759: 2013/07/18(木) 21:03:54.98 ID:Pl2E6QiQ0
「………」

スターローズの一般居住区。そこの、あるデパートの入口。
私はそこで、一人立っていた。
いつもはタマキとよく来るけれど、今日は違う。
そっと、私は中に入る前に、お財布を取り出して、そこに入っているメモを見る。

「……イズル、喜ぶかしら」

一言、呟いた。
そう、今日の私は自分のための買い物に来ているわけではない。
今、入院――といえばいいのか、休暇中といえばいいのか分からない――イズルのためにその、お見舞いをすることにしたのだ。
せっかくのお見舞いだし、どうせだから彼の欲しがりそうなモノを渡そう、と決めた。
そのこと自体はもう彼にも伝えておいたし(彼は「ありがとう、行ってらっしゃい」と言っていた)、サプライズはないけれど。

というようなことを伝えたら、ピットクルーの人たちが何故か真剣に相談に乗ってきた。
私としては、それは嬉しいけれど、ただ、終始変に穏やかな笑みを浮かべていたのが、気になった。
まぁ、そんな紆余曲折があって、私はこうしてイズルへのお見舞いの品を求めてきている。
開店した店内にさっさと入る。
早く買い物を済ませて、イズルに会いに行こう。早く、早く。
銀河機攻隊マジェスティックプリンス

760: 2013/07/18(木) 21:07:13.63 ID:Pl2E6QiQ0
そして、現在。

「……」

デパートのある文房具店で、私は困り顔をしていた。
目の前には、Gペン、とかいうモノみたいなマンガを描く道具が羅列している。
調べてから知ったことだけれど、今ではイズルみたいに手書きでマンガを描く人はいないらしい。
実際、調べた結果、ここのマイナーなアンティークの専門店ぐらいしか扱っていない。

で、問題もなく店に着いたのだけれども。
弱ったことに、売り物の種類が多すぎる。
一つのペンだけでも、何やら機能や性能に違いがあるらしい。
こういうことのためにある程度調べてきたのに、どれを買えばいいかさっぱり分からない。

…どうしよう。いっそ全て買ってしまおうか。
一瞬考えたバカらしい行動に、ため息を吐く。
軍からいくらかはお金のことを保障されている。
多少、無茶をしても…いや、それではイズルが困るかもしれない。
いらないモノを無駄に買うのも、あまりいいこととは思えないし。
そうして、私が悩みに悩んでいると。

761: 2013/07/18(木) 21:08:09.15 ID:Pl2E6QiQ0
「お客様、お困りでしょうか」

いつの間にか、隣に店員さんが立っていた。
何やら見た目の割にずいぶんと落ち着いた雰囲気のお姉さんに対して、私は急な声につい慌ててしまう。

「は、はい…あの、この中で一番良いモノって何でしょうか?」

私の妙に上ずった声に、お姉さんは何も反応せず、少しばかり品物を眺めてから、いくつかの品を見せてくれた。
いわく、昔アナログな方式でマンガを描いていた『マンガの神様』と呼ばれる人の品物なのだそうだ。
少しだけ触らせてもらうと、なるほど、確かにそれほど昔の品物だというのに、他の新品よりもむしろ輝いて見える。
きっと、これの持ち主であった人は本当にマンガを描くことが好きだったのだろう。道具の手入れは完璧だった。

私はあっさりとそれらの品を買うことを決めた。
変に迷っても仕方ない、ということもあるけれど、『マンガの神様』という言葉が気に入った。
それだけの人が使っていたのだ。きっと、イズルのマンガを良くしてくれる。持ち込みを、上手くいくようにしてくれる。
ガラにもない、そんなオカルトめいたことを思って、私はそれらを手に入れた。

レジで、「彼へのプレゼントかしら?」なんてことを聞かれて、言葉に詰まったりもしたけれど、問題なく買い物は終わった。
イズルとは、別にそんな関係じゃない。ただ、仲間として、お見舞いしてあげようと思っただけのことだ。

762: 2013/07/18(木) 21:09:08.53 ID:Pl2E6QiQ0
「お帰りなさい、お嬢」

スターローズの拠点に戻ってきた私を、イリーナが出迎えてくれた。
彼女はニコニコと優しい笑顔でいた。
その笑顔は、やっぱり、ちょっと苦手だ。
普段はチームの中でも年上として行動しているせいなのかもしれない。
と、そんな感想はともかくとして、私は本題に入ることにした。

「…あの、イズルはまだ…」

「病室にいるわよ。早く行ってくると良いわ」

私の質問を途中で察したのか、それだけ言うと、イリーナはお見舞いの品以外を持って行ってくれた。
ありがとう、とその背中に小さく言葉を向ける。
聞こえていないだろう、と思っていたその声は、意外にも届いていたらしく、彼女は振り返って手を振ってくれた。
その手に応えてから、私もまた、歩き出す。

763: 2013/07/18(木) 21:10:56.28 ID:Pl2E6QiQ0
歩きから、途中で全力の走りに切り替えて、私は長い長い通路を駆けていた。
待ち遠しい。すぐにでもこれを渡して、彼の驚く顔が見たい。笑顔が見たい。
私の顔が今どうなっているのかは分からない。
あいにくと道中では誰にも会わなかったこともあって、予想がつかない。
でも、たぶん、普段らしくもなく、必氏な表情でいたに違いない。

「……っ」

ようやく、辿り着いた。
一度、乱れた呼吸を取り戻す。
だらしない恰好では会いたくない。それじゃ、ちょっと決まらない。

呼吸が戻る。それとは別に一度深呼吸をした。何だか、緊張していた。
手の中の品をもう一度見る。大丈夫、一つも欠けていない。
最後に、自分の様子を近くのガラスのドアで確認する。
大丈夫、だらしなくなっていない。ちゃんと、笑顔も出せる。

改めて、私は病室の前に立つ。
少し震える手で、二回ノックした。

「はい?」

ほどなくして、彼の声が返ってくる。
あぁ、よかった。彼は、この先にいる。

私はそっと、ドアに手を添える。スキャンを経て、ドアは開いた。
私はそっと、一歩踏み出す。完全に入室すると、ドアが閉まった。

そして、あの声がする。私を迎えてくれる、大切な声。

「――お帰り、ケイ」

「――ええ、ただいま」

764: 2013/07/18(木) 21:15:33.40 ID:Pl2E6QiQ0
終わり。どうでもいいけど胸のネタがどれだけお好きなんですかね。
次は >>676 >>678 >>712 >>717 >>738 >>739 >>740 のどれかで。
では、また何かネタがあればどうぞお願いします。

引用: 【マジェプリ】もしもイズルが一週間いなかったら