷をスクラップにし。
陽炎本体ごと、吹き飛ばした。
壊れた人形のように、すっ飛んでいく陽炎は。
背中から強かに、海面へと叩きつけられた。

639: 2015/06/01(月) 21:50:10.11 ID:gxK4/g3v0
陽炎「こひゅっ……」

肺と腰が圧迫され、息が出来ず。
立ち上がれない。
が、意識はあった。

榛名(……上手いこと仰向けに飛びましたね。良かった良かった)

うつ伏せの状態で立ち上がれなければ、呼吸が出来ずに氏んでしまう。
もしうつ伏せになったら、陽炎を抱き起こしに行かざるを得なかった。

榛名はそんな事を。

役目を終えた摩耶を裸締めで絞め落としながら、つらつらと考えていた。

榛名(金剛さんも翔鶴さんも、摩耶さんでは釣れなさそうですし。
摩耶さんのお仕事はここで終わりですね)

弱々しい抵抗が無くなり、摩耶が意識を失う。

そこで気付いた。

榛名(……あれ?これ意識無い艦娘って水面に置いといて大丈夫なんですかね?)

640: 2015/06/01(月) 21:51:19.48 ID:gxK4/g3v0
意識の無い艦娘が海上で姿勢を保つ事は出来ない。

榛名(大丈夫じゃないですよね……
摩耶さん溺れちゃうと不味いから……持っててあげないと……)

しくじりましたね、と小さく呟く。

実戦なら首の骨をへし折ってポイッと捨てる所だが、そういう訳にも行かない。

榛名(どーしましょ……)

困った。
金剛はまだ此方を狙っている。
翔鶴は鳳翔の艦攻を一手に引き受け、脚部艤装がほぼ働かなくなっていた。

その代わり、鳳翔の攻撃隊は魚雷を撃ちつくし、一旦補給に戻っている。

その為、今は翔鶴も弓で榛名を狙っていた。

榛名(うーん……動けない……
でも優勢ですし……
と、取り敢えず……降伏勧告でもしてみますか?)

グッと摩耶を抱き上げ、言ってみる。

榛名「こ、降伏しなさいー。
む、無駄な抵抗はやめるのです!」

返事の代わりに砲撃が飛んで来た。

641: 2015/06/01(月) 21:52:34.47 ID:gxK4/g3v0
………
……



北上「……」

大井「……」

隼鷹「……(やべぇ……お通夜ムードだコレ……)」

北上「……やべぇ……」

大井「……」

隼鷹「……うちの榛名がすいません……」

北上「……いやいや……摩耶から殴りかかってたし……」

大井「……そうね。
……と言うか、生きてるわよね?
摩耶の艤装のカメラ、レンズが血塗れで、何も見えないのだけど」

隼鷹「榛名は……頃しはしないぜ」

北上「……」

隼鷹「……たぶん」

北上「自信ないんかーい!」

大井「お、落ち着いて北上さん!ツッコミは貴女の仕事じゃないわ!」

北上「ハッ!アタシは一体何を……?」

隼鷹(別に大丈夫そうだなこの人達……)


……
………

642: 2015/06/01(月) 21:53:23.30 ID:gxK4/g3v0



摩耶と陽炎が二人、斃れ。
艦攻を一手に引き受けた翔鶴は中破。
速力が大幅に低下してしまって。

ただひとり無事な金剛は。

金剛(……総員、自覚が足りてない……)

ゲンナリしていた。

金剛(油断に命令違反に……
この私に、ケツを拭かせないで欲しいんだけど……)

第18戦隊が辺境の島の防衛隊に負ける。
あってはならない。

と、無線が入る。
激しい音が止み、戦闘が小休止に入ったと判断した太郎だった。

643: 2015/06/01(月) 21:54:21.78 ID:gxK4/g3v0
太郎『……金剛、コマンド。状況はどうなっている、オーバー』

全てを察した上で、太郎は聞いていた。

近接戦闘や航空戦闘中に無線通信を入れると、往々にして失敗が起こる。
攻撃隊を落とされた際の翔鶴が良い例だ。

艦娘達が必ず交戦前に許可を取る理由はそれである。
交戦中、艦隊と司令官は、お互いに一方的な情報提供を行う事のみに留めるのが普通だ。

だからこそ、現場レベルでの状況把握・即応が出来る旗艦の存在が重要なのだが。

金剛「コマンド、金剛。As you know sir.
We got 摩耶 and 陽炎 down.」

金剛は榛名から目を離さぬまま告げる。

太郎『……金剛、コマンド。了解した。二人の息は有るな?オーバー』

金剛「コマンド、金剛。Affirmative.」

是の意。

644: 2015/06/01(月) 21:56:32.64 ID:gxK4/g3v0
太郎『……金剛、コマンド。了解。……ならばまぁ、いい経験になったろう』

その言葉を聞いて、金剛はカッと頭に血が昇るのを感じた。

金剛(太郎さん的には、純粋に経験を積ませる目的なんだろうけど……
結果を見た上層部は、他の司令官は、提督は。
そうは思ってくれない……)

苛立つ。

金剛(……相手が提督だから、榛名が居るから、演習だから……勝てない?負けてもいい?
そんな物は、言い訳でしか無い。
如何なる敗北にも、価値は無い……!)

