1: 2015/06/29(月) 23:52:13.10 ID:3mslNw6q0
遥か昔。
とても懐かしい、記憶の奥底。
まだ、二人きりの頃。
夜中。
食堂で。

加賀『……ぁ』

提督『……おう』

提督の手には出来たばかりのグラタン。

提督『……すまん、夜食を作ってたんだ……
起こしたか?』

加賀『い、いえ……』

提督『そうか……
しかし、なんでもこんな時間に……』

加賀『そ……れは……』

加賀は落ち着かない様子で、チラチラとグラタンに視線を送っている。

提督『……そうか。腹が減ったんだな』

加賀『ぇ……ぁ……』

提督『艦娘の食事は単調で少ないもんな。
腹も減るだろ。ほら、食え』

加賀『……いけません。か、艦娘と人間が同じ物を食べるのはーー』

提督は加賀の目の前に、無言でスプーンとグラタンを置いてやる。

提督『お腹、空いてんだろ』

加賀『っ……』

しばらく葛藤していたが。
加賀はついに我慢出来なくなって、パクパクと食べ始めた。

加賀『……美味しい……美味しいっ……』

その様子を、微笑みながら見つめる提督。

提督『美味しそうに食べるなぁ……
それくらい、いつでも作ってやるよ』

加賀『ほ、本当ですか』

食べてる途中、嬉しそうに顔を上げる。

提督『あーあー……そんな勢い良く顔をあげたら飛び散るぞ……
しかし……ふふっ。
そんな顔も出来るんじゃないか』

加賀『……?』

提督『お前はいつも無表情だから心配してたんだぜ。
……可愛らしい、笑顔だ』


2: 2015/06/29(月) 23:53:21.24 ID:3mslNw6q0
艦これ二次創作ss、オリジナル設定多数、長編です。



前回:赤城「……さて、と」提督「昔話を、しようか」【10】

第二章:赤城「……さて、と」提督「昔話を、しようか」
第一章:提督「…さて、と」



の直接の続編となります。
最初の方はかなり稚拙な文章ですが、よろしければ是非、お付き合い下さい。
「艦これ」ピクトリアルモデリングガイド 大和編: 『艦これ』提督のための艦船模型ガイドブック

21: 2015/07/01(水) 23:21:26.07 ID:96S4PoGk0
サセン島、食堂


鳳翔「……提督、起きて下さい、提督」ゆさゆさ

提督「zzz……」

鳳翔「起きませんね……」

チラッチラッと周囲を確認。

鳳翔「ちょ、ちょっとくらいなら……」

誰も見てませんし、と自分に言い訳しつつ提督に接近するーー。

榛名「ふぁ……
あれ?足柄さん、そんな所で何をしてるんですか?覗きですか?」

と、食堂の入り口の方から声が聞こえた。

足柄「ちょ、榛名!今良いところだったのに!」

榛名「え?食堂に何か面白いモノでもーー」

ひょこっと榛名が顔を覗かせる。

すると、顔を真っ赤にしてそっぽを向く鳳翔と、椅子で就寝中の提督が。

榛名「……ああ、成る程」

足柄「んもー!」

22: 2015/07/01(水) 23:22:06.64 ID:96S4PoGk0
2人が食堂に入ってくる。

榛名「ふぁ……提督、こんな所にいらっしゃったんですね……
通りで部屋に居ないと」

足柄「ねー……
で、鳳翔さんは何しようとしてたの?」

鳳翔「……」プイ

足柄「ねぇー?」ニヤニヤ

榛名(うわぁ……)

