1: 2012/08/04(土) 20:52:06.20 ID:ep3WwVfnP
・ゆるゆりのSSでflickr
・ごらく部です。勝手に設定した能力者は出ません。
原作は読んでません。細かい設定はよくわかりません。
・アニメのゆるゆりまでは見ました。ゆるゆり♪♪は視聴中です。
・キャラが崩壊してるかも知れませんがご容赦を


5: 2012/08/04(土) 20:55:33.95 ID:ep3WwVfnP
「そろそろ行こうかな…」

あかりが腕時計を見て立ち上がる。
あの時からずいぶんと背が伸びた。

「二人とも、きっと来てくれるよね!」

そう自分に言い聞かせて、家を出る。
目的地はあの場所。
あなたとの日々を、始まりから終わりまでを振り返りながら、あかりは歩く。
悲しみと不安を抱え、それでもほんの少しの希望にすがりながら、ひとり、街を歩く。
あなたが一番輝いていた場所へ。

8: 2012/08/04(土) 20:59:46.66 ID:ep3WwVfnP
「何年ぶり…だろ…。」

ここは変わらない。何も変わってはいない。
そこを開ければ、あの時のあなたが出迎えてくれそうな気がする。

「懐かしいな…。」

しかし彼女は足を止め、顔を曇らせる。
あかりはギュッと強く目を瞑り、唇を噛みしめた。
少し溢れた涙を両手で拭い、右ポケットから鍵を取り出す。
ふうっと息をつき、鍵を差し込み、回す。

「あ…。」

10: 2012/08/04(土) 21:04:47.02 ID:ep3WwVfnP
空回りの音だ。

「開いてる…。」

開けると玄関に靴は一足、少なくとも一人は来てくれている。
あかりにとってそれは喜ばしいことではあった。
もちろんあれから一度も会わなかったわけではない。
しかし…。
どんな言葉をかければいいのだろう。
また昔のように…。

答えが出せないまま、あかりは部屋の前に立つ。
それと、同時に煙草の匂いが鼻をかすめた。

13: 2012/08/04(土) 21:10:09.85 ID:ep3WwVfnP
「久しぶり…。」

ふすまの向こうから聞こえる声。
一番乗りはこの人か、とあかりは思う。

「うん。」

精一杯の笑顔でふすまを開け、言葉を返す。

「久しぶりだね、結衣ちゃん。」

あなたは当然知らない。
結衣は煙草を吸い始めた。
そんな結衣を見てあなたは怒るだろうか。

14: 2012/08/04(土) 21:15:23.07 ID:ep3WwVfnP
「結衣ちゃん、ここ学校だよ。煙草なんか吸っちゃダメだよ。」

「別にいいだろ、こんなとこ誰も来ないよ。」

「そういう問題じゃないよ。それにあかり煙草好きじゃないもん。」

「まだ自分のこと『あかり』って言ってんのか?来年社会人だろ?」

結衣があきれ顔で新しい煙草を取り出し火をつける。

「社会に出たらちゃんとするからいいの!」

「どーだか。」

「それに今は煙草の話だよ!」

17: 2012/08/04(土) 21:20:06.94 ID:ep3WwVfnP
遠くを見ながらふふっと軽く笑う結衣を見て、なんだ普通に話せるんだ、とあかりは思う。
結衣もきっとそう思っている、そう思い込むことにした。

「前もこれだったよね。」

「ん?ああ。」

「これっておじさん臭くない?結衣ちゃん、始めからずっとこれ吸ってるの?」

「そうだよ。」

少しだけ結衣のトーンが下がる。
ほんの少しだけ。

18: 2012/08/04(土) 21:25:24.70 ID:ep3WwVfnP
「好きなの?」

結衣は火をつけたばかりの煙草を押し付け、何も言わず縁側に出る。

「結衣ちゃん?」

「…嫌いだよ。」

「え…?」

あかりはなぜ結衣がそう答えたか知らない。
この言葉の真偽も知らない。
顔は見えない。
ただ結衣が悲しい顔をしている気がした。

21: 2012/08/04(土) 21:31:37.62 ID:ep3WwVfnP
しばらくして玄関の開く音。
残りの一人だ、誰かは見なくともわかる。
あかりは来客を迎えようと立ち上がる。
結衣は遠くを見たまま、動かない。
あかりがそれを見て少し悲しい顔をする。
それを掻き消しふすまを開けると、靴を脱ぐ後姿が見えた。