ギリッと歯を噛みしめる。

金剛(……今、あなたと相対している男は、どんな戦いにおいても妥協しなかったわよ、太郎さん……)

そんな折に、狙いをつけていた榛名が口を開いた。

榛名「こ、降伏しなさいー。
む、無駄な抵抗はやめるのです!」

645: 2015/06/01(月) 21:58:11.76 ID:gxK4/g3v0
それを聞いて。
プッツーンと。
金剛のこめかみに血管が浮かび上がり。

金剛「Engaging.」

金剛は摩耶ごと榛名を砲撃した。

榛名「ぎゃあ?!」

砲弾は摩耶に命中し、少なくない量の蛍光液が榛名にも付着する。

翔鶴「ちょ、ちょっと金剛?!」

翔鶴が抗議の声を上げた。
が。

金剛「Shut the fuck up 翔鶴.
摩耶 is dead and gone.」

冷たく。
黙れ、摩耶は轟沈した。
と告げた。
翔鶴が息を飲む。

金剛は翔鶴を無視して、榛名が体勢を崩している間に次弾装填。

646: 2015/06/01(月) 21:59:50.13 ID:gxK4/g3v0
呟く。

金剛「Surrender……?榛名、You're telling me to surrender……?」

降伏せよ?私に降伏せよと、言うのか?

無駄だから?
舐めるなよ。

カラカラと、金剛の喉から乾いた笑いが出て。
怒鳴る。

金剛「SILLY SILLY SILLY!
That was a good joke, 榛名!」

面白い冗談だと。

金剛「Am I going to surrender?
NO NO NO NO……!」

降参はあり得ないと。

二射目の装填が完了した。
発射する。

648: 2015/06/01(月) 22:06:51.27 ID:gxK4/g3v0
榛名「くっ……」

再び摩耶に着弾。
摩耶は既に蛍光液まみれだ。
榛名もかなり液を被り、判定は中破まで進行している。

榛名(もうちょい躊躇すると思ったんですけどね……!
せめて鳳翔さんの増援を待つ筈が……
あれ?もしかして私、人を怒らせる才能あります?)

馬鹿なことを考えている場合では無い。
このままではジリ貧だ。
金剛は再装填している。

その隙に、榛名は摩耶を盾にして金剛と翔鶴の射線を躱しつつ、前進を試みた。

榛名(距離を詰めたいけれど……
摩耶さん重っ……)

思うように速度が出ない。

モタついている間に、金剛の装填が終わり。
砲撃が来た。

これも摩耶で防ぐが、前に進んでいる分、被弾が増える。

榛名(チッ……大破判定……)

だが、金剛には十分近付けた。

榛名は金剛の顔に向けて摩耶を頭から投げつける。

これは衝突させるのが目的ではない。
氏角と、隙を作る為だ。

649: 2015/06/01(月) 22:11:18.08 ID:gxK4/g3v0
金剛「……!」

金剛は飛んでくる摩耶を見て、迷う。
目の前の摩耶を叩き落とすべきか、受け止めるべきか。

勢い良く叩き落とせば、その下の榛名も潰す事が出来るだろう。

逡巡する。

摩耶は意識が無いようだ。
それでも、演習弾は当たってもダメージが無い。
しかし、打撃はそうも行かない。
さらに、これを避けても摩耶は海面で頭を強打するだろう。

金剛「………………Fuck」

悔しそうに小さく呟き。

金剛は、大事な仲間を抱き止めるためにガードを捨て、腕を伸ばした。

それを見て、ほくそ笑む悪魔。

榛名(なんだかんだ言って……
受け止めようとするんですね。
摩耶さんが叩き落とされていたら、私の負けでした)

その優しさは、隙になる。
榛名は超低姿勢から、強烈な加速。
一瞬で金剛の懐へ潜り込んだ。

榛名(御免なさいね、金剛さん。
私、あなたの事、好きですよ。
でも、提督の方が……もっともっともっともっともっともっと大切なんです)

