635: 2013/03/10(日) 23:33:05.44 ID:Ydzu+Ql5o
<エイラーニャ×ウィケメン×ヘタレない>

夜、任務を終えたサーニャは自室へと向かっていた。

足もとはおぼつかず、身体がフラフラと揺れている。

サーニャ「……」

サーニャ「……ふぁ」

と言うのはまぁ、単なる大義名分。

勿論疲れているし、眠くもある。だが、フラフラするほどではない。

この揺れる「フリ」は彼女の想い人であるエイラのベッドへともぐりこむための演技にすぎないのだ。

サーニャ「んん……」

部屋の前に着くと、ドアをゆっくりと開ける。

ゆっくりと開けるのは、サーニャ自身の、エイラを起こすまいという優しさの表れだ。

このゆらゆらが演技であるという証拠にもなる行動だ。

サーニャは先ほどよりも揺れを激しくさせながらも

一歩一歩エイラへと近づいていき

ベッドへと倒れこ―――

636: 2013/03/10(日) 23:42:17.02 ID:Ydzu+Ql5o
エイラ「―――っと」

サーニャ「……っ?」


ベッドへと倒れこんだはずのサーニャ。

しかし、肌に触れる感触は毛布のフカフカではなく

少し硬くも、温かい人の肌である。

サーニャは、いつもと違う感覚に戸惑った。

しばらくして落ち着いて情報を収集した結果、どうやら自分が

エイラによって受け止められたということ。

そして、そのまま数秒抱きしめられたのちに自分の頭が

エイラの膝の上に置かれたということを理解できた。

このようなことは今まで経験したことが無く、自分の置かれている状況を理解した現在でさえ

サーニャの中にある戸惑いは消えなかった。



637: 2013/03/10(日) 23:48:45.06 ID:Ydzu+Ql5o
エイラ「……」

サーニャ「……」


その状態になってからさらに数分

今度はサーニャの頭の上に手が置かれる。

頭の上に置かれた手はゆっくりと動き

壊れ物に触れるかのような優しい手つきでサーニャの頭をなぜた。


サーニャ「ぅ……ン」

エイラ「おっと……」


サーニャはくすぐったくなって、思わず体を捻らせた。

エイラはそれに反応し、頭をなぜていた手の動きを止める。

小さくクスリと笑ったかと思うと、今度はサーニャの背中を軽くたたく。

子どもをあやすように、優しく、気持ちを込めて。


サーニャ「……」

638: 2013/03/10(日) 23:58:23.67 ID:Ydzu+Ql5o
おかしい。

背中に触れている、手が刻むリズムによってだんだんと落ち着いてきたサーニャはそう思った。

あの、ヘタレでどうしようもないエイラが

私が近づいても、大抵は同じ数だけ後ろに下がってしまうようなエイラが

突然、こんなことをするはずはない。

熱でもあるのだろうかと考えたものの

それならもっとしおらしくなるのがエイラである。

誰かにそそのかされてこのような行動をとっているのかとも考える。

しかし、現在の余裕あるエイラからはそのような感じはしない。

その二つが有りえないならば、あと考えられるのは


サーニャ(……別人?)

639: 2013/03/11(月) 00:08:11.15 ID:uALn6rkOo
頭を膝に乗せ、軽く髪をなぜ

そして背中を優しくたたくその人物が、エイラ以外の誰かではないかとサーニャは考えた。

瞬間、サーニャの身体を支配する感覚は、ぬくもりではなく恐怖に変わる。

一体誰?新型のネウロイ?

そのような考えが頭の中で膨らんでいく。

どんな考えがあって、ここにいるのか?

私にこんなことをする理由は何?

