515: 2016/01/13(水) 19:41:23.32 ID:wkwcWwaN0

第三章の初め:加賀「……さて、と」

提督の自室


ガチャ、と扉を開けて、提督が入室した。

提督『……』

赤城『……お疲れ様です』

提督『……何故、お前がここに居る?』

赤城『……』

提督『訓練場で待機しろ、と告げた筈だが』

赤城『……提督』
「艦これ」ピクトリアルモデリングガイド 大和編: 『艦これ』提督のための艦船模型ガイドブック

516: 2016/01/13(水) 19:41:50.74 ID:wkwcWwaN0
提督『なんだ』

赤城『加賀さんが……帰還なさったと聞きました』

提督『ああ』

赤城『……』

提督『だったらどうした』

遠回しな物言いに対し、苛立ちを隠そうとしない提督。

そんな提督に、赤城は悲しそうに告げた。

赤城『……燃料が、足りなくなりますよ』

517: 2016/01/13(水) 19:42:18.19 ID:wkwcWwaN0



燃料が不足する可能性がある。

訓練開始前。
補給官に問い合わせ、帰ってきた答えに赤城は驚きを隠せなかった。

加賀は帰還したものの、燃料をほぼ全喪。
その為、今回の訓練の為に燃料を用いれば、加賀の次回出撃用の燃料は足りなくなる。

赤城は告げられた言葉を反芻しながら、提督に向き直った。

赤城『訓練を行えば、任務の遂行が不可能になります』

518: 2016/01/13(水) 19:42:47.36 ID:wkwcWwaN0
加賀の艤装の復旧までは時間がかかる。
とすると、自分がその代わりに任務に出なければならない。
その為、尚更燃料を使っている場合ではない。
赤城はそう考えていた。