650: 2015/06/01(月) 22:12:59.74 ID:gxK4/g3v0
金剛が、摩耶を受け止めた瞬間。
榛名は金剛の腹へ、下から突き上げるような肘鉄を放つ。

速度の乗ったそれにより、金剛は苦悶の表情を浮かべ。
体がくの字に曲がり、摩耶を取り落としてしまう。

榛名は、意識の無い摩耶が水面に落ちないよう、左手で首根っこをキャッチしつつ。
金剛の首に右腕をかけた。

榛名「……勝利をーー」

一の腕と二の腕で、ガッチリ金剛の首を前からロック。
すっぽ抜けないように、メキッ、と金剛の首骨が軋む程の圧力をかける。

そのまま、後ろ蹴りで金剛の軸足を払いながら、一気に体を沈ませ。

榛名「ーー提督に」

投げた。

651: 2015/06/01(月) 22:14:39.10 ID:gxK4/g3v0
榛名の右上腕が支点となり。
金剛は綺麗に縦回転。

金剛が味わうは浮遊感。
キラキラと、太陽が照らす水飛沫が頭上に見えた次の瞬間。
背後から海面に叩きつけられる。

膂力に物を言わせた、首投げ。

金剛「ガッ……」

から、流れるように繋げた、裸締め。

投げ出されたばかりで、ガードも儘ならない金剛の首をギリギリギリと締め付ける。

だが、締める手が片手であるせいか金剛の意識は中々落ちず、苦しそうに暴れる。
しかし、ここで決着をつけたい榛名は、離さない。

状況は絶望的。

左手に摩耶を。
右手に金剛を。
抱える榛名の微笑みに。
翔鶴は邪悪を感じる。

652: 2015/06/01(月) 22:20:40.35 ID:gxK4/g3v0
翔鶴(……金剛が接近戦に敗れた以上、私が撃たねばなりませんね。
金剛をやらせる訳には……)