答えは見つからない。

サーニャが思考している間も、状況は刻々と変化していく。

背中を叩いていた手は、再び頭へと運ばれ、ゆっくりと髪をなで始める。

サーニャの身体が一瞬強張る。

だが、この時、サーニャの頭の中に

この状況をどうにかしなければならない

という、軍人としての使命が浮かんできた。


サーニャ「……っ」

640: 2013/03/11(月) 00:15:43.60 ID:uALn6rkOo
サーニャはふと飛び上がり、ベッドから降りると

素早く棚の中に閉まってあるモーゼルを取り出し

ベッドの上にいる「誰か」に銃口を向けた。


エイラ「っと……」


エイラ?は自分に向けられた銃口に恐れることなく

ゆっくりと手を挙げた。


サーニャ「貴女は……誰ですか?」
      「エイラのベッドの上で、何をしているのですか?」


使命感にかられながらも、未知の者と対峙する恐怖と戦う

サーニャの声は若干震えている。


エイラ「……」


エイラのような何かは、手を挙げたまま

声を発することなく、サーニャの方へと近づいていく。

641: 2013/03/11(月) 00:21:17.94 ID:uALn6rkOo
サーニャ「動かないでください」


凛とした声を上げるサーニャ。

小さくも、その部屋に響かせるには十分な声である。

だが、そんな黒猫の声にも怖じずに

ベッドから降り、ゆっくりとサーニャへと歩みを進めるエイラらしき人物。


サーニャ「……うごかないでっ」


華奢な身体には似合わない、ごつごつとした拳銃を向け直す。

震える手をしずめ、近づく人影をけん制するために引き金へと指を伸ばしかけた

その瞬間


サーニャ「あっ……」


サーニャは、再びぬくもりに包まれた。

642: 2013/03/11(月) 00:27:23.22 ID:uALn6rkOo
エイラ「……だめダゾ、サーニャ」
    「そんな危ないもの、人に向けるなんテ」


エイラ?はサーニャの耳元に口を近づけ、そうささやいた。

その声は、まぎれもなくエイラの声であった。


サーニャ「……ほ、ほんとうに……エイラなの?」

エイラ「本当じゃなかったラ、ここにいるエイラは何者なんダ?」


ゆっくりと、体をはなし、目を合わせるエイラ。

窓から差し込む月の光に照らされた、顔つき、目の色、髪の色は

やはりサーニャの知るエイラのものである。


サーニャ「で、でも……私の知っているエイラは、こんなんじゃ」
      「もっと、控えめで、その」

エイラ「フフ、ヘタレってことダロ?」

サーニャ「……うん」

643: 2013/03/11(月) 00:38:47.31 ID:uALn6rkOo
エイラは小さく笑うと、サーニャの前髪に手を伸ばした。

指で髪をあそばせると、そのまま頬に添える。

サーニャの身体は、小さく震えた。

だが、それは恐怖ではなく、恥じらいや、照れによるものだ。


エイラ「そうだよナ、確かに今までの私はヘタレてた」
    「サーニャを目の前にすると、何もできない」

エイラ「本当は、こうして触れていたかったのにサ」


親指で、サーニャの頬をなでるエイラ。

サーニャは顔を赤らめ、目をエイラから逸らす。


エイラ「でも、サーニャが任務に行っている間、ずっと考えてタ」
    「このままでいいのかッテ」

エイラ「サーニャを待っているだけで良いのかってさ」

644: 2013/03/11(月) 00:45:11.19 ID:uALn6rkOo
エイラ「そして、行きついた答えは勿論『このままじゃ、駄目』」

エイラ「いっつも、サーニャはアプローチしてくれてたよな」

サーニャ「……」


サーニャは口には出さなかったものの、小さくうなずいた。


エイラ「それなのに、私は気づかないフリして」
    「それか、何かと理由を付けて逃げてた」

エイラ「そんなんじゃ、駄目なんだ」

エイラ「いつか、サーニャの目の前に」
    「私よりもかっこよくて、しっかりしてて」

エイラ「サーニャのことを分かってやれる人が現れたら」
    「絶対にとられるだろうって思った」


サーニャはその言葉に「それは違う」と反論したくなったが

エイラの言葉を聞くことに徹した。

645: 2013/03/11(月) 00:57:11.19 ID:uALn6rkOo
エイラ「そんなのは絶対に嫌だ」

エイラ「私は、今までも、今も、これからも」
    「サーニャの隣にいたい」

エイラ「サーニャの隣を飛んでいたい」
    「サーニャの隣を歩いていたい」

エイラ「私以外の誰かになんて、サーニャをあげたくないんだ」


サーニャは、ここまで黙って話を聞いていた。

だが、彼女はエイラの語りに違和感を覚えていた。

自分は、誰よりもエイラの気持ちを理解していると思っている。

勿論、彼女が自分を好きであることも、一緒にいたいと思っていることも知っている。

しかし彼女は、自分の事よりも、絶対にサーニャのことを優先するのだ。

例えサーニャが、自分から離れていこうとも

それが、サーニャの幸せであるならば引き留めない、そういう人物なのだ。

そんなエイラが、突然「取られるのは絶対に嫌だ、誰にも渡したくない」と

自分の考えを押し付けるだろうか?サーニャの幸せを考えずに?

