803: 2015/06/11(木) 02:05:32.12 ID:sKkgVh1w0


前回:赤城「……さて、と」提督「昔話を、しようか」【8】
この章の初め:赤城「……さて、と」提督「昔話を、しようか」
最初から:提督「…さて、と」

南方基地、ハンガー


隼鷹「……」

提督「……」

隼鷹「ウス」

提督「……お前はなぜ、艤装ごと上に釣り上げられてるんだ……」

隼鷹「いやぁ……艤装つけて迎えに行こうかと思ったんだけどさぁ。
なんか艤装の接続がうまくいかなくて、いきなりクレーンで釣り上げられちまった!」

提督「当たり前だろ……俺の許可無しに艤装を装着できる訳がない」

隼鷹「確かに!!」

提督「お前は本当にバカだな……自力で降りれそうか?」

隼鷹「無理だな。10分くらいこの状態だしな」

提督「……はぁ……ハシゴを探してくる」

隼鷹「うへへ。ありがとー!」
「艦これ」ピクトリアルモデリングガイド 大和編: 『艦これ』提督のための艦船模型ガイドブック

804: 2015/06/11(木) 02:06:04.06 ID:sKkgVh1w0
数十分後……


提督「くそっ……なんでセーフティレバーがスタックしてるんだ……!」ガチャ

隼鷹「無理矢理つけたからかな?」

提督「装着出来ないからって無理矢理噛み合わせるとは……
ゴリラかお前は」ガチャガチャ

隼鷹「ウホッ」

提督「お前……森に捨てるぞ……」カチカチ

隼鷹「やめろよ……」

提督「全く……」

805: 2015/06/11(木) 02:06:38.93 ID:sKkgVh1w0
ガチャガチャ……バキッ

提督「うおお……」

隼鷹「なんかヤバい音したよな今!」

提督「多分大丈夫だろ……お前なら落ちても」

隼鷹「嫌だよ!」

ガコンッ

提督「お、おお?」

隼鷹「おお?!」

ガシャコン……ウィーン

提督「……ふう……クレーンが下がり出したな……」

隼鷹「ドキドキしたぜ……これでやっと下に降りれるーー」

806: 2015/06/11(木) 02:07:04.10 ID:sKkgVh1w0
ウィーン……ガギン!

隼鷹「……」

提督「……」

隼鷹「また止まったんだが」

提督「……この高さなら落ちても大丈夫だろ」

隼鷹「うわあああ!
それが司令官の言葉かぁ!」

提督「……はぁ」

………
……


807: 2015/06/11(木) 02:07:38.54 ID:sKkgVh1w0
更に数十分後……

提督は黙々と作業を続けていた

提督「……暑い……」ガチャガチャ

隼鷹「ねー……と言うかこれ、太郎さんに言った方が良いんじゃ……」

提督「そうだな……まさかこんなに手間取るとは」ガチャ……

提督は作業する手を止め、ふぅ、と一息つく。

提督「まぁ、言ってもやることは変わらんのだが……
クレーンが上がる事はままある。
下ろすのは大体手作業だ」

隼鷹「へぇ」

提督「……許可の出ていない艤装を無理に接続しようとすると、クレーンが上に上がるのさ。
普通はセーフティレバーを下げたら降りるはず何だが……
今回はマヌケが一緒に釣られたからな……」

808: 2015/06/11(木) 02:08:38.46 ID:sKkgVh1w0
隼鷹「うへへ……でもなんでそんな仕組みが?」

提督「人間は艦娘を管理しようと躍起なんだよ。武器を持たせないようにな。
本質的に深海棲艦と艦娘は似ている。
連中は艦娘が怖いんだ。
決して口にはしない事だが。
お前も、もしかしたら以前居た所で覚えがあるかも知れんが」

隼鷹「……」

提督「深海棲艦が現れたのも、艦娘が現れたのも最近だ。
艦娘による迎撃態勢が整うまでに、沢山の軍人が深海棲艦の攻撃で氏んだ。
今の上層部は、その氏んだ奴らの同僚が殆どなのさ。
まぁ……後はわかるだろ」

隼鷹「……ん」

809: 2015/06/11(木) 02:09:05.07 ID:sKkgVh1w0
暫く、沈黙。

隼鷹「なぁ。あんたは……怖いか?アタシが」

提督「そう見えるか?」

隼鷹「見えないけど……」

提督「ならそういう事だ。
本当にビビってたら、人間所作に出るんだ……よっと!」ガチン!

……ウィーン

隼鷹「お、動き出した!」

提督「ふぅ……」

隼鷹「よしっ、これで一件落着だな!」

提督「おい、暴れるなよ。
落ちるぞ」

隼鷹「大丈夫大丈夫ーー」

と言ったそばから。

隼鷹「あーれー?」

810: 2015/06/11(木) 02:09:57.68 ID:sKkgVh1w0
ズルッ

提督「おいっ!」

艤装に引っかかっていた隼鷹は、唐突に滑り落ちた。

提督「言わんこっちゃない……!」

艦娘でも、艤装を着けてない状態で頭から落ちると、何か酷い怪我をするかも知れない。
提督は、なんとか受け止めようと、足掻く。

提督「くそっ……!」


……
………


雷「……もうすぐ帰還ね。やっお港が見えっ……は?」

榛名「……えええー……」

鳳翔「……おかしいですね……
他人様の港で、隼鷹が提督に馬乗りになっているように見えるのですが……」

足柄「……奇遇ね。あたしもよ」

必氏な提督が隼鷹の下敷きになったところは、丁度帰ってきた足柄達にバッチリ見られてしまった。

足柄「何やってんのよ……あの馬鹿……」

やれやれ、と溜息。

811: 2015/06/11(木) 02:10:32.02 ID:sKkgVh1w0
ここまで

817: 2015/06/14(日) 23:56:49.34 ID:NL1R4qYX0
隼鷹「て、提督?大丈夫?」

提督「まずは……どいてくれ……」

隼鷹「あ、ああ。ごめん」

隼鷹はサッと提督の上から退いた。

隼鷹「大丈夫?立てそうか?」

提督「……立てん……」

隼鷹「……マジで?アタシを陥れようとしてない?」

提督「お前……しばき倒すぞ……」

隼鷹「うわぁ、ごめん!まさか提督がクッションになってくれるとは……」

提督「とにかく落ちた位置が悪かったな……
腰をやったかも知れん」

隼鷹「マジかよ……肩貸すぜ」

提督「頼む……痛たたた!急に起こすな!」

隼鷹「あ、ごめん!」サッ

隼鷹が驚いて手を離し、提督は顔からベチャッと地べたに落ちた。

提督「痛いわ!怪我人を落とす奴があるか……!」

隼鷹「す、すまねぇ」

818: 2015/06/14(日) 23:57:27.89 ID:NL1R4qYX0
………
……



数分後……


提督「もっと怪我人は丁寧に扱え!ゴリラか!」

隼鷹「注文が多いわ!ゴリラパンチかますぞ!」

提督「何てやつだ……」

足柄「……で?何やってんの?」

隼鷹「……あ……!」

提督「足柄……榛名、鳳翔、雷。
戻ってたのか」

足柄「今戻ったとこよ」

提督「そうか。
……見事な勝利だった。
とりあえず風呂の申請は済ませてあるから、艤装をハンガーに引っ掛けたら行ってこい。
よく頑張ったな」

819: 2015/06/14(日) 23:58:06.50 ID:NL1R4qYX0
足柄「あ、ありがと。まぁ、それは良いんだけどさ……
何で地べたに寝そべったまま喋ってんの?
凄くみっともないわよ?」