翔鶴は弓を構えているが、榛名は金剛を盾にするようにしている。
しかし、ここで金剛を喪失すれば、その時点で負けが決定する。

翔鶴「……金剛ぉぉぉぉっー!!」

何とか隙を作れないか、と。
弓を引き絞りながら、叫ぶ。

それに呼応して、金剛は苦しい中、脚部艤装の出力を全開にした。
しかし、金剛は榛名にバックチョークを極められている。
そんな事をすれば、より苦しくなるのは自明だ。

653: 2015/06/01(月) 22:21:51.33 ID:gxK4/g3v0
榛名「?!」

だからこそ、それは榛名の虚をついた。
腕が、金剛の首に深く沈む。
それにより体が引っ張られ。
金剛の陰に隠れていた榛名の頭が、弓の射線に晒される。

見えている部位は頭部のみ。
チャンスはこの一瞬だけ。

榛名と翔鶴の視線が交錯した、その瞬間。

翔鶴「頭一個。
……抜いて魅せる……!」

裂帛の気合いと共に、放つ。

果たして、訓練用の矢は。

翔鶴「ーー合いましたぁ!」

榛名の眉間を撃ち抜いた。

654: 2015/06/01(月) 22:23:18.16 ID:gxK4/g3v0
榛名「がっ……」

衝撃で仰け反り。
金剛と摩耶を解放する榛名は、判定機より轟沈判定を受けた。

金剛「ゴホッゲホッ……」

金剛は自分の加速で気管を傷付けたのか、少量の鮮血を吐く。

その状態でもしっかりと摩耶を受け止めたあたり、流石旗艦と言えよう。

翔鶴「大丈夫?」

翔鶴が心配そうに呼び掛けた。

金剛「No problem.
ただのトマトジュースだヨ」

指で口許の血を払いながら答える金剛。

657: 2015/06/01(月) 22:33:01.90 ID:gxK4/g3v0
翔鶴「……やるのね」

金剛「当たり前だヨ」

翔鶴「私は動けない……
あなたも、判定こそ無傷だけど……かなり傷ついてる」

金剛「何が言いたいノ?」

依然気絶したままの摩耶を、翔鶴に任せながら聞く。

諦めろというのか、と。
金剛の目は、責めるように翔鶴を見つめていた。

翔鶴「……いえ」

金剛が負けず嫌い、と言うより。
艦娘として高潔である事を、翔鶴はよく知っている。

敗北してはならぬ、と。
人間の為に、弱い艦娘の為に、敗北してはならぬ、と。
己が守護者である、と。

金剛は決して諦めない。

658: 2015/06/01(月) 22:33:49.31 ID:gxK4/g3v0
翔鶴「……敵は実質三倍よ」

翔鶴はなんだか居た堪れなくなって、自分の足元を見つめながら呟いた。

金剛「三倍?……たかが三倍ネ」

そんな翔鶴の肩をポンポンと叩き。
金剛は言う。

金剛「Cover me 翔鶴。I'm going in.」

援護せよ。
攻め入る。

翔鶴「……」

18戦隊の心臓、金剛。
未だ、止まらず。

金剛「Remember.
ーーDefeat is NOT an option.」

敗北は、選択肢に無い。

676: 2015/06/04(木) 21:01:02.04 ID:Ome3SCLk0



足柄「榛名、応答せよ」

しかし、帰ってくる言葉は無い。

足柄「榛名、空押しせよ、送れ」

やはり反応は無く。

足柄「本部、こちら足柄。榛名ロスト」

提督『……本部了解』

足柄は舌打ちする。

足柄(あのポンコツめ……
戦果を上げる為に、一人で決着を付けようとしたわね?)

溜息。

足柄(あんなに接近しなくても、隠れながら北西に追い込めば良いものを……
負けてちゃ世話無いわ)

677: 2015/06/04(木) 21:01:58.24 ID:Ome3SCLk0
足柄は、水偵から一部始終を見ていた。

足柄(大体金剛さんを残してどーすんのよ……
ペーペーの相手なんて誰でも出来るんだから……)

そう思いつつも、意識は水偵に乗ったまま金剛らを見つめ続けている。

足柄(取り敢えず……陽炎さんと摩耶さんがダウン。
……旗艦が単艦で突出、ね)

鳳翔の報告によると、翔鶴にもかなりの損害を与えたそうだ。

足柄(もう金剛さんしか戦えない、か。
まぁこっちも似たような状況だけど……あれ?)

678: 2015/06/04(木) 21:11:38.20 ID:Ome3SCLk0
ふと、気がつく。

足柄(針路が北西じゃない……
金剛さんが西南西に向かってる……
……待ち伏せを嫌がったか)

しかし、今は悠長に考えている場合では無い。

足柄「鳳翔、こちら足柄。
脅威がそちらへ向かっている。
警戒せよ。
ブレイク、ブレイク。
本部、こちら足柄。
敵針路2-5-0。快速で別働隊に接近中」

提督『足柄、こちら本部。
了解。針路2-2-5を取れ、応援急げ』

足柄「足柄了解」

鳳翔「こちら鳳翔、艦載機の出撃許可を」

提督「出撃を許可する」

鳳翔「鳳翔了解」

その返事を聞いてから、提督は溜息。

提督(こうなると困るから、榛名には堅実に動いて欲しかった所だが……)

679: 2015/06/04(木) 21:13:20.55 ID:Ome3SCLk0



金剛(さて……)ゴホッ

血の混じった咳をしつつも海図を開き、戦略を練る。

金剛(3対1……相手は全員負傷している……
勝ち目はある)

金剛「コマンド、金剛。
敵の待ち伏せが予想されマス。
西への進軍を提案しマス,over」

自分達が北西に針路を取っていたことは敵も知っている。
とすれば、今現在敵が待ち構えているのは北西だ。

待たれているとわかっている場所へ自ら進んで行く必要は無い。

太郎『……金剛、コマンド。
Roger, 針路 2-5-0を取れ』

太郎も同じ事を考えていたようで、提言をすぐに承認。

金剛「針路 2-5-0, Roger.」

金剛は針路を方位2-5-0へ向けた。

680: 2015/06/04(木) 21:14:06.36 ID:Ome3SCLk0
太郎『翔鶴、コマンド。状況報告を要請、オーバー』

翔鶴「コマンド、翔鶴。
摩耶、及び陽炎が負傷。
自律航行不能。
演習状況終了まで曳航状態で待機予定」

太郎『翔鶴、コマンド。
了解した。彩雲は出せるか、オーバー』

翔鶴「コマンド、翔鶴。可能です、オーバー」

太郎『翔鶴、コマンド。彩雲にて金剛を支援せよ、オーバー』

翔鶴「翔鶴、了解」

翔鶴は摩耶と陽炎を支えたまま、無事な彩雲を全機、即ち9機放った。

翔鶴「彩雲エアボーン」

意識が彩雲に乗る。

681: 2015/06/04(木) 21:16:37.58 ID:Ome3SCLk0
翔鶴「……艦載機通報。
北西、方位3-1-5、2000の距離に敵影有。
……西南西上空に敵航空機編隊確認。
コマンド、指示を、オーバー」

太郎『翔鶴、コマンド。西南西の敵機を突っ切って強行偵察を行え、オーバー』

翔鶴らの会話を聞き、金剛は大体敵の戦力がどう分散したか、予想がついた。

金剛(西で艦載機が見えたという事は、西に空母が居るという事)