鳳翔「もう、からかわないでください!
ご、ご飯、作りますから!」パタパタ

足柄「あ、逃げた」

榛名「足柄さん、お風呂行きましょう。
折角昨晩提督がお掃除して下さったんですし」

足柄「……あー。でもあたし午前哨戒だし、帰ってからで良いかなぁ……
どーせ汗かくし……」

榛名「ええ……ズボラ過ぎませんか?」

足柄「1日ぐらい風呂入んなくても……
いや、ナシね。風呂行こ。
ついでにこの氏体3つも持って行きましょう」

地べたに横たわる不知火、雷、隼鷹を指差して言う。

榛名「そですね」

23: 2015/07/01(水) 23:22:45.96 ID:96S4PoGk0
足柄「ついでに提督も起こしておきますか……」

榛名「お疲れですし、寝かして差し上げた方が……」

足柄「……それもそうね。
じゃ、氏体を拾って行きますか」

榛名「はい」

そう言って、榛名が不知火の首根っこを持ち上げた瞬間。

不知火「んぁ……?……何奴っ」

寝ぼけた不知火が滅茶苦茶暴れて。
驚いた榛名は手を離してしまう。

榛名「あっ」

不知火「あああああ」

勢い余った不知火は、そのまま提督に突っ込んで行った。

衝突。

提督「ゴフッ」

不知火ごと吹き飛ぶ提督。

足柄「ちょっと榛名……」

榛名「え……?これ私が悪い感じですか……?」

不知火「はっ……私は何を」

提督「ぐふっ……おは……よう」

不知火「……提督?何故不知火の下敷きに?」

提督「俺が……聞きたい……」

24: 2015/07/01(水) 23:23:21.16 ID:96S4PoGk0
………
……


執務室


不知火「どうぞ。コーヒーです……
先程は失礼致しました……」

提督「ありがとう。
いや、起こしてくれて助かったさ。
やはり深夜の酒はいかんな……」

不知火「随分とぐっすりお休みになられていたようで」

提督「まぁ、な。
……夢を見ていた」

不知火「……昔の夢、ですか」

提督「ああ。昔も昔、お前が来る遥か前の事だよ」

不知火「……」

提督「そう険しい顔をするな。
ただの夢だ」

不知火「だと良いのですが」

提督「ああ。久し振りに……ピアノを触りたくなったな……」

25: 2015/07/01(水) 23:23:56.21 ID:96S4PoGk0
不知火「ピアノ、ですか……
加賀さんがヘタッピだった事は覚えてますが」

提督「そう言ってやるなよ。
あれでもピアノ歴はそこそこ長いんだ。
今も弾いてるのかは知らんが」

不知火「不知火の方が上手いですよ」

提督「何?
お前、弾けるのか?」

不知火「弾けませんけど……
よく、加賀さんに練習付き合わされてたので……なんとなくそう思います」

提督「成る程なぁ……
いや、まぁ……加賀は不器用なのが良いんだよ」

不知火「いきなり惚気ですか」

提督「……確かに惚気だな」

不知火「朝っぱらからよして下さい。
ほら、書類が届いてますよ……」

提督「ああ、すまん……」

不知火が書類の束を手渡し、それらに目を通す提督。
ペラペラとめくっていたが、あるページで手が止まった。

提督「……そうか」

不知火「?……如何なさいましたか」

26: 2015/07/01(水) 23:27:08.88 ID:96S4PoGk0
提督「見ろ」

ピラッと、紙を不知火に手渡す。

不知火「……これは」

提督「ああ。遂に……事態が動き出した」

『情報開示についての諸事項』
不知火が見つめる書類の見出しである。

不知火「一斉情報開示、ですか」

提督「そうだ。まだ猶予はあるがな」

不知火「……聞くと、防衛線も整いつつ有りますし、時期としては悪くないのでは?」

提督「そりゃあ、整ったからこそ公開したんだろう」

不知火「そうですか。
しかし……まぁ……艦娘的には……戦う相手がかつての仲間だなんて……
知りたくない事柄でしょう。
もし私が何も知らない艦娘だったら、なぜ教えたんだと恨みますよ、きっと」

提督「そうだとしても、いずれ知る事だ。
情報の逐次投入は避けねばならん」

不知火「そうなのですか?」

27: 2015/07/01(水) 23:29:02.62 ID:96S4PoGk0
提督「かつて陸軍が情報を出し惜しんで大失態を犯した事がある。
ま、人間も多少は過去から学んでると言うことだ。
ともかく。
知り得る事、知るべき事は知っておくべきだ。
特に敵のことは、な」

不知火「そう、ですが……例えば、必要な者にのみ伝える、とか……」

提督「そんな事をすれば噂が立つ。
噂には尾ひれが着くもんだ。
そうなると、余計面倒だろ?」

不知火「……確かに、そうかもしれません」

提督「……ああ、それと。
ここは防衛線から遠いが……
しばらくは前線の連中も戦闘への腰が引けるだろう。
そこをついて、抜けてくる敵が居るかも知れん。
哨戒を注意深く行うように」