提督『……何を、言っている……?』

そんな赤城に対し、提督は溜息を吐いた。

赤城『……?』

赤城は自分の理論がおかしいとは思えず、怪訝な表情になる。

提督『俺が、お前に与えた任務は何だ?』

赤城『……訓練です。
……しかし、加賀さんの復帰が難しい以上ーー』

519: 2016/01/13(水) 19:43:13.69 ID:wkwcWwaN0
提督『お前はいつから参謀になったんだ、赤城』

赤城『なーー』

提督『お前に与えられた任務は、訓練だ。
それ以外の事は、お前の気にする所ではない』

若干語気を強めて、提督は言う。

赤城『っ……』

提督『わかったらとっとと行け。
俺もすぐに向かう』

赤城『……』

520: 2016/01/13(水) 19:43:40.94 ID:wkwcWwaN0



赤城はわからなかった。
この男の意図が。
何故、この男は無意味な訓練を、使えない知識を、自分に与えるのか。

自分の身を削ってまで。

赤城『……いつ、眠ってらっしゃるんですか?』

ポツリと、言葉が漏れた。

普段とは違いすぎる。

目の下の大きな隈。
ボサボサの髪。
無精ヒゲ。
そして何より、疲労から来ているであろう、苛立ちを感じて。

提督『……何を突然』

521: 2016/01/13(水) 19:44:07.70 ID:wkwcWwaN0
赤城『……わかりません。
なぜ、そこまでなさるのか』

提督『……』

赤城『燃料が無いんですよ?
あなたも休む必要があるのではありませんか?』

提督『休んでる暇は無い。加賀の件の処理もあるし、輸送計画にも遅れがある』

赤城『今からのっ……私の訓練を取り止めれば、あなたは眠れるではありませんか!』

提督『……』

赤城『今は雌伏の時なのではありませんか?
私にだって輸送任務は出来ます、何かの足しにはなるはずです!』

提督『……』

赤城『……ですから……今は……』

522: 2016/01/13(水) 19:44:33.95 ID:wkwcWwaN0



提督『なぁ、赤城』

赤城『……?』

提督『俺は作戦司令室付きとなり、艦娘の指揮を基本的には執らない。
にもかかわらず、何故、お前は俺の所に居ると思う?
加賀は他へ回されたぞ』

赤城『……それは……』

提督『なんだ』

しばしの沈黙の後。

赤城『……。
……訓練の、為ですか』

523: 2016/01/13(水) 19:45:00.42 ID:wkwcWwaN0
提督『違うな。
……赤城。俺はお前を高く評価している』

赤城『……』

提督『その賢い頭なら、本当の答えはわかっているはずだ』

赤城『……』

俯き加減で、唇を薄く噛む赤城に。
提督は、口にしろ。と急かした。

赤城『……それは……』

悲しい事実だ。

赤城『……私が、誰にも必要とされていないからです』

524: 2016/01/13(水) 19:45:41.56 ID:wkwcWwaN0
提督『そうだ。お前の評価はそんなものだ』

赤城『……』

加賀は輸送能力があると判断されたから、別途配属された。
しかし赤城は配属すらされず。
任務の割り当てすら無かった。

そういう事だ。

提督『時間はいつまでもあるわけじゃない。
お前はお前の価値を証明しなければならない。
速やかにな』

提督は、だから休んでいる暇は無いんだ、と締めくくった。

赤城『……何故、そんなゴミの為に、そこまでなさるのかがわからないと言っているんです!』

525: 2016/01/13(水) 19:46:08.40 ID:wkwcWwaN0
提督『……』

赤城『あなたのキャリアの為ですか?それとも……それとも、同情ですか?』

悲痛な表情で赤城は言う。

赤城『もうやめて下さい……!
私に、私にそんな価値はーー』

提督『それ以上考えるな』

赤城『……』

提督『裏の意図を読もうとするな。
赤城、お前は俺の艦娘だ』

赤城『っ……』

提督『命令に従う以外に道は無いし、それ以外に理由も要らない』

赤城『……』

526: 2016/01/13(水) 19:46:35.43 ID:wkwcWwaN0
沈黙の後、提督はバツの悪そうに付け足した。

提督『……まぁ、なんだ。
時には考えない事が正しい事もある』

赤城『……はい』

提督『……燃料やら任務やらに関しては、お前の思い悩む所ではないという事だ』

赤城『……』

提督『……わかったら、訓練に行くぞ。
先に行ってろ』

赤城『……はい。失礼致します』

暫く俯いていた後、赤城は静かに部屋を出て行った。

527: 2016/01/13(水) 19:47:06.17 ID:wkwcWwaN0
提督『……しっかし、状況が良くないのは事実だな』

赤城が出て行った後、提督は1人思案する。

提督《動かせる艦娘が減ったのは事実だ。早急に補修せねばならないからな…》

燃料もそうだが、あれ程の傷だ。