仮に北西に鳳翔が居たとして、時間をかけて西に迂回させてまで、金剛の正面から艦載機を突っ込ませる意味が無い。

金剛(おそらく榛名は南から北へ、私達を狩り出す役目だった……
北西で待っているのは狼……榛名との挟撃を狙っていた筈。
空母は、戦闘に巻き込まれないように南下した、って所かしら)

ゴホゴホと激しい咳をしつつも、意志は強く。

金剛(……都合が良いかも知れない)

そんな折、翔鶴から通信。

翔鶴「艦載機通報。
西に空母と駆逐を確認。
接近する攻撃機に注意して下さい」

数機を落とされながらも、無理に敵機編隊を突破した偵察の結果は、金剛の予想を裏付けた。

金剛(Bingo。……攻めるわ)

682: 2015/06/04(木) 21:18:30.89 ID:Ome3SCLk0



鳳翔(不味いですね……)

足柄は速力が低下している為、襲撃には間に合わないだろう。

鳳翔「……雷さん、生きている武装は?」

雷「胸から下はダメダメよ。
魚雷管ロスト、主砲のみ稼動しているけど……
戦艦相手は、あまり期待しないで欲しいわ」

溜息と共に告げる雷。
魚雷があれば、まだなんとかなったかも知れないが。

鳳翔「……弓で、なんとかなるでしょうか……」

むむ、と眉間に皺を寄せる。

雷「弓って射程1000か1500よね。
超接近すればなんとか?」

鳳翔「それは……難しいですね……」

そこまで接近する前に排除されるだろう。

弓でダメージを入れるのはあまり現実的で無い、と判断して、鳳翔は自分の飛行甲板を見た。

攻撃機の残機は僅か5機。
正直、これだけで戦艦をなんとか出来る気がしない。
特に、相手は彩雲でこちらの攻撃隊を見ている。
悪条件が重なっていた。

683: 2015/06/04(木) 21:21:28.83 ID:Ome3SCLk0
と、その時。

鳳翔「……!艦攻から金剛さんが見えました!
方位0-4-0、距離4000、島群の西端に差し掛かってます!
もう目と鼻の先です!」

接敵する。
途端に飛んでくる対空砲火。

鳳翔(……さて、どうしましょうか……)

なんとか、ダメージを入れておきたい。
いくら足柄が歴戦の重巡でも、無傷の戦艦とやりあうのは荷が重いだろう。
相手もやり手なら尚更。

鳳翔(……あまり使いたくない手ですが……致し方ありませんね)

ふぅ、と深呼吸。

鳳翔(……勝利の、礎となりましょう)

684: 2015/06/04(木) 21:24:34.77 ID:Ome3SCLk0



金剛(翔鶴の報告的に、そろそろ攻撃隊が見えてもいい頃……)

しきりに出る咳を鬱陶しく思いつつ、金剛は目を皿のようにして水平を見渡していた。

そこから幾つかの岩陰を抜けたところで、上空に敵編隊を認める。

金剛「Contact hostile warbirds. Engaging.」

まぐれ当たりを期待し、対空砲火を開始する。

それに対し、敵機が散会しながら接近し、その正確な数が把握された。

金剛(5機……)

大した数ではない。
自分なら避けれる。

そう判断し。
対空砲火は続けながら、足は止めない。

金剛の計算だと、自分はあと3分程で島群を抜ける。
つまり、敵が自分の射程内に入るまで、あと3分。

この180秒のうちに、敵はアタックを仕掛けたい筈だ。
つまり、今すぐに来てもおかしく無くーー

685: 2015/06/04(木) 21:27:03.01 ID:Ome3SCLk0
金剛(ほら……来た)

ーーそう考えているうちに、敵が降下してきた。

翔鶴『金剛、インカミング!』

彩雲から見ていた翔鶴が叫ぶが、言われるまでもない。
金剛は対空砲火を維持したまま、回避機動を取った。

一見ランダムに見える、不連続なトロコイド曲線を描く金剛。
決して急では無いが、魚雷や爆弾を放る側からすると予測が難しい。

一方、不規則移動しながらの対空砲火では艦攻を撃墜する事は叶わず。
魚雷が4発投下される。

が、機動のお陰で艦攻側も命中弾が無かった。
航空魚雷は金剛の両サイドをそのまま抜けて行く。

残弾の無い艦攻隊は低空飛行を保ったまま、魚雷を追うように離脱。

金剛(……よし)