提督「……立てないんだ……」

足柄「……は?」

提督「……」

足柄「……隼鷹?」

隼鷹「……ウホ」

足柄「……」

榛名「……」

雷「……」

鳳翔「……躾……」

隼鷹「ひっ……」

820: 2015/06/15(月) 00:06:33.48 ID:WQWBkUhi0
………
……



提督の私室


提督「痛たたた……お前だけすまんな」

足柄「ほんとに何やってんのよ……」

一番被弾の少なかった足柄に抱かれて、提督は私室へと運ばれた。
他のメンバーは風呂へと向かった様だ。

提督「それは隼鷹に言え隼鷹に……」

足柄「……もう、艤装付けてなくても、艦娘は丈夫だから落ちた所で大丈夫よ。
人間の方がヤワなんだから……」

提督「でも、落ちたら痛いだろ?」

足柄「そうだけど、そういう問題じゃないわよ」

提督「そういう問題じゃない、とは?」

821: 2015/06/15(月) 00:07:09.86 ID:WQWBkUhi0
足柄「……論理的じゃないわ」

提督「……論理的で無いと、そう思うのか?」

足柄「……だから、隼鷹なら落ちても大丈夫ーー」

提督「いや、落ちたら痛いだろう。
だから俺はその痛みを軽減しようとした。何かおかしかったか」

足柄「……じゃあ、非効率的、と言うわ」

提督「感情とは非効率的な性質を持っているんだ。それを排するのは違うな」

足柄「……あたしが言いたいのは、隼鷹が丈夫って事よ。
少しの間痛むだけ、最悪でも入渠で、あなたが腰を痛める必要は無かったわ」

822: 2015/06/15(月) 00:08:18.76 ID:WQWBkUhi0
提督「……俺の心配をしてくれるのは嬉しいが……まぁ、なんだ。
あまり艦娘を強度で評価するな」

足柄「……あたしはそんなつもりじゃ……」

提督「わかってる。
ただ、俺が好きじゃなくてな……
お前達は無機物じゃない。
他の人間は、そう思わせたいのかもしれないが……
少なくとも、俺はそうは思わん。
すまんな」

ポンポン、と足柄の頭に手を置く。

まただ、と足柄は思う。
時折この男が言う事。
それは足柄の心を酷く、乱した。
よくわからないままに。

足柄「……なんでそんな甘いのよ」

提督「普通の事だ。お前が『異常』に慣れ過ぎている」

足柄「……」

提督「運んでくれて助かった。
お前も風呂に行ってくれて構わん。
夕方には船でサセン島に戻るぞ」

足柄「……あなたはどうするの?」

提督「痛みはマシになってきている。
杖でもつけば大丈夫さ。
ほら、行ってこい」

足柄「……ん」

823: 2015/06/15(月) 00:09:01.55 ID:WQWBkUhi0
………
……



南方基地、脱衣所


足柄(……別に隼鷹をモノ扱いしたかった訳じゃなかったわ)

服を脱ぎながら、考える。

足柄(……そう見えたのかしら。
いや、でも艦娘って丈夫だし……
……あたしは提督の体を心配しただけなんだけどなぁ……
……それだけあたし達が大事にされてるってことよね)

ため息。

足柄(あたし達を兵器じゃないなんて言い切るのは……
少なくとも提督くらいしか、あたしは見たことがない)

服を脱ぎ終え、浴室への扉へ手を掛け。

足柄(あたしはどこへ行っても鉄屑扱いされるのが嫌だった。
それで反抗してトバされた訳だけど……
いざ、兵器じゃ無いと断言されると、なんか、ヘンな感じ。
……何なのかしら、これ)

不完全燃焼な心模様のまま、ガラガラ、と戸を引いた。

824: 2015/06/15(月) 00:09:37.45 ID:WQWBkUhi0
隼鷹「……お。足柄」

足柄「……なんで、あんたも入ってんのよ……」

隼鷹「うへへ」

鳳翔「提督は大丈夫でしたか?」

榛名「私達は蛍光液塗れだったので、ご一緒出来ませんでしたが……」

足柄「ヘラヘラしてたわ。心配するだけ損よ損」

雷「あらそう?なら良かったわ」

と、足柄の後ろの扉が開き、18戦隊の面々が入って来た。

金剛「気絶したままの摩耶が重いヨ……コホンッ」

陽炎「こ、腰がなんかヘンよ私は……」

翔鶴「転けないでよ?……あら、皆さん」

足柄「お疲れ様です……
お風呂、お先に頂いてるわ」

翔鶴「お疲れ様でした。大丈夫ですよ」

825: 2015/06/15(月) 00:10:03.50 ID:WQWBkUhi0
と。

金剛「足柄サン……」

足柄「……!」

金剛が摩耶を肩に抱えたまま、スッと前に出た。
浴室内の空気が緊張する。

見ると摩耶はかなり派手にやられていた。
先日の応接室でのやり取りを見ても、金剛は気が長くは無さそうだ。
今も怒っているのかもしれない。

そう考え、少し身構える足柄に。

金剛は、スッと、手を差し出した。
そして、笑顔で。

金剛「Gratz!見事だったネ!」

足柄もその手を取り。

足柄「ありがと。
ナイスファイト!
ふふ、怒ってるのかと思ったわ」

金剛「Why?ワタシ達は仲間デース!
得るものや悔しさは有っても、憎しみはアリマセン!」

826: 2015/06/15(月) 00:10:35.33 ID:WQWBkUhi0
………
……



金剛「最後、負けるとは思わなかったネ〜」

足柄「うふふ、実際運が良かったわ」

金剛「そうカナ?あの魚雷、that was epic!」

足柄「あら、ありがと」

金剛「どういう戦略でアレをー?」

足柄「えっとねーー」

金剛は修復槽に摩耶を突っ込み、自身もそこに浸かりつつ、足柄との談義に花を咲かせていた。

金剛「ワタシも飛行機、飛ばそうカナ。便利?」

足柄「有ればとても役に立つわ。攻撃以外でも、ね」

金剛「うんうん。初撃は完全にしてやられたしネー。
……よし、決めた。ワタシも艦載機を載せるネ!
翔鶴!翔鶴ー!」

翔鶴「はいはい、聞こえていますよ」

金剛「明日……No、今晩、艦載機の使い方を教えて欲しいヨ!」

翔鶴「あら。良いわよ」

金剛「Thanks!鉄はhotな内にシバくに限るネ!」

827: 2015/06/15(月) 00:11:11.07 ID:WQWBkUhi0
足柄「だってよ、隼鷹?」

隼鷹「くっ……鳳翔さん!アタシ達は今から訓練だ!」

鳳翔「……はい?」

金剛「What?!……翔鶴、ワタシ達も今からやるネ!」

翔鶴「落ち着きなさい……修復中でしょう」

金剛「Shit!」

足柄「……あなたは、真摯ね」

金剛「そ、そうカナ?」

足柄「ええ」

金剛「あ、アリガト」

金剛(……シンシ……紳士?
私が紳士……?え……?
Shitって言ったばかりよ……?)