不知火「はい」

と、丁度話の区切りで来訪者。

コンコン
鳳翔「鳳翔です」

提督「入れ」

ガチャ
鳳翔「失礼します……不知火さんをお借りしても?」

ニコニコ顔の鳳翔。
しかし何故だろうか。
コメカミに青筋が浮かんでいるような気がするのは。

28: 2015/07/01(水) 23:31:18.03 ID:96S4PoGk0
提督「……構わんが」

不知火「な、何でしょうか」

不知火はダラダラと汗を掻いている。

鳳翔「ちょっと来て下さい……?」

不知火「……はい」

堪忍したように俯く不知火。
そして、そのまま鳳翔に連れて行かれた。

提督「また何かやらかしたな……」

まぁいいか、と書類に没頭すること数十分……

イヤァァァァーー……

と、遠くから誰かの悲鳴が聞こえた。

提督「……楽しそうだな……」

提督は苦笑する。


………
……



艦娘寮


鳳翔「ですから卵をチンしてはいけないとあれ程ーー」

不知火「はい……すみません……」

怒られて、シュンとする不知火。
そんな折。

29: 2015/07/01(水) 23:32:41.20 ID:96S4PoGk0
雷「イヤァァァァ!」

向こうから悲鳴が聞こえてきた。
同時に雷がキッチンに駆け込んで来る。

榛名「だ、大丈夫ですか?」

食堂で本を読んでいた榛名が慌てて立ち上がった。

雷「掃除機かけようと思ったら!
ゴキブリが!ゴキブリが掃除機から!」

榛名「ひっ……」

不知火「……」

サッと目をそらす不知火。

鳳翔「不知火さん……?一体何を……?」

不知火「……いえ、あの」

鳳翔「……」

不知火は鳳翔の無言の圧力に屈した。

不知火「……一昨日ゴキブリが出たので……
掃除機で吸引しました……」

雷「何て事を……」

不知火「いえ。
ここは寧ろ、ゴキブリの生命力を褒めるべきでは無いかと!」

鳳翔「何を力説してるんですか……」

雷「てか、何匹吸い込んだのよ……!」

不知火「?それは一匹ですよ……さすがに」

30: 2015/07/01(水) 23:34:13.76 ID:96S4PoGk0
雷「え……5,6匹出てきたんだけど」

榛名「……あ、それってもしかして繁殖ーー」

鳳翔「……」

榛名「……」

不知火「……」

雷「……よ、用事を思い出したわ」

榛名「……わ、私も……」

逃げ出そうとした二人の首根っこを、不知火がガッと掴む。

不知火「ダメです」

雷「何が?!」

榛名「イヤです!イヤです!離してください!」

雷と榛名は暴れるが、不知火は意地でも離そうとしない。

鳳翔「……ここら辺のゴキブリは大きくて苦手なんですよね……
とりあえず殺虫剤を染み込ませた布で掃除機をーー」

そこまで言って、備え付けの殺虫剤を手に取る鳳翔。

鳳翔「……あれ?殺虫剤が何故空なのですか?」

不知火「……す、すみません……
実は……ぜ、全部使いました……」

雷「何で全部使った上に掃除機で吸うのよ?!」

不知火「わ、私は本当にゴキブリ無理なんですよ!
殺虫剤を山のようにかけてもピクピクしてますし……!」

鳳翔「それで吸ったんですか……
というか、備品が空になったら報告をしっかりせよといつもーー」

不知火「ごめんなさい……」

鳳翔に再びお叱りを受ける不知火。

31: 2015/07/01(水) 23:35:16.62 ID:96S4PoGk0
雷「てか、それ……
掃除機の氏体にゴキブリが集まったんじゃ……」

不知火「成る程。
……繁殖してなくて良かったですね。
さ、榛名さん……」

榛名「はい?!
私に何をさせるつもりですか?!」

不知火「大丈夫ですよ……」

榛名「全然大丈夫じゃないですよ?!」

鳳翔「と、とにかく掃除機を建物の外に出しましょう」

………
……



鳳翔「……さて、と」

なんとかソローリソローリと掃除機を外へ運び出す事に成功した鳳翔達。

雷「いよいよ……
パンドラの匣を開けねばならないのね……榛名さんが」

榛名「絶対嫌ですよ!
私は偶然食堂に居合わせただけなのに……
何故こんな……」

雷「……所で不知火さんは?」

鳳翔「何だか決戦兵器を用意するとか何とか言ってましたが……
どこへ行ったのでしょうか」

32: 2015/07/01(水) 23:36:36.16 ID:96S4PoGk0
鳳翔が辺りをキョロキョロとしていると、不知火が現れた。

不知火「お待たせしました」

鳳翔「あら、不知火さんーー
ーー……その、担いでいるモノは?」

不知火「溶接棒と……液体窒素ですね」

鳳翔「……はい?」

榛名「うわぁ……雷さん、何か言ってやって下さいよ」

雷「……でかした!」

榛名「えぇ……」

鳳翔「ちょ、ちょっと……溶接棒ってーー」

不知火「ご心配なく。バッテリーも完備してます」

鳳翔「いえあのそういう事では……
というか液体窒素は高いんじゃ……」

不知火「背に腹は変えられません」

鳳翔「何の腹ですか何の」

榛名「……提督にバレても知りませんよ」

不知火「バレなければどうという事はありません」

榛名「……」

不知火と向き合う榛名が、チラリと不知火の背後に目をやると。
窓の桟に肘を置いて、室内から此方を伺う提督と目が合った。

榛名(執務室の真ん前でバレちゃいけない事をやるって……
ちょっとアホすぎやしませんかね、コレ……)