「待ってたよー。」

「ごめん、ごめん。ちょっと道が混んでて。」

「あ、車で来たんだ。」

「車の方が早いもん。」

靴を脱ぎ終え、振り返る。

「あかりちゃん、元気だった?」

24: 2012/08/04(土) 21:37:53.04 ID:ep3WwVfnP
「私はいつでも元気だよ!」

「それもそうだね。」

あかりはにこりと軽く笑い、少し躊躇してから部屋に戻る。

「結衣ちゃん、ちなつちゃん…来たよ。」

結衣はほとんど聞こえないような声で、うん、と言う。

「お久しぶりです、結衣先輩。」

「久しぶりだね。」

ちなつは少しだけ振り向いた結衣を、視野の片隅で捉えながら卓につく。

「あれ、あかりちゃん煙草吸ってるの?」

「ううん、これ結衣ちゃんのだよ。」

「ふーん…。」

彼女はそれ以上何も言わず、乱暴に灰皿がわりの缶コーヒーを押しのけた。

25: 2012/08/04(土) 21:43:45.81 ID:ep3WwVfnP
四人が揃わなくなってから、三人が揃う。
あなたはいない。
三人は「ひとり」だった。

「結衣ちゃんもこっちに座ったら?」

「いいよ、私煙草吸うから。」

「そっか…。」

久しぶりの三人。
「ひとり」のほうが寂しいはずなのに、なぜか「三人」のほうが寂しい気がした。

26: 2012/08/04(土) 21:47:02.18 ID:ep3WwVfnP
だからあかりは必氏に言葉を探す。
せめて「三人」がこれ以上離れないように。

「結衣ちゃん最近どう?」

「まあ特に…。」

「そ、そっか!ちなつちゃんは?」

「んー…、私も特に変わらないかな。」

「えと、あかりも相変わらず元気だよ!」

「ふふ…、さっき聞いたよ、あかりちゃん。」

「そ、そうだったっけ…。」

「あかりちゃんは中学のころから変わらないね。」

「そんなことないよぉ!」

二人は顔を見合わせ、あの頃より大人びた笑顔でくすりと笑った。

27: 2012/08/04(土) 21:50:28.84 ID:ep3WwVfnP
あかりがじっくりと部屋を見回し口を開く。

「懐かしいよね、ここ。」

「ずっと来てないもんね。」

「あの頃はほとんど毎日来てたのに。」

「そうだね。」

「いっつもみんなここにいて…。」

「うん…。」

「みんな…。」

声が震える。

「京子ちゃんも…。」

29: 2012/08/04(土) 21:54:08.67 ID:ep3WwVfnP
「京子ちゃんもいつも一緒で…。」

あかりの頬を涙が伝う。
ちなつは何も言わずあかりの手を握り、そっと身体をよせる。

「ごめんね、あかりすぐ泣いちゃって…。」

「いいよ、大丈夫だから。」

「もう何年も前のことなのにね。」

「忘れられることじゃないもん。はい、これ。」

あかりは差し出されたハンカチで涙を拭き、ありがとうと言ってちなつに返す。
あなたと一緒に音まで消えてしまったかのような静かな部室。
笑い声はもう聞こえない。

31: 2012/08/04(土) 21:59:38.54 ID:ep3WwVfnP
ちなつが沈黙を破る。

「それで…、あかりちゃん。今日はどうして?」

「え?」

「みんなで集まろうって…。」

「あっ、うん…。」

俯いた顔には戸惑いの色。

「あかりちゃん?」

あかりは大きく息を吸い込み、顔をあげる。

「京子ちゃんの家、いかない?」

「え?……三人で?」

「もちろん!」

「私はいいけど…。」

32: 2012/08/04(土) 22:03:39.71 ID:ep3WwVfnP
「いいよね?結衣ちゃん。」

あかりは祈るような顔で結衣を見る。

「そうだね…。」

少しの沈黙の後、結衣がそう答えた。

「じゃあ行こっか!」

「うん、私の車でいいよね?」

「わー、ありがとう。」

「じゃあ先に車つけてくる。」

「はーい。結衣ちゃん行こ?」

「…うん。」

「一本吸ってから、行くよ。」

結衣の煙草はハイライト。
彼女が煙草を吸う理由をあなたは知らない。

33: 2012/08/04(土) 22:07:54.64 ID:ep3WwVfnP
「うおっ!?」

あなたは眩暈に襲われ、まともに受け身も取れず幼児の様に転ぶ。
似たようなことは何度かあった。

「何やってんだよ、京子。」

「ごめん、ごめん。ちょっとクラクラっと来ちゃって。」

「大丈夫か?ほら。」

あなたは結衣の手を握り、立ち上がる。
ひどい頭痛がする。

「最近よくあるんだよねー。」

「そうなのか?ひどい様なら病院行った方がいいんじゃ…。」

34: 2012/08/04(土) 22:12:16.86 ID:ep3WwVfnP
結衣は心配そうな目であなたを見る。
あなたは自分の不安が伝わらないよう、視線をそらす。