日本語が分からず、悶々とする金剛の姿を見て何を勘違いしたのか、足柄は続けた。

足柄「……あなたは……自分を兵器だと思う?」

金剛は暫くキョトンとしてから、微笑んだ。
それを見て、足柄はなんだか慌てる。

828: 2015/06/15(月) 00:12:22.99 ID:WQWBkUhi0
足柄「ごめんなさいね、急に。
……あなたが……戦いに対して……とても真面目だから。
少し、不思議で」

金剛「……提督に、何か言われたのネ」

足柄「……んー……直接ってわけでもないけど……
遠からずって所かしら」

金剛「『お前達は兵器じゃ無い』って感じデース?」

足柄「……まぁ、その通りね」

金剛「Fmm……質問を質問で返すようデスが……あなたは自分を兵器だと思うデスカ?」

足柄「……多少は、ね。
意思のある……兵器だと」

金剛「……ナルホド」

足柄「……あそこに隼鷹が居るでしょう」

金剛「ハイ」

足柄「提督、さっき隼鷹のドジをかばって怪我したのよ」

金剛「それは本当デスカ?大丈夫なのデス?」

足柄「ああ、本人はピンピンしてるんだけどね。
ただ、別に隼鷹は艦娘なんだし、それくらい庇わなくても大丈夫って言ったら……『痛いだろ?』って。
艦娘は無機物じゃないってさ」

金剛「……」

829: 2015/06/15(月) 00:14:19.19 ID:WQWBkUhi0
足柄「あんたの方が痛いでしょって思うんだけど!」

金剛「Haha You got it!……デモ、提督はそんな人デス」

足柄「そうね……
ただ……」

金剛「……?」

足柄「あたしが兵器じゃ無いなら、なんで戦ってんだろって。
提督が来てから……そんなことが頭の中に生まれてきて……
考えないようにしてたんだけれど……」

金剛「Ah……」

足柄「認めたくないけど、あたしのアイデンティティーは兵器である事なのよ、きっと。
それが嫌で、反抗していたはず、なんだけどなぁ……」

金剛「……」

足柄「ねぇ、金剛さん。
あなた、本当に強いわ。
今回は、私の運が良かっただけ。
沢山訓練積んで、場数も踏んでるわよね。
……だから聞くわ。
あなたは何故、戦うの?って」

830: 2015/06/15(月) 00:15:54.00 ID:WQWBkUhi0
金剛「ワタシは……」

チラリと、気絶したままの摩耶や、鳳翔達と話す翔鶴に目をやる。

金剛「艦娘を、ヒトを、守りたい」

足柄「……」

金剛「今、皆が居て、ワタシは幸せデス。
この時間を守りたいんダヨネ」

足柄「……ヒトってのは……ヒト?」

金剛「そうだヨ。
ヒトは……艦娘を嫌う者も多いネ。
でも、今私に酷い事を言うヒトであっても、大切な家族がいて、幸せな時間があって。
ワタシは……皆の、幸せの礎になりたい」

足柄「……幸、せ」

金剛「その為には、強くならなきゃいけないネー。
それが、真面目な理由ダヨ」

足柄「……他の者の、為に?」

金剛「Hahaha!まさか!全部、ワタシのエゴデース」

足柄「……?」

831: 2015/06/15(月) 00:17:03.53 ID:WQWBkUhi0
金剛「例えば、皆がやられたら。ワタシは悲しくなるネ。
例え、誰か知らない人が氏んでも、ワタシは悲しくなるヨ。
守るのは、失うと、ワタシが、自分が悲しいから。
Loveなんて……結局そんなモノネ。
ワタシはそう思うヨ」

足柄「……」

金剛「足柄、問いへの答えをあげるネ」

足柄「……?」

金剛「ワタシ達は兵器じゃ無い。ワタシ達は人間でも無い。
ワタシ達は、艦娘ダヨ」

足柄「……艦娘」

金剛「……まぁ、それは提督が言ってた事だケド。
あの人はイジワルだからネ!
意味を聞くと、自分で考えろ、と言われマース!」

足柄「なんだか、提督らしいわ」

金剛「……足柄」

足柄「……ん?」

金剛「ワタシは……あなたが少し、羨ましいデス」

足柄「……?」

金剛「提督の元に居られる事デスヨ」

陽炎「えっ……」

今まで金剛の隣で、ずっと黙っていた陽炎が驚きの声を上げた。

陽炎「……ここは嫌なの?」

832: 2015/06/15(月) 00:17:51.93 ID:WQWBkUhi0
金剛「まさか!ワタシは皆を愛してマース!勿論……陽炎もネ!」

陽炎「わわっ……抱きつかないで……は、恥ずかしい……」

金剛「太郎さんも、とても優秀デスヨ!自慢の司令デース。
ただ……提督は……特別なのデスヨ。
あの人は……艦娘に考えさせマース」

足柄「……?考えさせる?」

金剛「まさに『何故戦うのか』とかデスヨ」

足柄「……」

金剛「艦娘に『時間』を与えてくれるのは……あの人だけデス。
他の人には、そうする気が無かったり、現状で一杯一杯だったり……
イロイロ難しいのデース。
艦娘の自由時間を増やすと、司令の負担も増えマスから」

足柄「……そうね」

思えば、提督は毎日遅くまで執務をしていた。
足柄はいくつかの基地を転々とした経験が有るが、特に辺境の基地など、司令があそこまで働いている事は無い。
自分達が食堂で雑談をする、そんな時間を作る為に、あの人は一人で仕事をこなしていたのだろうか。

833: 2015/06/15(月) 00:18:30.75 ID:WQWBkUhi0
金剛「まぁ、悩むのはしんどいデスが……悩んだからこそ、得られる答えも有りマス」