ふー、と溜息。

被弾は無し。
これで、一つ目の関門は越えた。

追撃は良いだろう。
もう、二つ目の関門が見えるはずだから。

686: 2015/06/04(木) 21:28:11.79 ID:Ome3SCLk0
金剛(……島群を、抜けるーー)

一気に開ける視界。

そして、浮かび上がる敵影。

金剛「Enemy contact.」

接敵。

金剛「Azimuth 2-4-0, dist 3000, two visual.」

方位2-4-0、距離3000、敵影2。

金剛「Engaging.」

交戦する。

金剛「Guns loaded.」

艤装が唸り、主砲に弾薬が装填された。

金剛「Open fire.」

ズドン、という轟音と共に、砲撃戦が始まる。

687: 2015/06/04(木) 21:33:05.89 ID:Ome3SCLk0



雷(来たわ来たわ……)

ガシャコン、と右肩の主砲に装薬と砲弾を装填しつつ、前方を注視。

距離3000に、島群を抜けたばかりの敵が見える。

雷「雷、火器管制良し!主砲撃方始め!」

初弾を放った。

12.7cm砲では戦艦に有効打を与えるのは難しいだろう。
その上、雷は大破し極めて低速である。
敵からすればいい的だ。

が、座して氏を待つのも癪である。

雷「一矢報いたいわね……!」

と、呟くと同時に。
金剛の35.6cm砲弾が、一斉に海面に着弾。

雷の前方に、凄まじい高さの水柱が幾つも立ち、視界を覆い隠す。

雷(全近だけど……ほとんど正中……!)

金剛は正中、つまり左右にブレ無く弾を放り込んで来た。

雷(やばっ……やっぱり足が遅いと一瞬で狙われる……)

688: 2015/06/04(木) 21:34:39.90 ID:Ome3SCLk0
敵はどうやら、一人ずつ仕留めるつもりのようだ。
高精度砲撃を受けている今、自分の弾着がどうのと言っている場合では無い。

雷は二射目を装填しながら、舵を斜めに切った。
鈍足ながらも、全速航行でなんとか敵の砲撃の軸線を避けようとする。

が。

直後、雷の前後、至近の海面が爆発した。

金剛の砲撃である。

雷(夾叉……!)

砲弾の巻き上げた水柱により、濡れ鼠になった雷は歯噛みする。

視認から僅か数十秒。
既に敵は自分を砲の散布界に収めようとしていた。
次からは確実に有効弾が飛んでくる。

これはかなり、不味い。
自分の速力が小さすぎる。
満足に蛇行も出来ない。

チラッと少し離れた鳳翔の方を見る。

彼女は膝立ちで矢を放っていたが、そもそも艦娘の弓は射程距離1000や1500の近接用だ。
3000の距離を撃ち抜く物ではない。
援護して貰うのは難しいだろう。

状況は非常に不味い。

と、雷近傍に一発着弾し、雷は更に水をかぶる。
至近弾でこそ無かったが、それはとても運が良かっただけだ。
もういつ被弾してもおかしく無い。

689: 2015/06/04(木) 21:36:06.90 ID:Ome3SCLk0
焦って無線に叫ぶ。

雷「足柄!まだなの!」

足柄『到達予想は300、凌いで頂戴』

雷「300も持たないわ……!」

そう言いつつも、動けぬ状態で少しでも被弾の確率を避ける為、雷は伏射体勢に移行した。
脚部艤装が水面から露出し移動が全く出来なくなるこれは、砲弾回避の最終手段だ。

と、金剛の四射目が来る。
雷の少し横に着弾。

もし伏射に移行し、速度を頃してなければ確実に被弾していた。

ーーだが、次は避けれないだろう。

雷「……ああもうっ!」

悪態をつきながら雷も伏せたまま、殆どあてずっぽうで狙いをつける。
ゆっくりと測距測角している時間はない。
砲撃。

しかし、その着弾を確認する前に。
金剛の五射目が雷を捉えた。

690: 2015/06/04(木) 21:37:20.74 ID:Ome3SCLk0



金剛「Good hit on target. DA follow.」

命中弾に、握り拳を作り、翔鶴に攻撃成果の判定を頼む。

翔鶴『雷ダウン。
ビューティフル』

翔鶴は賞賛と共に雷の撃破を伝えた。

金剛はよし、と満足気に頷く。

次は、先程から矢を放ってくる鳳翔だ。
流石に距離があり、弓は脅威ではない。
そう判断し、金剛は速度を落とす。

雷と鳳翔の相対位置を考慮し、落ち着いておおまかな狙いをつけた。

艦娘には便利な射撃管制装置は無い。
その代わり、簡単な電探であったり、パッと見で大体の距離がわかったりする。
そこから如何に目標に当てるかが、艦娘の腕の見せ所だ。