33: 2015/07/01(水) 23:37:49.36 ID:96S4PoGk0
不知火「では、まず作戦会議を!」

雷「取り敢えず榛名が掃除機のフタを開けるわ!」

榛名「い、異議あり!」

雷「何が不満なの?!」

榛名「何に満足しろと……?」

不知火「まぁまぁお二人共、落ち着いて。
まずはフタ以外を溶接しないと」

雷「それもそうね!」

鳳翔「異議あり。
掃除機はこの基地の大事な資産です。
雑に扱わないで下さい」

不知火「むむ。確かにそうですね。
じゃあ溶接は無しと。
やっぱり榛名さんがフタを開けて、逃げ出したゴキブリを私と雷さんが凍らせましょうか……」

雷「名案ね!」

榛名「私が開けるのは確定なんですか……?」

不知火「だって一番皮が厚いじゃないですか」

榛名「皮?!」

不知火「ツラの」

榛名「暴言ですよコレ……!
本土から戻ってからやたら私に厳しくないですか?!」

不知火「ほら、とっととやりますよ……」

榛名「うう……い、嫌ぁ……」

不知火「提督の為でも?」ボソッ

榛名「やります」

雷「ヤダ単純……!」

榛名「はっ?!
何か今取り返しのつかない事を口走ったような……」

不知火「ほら、発言に責任を持ちましょうね……
やりますよ」

榛名「あああああ……」

鳳翔「作戦も何もあったもんじゃ無いですね……」

34: 2015/07/01(水) 23:39:14.11 ID:96S4PoGk0
………
……



足柄「……何やってんの?」

足柄が哨戒から戻ると。
泣きながら掃除機のフタに手を掛ける榛名と、その両サイドにボンベを持った二人組が。

足柄「いや全然意味わかんないんだけど……」

鳳翔「あ、足柄さん……」

足柄「……何?これ」

鳳翔「ゴキブリが……」

足柄「ゴキブリ?掃除機で吸い込んだの?」

鳳翔「ええ、まぁ……」

足柄「ハァ……それでビビってんのね」

ため息と共に足柄は榛名達に歩み寄る。

足柄「ちょっと退きなさい、あたしがやるわ」

榛名「あ、あじがらざん……!」

榛名が足柄に抱きつく。

足柄「ほら、離れてなさい。
えっと、このフタを開けて中身を捨てれば良いのかしら?」

そう言って無造作にフタを開け。

足柄「ーー」

0.1秒で閉じた。

鳳翔「あ、足柄……さん?」

足柄「……ちょっと待ってなさい」

多くを語らず、それだけ言って足柄はどこかへ行った。

35: 2015/07/01(水) 23:40:33.20 ID:96S4PoGk0
待つ事数分。

榛名「遅いですね……」

不知火「一体何を見たのでしょうか……」

鳳翔「あ、戻ってきまし……たよ……」

だんだんと鳳翔の語気が落ちる。
それもそのはず。
戻ってきた足柄が持ってたのは……

足柄「……汚物は、消毒よ……!」

加工用大型バーナー。
背後には燃料タンク。

榛名「こ、この人もダメな感じだ……!」

鳳翔「だっダメです!掃除機は大事な……」

足柄「あんな掃除機、二度と使えないわよ!
中身を見たら……ゴキ、ゴキ、ゴキ!
ああー!気が狂いそうだわ!」

雷「ひっ……
そんなにゴキで埋め尽くされていたというの……?」

足柄「フタを閉めた時手に汁が着いたのよね……
ゴキ汁が……ああ、許せない!
汚された!汚されたわー!消毒よー!」

そのままバーナーで掃除機を焼却。

不知火「ちょ、熱っ……」

近くに居た不知火と雷が巻き添えを喰らう。

そして、手に持っていたボンベも。
急加熱された液体窒素は急騰、その体積が700倍にも膨れ上がり。
凄まじい音と共に爆発した。

59: 2015/07/06(月) 23:12:01.17 ID:8D+Av6hA0
船渠


カポーンーー……

足柄「……」

不知火「……」

榛名「……」

雷「……」

鳳翔「……」

カポーンーー……

不知火「……久しぶりに、提督に怒鳴られましたね……」

榛名「し、不知火さんのせいですからね!
うう……あんな怒っている提督初めてでした……」

60: 2015/07/06(月) 23:12:42.65 ID:8D+Av6hA0
雷「でも仕方ないわよ……
破片が飛び散りまくって基地の壁や窓がえらいことになってたし……」

榛名「仕方なく無いですよ?!
何故ゴキブリに液体窒素とバーナーを……」

雷「じゃあ、あなたがやれば良かったじゃないの!
処理を!」

榛名「私被害者ですからね?!
元はと言えば不知火さんが……」

不知火「不知火に何か、落ち度でも?」

榛名「落ち度以外を見つける方が難しいと思うんですけど」

雷「そうよ!」

不知火「う……でも、雷さんも『でかした!』とか言ってましたよね。
共犯ですよコレ」

雷「全然覚えが無いわね。
罪をなすりつけるのはやめていただけるかしら?」

榛名「えぇ……どう思いますか足柄さん」

足柄「……え?ああ、うん」

足柄は心ここに在らずというふうな状態。

雷「心が重傷ね……」

61: 2015/07/06(月) 23:13:16.28 ID:8D+Av6hA0
足柄「……あーあ。あたしなんでバーナーなんか持ち出したんだろ」

はぁ、と溜息。

榛名「一番怒られてましたもんね……足柄さん」

足柄「あたしだけおかしくない?
液体窒素もまぁまぁだと思うんだけど」

不知火「ば、バーナーの方がおかしいです」

榛名「なんの争いですか……
どっちもどっちですよ……」

雷「正直、バーナーより……
『艦娘は丈夫だから云々』って言ったのが逆鱗に触れてたような」

足柄「……だって丈夫じゃない!
この程度なら、誰も怪我してないし……」

不知火「熱くて痛かったですけどね」

足柄「あたしも痛かったわよ」

鳳翔「……お二人は自業自得じゃないですか……
私なんて……何もしてないのに破片が刺さって痛いし……
提督にも怒られますし……最悪ですよ……」

ずーん、と鳳翔の雰囲気は暗い。

62: 2015/07/06(月) 23:13:53.13 ID:8D+Av6hA0
雷「鳳翔さん、元気出して!
そういう日もあるわ!」

榛名「あー……あなたがそれ言いますかー……」

鳳翔「雷さん……
あなたは明日から一週間、ごはん抜きです」

雷「何で?!不知火さんじゃないの?!」

鳳翔「腹いせですっ」

雷「そんな殺生な!せめてなにか食べるものを……」

鳳翔「……では、ガムをあげましょう」

雷「ガム?!」

榛名(チョイスが……)