大量の鋼材が必要になる。

提督《なんとかして工面せねば……》

すこし工廠に寄って技術屋の連中と相談するか、と呟いて、提督は椅子から立ち上がった。

528: 2016/01/13(水) 20:04:38.94 ID:wkwcWwaN0



工廠にて


提督『……相変わらず、酷い状態だな……』

吊るされた加賀の艤装を眺め、溜息を吐く。
作業員に担当の工務官を呼んでくるように頼み、来る迄の間、提督はぼーっと加賀の艤装を眺めていた。

提督『……果たして、修復が可能なのかどうか……』

手元のスイッチをいじり、艤装を回転させ、被弾により装甲が飛び、内部が露わになった箇所を正面に捉えた。

提督《加賀の艤装の断面は、こうなっているんだな……》

記憶にある、無傷の艤装のイメージと比較しながら見る。

529: 2016/01/13(水) 20:07:11.99 ID:WbeveSrlO
と。

提督《……?》

提督は気が付いた。

提督《……なんだ、この空間は……》

艤装の断面に、扁平な空間がある。

提督《燃料容器では無い……かと言ってここに弾薬を入れる訳では……》

一体何の空間なのか、と考えたところで。
提督の頭を、ある考えがよぎった。

提督《……まさか……いやだがあり得る……!
いや、どうして今まで思いつかなかったんだ……!》

その瞬間。
加賀の艤装の事や、赤城との関係、そして工務官を呼びつけた事すらも忘れ。
提督は訓練場へ向けて走り出していた。

530: 2016/01/13(水) 20:08:12.39 ID:WbeveSrlO



訓練場にて


提督『赤城……赤城……!』

赤城『は、はい』

既に艤装を装着していた赤城は、息も絶え絶えに呼びかける提督に、驚きと共に応じた。

赤城『如何致しましたか?』

提督『格納庫だ……お前の艤装、艦載機の格納庫があるんじゃないのか……!』

赤城『……格……納庫?』

提督『そうだ……!
よく考えてみろ、弾薬は艤装に突っ込んで初めて砲撃出来るだろう……
艦載機も同じじゃないのか?』

531: 2016/01/13(水) 20:08:51.46 ID:WbeveSrlO
赤城『……つまり、艦載機を飛行甲板の上に直接置くのではなく、一度艤装の中に収納してから……という事ですか?』

提督『ああ』

赤城『……』

一理ある。
弾薬も、艤装に補充せねば発砲出来ない。
艦載機が同じ仕組みだったとしても不思議ではないが……

ついに頭がおかしくなったか、と思った。
飛行甲板と艤装は直接接続されてはいない。
艤装に艦載機を仕込んだとして、それがどうやって飛ぶと言うのか。

赤城『……探してみましょう』

しかし。
赤城は黙って、従うことにした。

532: 2016/01/13(水) 20:09:54.48 ID:WbeveSrlO
艤装はブラックボックスだ。
艦娘と同様に比強度が凄まじく、人間の手ではとても加工が出来ない。
その為わかっていない事が多く。
故に。
妄言すら試してみる、価値がある。

赤城『……』

赤城の艤装は、格納庫があるとは思えないスリムなサイズだ。
手元の艦載機と見比べ、これが入りそうな位置を考えてみて。
見つける。

赤城《……》

まさか、ここかしら。と思う。
でも、とも。

燃料補給口付近。
分厚い鋼板で覆われた箇所。

ここ以外に艦載機が入る余地のある横幅は無い。
が、どう見ても、ここに燃料タンクがあるとしか考えられない。
周囲の分厚い鋼板は、タンクを保護するものだと推測するのが妥当だ。

533: 2016/01/13(水) 20:10:37.55 ID:WbeveSrlO
赤城《……》

しかし、格納庫がもしあるとしたら、それには出入り口がある筈。
そして、出入り口があるとしたら、此処しかない。

赤城は試しに鋼板の端を掴んで、グッと引っ張ってみる。
が、それはビクともせず。
やはりただの鋼板としか思えない。

赤城《……これ以上引っ張って、良いものでしょうか……》

艤装を装着した艦娘の膂力は凄まじい。
本気を出せば、艤装の鋼板一枚程度、楽に引き千切れるだろう。

しかし。
この鋼板がもし、燃料タンクの一部だったとしたら。
無理に引き剥がした事による艤装の破損と、燃料の流出が起こるだろう。
そして、位置的にその可能性は高い。

資源が逼迫している今。
やって、良いのか。

534: 2016/01/13(水) 20:11:10.84 ID:WbeveSrlO
赤城は不安げに提督を見た。

提督『やれ』

間髪入れずに答える提督。

赤城《……どうにでもなれっ……!》

その答えに、赤城は覚悟を決めると、息を止めて。
鋼板を全力で引く。

ミシ……ミシ……と暫く鳴っていたそれは、数瞬後、バカン!という音と共に勢い良く開いた。
そう、開いた。
断面に蓄えられた、大量の塩と錆を撒き散らしながら。
埃臭い、空の格納庫が露わになる。