691: 2015/06/04(木) 21:38:18.08 ID:Ome3SCLk0
実際の艦隊砲撃戦の様に、厳密な理論に基づいて砲撃を行う艦娘も居るには居る。
が、艦娘には意識が一つしかない。
人がかつて駆った艦艇のように、舵や砲撃の役割分担が出来ない以上、実戦で公算やら何やらを考慮する時間は無い。

そもそも、目標が小さ過ぎるので、船の理論通りにいく筈も無いのだが。

だから、風向きやら湿度やらを考えず、感覚で取り敢えず試射するのが普通だ。
そこから、修正を加える。
それが最も手っ取り早く、単純で効果があるから。

692: 2015/06/04(木) 21:40:52.88 ID:Ome3SCLk0
金剛「Fire.」

金剛は最初、わざと手前に投射した。

着弾。
無論全近、左寄り。

金剛は立った水柱の高さと鳳翔の大きさを相対的に評価し、次弾を準備する。

金剛「Fire.」

第二射、斉射。

着弾。
今度は全遠、大きく右寄り。

どうやら鳳翔は手前側に回頭を始めたようだ。

敵の未来位置を予測して仰角、方位角を調整。

金剛「Fire.」

斉射。

着弾。
全近、若干右寄り。
先程の着弾地点よりは鳳翔に近い。

金剛(砲撃の精度がイマイチ……咳が鬱陶しい……
……鳳翔さんは回頭を続けるのかしら?)

今、鳳翔は回頭の頂点にいる。

次にどう動くかは、同平面からの視点ではわからない。

693: 2015/06/04(木) 21:41:45.46 ID:Ome3SCLk0
金剛は次弾の装填を済ませつつ、翔鶴に鳳翔の体が傾斜しているかを聞いた。

金剛「翔鶴!Is 鳳翔 leaning right?」

翔鶴『アファーマティブ!』

肯定。
そこから、鳳翔が回頭を続けると判断。

砲塔を上げ、方位角微調整。

放つ。

金剛「Fire.」

着弾を待たずに、方位角のみを右に調整し、追加で砲撃。

金剛「Fire.」

二射目を放った頃、一斉射目が着弾した。

正中、全遠。

その砲弾が鳳翔の正面を爆裂させ。
鳳翔は慌てて、やや旋回を早める。

その結果、続いての二射目が夾叉となった。

金剛(捕まえた)

金剛は砲の仰角、方位角を記憶、鳳翔の動きをトレスするように脚部艤装の出力を調整。

694: 2015/06/04(木) 21:44:26.21 ID:Ome3SCLk0
若干先読み気味の動きから放つ、第六射。

再び夾叉。
有効弾無し。

足柄が近付いて来ている。
早期に決着をつけねばならぬのに、運が無い。

焦りを感じて舌打ちしつつ、角度を微調整して第七射。

蛇行していた鳳翔を、遂に至近弾が捉えた。

翔鶴が興奮して叫ぶ。

翔鶴『至近弾!』

金剛(よし……)

鳳翔は着弾の衝撃からバランスを崩した。
敵の失速に合わせ、金剛も減速。

金剛(完璧な相対位置……仕留めるわ)

ニヤリと、獰猛に笑い。
放つ、第八斉射。
そしてーー

金剛「ーーBullseye.」

695: 2015/06/04(木) 21:45:01.71 ID:Ome3SCLk0



何故、翔鶴が彩雲を落とされつつも、観測を続ける事が出来ていたのか。

それは数機がまだ落とされていないから。

何故、鳳翔が20機の艦戦を展開しているにも関わらず、全て落とされていないのか。

翔鶴の腕前が確かだから、というのもある。
が。
最大の要因は、鳳翔が別の事に集中していたから。

金剛の背後、500。
島群の中から迫る、単機の攻撃機。

696: 2015/06/04(木) 21:46:33.52 ID:Ome3SCLk0
先程、金剛が島群を抜ける前に鳳翔の攻撃隊が放った魚雷は4発。
対する攻撃機の数は5機。