雷「た、炭水化物を……」

鳳翔「……仕方ありませんね。
ガムごはんにしてあげます」

雷「ガムごはん?!そ、それはちょっと意味が……」

鳳翔「大丈夫です。
お米に載せるガムのフレーバーは毎回変えますから。
飽きませんよ。良かったですね」

63: 2015/07/06(月) 23:15:27.99 ID:8D+Av6hA0
雷「いやそういう問題じゃなーー」

不知火「ーー良かったですね、雷さん」

雷「こ、こいつ……!自分じゃないからって……!」

鳳翔「もちろん、不知火さんもガムごはんですよ」

不知火「……え……?」

榛名「何故そんな不思議そうな顔が出来るんですか……」

鳳翔「……まぁ、冗談は置いといて……
特に怪我もありませんし、そろそろ上がって……
後片付けをしないと……」

そう言って、腰を浮かせた鳳翔を引き止めるような足柄の呟き。

足柄「うー……上がりたくないー……」

鳳翔「……まぁ気持ちはわかりますけど……」

足柄「気まずいのよー……
あんな怒ること無いじゃないのよー……」

口許を湯船につけて、ぶくぶくと泡を立てる。

64: 2015/07/06(月) 23:16:23.42 ID:8D+Av6hA0
雷「……うじうじするなんて、なんだかあなたらしくないわね」

榛名「……確かにそうですね。
提督がいらす前は、よく前任者と揉めてたじゃないですか」

足柄「……そうかな……」

雷「そう言えば、代理さんに対しても少しキツかったわよね」

足柄「……いや、提督と他の人は違うし」

雷「同じ人間じゃないの?」

足柄「……まぁ、そうだけど……
今回は完全にあたしの失態だし……それに……」

雷「それに?」

足柄「……提督は優しいもん」

消え入りそうな声でつぶやく。

雷「え?なんて?」

足柄「……んでもないわよ」

雷「まぁ確かに、提督は優しいわよねぇ」

足柄「ばっちり聞こえてんじゃないの。
そうよ、優しいじゃない……」

榛名「優しいから許していただける、と言う発想には至らないのでしょうか?」

足柄「違うのぉ……」

鳳翔「煮え切りませんね」

65: 2015/07/06(月) 23:17:00.00 ID:8D+Av6hA0
足柄「……あたし。実はゴキブリ……すごい苦手なのよね」

不知火「なんですか、その唐突なカミングアウトは。
ゴキブリが好きだと言うつもりなのかと思いましたよ」

足柄「んなわけ無いじゃない……」

榛名「では、何故私の代わりを?」

足柄「それはあんたが泣いてたから。
可愛そうだなー、あたしなら我慢できるでしょ、
なんて軽い気持ちで代わったのよ。
5秒で後悔したけど」

不知火「リアル情けは人のためならずですね」

足柄「張り倒すわよアンタ」

榛名「足柄さんって大概優しいですよね……」

足柄「……そんなことないわ。
嫌な事って誰かがやらないといけないじゃない。
それをあたしがやってるだけ」

榛名「それって優しさだと思うんですけど」

足柄「……買い被り過ぎ。
昔居た所が、誰かが失敗すれば直ぐ連帯責任、って所だったから。
カバーする癖がついてるだけよ」

榛名「そう、ですか……」

足柄「でも……カバーして失敗してちゃあ、意味が無いのよね……
昔も失敗して周りに迷惑かけて、孤立したし。
……ほんと、馬鹿」

榛名「足柄さん……」

はぁ、と大きな溜息。

66: 2015/07/06(月) 23:17:30.52 ID:8D+Av6hA0
足柄「……あーあ。
こんな事で……嫌われ、ちゃったかな」

こういう時、いつもなら足柄が間を持たせるのだが。
今回は本人が沈んでいるせいで、船渠を長い沈黙が支配する。

鳳翔「……足柄さん」

静寂を破り、鳳翔が静かに語りかけた。

鳳翔「とりあえず、上がりましょう」

足柄「……」

鳳翔「そして、破片を片付けに行きましょう。
そのあと……皆で謝りに行きましょう」

足柄「……」

鳳翔「こんな事で、提督はあなたを嫌いませんよ、きっと」

足柄「こんな事、じゃ無いのよね……きっと」

鳳翔「?」

足柄「おフロで金剛さんと話してたんだけど……聞こえてたかしら。
ほら、演習の時。提督が隼鷹を庇ったじゃない」

鳳翔「はい」

足柄「提督を部屋まで運んだ時、艦娘は丈夫だから、庇わなくて大丈夫って言ったのよ。
そしたら、そういう問題じゃないって。
痛い事は良くないってさ」

鳳翔「……」

足柄「あたしはそれ聞いてたのに、また『艦娘は丈夫だから』って言っちゃったから。
……多分、皆が思ってる以上に、あの人は艦娘を大事にしてるわよ」

鳳翔「……」

足柄「……ほんと、何やってんだろね、あたし。
……ごめんね、そろそろあがろっか」

最後にもう一度ため息をついて、足柄は湯船から上がった。
他の面子も、気まずそうにその後へ続く。

67: 2015/07/06(月) 23:18:14.79 ID:8D+Av6hA0
脱衣所で、雷が口を開いた。

雷「話聞いてて思ったけど、提督は艦娘の事を娘かなんかみたいに思ってるんじゃないかしら。
大丈夫、叱られただけよ、足柄」

足柄「……」

雷「……ほら、叱るってしんどいじゃない。
でもちゃんと叱って貰えるんだから。
あなたも大事に思われてるって事」

足柄「……ありがと」

雷「ん。
というか、あなただけ嫌われる事はないから安心なさいな!
嫌われるなら私と不知火も一緒よ!」

不知火「えぇ……私もですか……」

雷「当たり前でしょ……
とりあえず片してから、謝りに行くわよー。
幸い建物にしか被害は出てないし、始末書書きゃ終わりよね、きっと!」

不知火「始末書って相当だと思うんですが」

雷「おだまりっ
……でも、ちょっと提督も過保護よねぇ。
一応、戦場なんだから」

榛名「大事にしていただけるのなら、良いではないですか。
私達は戦場に生まれたのですから。