足柄「……」

金剛「そういう事を経験してから、忙しい前線に来ると……
悩んでいた事がとても懐かしくて……それで、羨ましいのデース」

足柄「……そう」

金剛「提督に、悩みを打ち明けるのも良いと思いマスヨ!
きっと……喜びマス」

足柄「喜ぶ?」

金剛「ハイ!ワタシの時は……喜んでマシタ」

足柄「……変な人ね、提督って」

金剛「そこがイイ!」

足柄「あなたも、変な人」

金剛「What?!」

うふふ、と笑う。

足柄「あ……そうだ。
一つ聞いていいかしら」

金剛「?」

足柄「提督って……
教官の前は……何をしてたの?」

834: 2015/06/15(月) 00:23:24.08 ID:WQWBkUhi0
金剛「んー……実はワタシもよく知らないのデース」

足柄「……そう」

金剛「質問したことは有るのデスが……
頑なに教えてくれなくって……」

足柄「……」

金剛「ただ……
世の中には知らない方が良い事、知らなくて良い事が有るデス。
提督が話さないのならーー」

足柄「わかってるわ。ほんの好奇心よ。
……んー、逆上せちゃったかも。
そろそろ上がろうかしら。
……色々ありがとね、金剛さん」

金剛「いえいえ!こちらこそ艦載機とか参考になったヨ!アリガトー!」

足柄「じゃ、またね」

金剛「あ、そうデース。
一つだけ確かな道標をあげマース」

足柄「?」

金剛「人間でも、兵器でも、艦娘でも。
深海棲艦は、共通の敵デース」

足柄「……」

金剛「アイデンティティーは変化しマス。
ケド、これは絶対に変わらない、事実デース」

足柄「そう、ね」

金剛「……折角なので、ゆっくり考えるデース」

足柄「……そうするわ。ありがと。
……こんな話が出来る人、居なかったから。
なんというか……助かったわ」

金剛「それは良かったデース!
お互いをあまり知らないからこそ、話せる事もありマスから、ネ」

足柄「そうね……それじゃ、また」

846: 2015/06/15(月) 23:19:48.88 ID:WQWBkUhi0
足柄(何で勝ったのに、こんなにモヤモヤするかなぁ……)ガラガラ……

榛名「あ、足柄さんが出ましたね」

鳳翔「あら……」

雷「逆上せたのかしら?」

隼鷹「ほうほう、んでんで?」

翔鶴「偵察機を飛ばす時は、全機の視界で一枚絵を作るイメージで飛ばすと良いですよ」

隼鷹「一枚絵……ナルホドなぁ」

翔鶴「景色の流れ方が違うと、見落としが発生したりしてややこしいですが……」

隼鷹「ほむほむ」

雷「こっちはこっちで話し込んでるわねぇ……」

鳳翔「交流するのは、良い事です」

金剛「なら、交流しまショウ!」

榛名「こ、金剛さん?!修復は……」

金剛「もう大丈夫デース!」

鳳翔「それは良かったです」

金剛「しっかし榛名は強かったデスネ!」

榛名「そ、そうでしょうか……えへへ」

鳳翔「……摩耶さんと陽炎さんは大丈夫ですか?」

金剛「ンー。傷的な意味では問題nothingなのデスが……
陽炎がすっかり榛名を怖がってしまって……」

847: 2015/06/15(月) 23:20:26.36 ID:WQWBkUhi0
榛名「え……?」

雷「そんな心外そうな顔をしなくても……」

榛名「いやぁ……大分手加減したつもりだったのですが……」

陽炎「……あれで、ですか?」

榛名「あら、陽炎さん」

榛名が振り返ると、そこには険しい顔をした陽炎が。

陽炎「もう少し、摩耶への配慮とか、ないんですかっ……」

榛名の目が細められる。

榛名「配慮しましたよ?」

陽炎「摩耶はあんなに血を流してっ!」

金剛「陽炎」

陽炎「だって、やり過ぎじゃないの!私の艤装だってーー」

金剛「陽炎。Cut it out.」

陽炎「でもっ!いくら提督さんの所だからって、勝手が過ぎーー」

ピクリと、榛名の眉が動く。

榛名「あなたを誘う為に……わざと派手に出血するようにと、顔面と胃を狙いましたから。
手心は加えてますってば」

848: 2015/06/15(月) 23:20:57.87 ID:WQWBkUhi0
陽炎「誘うって……!
納得がいきません……!
私達は、仲間じゃ、無いんですかっ」

榛名「……はぁ……仲間、ですか」

溜息。

雷「ちょっと榛名……」

榛名「とにかく、艦娘はあの程度では氏にません。
修復槽に突っ込めば傷も残らないでしょう」

陽炎「そういう問題じゃーー」

駄々を捏ねるように繰り返す陽炎に、榛名は苛立ったのか。
予備動作無しで陽炎の喉元に手を伸ばした。

決して素早い動作ではない。
だが、誰も反応出来ずに。
榛名の人差し指は、いつの間にか陽炎の喉仏あたりをツンツンと突いていた。

849: 2015/06/15(月) 23:21:27.32 ID:WQWBkUhi0
陽炎「ひっ……」

金剛「榛名!」

鳳翔「榛名さん!」

無視して続ける。

榛名「良いですかぁ……?
艦娘なんてのは、喉仏を陥没させただけで戦闘不能になります。
それは締め落とすよりも、遥かに楽なんですよ……?」

陽炎「く、訓練なんだからっ……
そんな、頃すようなっ……」

今度はグリグリと喉仏を押して。

榛名「うふふ。喉仏潰したくらいじゃ氏にませんよ?」

陽炎「わかんない、じゃない……」

榛名「わかりますよ。私自身、何度も潰された事がありますから」

陽炎「……っ」

不気味に嗤いながら言う榛名の言葉には、重みがあった。
榛名の人差し指に力が篭る。

榛名「寧ろ、後遺症が残らぬようにと、丁寧に対処した事を感謝してーー」

隼鷹「榛名。
そろそーろ……おイタが過ぎるぜ」

そこで隼鷹が、榛名の人差し指をそっと、しかしがっちりと握った。

榛名「……」

榛名は不満気だが。

鳳翔「ーー提督に、ご迷惑がかかりますよ」

側から見ていた鳳翔のその一言で、矛を収めた。

榛名「……ごめんなさい。
私、もう上がりますね」

850: 2015/06/15(月) 23:22:01.42 ID:WQWBkUhi0
鳳翔「……」

去り際に。

榛名「ああ、陽炎さん。重要な事を言い忘れてました」

陽炎「……?」

榛名「強い味方に守って貰う事が、『仲間である』事ですか?」

陽炎「……」

榛名「それは、甘えですよ」

陽炎「……!」

陽炎は、何も言えなかった。

榛名「では」

陽炎「……」

雷「もー……
ウチのポンコツが色々ごめんなさいね……」

雷も謝るが、内容を否定する事はなかった。

851: 2015/06/15(月) 23:23:38.95 ID:WQWBkUhi0
金剛(こりゃまた、榛名の思考は足柄とえらい違うわね……)

陽炎「……」

金剛「陽炎」

陽炎「……?」

金剛「悔しければ、強くなるネ」

陽炎「……」

金剛「失敗した事は、あなたがよくわかっているヨネ。
でも、その悔しさは怒りじゃなくて、自分への努力に向けるべきダヨ」

陽炎「……ごめん……なさいっ」ダキッ

金剛「よしよし。
嫌な事は、涙で流しちゃうに限るヨ!」

陽炎「うわぁぁぁ!」

鳳翔「……我々は退散、しましょうか」

隼鷹「んだね。
またね、翔鶴さん」

翔鶴「……はい」

鳳翔(しかし……榛名さん。
提督という単語にとても敏感になっている……
一体何があったのですか?)