535: 2016/01/13(水) 20:11:49.26 ID:WbeveSrlO



提督《やはりあったか……!》

提督の握り拳に力が入る。

提督《あんなところに格納庫があると、燃料は一体どこに入っているんだと言う疑問が生まれるが……
今は、そんな事を気にしている場合ではない》

提督『赤城っ。艦載機は入るか!』

赤城『……はい……!』

艦載機がギリギリ入る、丁度のサイズ。
中のフックに吸い込まれるようにして、艦載機は固定され……

536: 2016/01/13(水) 20:12:30.38 ID:WbeveSrlO
赤城『……格納庫を、閉鎖します……』

赤城は格納庫を閉じた。
異物のせいで閉まりにくい扉を、無理やり押し込むとーー。

赤城『……』

提督『……何か、変化は……』

赤城『……ありません』

提督『……』

当然ながら。
無い。

538: 2016/01/13(水) 20:19:28.33 ID:WbeveSrlO



赤城『……』

当然だ。
格納庫から艦載機が飛び出すとでも言うのか。

だが、あれは確かに格納庫だった。
一体、この格納庫の意味とは……

提督『……腕を掲げろ』

赤城『……?』

提督『プロペラを回せ』

一体何を言って……

提督『燃料を注射だ』

誰に、言って……

提督『エナーシャ用意……』

539: 2016/01/13(水) 20:23:16.93 ID:WbeveSrlO
赤城『どう……どうしたら、いいんですか……っ!誰に言って……』

提督『わからん』

狼狽する赤城を、提督は真っ直ぐに見つめて告げる。

赤城『なっ……』

提督『わからんが、お前以外には出来ない』

赤城『……』

提督『知識はあるな……お前は、学んだ筈だ』

学ばせた。
大量の書物で。

提督『やってみろ。
お前以外の、誰にも出来ない』

540: 2016/01/13(水) 20:25:43.92 ID:WbeveSrlO
赤城『……』

腕を掲げ、イメージする。
飛行甲板。
その上の艦載機を。

赤城《……》

何事も、形式が重要だ。

頭の中で、まずは計器類を確認。
問題無しと判断すれば。

赤城《……油回りを、よくする……》

プロペラを軽く回し始める。

赤城《……注射……》

燃料の混合比は最濃。
手動ポンプによって、燃料をエンジンに入れる。
これがシリンダで、爆発の呼び水となるのだ。

541: 2016/01/13(水) 20:26:51.65 ID:WbeveSrlO
赤城『……』

腕を掲げ、イメージする。
飛行甲板。
その上の艦載機を。

赤城《……》

何事も、形式が重要だ。

頭の中で、まずは計器類を確認。
問題無しと判断すれば。

赤城《……油回りを、よくする……》

プロペラを軽く回し始める。

赤城《……注射……》

燃料の混合比は最濃。
手動ポンプによって、燃料をエンジンに入れる。
これがシリンダで、爆発の呼び水となるのだ。

542: 2016/01/13(水) 20:30:57.92 ID:WbeveSrlO
赤城《……次は……》

カウルフラップを開いて……

赤城《……エナーシャ》

エナーシャスターターを回し、フライホイールを回転させる。
重いそれは、はじめはゆっくりと、やがて高速で回転して。
ヒュイイン、と、特有の音が響く。

クリアに、聞こえる。

赤城『……コン……タクト……』

レバーを引く。
ガチン!と音がして。
フライホイールとエンジンのクラッチが噛み合う。
プロペラがゆっくりと回り始める。

543: 2016/01/13(水) 20:31:40.70 ID:WbeveSrlO
赤城『スイッチ、オン……』

震える声と共に主電源を入れて。
エンジン、スタート。
そして。
スロットルを、若干開けば。

赤城『……油圧、電圧、問題無し……』

小気味の良い音と共に。
赤城の掲げられたその右腕の上で。
一台の艦載機が。
確かに、白い煙を吹いていた。

赤城『エンジン、始動しました……!』

提督『……ああ……』

斜陽を写し、眩く輝くプロペラの前に。
提督と赤城は、それ以上、何も言えなかった。

544: 2016/01/13(水) 20:32:06.49 ID:WbeveSrlO



しかし。
この素晴らしい瞬間が。
新たなる、より厳しい試練の始まりであるという事を2人が知るのは。
数秒後、飛び出した艦載機が空を飛べずに海へ沈むのを、呆然と眺めてからだった。