ここ以外に、安らげる場所を知りません」

雷「……んー……
そういう意図、なんでしょうけど……
……なんか子供に見られてるみたいで納得いかないわ!
私は提督が好きなのに!」

榛名「えぇ……関係なくないですか、それ……」

鳳翔「ほら、そろそろ行きましょう」

68: 2015/07/06(月) 23:18:46.26 ID:8D+Av6hA0
………
……



掃除機の爆心地


鳳翔「これ……は……」

雷「いやー……流石にちょっと予想外かも」

足柄「……」

榛名「うう……」

鳳翔「どれくらい、お風呂に入ってましたっけ」

雷「わかんない……そんな長時間居たかしら……?」

榛名「そこそこ居たとは思いますけど……
ボンベの爆発でついた擦り傷が消えてるので」

雷「むぅ……」

足柄「ごめんね……」

榛名「わぁ!これは足柄さんのせいじゃ無いですよ!」

雷「そうよ。流石にちょっと予想外だもの……」

不知火「……いやぁ、本当ですねーー」

69: 2015/07/06(月) 23:19:14.19 ID:8D+Av6hA0
不知火「ーーまさか、提督が既に掃除なさってるとは」

さぁ掃除だ、と意気込んでいた一同の前に、最早掃除機やボンベの残骸はなかった。

雷「ちょっと仕事早すぎじゃない?」

不知火「……そういう方です……」

鳳翔「むぅ……致し方ありませんね……
とりあえず、謝罪に行きましょうか」

雷「……そうね。
何もする事が無い以上、仕方無いわね」

足柄「……うん」

雷「そんな落ち込むこと無いわよ!
掃除の手間が省けて嬉しいじゃない!」

足柄「……うん」

榛名「それはちょっとフォローとしてどうなんですかね……」

雷「うるさいわね!
さ、謝りに行きましょう!」

不知火「なんで雷さんはそんなテンションなんですか……」

足柄「元気ねぇ……」

鳳翔「……」

70: 2015/07/06(月) 23:20:02.83 ID:8D+Av6hA0
………
……



執務室


雷「さてさて……着いた訳だけど」

不知火「早くノックして下さいよ」

雷「……気まずいわね!」

榛名「えぇ……ここに来てなんなんですかこの人」

鳳翔「……モタついてたらますます時間が……」

足柄「……どいて。あたしがやる」

雷「あ、あらそう?」

そう言って、足柄が執務室のドアをノックしようとした、その時。

『……寝言は寝て言え!!』

と、中からかなりの音量の怒鳴り声。
提督の物だ。

足柄がビクッと反応し、揚げた手がぴたりと止まる。

その後もしばらく怒声は続いた。

足柄はその場で全く動けなくなる。

71: 2015/07/06(月) 23:20:28.91 ID:8D+Av6hA0
雷「……で、電話……よね。
隼鷹はまだ帰ってないし……」

雷もどこかオドオドとしている。

普段聞かない提督の怒りの声。
それを1日に二回も聞いたのだ。
不安になるのも、当然と言える。

榛名「……ちょっと、ビックリですね……
あまり、提督が怒ってる所、見ませんでしたから」

鳳翔「……今日は、きっと虫の居所が悪かったのでしょう。
提督にだって、そんな日はありますよ。
私達にだってあるんですから」

足柄「……あるいは、あたしが悪くしたか、ね」

雷「足柄さん、それを言うなら私たちだって……」

足柄「……なんにせよ、提督が電話に怒鳴ってるのなんて……初めて聞いたわ」

榛名「……」

足柄「……出直しましょ。
……今……行きたくない、かも」

鳳翔「……そうですね」

なんとなく嫌な空気のまま。
五人は来た道を引き返す。
背中で提督の荒い声を聞きながら。

80: 2015/07/09(木) 00:04:18.62 ID:xpUwJKdO0
執務室


提督「……馬鹿ばっかりだな!」

ガチャン!と受話器を母機に叩きつけながら提督は呟いた。

提督(多少はこういう連中が出てくるのは想定内だったが……)

嘆息して、深く椅子に腰掛ける。

提督(まさか、作戦司令室から連絡が来るとは……な)

電話の相手は作戦司令室の若い作戦屋であった。
曰く、最前線の空母が主計科の空母に負けると士気に関わるから配慮せよ、だとか。

チッ、と舌打ち。

提督(なーにが『主計科の艦娘を勝たせるな』だ。
鳳翔を主計科に追いやったのはお前達じゃないか)

大抵の人間は、艦娘に対して『人間の為に戦え』と言う。
それなのに、その人間から戦力外通告を受けたら、艦娘はどう思うか。

提督(感情を考えようとしないクズどもが……)

そっちの方がよほど艦娘の士気に関わる。

81: 2015/07/09(木) 00:04:50.73 ID:xpUwJKdO0
執務室


提督「……馬鹿ばっかりだな!」

ガチャン!と受話器を母機に叩きつけながら提督は呟いた。

提督(多少はこういう連中が出てくるのは想定内だったが……)

嘆息して、深く椅子に腰掛ける。

提督(まさか、作戦司令室から連絡が来るとは……な)

電話の相手は作戦司令室の若い作戦屋であった。
曰く、最前線の空母が主計科の空母に負けると士気に関わるから配慮せよ、だとか。

チッ、と舌打ち。

提督(なーにが『主計科の艦娘を勝たせるな』だ。
鳳翔を主計科に追いやったのはお前達じゃないか)

大抵の人間は、艦娘に対して『人間の為に戦え』と言う。
それなのに、その人間から戦力外通告を受けたら、艦娘はどう思うか。

提督(感情を考えようとしないクズどもが……)

そっちの方がよほど艦娘の士気に関わる。

82: 2015/07/09(木) 00:05:20.42 ID:xpUwJKdO0
そもそも、主計科の艦娘が最前線の艦娘に勝って困るのは人間だ。
何故、戦力となる筈の空母を隅へ追いやったのかと誹りを受ける、誰かだ。
その誰かさんが、上からの責任追及を何とかしようと奔走しているのだろう。