何故だか、モヤモヤする。
何だろう、この気持ちは。

852: 2015/06/15(月) 23:24:14.46 ID:WQWBkUhi0
………
……



陽炎「えぐっ……えぐっ……」

金剛「……」

翔鶴「……」

摩耶「ん……あ?」

金剛「'morning.」

摩耶「あ……ふ、ろ?
そうか……アタシは……
!え、演習はどうなった?!」

金剛「負けたヨ」

摩耶「……そう、か……
……多分、アタシのせいだよ、な……」

金剛「まぁ、それも一因ネ」

摩耶「ほんと、ごめん……
舐めてたよ」

翔鶴「……だからあれ程言ったのよ。
あの人は……危ないの」

摩耶「……ごめん」

金剛「まぁ、これで学んだデショウ。
あなたの弱さを。ダメなトコロを」

摩耶「……ああ」

853: 2015/06/15(月) 23:24:40.32 ID:WQWBkUhi0
金剛「Good. 陽炎もそろそろ泣き止むデース」

陽炎「……グスッ……ハイ……」

金剛「この後ディブリーフがあるから、細かい指摘はしマセン。
ただ、ワタシ達は今回、全員がミスをシマシタ。
そして、全員が氏にマシタ。
たとえ擬似的なモノでも」

翔鶴「……」

金剛「敵の実力。こちらのミス。
全てを客観的に受け止め……
この氏を……meaningfulなモノにしまショウ」

陽炎「……」

金剛「Now. Let's change before we have to!」

変革しよう。
真に変革が必要になる前に。

翔鶴「……ええ!」

金剛「We gotta carry this fucking defeat on!But……」

ニヤリと。

金剛「Let us have the last laugh, ladies!」

最後に笑うのは、私達だ。

854: 2015/06/15(月) 23:25:23.07 ID:WQWBkUhi0
………
……



暫く後……
夕刻前、南方基地、港


太郎「提督さん!」

提督「……おお、太郎くん。忙しいところ、見送りさせてすまないな」

船へと向かっていたサセン隊が振り返ると、そこには18戦隊の面々。

太郎「いえいえ……それよりも、腰は大丈夫ですか?」

提督「大丈夫だ。すまんな……万が一クレーンに異常が見つかったらサセン島宛で請求してくれ」

太郎「いえいえ、それには及びません。修理も可能ですし」

提督「そうか……おい、お前たち。
最後に挨拶しておいたらどうだ」

足柄「そうね」


金剛「足柄ー!これ以降は……二度とやられまセーン!
覚悟しておくネ!」

足柄「上等よ。何度来ても返り討ちにしてあげるわ!」


北上「じゃーねー隼鷹っち。
実況スキル上げといてね。
次はアタシと大井っちが演習に出るから、サ」

隼鷹「おおん?!アタシも出るぜ?!」

北上「うはは!そいつぁ楽しみだ!」

大井「そうね、ほんとに」


翔鶴「鳳翔さん。あなたの操縦、見事でした。
でも、次は……負けませんよ」

鳳翔「あら、うふふ。
では、次も……負けませんよ」


そうして、艦娘同士が別れを惜しむ中、提督と太郎は何やら深刻そうな顔をして二、三言葉を交わしていた。

ワイワイとしていたのも、束の間。
船の方から、出港準備完了の合図が出た。

855: 2015/06/15(月) 23:25:53.38 ID:WQWBkUhi0
提督「そろそろ行かねば……」

太郎「提督さん……」

提督「……昨日も言ったが……
まぁ、一応、頼む」

太郎「…………はい」

提督「うむ。達者でなーー
おい、お前たち!そろそろ時間だ!」

何やら煮え切らない様子の太郎を残し、提督は船へと進んでいく。

そして、全員が船に乗り込む直前。
それまでずっと黙っていた陽炎が叫んだ。

陽炎「……榛名さん!」

榛名「……」

言葉は返さずに、冷たい視線で陽炎を一瞥する。
が、陽炎はそれに構わず、続ける。

陽炎「……私は、私は強くなるわ!
あなたを打ち倒して見せるんだから!」

北上「ヒュー!大きく出たねぇ」

大井「もう……」

陽炎のその叫びに対し、榛名はニコリともせずに。

榛名「また、会いましょう」

と、一言だけ。

そうして、サセン隊は南方基地を去った。

856: 2015/06/15(月) 23:26:30.13 ID:WQWBkUhi0
………
……



帰路、船の航行中、甲板


隼鷹「うっす。夕日がきれいだねぇ」

提督「……ああ、お前か。
……そうだな。綺麗だな」

隼鷹「ん。腰大丈夫?」

提督「大丈夫だ。……それより、他はどうした?」

隼鷹「皆、寝てるよ。疲れてるみたい。榛名は起きてたけど、1人は残っとかないとね……」

提督「そうか……」

隼鷹「ね、最後、太郎さんと怖い顔してたけど、何話してたのさ」

提督「……ああ、アレは……まぁ、戦術の話さ」

隼鷹「ふーん……あ、戦術と言えば!」

提督「ん?」

隼鷹「何で、演習で、最初に北上したの?
やっぱり不利になったじゃん。
最初から南に居れば、もう少し楽だったんじゃ無いの?」

提督「ああ、それか」

隼鷹「アタシの頭じゃ、理由がわかんなかったよー」

857: 2015/06/15(月) 23:33:43.84 ID:WQWBkUhi0
提督「皆、『船』の概念にとらわれ過ぎだ。
お前たちは艦娘だぞ。
お前の二本の足は何の為にある?」

隼鷹「何って……そりゃ、歩く為だけど……
……え?まさか……敵が島の北を徒歩で渡る、と?」

提督「それは大変な不意打ちになる。
だから、それを警戒しての事だ。
島には木々が茂っているからな。
空からでは小柄な敵が見えなくなるのさ」

隼鷹「待ち構えるって事?」

提督「正確には、空母の艦載機を何往復もさせる事で、なんとか木々を吹き飛ばして敵を炙り出すのが目的だ。
それをするには、島の近くに空母が居ないと効率が悪い。
ただでさえ発見が難しいからな」