ぼちゃん、という情けない音と共に。

597: 2016/04/02(土) 19:46:33.96 ID:cW5OBhKe0



数週間後……

赤城『……』

赤城はボロボロになっていた。
精神的にも、肉体的にも。

赤城『……もう、飛びませんよ、こんなの……』

弱音を吐いてしまうほどに。

ガクッと。

海面に膝をついてしまうほどに。

赤城『無理ですよ……』

掠れる声で、繰り返す。

598: 2016/04/02(土) 19:55:40.38 ID:cW5OBhKe0



時はまた戻り……


艦載機を右腕に出現させる事が出来るようになって、気付いた事がある。

艦載機からの景色がはっきりと見えるのだ。
まるでコクピットに自分がいるかのように。

最初は幻覚の類かと思っていた。
しかし、そうでは無かったのだ。

赤城《……自ら操作しないといけない……ということですよね……》

試しに目を閉じて、艦載機へと意識を集中させる。

赤城《……このまま加速していけば……》

飛び立つのではないか。

599: 2016/04/02(土) 19:56:21.17 ID:cW5OBhKe0
そう考えた赤城は、艦載機のスロットルを全開にしてみた。
甲板の上で、一気に加速していく艦載機。

初めての感覚に、赤城は緊張しつつも操縦桿を前に倒した。

赤城《これで……お尻が浮いたら……操縦桿を引けば……!》

飛ぶはずだ。
が。
甲板長は短い。

赤城《……浮かない……!》

尾翼は浮かずとも、海は近づく。

赤城《……》

目の前の地面が消え、慌てて操縦桿を一杯に引くが。

ガッという音がして、艦載機は錐揉み回転しながら海へと落ちていった。

赤城《……尻が……甲板のヘリに当たった……》

ふむ、と少し考え、そして顔を顰めた。

これは、

赤城《……難易度が、高いのでは……》

600: 2016/04/02(土) 20:03:46.29 ID:cW5OBhKe0



提督『……全力航行だな……』

赤城『……』

やっと艦載機が利用できる状態になったにも関わらず、提督の表情はパッとしない。

それもそのはず。
赤城は静止状態から、一度も艦載機を飛ばす事が出来ずにいた。

提督『風上に向かってな』

赤城『……風力を稼げ、と』

提督『ああ』

揚力は向かい風から生じる。
静止状態で浮かない以上、走るしかないだろう。
自分の爪を見つめながら、そう告げる提督。

赤城『……わかりました』

やってみます、と言ってはみる物の。
全力航行状態で艦載機を発艦させる事の難しさに、赤城は既に気が付いていた。
無論、提督も。

601: 2016/04/02(土) 20:06:01.32 ID:cW5OBhKe0
提督『……まぁ、それは明日以降で良い。
今日は休め』

ふぅ、とため息をついて。

提督『準備もあるしな……』

そんな提督に。

赤城『……あの』

提督『なんだ』

赤城『この事はご報告なさらないので?』

提督『……ああ。まだだ』

赤城『……』

提督『タイミングは俺が決める。お前は愚直に訓練を続けろ。
ーー……聞きたい事はそれだけか?』

赤城『……はい。
……。……失礼致します』

やや不服そうにしながらも、赤城は部屋を去った。

提督『……俺も俺の仕事をするか……』

その後ろ姿を見送ると、提督は重い腰を上げて。

602: 2016/04/02(土) 20:08:31.90 ID:cW5OBhKe0



コンコン

上司『……入れ』

提督『失礼致します。少々お時間を頂けますでしょうか』

上司『……なんだ。私は今忙しい』

提督『内密なお話が御座います』

上司『……』

上司は少し怪訝な顔をしたが、ふー……、と長い溜息を吐くと、筆記具を置いて提督に向き直った。

上司『とっとと話せ』

提督『はっ、ありがとうございます。
ご承知の通り、赤城の件なのですがーー』

上司『ーー何?』

603: 2016/04/02(土) 20:10:00.28 ID:cW5OBhKe0



翌日


提督『さて……訓練だ。やるぞ』

赤城『……その前に、提督』

提督『なんだ』

赤城『燃料については如何なさるおつもりですか』

提督『……』

赤城『全力航行をショートスパンで繰り返せば、燃料はーー』

提督『良い。燃料や……あー、資材については……俺がなんとかする』

赤城『なんとかするって……』

提督『赤城。お前が求められているのは唯一つ。
ーーその玩具を飛ばす事だ』

赤城『……』

提督『それも、出来る限り早く、な』

赤城『早く、ですか』

提督『……。戦時中なんだぞ。
当たり前だろ』

赤城『……』

提督『ともかく、今は飛ばす事だけに集中しろ。良いな』

赤城『……はい』

提督『良し。じゃあ、始めてくれ。
まずは現状把握からだ』

610: 2016/04/08(金) 02:50:20.58 ID:EXQBMprt0



訓練海域にて


赤城『……』

艦載機の発艦は予想以上に難航していた。
特に甲板の、揺れの制御が。

赤城《どうしても、どうしても揺れてしまう……》

甲板は肩のハードポイントに接続され、更に赤城の腕全体と連動して動く。

すなわち、腕が揺れれば甲板は揺れ。
それが発艦を決定的に阻害する。

611: 2016/04/08(金) 02:51:35.53 ID:EXQBMprt0
赤城《……!》

波もある中、全力航行しながら腕を常に水平に保つということは、常識的に考えて不可能に近い。

赤城『波が……読めない……』

視覚と足の感覚を総動員するが……
それでも、上下左右へ揺れる海面は読めるものでは無い。

そして。

本体がそんな状態なのに、艦載機まで気が回る筈もなく。
艦載機のスロットルを入れる事すらままならない空母がそこにいた。

赤城『……くっ』

それでも赤城は幾度も強引に発艦させようとした。

しかし。

612: 2016/04/08(金) 02:52:11.84 ID:EXQBMprt0
何機かは速度が足りずに甲板のヘリで尻を打ち。
何機かは甲板の強い振動と共にホップして壊れ。
そして。
多くは一直線に海へと突っ込んでいった。