提督(……無能め)

フン、と鼻を鳴らす。

本土の連中は昔からこうだ。
艦娘を消耗品としか見ておらず、艤装のスペックで全てを測ろうとする。

唯一、技術屋の明石だけは特別な扱いを受けているようだが。

提督(技術屋と言えば……
夕張、か。久しく会ってないが……)

かつて主張派と保守派が対立していた頃。
主張派は本土の保守派とは別の工廠を構えており。
主張派の開発試験担当が夕張だったのだ。

当時の二派の対立は凄まじかったのだが、夕張はその急先鋒とも言える存在であった。
主張派解体の際にも保守派に楯突き、最終的には政府筋が出しゃばって来て、そちらに工廠ごと接収されたらしいが。

提督「何処かで元気にしてると良いが……」

83: 2015/07/09(木) 00:05:49.31 ID:xpUwJKdO0
艤装の改修を頼んだら、謎のマーキング、通称『夕張マーク』が施されて帰ってきたのが懐かしい。
夕張マークが付いていたのは主張派の艤装だけだったので、いつしか主張派の象徴となっていた。
今思えばアレも対立を加速させる一因だったのかもしれない。

提督「いや……違う。
対立を煽ったのは……
……くそっ……昔のことを思い出すとまたイライラしてきたな……」

提督の貧乏揺すりが激しくなる。

提督(……昔の俺も奴らのような感じだったか……?
いや、もう少しマシだった筈だ……
そう、信じたいが……)

思えば、赤城着任の時は、まだーー

84: 2015/07/09(木) 00:08:15.73 ID:xpUwJKdO0
………
……



◇昔日◇


かつての上司の部屋


提督『……艦娘をもう一名いただける、というのは本当ですか!』

上司『ああ。貴様の要望が通った』

提督『はっ、ありがとう御座います!』

上司『……おい。貴様。
東雲長官のお気に入りだからと言って、あまり調子に乗るなよ』

思わずこぼれた笑顔を不快に思ったのか、上司が不機嫌そうに釘をさす。

提督『……いえ、調子に乗るなど……
滅相もございません』

上司『……全く。貴様のような新人が、いきなり2隻も担当するとは、な。
恐れ入るよ』

含みのある物言いに、内心ムッとする。
それが俺の評価だ、文句があるのか。
心ではそう思いつつも、提督は適当な言葉を並べた。

85: 2015/07/09(木) 00:08:42.85 ID:xpUwJKdO0
提督『……全て、上司様の采配あってのことです故』

上司『馬鹿にしているのか?』

そうだよ、と提督は心の中で舌を出す。

提督『そんな、とんでも御座いません』

上司『……フン。俺も、俺のような素晴らしい上司が欲しかったよ。
……詳しい引き渡しの日程は追って伝える。
とっとと失せろ。目障りだ』

提督『はっ。失礼致します!』

浅く礼をし、踵を返す。
そのまま上司の部屋を出ると、丁寧に扉を閉じてから、壁の向こう側に居る上司を睨みつけた。

提督『馬鹿にされていると感じているのなら、怒れば良いものを……
長官の目ばかり気にしている小心者め』

上司運が無い、とため息を付いて、提督は己の持ち場へと戻る。

86: 2015/07/09(木) 00:10:30.99 ID:xpUwJKdO0



深海棲艦が現れてから数年。
東部前線支援基地に提督は居た。
その名の通り、最前線を支援するのが目的の基地であり、情報・物資の集積・運搬が主な任務である。
基地隊長は上司であり、提督はその部下の一人であった。

最前線では未だ確固たる防衛線は築かれておらず、前線基地を抜けてきた深海棲艦への二次防衛ラインという側面もあり、ここでの交戦機会は多い。
そんな中で、更に前線へと確実に物資を届けねばならぬため、中々ハードな部署と言えた。
流石に最前線ほどの損耗率は無いが。

87: 2015/07/09(木) 00:11:01.91 ID:xpUwJKdO0
提督『おうい、戻ったぞ、加賀!』

提督は上司の部屋から、同じ基地内の自分の部屋へと帰っていた。

加賀『お疲れ様です。お帰りなさい。
いかがでしたか』

トコトコと加賀が出てくる。

提督『聞け!要望が通った!』

加賀『本当ですか』

提督『ああ。これで軽巡か、駆逐艦を頂ければ……
お前も、艦載機の訓練に集中できるな』

加賀『……だと、良いのですが……』

加賀はいまいち煮え切らない。

提督『ほら、元気を出せ。
いつまでも《空母はタダ飯喰らい》と言わせてたまるか』

当時、建造されたばかりの戦艦らが砲撃を不得手としたように、空母らは艦載機の扱い方がわからず、味方からは置き物扱いされていた。

88: 2015/07/09(木) 00:11:44.62 ID:xpUwJKdO0
ゆえに加賀は20.3cm砲を艤装に搭載している。
提督による、苦肉の策であった。
今はなんとか、これで護衛任務を行っている。
しかし、その分砲撃訓練を積まねばならず、艦載機訓練を行う時間が無いのだ。