隼鷹「な、成る程?」

提督「北から上陸し、西へ抜けるのが向こうからすると、最も安定したルートだった。
北に出れると攻撃側は非常に有利だったからな。
それで艦隊を北へ向かわせた訳だ」

隼鷹「へぇ……
……でもまぁ、普通考えないよね、上陸なんて……」

その応答に提督は、フッと笑って。

提督「どうかな。
俺が攻めなら、そうしたさ」

883: 2015/06/18(木) 21:20:27.29 ID:TF1bkh/10
サセン島


提督「やっと帰ってきたな……
長い2日間だった」

足柄「ふわぁ……ねむーい」

榛名「提督、お手を……
危ないですから」

提督「あ、ああ……すまん。
迷惑をかける」

榛名「ふふ。榛名は大丈夫です」

鳳翔「……」

雷「もう!しっかりしてよね、提督!」

提督「す、すまん……」

隼鷹「で、今夜は酒盛りなんだろ?
勝ったし!」

提督「……まぁ、そのつもりだが」

隼鷹「うっひょう!」

提督「お前それ、北上から移ったな……」

884: 2015/06/18(木) 21:21:32.06 ID:TF1bkh/10
そうやってワイワイと騒ぐ集団を。

不知火「ーー皆さん、お帰りなさい」

不知火が出迎えた。

提督「ーーただいま。万事変わりないか」

不知火「はい。大丈夫です……
其方は如何でしたか」

提督「無論、勝利だ」

不知火「本当ですか!
あの18戦隊を下すとは……流石です。
所で……何故、杖を?」

提督「ああ……少しゴリラに襲われてな……」

不知火「南方基地にはゴリラが棲むのですか……!恐ろしい……」

隼鷹「……」

提督(……サセン島のゴリラなんだがな……)

提督「まぁ、とりあえず入ろうか」

885: 2015/06/18(木) 21:22:16.82 ID:TF1bkh/10
………
……



数時間後、食堂


提督「それでは、勝利を祝ってーー」

「「「乾杯!」」」

隼鷹「イェー!」グビー

足柄「フゥー!」グビー

榛名「やりましたぁ!」

鳳翔「間に合わせの料理ですがーー」

雷「ーーざっくりと簡単にね!」

提督「ありがとう、二人とも。
いただこう」

祝宴が始まる。

隼鷹「いやぁー!
たいしたこと無いな18戦隊!
アタシ戦ってないけど!」グビグビ

不知火「何ですかそれ……」

隼鷹「聞いてくれよ!
足柄が一人でゴッさんを倒したんだぜ?!」

不知火「ゴッさん……件のゴリラでしょうか?!」ガタッ

隼鷹「ちげぇーよ!金剛さんだよ!」

不知火「ああ……一人で倒したのですか?足柄さん」

足柄「ンな訳!
榛名が痛めつけて、鳳翔さんが突撃して、アタシが美味しい所をチューチューしただけよ」グビー

不知火「全然状況が読めませんね……
でも、手負いとは言え、戦艦を仕留めたのは見事、ですね。
金剛さんはかなりの手練れですし」

886: 2015/06/18(木) 21:23:14.91 ID:TF1bkh/10
隼鷹「あとあと、鳳翔さんが翔鶴さんを完全撃破したんだぜ!」

不知火「え?それは……凄いですね。
翔鶴さんは、南方でも中々の実力者であった記憶が……」

鳳翔「そ、そんな完全撃破だなんて……
提督の指示通りに動いただけですから」

隼鷹「あと榛名が、ペーペーとは言え、駆逐艦と重巡をぶちのめしたぜ!」

不知火「そうですか」

榛名「……なんか私だけ素っ気なくないですか?!」

足柄「まぁつまり、全部提督の手柄よ!」

不知火「流石ですね、提督」

提督「そいつらは酔ってる。言っている事を間に受けるな。
俺は今回、特に何もしていない」

鳳翔「そんな事、ありませんよ」

榛名「わ、私が敵に接近出来たのも提督の作戦ですよ!」

不知火「……だ、そうですが?」

提督「んなこたぁない」

887: 2015/06/18(木) 21:23:57.23 ID:TF1bkh/10
足柄「……てかさぁ、何で提督飲んでないの?
飲みなさぁい!」

提督「おまっ……やめっ……
アルコールが腰に響くんだよ……!」

足柄「大丈夫!痛いだけよ……!」

提督「何が大丈夫なんだ……!」

足柄「隼鷹!抑えなさい!」

提督「隼鷹!動いたらお前は半年間酒抜きだぞ!」

隼鷹「くっ……すまねぇ足柄……
……アタシにゃ、無理だ……」

足柄「ちぃぃぃ!雷ちゃんは?」

雷「はにゃ?」

足柄「ダメね酔ってる!」

提督「馬鹿め……
あいたたた……腰が……」

足柄「え?だ、大丈夫?」

提督「大丈夫だ。暑いと、少しな。
厠に行ってから夜風に吹かれてくるよ」

足柄「うん……」

提督「シュンとするな。お前のせいじゃない。催しただけだ」

足柄「しょ、食事中に汚いわよ!」

提督「ははは、すまんすまん」

ワシャワシャと頭を撫でる。

榛名「ご一緒します!」

不知火「……あなたは殿方の手洗いについて行くつもりですか……」

榛名「……え?いえあのーー」

提督「幽霊が出たら、その時は頼むよ」

そう笑って提督は立ち上がり、去っていった。

888: 2015/06/18(木) 21:24:48.94 ID:TF1bkh/10
榛名「……何故か、私が提督のお手洗いに着いて行きたかった変Oのように!」

不知火「皆知ってますよ」

榛名「何をですか?!
なんか私の扱いがエグくないですか?!
もう良いです、榛名、飲みます!」グビー

隼鷹「いよっ!いい飲みっぷり!」

足柄「……いやぁ、失敗したぁ」

隼鷹「どうしたぁ」

足柄「提督が飲んでなかったからぁ。
強要するつもりは無かったんだけどなぁ……」

隼鷹「カンケー無いっしょ。またすぐ戻って来るって。
そんな器の小さい人じゃないよ」

足柄「うー……」

雷「所で鳳翔さん?
飲み過ぎじゃない?」

鳳翔「……?これはお水ですよ?」グビー

雷「黒霧島って水の銘柄じゃないと思うの……」

隼鷹「すげぇ飲んでんな……」

足柄「あらあら、鳳翔さん。
機嫌が良いのね」

鳳翔「今回の勝利は、本当に嬉しかったですから……
……美味しいですね、この大根」もきゅもきゅ

889: 2015/06/18(木) 21:25:47.52 ID:TF1bkh/10
足柄「そうね……
やっぱり鳳翔さんの翔鶴さん撃破はデカかったわね……大根ちょーだい」