赤城《……重い……》

甲板上部に出現した艦載機がその上を進んで行くとき。
まるで、自分の肩から腕にかけて鉄球を転がしているようだ、と赤城は感じていた。

艦載機が甲板上を走っているだけで、甲板の重心が変わる。
無意識のうちに、だんだんと腕が下がってしまうのだ。
だから。

赤城《下向きに、射出されてしまう……!》

苛立つ赤城。
その様子を見て、提督は溜息を吐いた。

提督『……今日はその辺にしておこう』

赤城『……はい』

提督『上がれ。戻るぞ』

613: 2016/04/08(金) 02:52:43.69 ID:EXQBMprt0



提督の部屋ー


提督『今日の訓練で判明した課題はーー』

椅子に深くもたれかかりながら、提督は告げる。

提督『安定性だな』

赤城『……』

提督『甲板が動き過ぎているから飛ばない。それだけだと俺は推測する』

それだけ、が難しいのだが……とも付け足して。

提督『なんとかせねばならん。がーー』

614: 2016/04/08(金) 02:53:12.98 ID:EXQBMprt0
赤城『……』

提督『都合よく振動を抑制する装置なんてモノは無い。要するに……』

全てお前次第だ。と告げた。

赤城『……』

赤城の表情は厳しい。

艦載機が甲板上に見えた時、すぐに飛ばせる物だと思っていた。
問題となるのは、発艦ではなく着艦の方であろう、と予想していた。

赤城《思わぬ落とし穴……でしたね》

唇を噛む。

赤城《甲板の姿勢制御がここまで難しいとは……》

撃つのは一瞬で済む砲撃とは訳が違う。
水平に保たねばならない時間が長い。

赤城《……これも、訓練あるのみ、ですか》


624: 2016/04/13(水) 23:26:34.94 ID:qc/+dB+rO



生半可な事ではない事は。
わかっているつもりだった。
つもりだった。

提督の書斎で、赤城はその事実を再認識する事になる。

提督『3°だ』

赤城『……え?』

提督『甲板の傾きの許容範囲は、プラスマイナス3°だ』

赤城『……』

赤城の顔が強張る。

625: 2016/04/13(水) 23:27:18.65 ID:qc/+dB+rO
提督『……マイナス3°以上下を向くとーー』

提督は机から白紙を取り出すと、絵を描き始めた。
デフォルメされ、妙に可愛らしい赤城が紙面に表れる。

提督『お前の肩の高さから艦載機が出た場合、海に突っ込む』

そのデフォルメ赤城の甲板から飛び立った飛行機は、紙の中の海に攫われた。

赤城『……絵がお上手なんですね……』

提督『……プラス3°以上、上を向けると速度が不足する』

赤城のつぶやきには何も返さず、提督は続けた。

626: 2016/04/13(水) 23:27:58.84 ID:qc/+dB+rO
紙面の上の、小さな赤城の表情が描き換えられ、少し困ったような顔になる。

提督『強いロールも許容されない。艦載機が横滑りする』

言いながら、提督は表情を更に描き加える。

提督『勿論縦揺れもダメだ。艦載機が浮いたら放り出される』

最終的に、提督がペンを放り出した時、紙上の赤城は泣きそうな顔になっていた。

赤城『……』

赤城は無表情に小さな自分を見つめる。

提督『と言うわけだ』

ふー、と溜息をつき、赤城を見つめる。

627: 2016/04/13(水) 23:28:26.77 ID:qc/+dB+rO
提督『……お前の甲板の長さから考えるとーー』