一発温存していたのだ。
この瞬間の為に。

金剛は見事に、鳳翔隊は魚雷を全て放った物だと誤認していた。
そして今、完全に射撃に集中している。
鳳翔からすると、絶好の攻撃チャンスだ。

翔鶴の彩雲からも接近を知られぬよう、鳳翔は細心の注意と共に低空飛行でギリギリまで接近。
金剛が低速第8斉射を行った瞬間、魚雷投下。

金剛は背後からの攻撃に全く気付かない。

ズン。
衝撃。

鳳翔「ぅくっ……」

金剛「?!……What the……」

まずは鳳翔が、少し遅れて金剛が被弾する。

鳳翔にとっては、骨を断たせて肉を切る格好になったが、そうでもせねばこの状況で金剛にダメージを入れる事は難しかった。

697: 2015/06/04(木) 22:13:34.86 ID:Ome3SCLk0
鳳翔「私は轟沈、判定ですね……」

ふぅ、と溜息。
轟沈判定を受けた空母は、艦載機による攻撃を速やかに中止、収容せねばならない。

艦載機を収容していると、同じく轟沈判定を受けた雷が近付いて来た。

雷「お疲れ様。一矢報いたわね?」

鳳翔「……そう……だと良いのですが」

中破していたら良いな、と思う。

雷「……うーん。足柄さん、勝てるかしら。
お互い魚雷一発喰らってて……」

鳳翔「……」

正直、難しいだろう。

足柄は歴戦の重巡かも知れない。
が、金剛もなかなかのやり手だというのが鳳翔の感想だった。

鳳翔(夾叉までの持って行き方は少し雑でしたが……
その後は完全に回避機動を読まれていました……)

艤装の向きと体の傾き。
重心移動とテンポ。
経験と、勘。

艦娘はこれらの要素から相手の未来航路を予想して砲撃する。

熟練している者程その読みはシャープになり。
鳳翔の様に、対策せずに回避機動を取ってもバシバシ当ててくる。

雷「……むー。北西に流れてくれたらなぁ。
足柄さんと戦ってる時に、横っ腹を艦載機で殴れたのにね」

鳳翔「……そこは敵が冴えていた、という事でしょう」

はぁ、と雷は溜息。

鳳翔(……足柄さん、後はーー)

空を仰いで、目を瞑る。

698: 2015/06/04(木) 22:52:57.32 ID:Ome3SCLk0
………
……


提督『はぁ……どうやら鳳翔と雷がやられたらしいな』

足柄「そうみたいね」

魚雷管のチェック。左右問題なし。

提督『残りは金剛とお前だけだ』

足柄「ん」

主砲は正常、装填済み。

提督『どうも鳳翔が一発与えたようだ』

足柄「やるわねぇ」

脚部艤装は出力が4割近く減少。

提督『ふと思ったが、演習弾の蛍光色は修復材で落ちるのか?』

足柄「落ちるは落ちるわよ」

鼻歌を歌いながら、襟元とスカーフが乱れていないかをチェック。

提督『やはり落ちにくいのか』

足柄「ベトベトがね。漬けときゃ消えるんだけど……擦る方が早いのよ。
んで皆擦るわけ」

手袋と服の裾が裏返っていないかを確かめる。

提督『大変そうだな……』

足柄「大変よ。知らなかったの?」

締めに髪の毛を手で梳いて。

699: 2015/06/04(木) 22:58:05.77 ID:Ome3SCLk0
足柄「……あ、じゃあ、あたしが勝ったらぁ……
あなたが家事、やってくれないかしら?」

提督『何だと……』

足柄「洗うの面倒だしぃ。鳳翔さんに押し付けるのも悪いしぃ。
洗濯ついでにご飯風呂諸々よろしくぅ!」

あはは!と笑う。

提督『……執務が有るんだがなぁ……』

足柄「イマドキ家事出来なきゃモテないわよ?」

あなたはモテなくても良いんだけど。

提督『どこでそんな情報を仕入れて来るんだ……
少なくとも飯は鳳翔の方が良いんじゃないか』

足柄「何よー。料理も出来ないのかしら?」

ちょっかいをかけるように、煽ってみる。

提督『ほう……そこまで言うのなら、男の料理を見せてやろう』

足柄「あら、楽しみにしてるわ」

それは本音で。

提督『しかし……飯といえば……
昼飯を食ってないな……』

呟く提督に。

足柄「そうね」

足柄は応じる。

700: 2015/06/04(木) 22:58:56.99 ID:Ome3SCLk0
軽口の応酬は、終わりだ。

提督『お前も、そろそろ腹が減ったろう』

今度は提督が煽った。

足柄「ええーー」

その感情の昂りに乗って。

足柄「ーー腹が、減ったわ」

精悍な餓狼が、牙を剥く。

赤城「……さて、と」提督「昔話を、しようか」【8】

701: 2015/06/04(木) 23:02:23.79 ID:Ome3SCLk0
ここまで


次で演習は決着がつきます
砲撃戦の描写は難しい……
なんとか盛り上げたいところです

引用: 【艦これ】赤城「……さて、と」提督「昔話を、しようか」