「大丈夫だって!寝不足だからだよ、寝不足!」

「寝不足って言ったって…。」

「いいから、早く部室行くぞー!」

「お、おい…京子。」

あなたは不安をかき消す様に走る。
頭痛はまだ消えない、不安も消えない、それらを置き去りにしたいのに。

35: 2012/08/04(土) 22:17:07.50 ID:ep3WwVfnP
「よーっす!」

あなたはいつも通り部室に入る。
いつも通り。

「あ、結衣先輩!」

ちなつがあなたに目もくれず結衣に駆け寄る。
いつも通りだ。

「ちなつちゃーん!あいさつしたのは私だ!」

「知ってますよ。それが何か?」

「ちなつちゃんのいけずぅー!」

「ちょ、ちょっとそんなにくっつかないでくださいよ!」

「よいではないか、よいではないかー!」

「やめろよ、ちなつちゃん困ってるだろ。」

「みんなー、お茶淹れたよー。」

「いたんだ」

「えぇー!ひどいよぉ~!」

36: 2012/08/04(土) 22:22:22.15 ID:ep3WwVfnP
大丈夫、いつもと何も変わらないとあなたは思う。
あかりも、結衣も、ちなつも。

あなたは?

そんな事は考えないようにして、いつもの席につく。
まだ頭痛がする。
ちなつが結衣にくっつきながら話している。
あかりが笑ってそれを聞いている。
大丈夫、いつも通り。
変わらない。

ゴトンと鈍い音がして三人の視線があなたに集まる。
あなたは持ち上げた右手を見る。
そこにあるはずの湯のみはその先に転がっていた。

「ぁ……れ?」

39: 2012/08/04(土) 22:28:09.67 ID:ep3WwVfnP
頭痛は消えていた。
結衣が何かを言いながら立ち上がる。
彼女の顔は次第に、おぼろげになり、そして、見えなくなった。

「おい、京子!」

「え…?」

「京子ちゃん!?」

三人が駆け寄りあなたの名を呼ぶが、その声は届かない。

「京子先輩!どうしたんですか!?」

「あかり!救急車!」

「う、うん!」

44: 2012/08/04(土) 22:34:27.48 ID:ep3WwVfnP
あなたは目を覚ます。
身体は重く、意識はハッキリしない。
ここがどこなのかもわからない。
ただ思う。

いつも通りが終わったのだと。

46: 2012/08/04(土) 22:38:47.44 ID:ep3WwVfnP
「京子ちゃーん!調子どう?」

「ん~、悪くないかな。」

「ほら、ラムレーズン買って来てやったぞ。」

「おー!さっすが結衣だなー!」

「私も魔女っ子ミラクるんの新刊買って来ましたよ。」

「や、優しい!もうこれはちなつちゃんが私を愛しているとしか…。」

「なんでそうなるんですか…。」

「照れなくていいのにー。」

「照れてません!」

「いいからほら、アイス溶けるぞ。」

あなたがいれば、四人が揃えばそこはごらく部だった。
それは変わっていない。
いつも通りは終わったけれど。

48: 2012/08/04(土) 22:43:36.93 ID:ep3WwVfnP
「んー、まだ慣れないなー。」

「このアイスクリーム硬いもんね。」

「ちなつちゃーん、食べさせて。」

「なんで私なんですか。」

「ちなつちゃんがあーんしてくれればこのラムレーズンの旨さは100倍!いや1000倍!?」

「わかった、わかった。私が食べさせてやるから。」

「えー、結衣かよー。」

「嫌ならもう買って来てやらないぞ。」

「すみませんでした!」

あはは、とあかりが困ったように笑う。
結衣はあなたの左手からスプーンを受け取りベッドに腰掛けアイスをすくった。
そして口元に運び優しい顔で言う。

「早く右手使えるようになるといいな。」

49: 2012/08/04(土) 22:46:49.05 ID:ep3WwVfnP
右半身のマヒ。
あなたが目を覚ましたあと、医者から告げられた言葉。
もしかしたらそれを聞かずとも気付いていたかもしれない。