上下4センチ。
水平面に対して、甲板の先のズレが許容されるのは、上下4センチ。

告げられた長さに、赤城は眉をひそめた。

赤城《……4センチと言われても……》

親指と人差し指で、この位か?と見積もってみるが、実感は湧かない。困惑する。

628: 2016/04/13(水) 23:29:04.74 ID:qc/+dB+rO
提督『……今言った以上の事は、理論的には可能だ。理論的には、な』

赤城『……』

提督『イマイチ実感がわかないかもしれないが……
4センチと言うのは恐ろしく達成が難しい数字だ』

赤城『……』

それは、なんとなく、わかる。
なんとなく。ここ数日の経験から。

提督『……だが、やって貰わねばならない』

提督の表情は全く明るくなかった。

赤城『……はい』

同様に、赤城の返事も。

629: 2016/04/13(水) 23:29:34.31 ID:qc/+dB+rO



翌日。
提督が何処かしらから、そこそこの量の燃料やボーキサイトを確保してきたらしい。
一体どこからそんな物を、という赤城の抱いた疑問は島全体の疑問でもあるらしく。
すれ違いざまに同僚に悪態をつかれる提督を、赤城は複雑な面持ちで見守っていた。

しかし提督は全く気にするそぶりを見せずにいる。

提督『赤城、やるぞ』

赤城『……はい』

630: 2016/04/13(水) 23:31:11.00 ID:qc/+dB+rO
なんとなく無言のまま、二人は訓練海域へ出て。
その日の海は、波一つ無く。
完璧な練習日和に思えた。

これならあるいは、と思っていた。

しかし。

赤城『……!』

いざ挑戦すると、4センチの壁はあまりにも大きい。

赤城《海面に対してほぼ水平……って……》

全力航行しつつ、歯ぎしりする。

赤城『ここまで難しいものですか……!』

こんなに波が無いのに。
それでも、全然上手くいかない。

631: 2016/04/13(水) 23:31:42.83 ID:qc/+dB+rO
赤城《……艤装の振動も、確かに大きい》

最高船速で運動しているのだ、脚部艤装から伝わる揺れは大きい。

が。

赤城《けれど、一番の原因はーー》

体が無意識にバランスを取ろうとして腕が動く、こと。

特に、飛ばそう飛ばそう、と思うあまり、意識は艦載機の方に行きがちだ。
それくらい艦載機に集中しなければ、飛ばす事は難しいのだが。

赤城《……焦るな》

赤城は足を止め、ほう、と息をついた。
そして自分に言い聞かせる。

赤城《ここまで波が無いのは本当に珍しい……》

そうだ。
千載一遇のチャンスなのだ。

赤城《今日を逃す手は……ありません……!》

意気込む。

632: 2016/04/13(水) 23:36:04.94 ID:qc/+dB+rO
赤城はここ数日で気付いた事があるのだ。
提督は明らかに、何かに焦っている。
何に?わからない。
ただ、赤城の件を上に報告しない事と関係が有るのだろう。そんな気がする。

それはおそらく、赤城が艦載機を飛ばす事が出来れば、解決する。

だとすれば。

否、だとしなくとも。
赤城がすべき事はただ一つ。

赤城《波が無くても難しい、じゃない》

出来ない、じゃない。
波が無いから。

赤城《今、飛ばすの……!》

633: 2016/04/13(水) 23:36:55.51 ID:qc/+dB+rO

引用: 【艦これ】加賀「……さて、と」