鳳翔「どうぞ。
空母として勝ったのなんて、一体いつぶりでしょうか。
柄ではありませんが……血湧き肉躍りましたよ、ふふ。
これも、あの方のお陰ですね」

足柄「そうかも、ね」

隼鷹「……そういや、提督が来てから結構経つよなぁ」

足柄「そうねぇ……早いものね……」

隼鷹「始めはまぁ、印象悪かったなぁ……
酒瓶有ったら殴るとか言ってたぜアタシ。うはは」

足柄「あたしなんて、初めての夜間哨戒で10分毎に連絡して一晩中起こし続けたわよ」

隼鷹「うわっ……そんな事してたのかよ……」

足柄「今思えば、よく毎回毎回通信に出たわね……提督」

隼鷹「あの人らしいや」

鳳翔「私達を光らせる、なんて事も仰ってましたね。
ふふ、懐かしい……」

足柄「あー……あったわねー……」

鳳翔「なんだか、もう、達成されたかのような気分ですよ……ひっく」

隼鷹「待った待った!アタシがまだだぜ!」

足柄「そういえばアンタ、観戦してただけだったわね……」

隼鷹「次はアタシがエースだよ!」

鳳翔「相違ありませんね、ふふふ。
杯が空ですよ。お二人ともどうぞ」コポコポ

足柄「あら、ありがと」

隼鷹「お!ありがとう!」

鳳翔「あなた、最近はお酒お酒と言わなくなりましたものね……
良いことです」

隼鷹「いつでも飲みたいけどな!うはは」グビー

890: 2015/06/18(木) 21:26:28.67 ID:TF1bkh/10
足柄「提督が赴任して来てから、外面の変化よりは……
内面の変化が多い気がするわ。
今回の演習も、どちらかといえば地力で戦ったし」

鳳翔「確かに、そうかもしれません。
なんと言うか……何かを考える事が多くなったような……
今までは考え無かったような事を……」

隼鷹「そうなのか?」

足柄「……アンタはずっと艦載機訓練してたじゃない」くいっ

隼鷹「確かに!
しかもまだ発揮出来てねー!」

鳳翔「もうすぐですよ、もうすぐ……うふふ……」ぐいっ

雷(皆グイグイいくし……これってほんとに水なのかしら?)ペロッ

雷「辛っ……やっぱ焼酎じゃない……」

鳳翔「あら、雷さん?
欲しいのでしたらお注ぎしますよ」ドボドボ

雷「ちょっ……あっ……ああああ……」

隼鷹「ひっ……
ビールジョッキに焼酎……」

足柄「完全に酔っ払ってるわね……」

隼鷹「んで……あっちはあっちでーー」チラ

891: 2015/06/18(木) 21:27:02.24 ID:TF1bkh/10
榛名「うぇぇぇぇえん!榛名は、榛名は提督に拾っていただけて幸せですぅ……
はづじょうりです……」ビエーン

隼鷹「榛名が号泣してる、と」

不知火「何泣いてんですか。
蹴りますよ」ゲシゲシ

榛名「痛いです痛いですっ!
て、提督に言いつけますよ!」

不知火「どうぞ」

榛名「ぃやぁ!ううー!」

不知火「威嚇しないで下さい。
可愛くないですよ」

榛名「酷い……提督ぅ!」

不知火「うるさいっ」ゲシッ

榛名「わぁぁぁぁぁん!」ビエーン

隼鷹「うわぁ……不知火も酔ってるし……カオスかよ……」

雷「ちょっろ!じゅんよー何やすんれんのよ!飲みなしゃい!」

隼鷹「げぇっ!ゾンビかよ!
……や、やめて!それは飲めない!
イッキは氏ぬ!氏ぬゴボグバッ」

足柄「ひぃっ……
あー……あたしちょっと用事を思い出したわ……」ソロー……

「「「……どこへ、行くんですか?」」」

イヤッ……ギャァァァァァーーー……

892: 2015/06/18(木) 21:28:04.54 ID:TF1bkh/10
………
……



執務室


提督「悲鳴がここまで聞こえてくるぞ……
随分と楽しそうだ」

提督は夜風には当たらずに一人部屋に戻り、不在の間に溜まった仕事をこなしていた。

提督「……」

演習があって。
太郎くんと会って。
祝勝会があって。
艦娘達が楽しげで。

どうしても昔の事を、思い出してしまう。
かつて在りし日々。

今更考えても仕方の無い事だ。
だけれど。

提督「……心が、痛いなァ」

提督は耐え切れず、逃げ出したのだ。
記憶から。現実から。

仕事が溜まっているからと自分に言い訳して。
たいしたことの無い腰痛を艦娘に言い訳して。

提督「いやいや……
やらねば為らぬ事は山積しているさ」

戦いは近いのだ。
そう自分に言い聞かせて、辛い思考を振り払う。

だが。
カッチコッチと鳴る時計の音が、紙の上をペンが滑る音が、やけに大きく耳に響いた。

893: 2015/06/18(木) 21:28:48.65 ID:TF1bkh/10

……
………


どれ位仕事に没頭していただろうか。
提督の集中は、部屋への来訪者によって途切れた。

足柄「お疲れ様」

そう言って、足柄は冷たい水を提督に差し出す。

提督「……お前か。ありがとう」

足柄「随分と淀んだ夜風がお好みなのね」

提督「寒いのも腰には良くないからな。
今、何時だ」

足柄「とっくに夜中を過ぎているわ」

提督「そうか……そんなに経っていたか。
通りで仕事が進む筈だ。
他はどうした?」

足柄「皆潰れて寝てるわ。……榛名だけ居なかったけれど
あたしも潰されて、さっき目が覚めたから」

提督「お前らは毎回毎回潰し合いをしているな……
榛名は……部屋か?
まぁ大丈夫だろう」

苦笑してため息。

足柄「あなた、いつも大量の書類抱えてるわよね。
それでいっつも夜遅くまで……
言ってくれたら手伝うのに」

提督「何、それには及ばない。
実は……俺は太陽が苦手なんだよ。
夜のが落ち着くのさ。
だから大丈夫だ」

足柄「何よそれ……吸血鬼か何かなの?」

提督「はっはっは。まぁ、そんな所だな」

足柄「あら嫌だ。血を吸われるのかしら」

提督「艦娘に噛み付いたら歯が折れそうだな」

苦笑する提督に溜息。

894: 2015/06/18(木) 21:29:28.39 ID:TF1bkh/10
足柄「……ねぇ。教えて欲しい事があるの」

提督「ん?なんだ」

足柄「私達は……艦娘は……何のために、戦うの?」

提督「……」

足柄「昔、聞いたこと覚えてるかしら」

提督「……何故、人間が艦娘を恐れるか、と言う疑問だったか」

足柄「そうよ。よく覚えてるのね。
……私は、人間に疎まれるのが嫌だった。
人間の為に戦っていたのに」

提督「……」

足柄「それが嫌になって、人間に反抗していた。
北ではね。
ここにあなたが来た当初も、結構嫌がらせしたのを思い出したわ」

提督「……」

足柄「でも……でも、あなたは……
私達は兵器じゃないって言う。
私達は艦娘だって。
心があるって」

提督「……」

足柄「あなたが言うように……艦娘が人間の兵器じゃないなら……
私達は、何の為に……戦ってるの……?
何の為に、命を削るの?
わからなく、なるわ……」

提督「……」

足柄「ねぇ……教えてよ、提督……」

提督「……」

提督は無言を貫く。
いくばかの時間が経過し。
不安を煽られた足柄が言葉を発する。

足柄「……提督?」

895: 2015/06/18(木) 21:30:07.18 ID:TF1bkh/10
その瞬間、提督は無言で、勢いよく机から立ち上がった。
足柄と目を決して合わせないようにしながら。
ガチャン!と大きな音がして、足柄がビクつく。