646: 2013/03/11(月) 01:04:44.00 ID:uALn6rkOo
エイラ「サーニャ」


エイラは、手の動きを止め、

サーニャの顔を自分の方へと向かせる。

何か、ざわざわとした気持ちを湛えながらも

サーニャはエイラの方へと目を向けた。

いつもなら目を合わせるだけで、顔を背けてしまうエイラ。

そんなエイラが、深い紫色の目を自分に向けているという事実が

サーニャの胸の奥にたまった不安を減らしていく。


エイラ「サーニャは、どうなんだ?」

サーニャ「……」
      「私も」

サーニャ「私も、エイラといっしょにいたいわ」

サーニャ「ずっと、一緒にいたい」

647: 2013/03/11(月) 01:09:17.63 ID:uALn6rkOo
エイラ「そっか」
    「よかった」


エイラは、サーニャに笑顔を向け、言った。

その笑顔を見たサーニャも思わず、顔を綻ばせる。


エイラ「じゃあ」

エイラ「ずっと、一緒にいようか」


ビクッ。

サーニャの身体が、震えた。

違う、サーニャの身体が震えたのではなく

その空間が、震えたのだった。


サーニャ「……えっ?」


突然の衝撃に、戸惑うサーニャ。

何かが起こったのだろうかと、あたりを見回すのだが

648: 2013/03/11(月) 01:16:54.73 ID:uALn6rkOo
サーニャ「っ……!?」


顔が動かなかった。

それどころではなく、目も、身体も、指一本でさえも

一寸たりとも動かなくなっていた。


エイラ『……ふふ』

エイラ『良かった、サーニャがずっと私といてくれるって言って』


サーニャを見つめたまま、そうつぶやいたエイラは

不気味な笑顔をたたえて、サーニャの顔へと近づいていく。


サーニャ「……ぁ」

エイラ『やっぱり、近くで見る顔も、綺麗だな』
    『誰かになんて、あげられない』

エイラ『わたしだけの、サーニャ』

649: 2013/03/11(月) 01:23:12.24 ID:uALn6rkOo
鼓動が早まる。

もう、目の前のエイラは、エイラではなく

サーニャにとっては得体のしれない、何かであった。

近づく顔から遠ざかろうとしても、やはり体は動かず

目の前のエイラを模った何かの接近を許すのみである。


エイラ『ずっと、一緒に居ような、サーニャ』
    『この場所で、ずっと、二人で』


生々しかった、ぬくもりを含んでいた声ではなく

機械的で、冷たい声が部屋に響く。

その冷たさは、全身を包むように部屋に溶けていき

サーニャの恐怖をさらにかき立てた。


サーニャ(お願い、誰か。だれか助けて!)


もはや、そう、頭の中で叫ぶしかなかった。

それしか、方法は無かった。

サーニャは、ひたすら、助けを求め続けた。


サーニャ(お願い、誰か……誰かっ)

650: 2013/03/11(月) 01:24:08.85 ID:uALn6rkOo
誰か


誰か助けて……


誰か……


助けて


助けて、エイラ


エイラッ……!