加賀『……私に、出来るでしょうか』

提督『為せば成る。為さねば成らぬ。
それだけだ。
難しいかもしれないが……気長にやっていこう』

ぽん、と頭に手を置く。

加賀『提督……』

加賀がぎこちなく、はにかむ。

提督『……頑張ってこうな』

加賀『……はい』

出会ってから数ヶ月。
提督と加賀の間には、確かな信頼関係が芽生えつつあった。

89: 2015/07/09(木) 00:12:18.64 ID:xpUwJKdO0
加賀『……しかし、よく要望が通りましたね』

提督『いや、全く。駄目元で東雲長官に頼んだんだがな。
まさか本当に通して下さるとは』

加賀『東雲長官……
あの方、ですか?
私と提督を助けて下さった』

提督『そうだ。あの時はお世話になったな……』

90: 2015/07/09(木) 00:12:48.61 ID:xpUwJKdO0
随分前の話。
かつて、東方方面軍長官である東雲がこの基地を視察に訪れた時。
上司の突然の思いつきで、デモンストレーションの為、艦娘による集団砲撃演習が行われる運びとなった。

加賀はその時基地内に居た為、砲撃演習に加わらざるを得なかったのだが……

加賀は不器用だ。
その不器用さは、砲撃の際にも遺憾無く発揮されてしまう。

結果。
元来の不器用さに予定外の緊張も重なり、加賀の砲撃は悲惨なほど的に当たらず。
更に加賀以外の面子はそれなりの命中精度を持っていた事が悪目立ちに拍車をかけていた。

凄惨な成績は、上司の憤激を招き。
東雲長官の退席後、加賀は激しく叱責された。
下される鉄拳制裁。
何度も何度も繰り返される殴打に、ついに直立姿勢を保てなくなった加賀は床に崩れ落ちた。

91: 2015/07/09(木) 00:13:20.29 ID:xpUwJKdO0
立て、と怒鳴られ、なんとか立ち上がろうとする艦娘。

これはとりたてて珍しい光景ではない。

艦娘は深海棲艦と同列に見られている。
人の形をして、何を考えているかわからず。
それでいて恐るべき破壊力を持っていて。
同じような特徴を持つ深海棲艦に蹂躙された人類が、艦娘を畏怖するには十分過ぎる材料だった。
だから暴力的に抑圧するし、人道的に扱われることも無い。

だが。
提督は艦娘が全く恐ろしくなかった。
そして、彼は軍に入ってまだ日が浅い。
まさか周囲が、艦娘に対してそこまでの嫌悪感を抱いているとは知らず。

だからこそ出来た、否、出来てしまった暴挙。

提督は上司と加賀の間に割って入り、代わりに殴られたのだ。

92: 2015/07/09(木) 00:13:47.55 ID:xpUwJKdO0
上司様、監督責任は私にあります、と。
口ではそう言ったものの、単に加賀を庇った事は明らかで。

ああ、頭のおかしい新人が遂にやったぞ。
そう、見ていた者達が溜息をついて目をそらす中。

上司はますます激昂し、代わりに提督を滅多打ちにした。

自分からすると不可解な怒りに対して、提督はひたすらに耐えた。
耐えて、耐えて、何発殴られたかわからなくなった頃。

きみ、やめないか!と。
ある男が上司を止めた。
退席した筈の東雲長官である。

93: 2015/07/09(木) 00:14:23.46 ID:xpUwJKdO0
提督『……うん、あの時東雲長官が居なければ……
俺は氏んでたんじゃあないかな……』

加賀『……しかし、長官がいらっしゃらなければ、殴られる事も……』

提督『……ま、そう言うな。
おかげでコネが出来たんだ』

これまた不思議な事に、加賀を庇った提督を東雲は高く評価した。
それ以来、何かと目にかけていただいている。

加賀『でも……どちらかというと、私は……
あなたに、感謝しています』

提督『……そんな大したことはしてないさ。
大事な部下だろ?』

加賀『……ありが、とうございます』

加賀はそう言って、嬉しそうにする。
しかし、提督はあまり加賀に感謝されたくなかった。
良心の呵責があるのだ。

提督(あの時、代わりに殴られたのは……
これ以上加賀が殴られると、翌日の任務に影響が出る、なんて事を考えていたからなんだよな……)

94: 2015/07/09(木) 00:15:11.67 ID:xpUwJKdO0
加賀を多少、大事に思っていた事も間違いないのだが……
この頃の艦娘は、基本的に人間に対して心を開くことは無かった。
理由は単純で、人間が艦娘に対して敵意を持っていたからだ。
敵対的な存在に明かす心はどこにも無い。

この事件以前の加賀もその例に洩れず、提督に心を開いていなかった。
この時庇ったことが加賀と提督の接近のキッカケとなり、提督はやっと信用を得ることが出来たのだ。

今は、日々、新たな表情を見せてくれる加賀が可愛くてたまらないのだが。
だからこそ、背徳感がある。

提督(……艦娘に感情が無い?
嘘っぱちじゃないか)

着任時、伝えられた言葉を反芻しながら思う。

提督(現に加賀は感情を教えてやれば、それを体得した。
艦娘は心を知らないだけだ。
心を知らないのは……人間が歩み寄らないから、だろ)

この時。
提督は勘違いをしていた。
感情を教える、と言う、まるで艦娘は元々感情を知らぬとでも言うような、傲慢な考え。
それが誤りであると提督が知るのは、もう少し後の話。

加賀「……さて、と」【2】

95: 2015/07/09(木) 00:17:49.77 ID:xpUwJKdO0
ここまで


設定回
割と重要な回の筈が、回想の中で回想をしているのでとても地の文が多く、読みづらい……
さらに勢いで書いたので文体が……

何かあれば適当に補完していただければ幸いです、すみません……

引用: 【艦これ】加賀「……さて、と」