足柄「な、何……?」

まさか怒らせちゃった?という思いから、疑問が思わず口をついて出た。
しかし、それを提督は無視し、肩を怒らせたまま、異様な程静かに、しかし確かに、足柄に近づいて来る。

足柄「何?……何なの?怒ったの……?」

提督はそれも無視。
顎を引いて、歩きながらも視線は決して合わせない。

足柄「い、嫌よ……あなた、怖いわ……」

いよいよ不気味に思い、足柄は弱々しい声を発してしまう。
今、この人が何を考えているのか全くわからない。
理解できない故に、恐ろしい。

無意識に足が後ずさりし、いつしか足柄は壁際まで追い込まれていた。
気がつくと、至近距離に無言の提督。
肉薄し、もはや逃れられない。

突然。

提督「ーーこれがァ!!」

提督が怒鳴り、足を思い切り踏み鳴らし、足柄がもたれていた壁を殴る。
あまりの音量と恐怖に身がすくみ、足柄は動けない。

まさに壁ドン。

提督の顔は、足柄が少し顎を前に出せば唇同士が触れ合うような距離にあった。
しかし、ロマンチックさは微塵も無い。
その相貌は先程とは打って変わり、足柄の目を上から見下ろすようにして、しかし真っ直ぐに見つめている。
その視線は恐ろしく冷たくて。

足柄「いやっ……」

怖い。純粋に怖い。
その恐怖心から、足柄はギュッと目を瞑り、声を上げた。
何か酷いことをされる予感がする。
事態に備えて筋肉が収縮し、身が縮こまった。

が。

提督が足柄にした事は、優しく頬を撫でる事だけだった。

896: 2015/06/18(木) 21:31:30.33 ID:TF1bkh/10
そして、言う。

提督「……これが、脅迫の手法だ」

足柄「……?」

そっと目を開けた足柄の頬をさする。
その瞳には涙が溜まっているように見えた。

提督「人間が考えた脅迫のメソッドだよ。
視線を合わさず、言葉は無視して、不気味な程静かに近寄り。
肉薄してから、大きな音、暴力と共に強い圧迫感を相手に与える」

足柄「……」

提督「足柄。
お前たち艦娘は、純粋で、無垢で、善良だ。
……それに対して、人間はこんな事ばかり考えている。
残念ながらな」

先程の冷たい瞳はもう無く、いつも通りの温かい視線を足柄は感じる。
しかし提督の言葉は依然厳しく。

提督「他を蹴落とす、陥れる、操作する事ばかり。
人間がどれだけ薄汚く、愚かで、先見性が無く、醜い存在か」

足柄「……」

提督「……なぁ、足柄。
何かがわからない事は、恥ずべき事しゃあない。
それは思考の切っ掛けに過ぎん。
思考する事は即ち罪では無い」

897: 2015/06/18(木) 21:33:18.26 ID:TF1bkh/10
提督「……なぁ、足柄。
何かがわからない事は、恥ずべき事しゃあない。
それは思考の切っ掛けに過ぎん。
思考する事は即ち罪では無い」

提督「だが、人間は無知に付け込もうとする下衆でな。
パスカル曰く、偽りの知識を恐れよ、とある。
……お前は偽りの知識に侵食されているぞ」

足柄「……」

提督「艦娘は戦う為に生きてるんじゃない。
生きる為に戦うんだ。
自身の生命を脅かす存在から、自身を守るために」

足柄「……」

そこまで言ってから、提督は足柄を壁際から解放した。

提督「……すまないな……怖がらせた」

足柄「……や、やりかたってもんが、あ、あるでしょ……」

すっかり縮こまってしまっていたせいか、声が震える。

提督「やっぱりお前は……純情だな」

足柄「……ばか」

別に、あんたにやられたから怖かっただけよ、と心の中で呟く。
他の人間にこんな弱みは見せない。
足柄はプクーと膨れた。

898: 2015/06/18(木) 21:34:19.19 ID:TF1bkh/10
足柄「でも、あたし達は人間の手によって作られた……のよね。
じゃあ、やっぱり人間の道具、じゃないのかしら」

提督「……例えばーー
ロックは人格を、理性的で、自我があり、思考する知能を持つ存在と定義した。
その意味では、お前たちには人格があるとは思わないか?」

足柄「何……?岩……?
……でもまぁ、言ってる事はわからなくは無いわ。
あるんじゃない?人格」

提督「そこでカントが言ってるのさ。
モノが、その特性においてのみ価値が評価されるのに対して、人格はそのものに掛け替えの無い価値があると」

足柄「……はぁ?てかさっきから誰?」

提督「ふむ……
兵器は変えがきく物だ。だが、艦娘はそうじゃないな。
足柄は2人も居ない。
そうだろ?」

足柄「……まぁ、あたしが2人も居るわけ無いわよね」

提督「まずその時点でお前達は兵器と異なる、と俺は考える。
人格の有無が条件であって、そこに出自は関係無い。
大体、人間も人間から発生する」

899: 2015/06/18(木) 21:35:41.08 ID:TF1bkh/10
足柄「なるほど……?」

提督「ならば、艦娘が人間に作られたから云々なんてのは、人間に都合の良いバイアスでしかない。
自分達が兵器であると、艦娘は人間によって信じ込まされている訳だ。
……まさに偽りの知識だな」

語り終え、ふぅ、と溜息をつく。

足柄「……そっか……」

足柄は、何か思うところがあるのか、黙り込んで考えていた。
その足柄に、言う。

提督「ーーで、だ。
これまでの話を鵜呑みにするようでは、いかんぞ」

足柄「はい……?」

提督「俺の持論が真理であると、誰が保証した?
そもそも、難解な言葉を多用して事実を湾曲してるんじゃないか?
俺の持論こそが偽りの知識である可能性もあるんじゃないのか?」

足柄「えぇ……ややこしいわね……」

提督「ややこしいからと、考えるのを止めるなよ。
考えて、自分で判断するんだ」

足柄「……あなたの言う事を信じてはダメなの?」

提督「ハッ!もっと用心しろ、足柄。
俺は確かにお前達を愛しているが……
俺もまた、薄汚く、愚かな人間の一人だと言う事を忘れるな」

足柄「っ……」

提督「明らかな事は、艦娘は生きていて、思考できると言う事だけだ。
万象を疑え、足柄」

赤城「……さて、と」提督「昔話を、しようか」【10】

900: 2015/06/18(木) 21:39:24.47 ID:TF1bkh/10
ここまで


本当はカントとロックでは人格の定義が違ったりするそうですが……ごった煮です

先日の余計な予告、失礼しました……

引用: 【艦これ】赤城「……さて、と」提督「昔話を、しようか」