651: 2013/03/11(月) 01:29:26.06 ID:uALn6rkOo
「ニャアオッ!!」


冷たさで満たされた部屋の中に、猫の声が響く。


エイラ『んっ!?お、お前は一体……うわっ!!』


エイラのようなものは、突然苦しみ始める。

何か、後ろから飛びつかれたようだった。


エイラ『やめろっ……きさま……!』


後ろから、何かに飛びつかれた、その部屋の主は床に倒れこみ

段々と、その部屋に溶けていく。


エイラ『ぐっ、うわああ!やめろぉ……ッ!!』


一つの断末魔の叫びを最後に

エイラを模っていた何かは、その部屋の影と完全に同化した。

652: 2013/03/11(月) 01:36:59.41 ID:uALn6rkOo
サーニャは、何が起こったのかも分からない様子だった。

しかしふと気付くと、自分の身体は再び動くようになっていた。


サーニャが、どうして、あのエイラらしきモノが突然

苦しみだし、部屋と同化してしまったのかと思い部屋を見回す。

すると、ベッドの上に何かがいることに気が付いた。


「ニャア」


それは、赤い毛色をもった、一匹の猫であった。

ぼんやりとした輪郭を持つその猫は、

サーニャの顔を見たかと思うと、自らの前足を軽く舐めて

暗がりへと姿を消した。


サーニャ「あれは……」


その猫は、サーニャにとっては初めて見るものではなかった。

どこかで見た……いや

その猫は、いつも自分が目にしているはずの―――

653: 2013/03/11(月) 01:42:53.19 ID:uALn6rkOo
……ャ

……-ニャ

エイラ「サーニャっ!!」

サーニャ「っ!!」ガバッ

エイラ「……さ、サーニャ……」
    「サーニャっ!!」


サーニャが目を覚ますと、目の前にあったのは

目に涙をいっぱいためたエイラの姿であった。

ゆっくりとあたりを見回すと、白いシーツのベッドがいくつかある。

どうやら、医務室らしかった。

窓からは、春先の太陽の優しい光が射しこんでいる。


サーニャ「エイラ……わたしは」

エイラ「わぁ、あっ、あっと、サーニャ、と、とりあえずっ……そのぉ!!」
    「えー、えーっと、そうだ!ミヤフジ!!」

エイラ「オォイ!!ミヤフジー!!」
    「サーニャが、サーニャが目をさましたァァアァ!!」


エイラは、目を真っ赤にしたまま医務室を飛び出し

芳佳を呼びに走って行ったようだった。

654: 2013/03/11(月) 01:54:20.36 ID:uALn6rkOo
エイラに連れられて、大急ぎでやってきた芳佳とリネット。

二人は、起き上がったサーニャを見てよかったよかったと

大声で騒いでいた。


どうやら、サーニャとエイラは夜間哨戒中、謎のネウロイと接触。

そのネウロイは、いつものような怪光線を撃っては来なかったものの

強力な催眠電波らしきものを発するタイプだったらしい。

案の定、魔導針を使用していたサーニャはその電波の影響か、

気を失って、バランスを崩してしまった。

それを見たエイラは、あわててサーニャを抱え、基地へと戻ってきた。


戻ってきた二人の代わりに、他の隊員が出撃し、無事そのネウロイを撃墜したそうなのだが、

サーニャは今までずっと、気を失っていたらしかった。


その間エイラさんは、ずっとサーニャちゃんの隣にいて

サーニャちゃんの名前を呼び続けていたんだよ

と、芳佳は言っていた。

655: 2013/03/11(月) 02:02:19.47 ID:uALn6rkOo
サーニャ「……そうなの、エイラ?」

エイラ「あッ……エット……」
    「だ、だって、心配だったんダ!」

エイラ「サーニャ、気を失ってる間、苦しそうにしたり」
    「涙流したり、笑ったりするシ……」

エイラ「このまま、サーニャが、ソノ」
    「気を失ったママだったら、どうしようッテ……思ッテ」

サーニャ「……」
     「ありがとう、エイラ」

エイラ「エッ?」

サーニャ「エイラが、エイラがね」
     「私の事、ずっと呼び続けてくれてなかったら」

サーニャ「私、あっちのエイラと、暮らすことになっていたかもしれないわ」

エイラ「エッ?エッ?あっちの、エイラ?」
    「ナンダ、ソレ?」

サーニャ「エイラより、カッコいいエイラだった」

エイラ「がーんッ!」

サーニャ「でも、でもね、エイラ」

656: 2013/03/11(月) 02:06:36.28 ID:uALn6rkOo
―――――――――――――――

エイラ「へッ……!?」


芳佳「わぁっ……!」

リネット「きゃ……!」


サーニャ「私は、他のどのエイラよりも」
     「今のエイラが、一番」

エイラ「アワワワワワッ」

エイラ「エッ、あ、エッ!?」
    「そ、ソァ……うぁ……!?」

エイラ「さ、サーニャがっ!お、おかしくなったんだナァァァァァァ!?」


芳佳「あっ、え、エイラさんっ!どこへ行くんですかっ!」

リネット「エイラさん!?そっちは窓で……ここは1階じゃ……!」



サーニャ「……」
      「ふふっ」

657: 2013/03/11(月) 02:15:26.72 ID:uALn6rkOo
ねぇ、エイラ、私はね、いっつもあなたに助けられている。

あの時助けに来てくれた猫だって……。


この世界のエイラは、確かにあの世界のエイラよりも

ずっと恥ずかしがり屋で、ずっと泣き虫かもしれない。

けれど、どの世界のエイラよりも

私のことを考えてくれていて、優しくて、可愛い。

ちょっとかっこ悪い、私の王子様。


ごめんなさい、別の世界のエイラ。

私は、やっぱり、このエイラじゃないとダメみたい。

いつか、この世界のエイラにも

ずっと一緒にいよう

って言わせてみせるから。

待っててね、エイラ。


Я люблю тебя.
                                (終わり)

658: 2013/03/11(月) 02:18:53.20 ID:uALn6rkOo
赤パン隊「私たちが助けました」

リク無視してすいません。エイラーニャやりたくなりまして。
本当は京ちと、って考えてたんですけど、どういう形で締めくくろうかと悩んでまして……。
次は、出来たら京ちとやります。

引用: 百合短編SSで全レスする