あなたはそれを聞いて泣く後輩に「いつも通り」で接した。
弱味を見せるのは彼女だけで十分だと。
大丈夫だよ、そうあなた自身にも言い聞かせながら。

「んあー…、ちゃんと治るかなー?」

「治るよ!リハビリだってしてるし、すぐ学校いけるようにだってなるよ!」

あかりは素直でいい子だ。
真っ直ぐな目で、迷わず言い切る。

「そうだな…。パパッと治してミラクるんの同人誌仕上げなきゃ!」

「ふふっ、出来たら読ませて下さいね。」

ちなつは優しくなった。
もともと不器用なだけだったかもしれない。

51: 2012/08/04(土) 22:50:08.73 ID:ep3WwVfnP
「そんなことより今年受験だろ。このままじゃ高校いけないぞ。」

結衣は変わらない。
それが結衣の優しさだとあなたもわかっていた。

「大丈夫!今年行けなくても来年行けばあかりと同級生だよ!」

「高校浪人かよー。」

あかりは大真面目だ。

「でもちなつちゃんと同級生ってのも悪くないか…。」

「京子先輩、あなたって人は…。」

「いいから!」

結衣があなたの頭にポンと手をおく。

「早く治して退院しろよ。」

「任せとけってー!」

笑顔が溢れる。
今はここが部室だ。

52: 2012/08/04(土) 22:52:57.85 ID:ep3WwVfnP
あなたへの見舞いを終えて三人は帰る。
それぞれの思いを心に抱きながら。

「京子ちゃん、よくなるよね?またみんなで一緒に遊べるよね?」

「わかんないよ…。」

「もしこのままだったら、ずっとこのままだったら、京子ちゃんがかわいそうだよ!」

「そんなことわかってるけど…!」

あなたがそうであるように、彼女達も不安だった。
自分が周りの人とってどれほど大きな存在であったか、あなたは知っていただろうか。

「大丈夫だよ、二人とも。」

結衣は言う。

「京子は絶対よくなるよ。」

54: 2012/08/04(土) 22:57:32.24 ID:ep3WwVfnP
『結衣…、私の右側動かないんだって…。』

『え…?動かないって……?』

『もう歩いたり出来ないかも知れないんだ…。』

『そんな…!』

『あはは…、困っちゃうよね…。こんなことなら結衣の言うとおり病院いっとけばよかった。』

『…………うん。』

『ねえ、結衣。』

『どうして…?どうして私なの?なんで……、なん……で………、結衣…。』

『京子…。』

『うっ…うぅ…うわああああああああ!』

56: 2012/08/04(土) 23:02:32.61 ID:ep3WwVfnP
「京子ちゃん!」

「おう、いらっしゃい!」

「うー!外すっごい寒いよー」

「雪降ってるもんなー。」

ごらく部の面々はほぼ毎日のように顔を出していた。
あなたがいなければ部活は始まらない。

「明日はホワイトクリスマスかな。」

「クリスマスかー、どうせ私は病院だしなー。」

「ふっふっふっ…。」

「な、なに?」

「実はクリスマスプレゼントがあるんだー。」

「プレゼント?」

あかりは嬉しそうな顔で頷く。

57: 2012/08/04(土) 23:07:59.27 ID:ep3WwVfnP
「えー!なにくれるの?」

「それはね…、もうちょっとでサンタさんが持って来てくれるよ!」

あなたは首を傾げる。
なぜあかりはこんなにも嬉しそうなのか。
どんなプレゼントだろうと考えていると、病室の扉が開いた。

「おじゃましまーす。」

「お!ちなつちゃん、いらっしゃい!」

「こんにちは、京子先輩!」

あなたの顔を見て、ちなつまでなぜか嬉しそうだ。

「ちなつちゃん!」

「バッチリだよ!」

後輩二人があなたに背を向け、意味深な目配せをする。
せーのっ、と小さな掛け声が聞こえた。

「メリークリスマース!」

二人が同時に振り向き一枚の紙をあなたに差し出す。

60: 2012/08/04(土) 23:13:45.84 ID:ep3WwVfnP
「え?なにこれ?」

「なにこれ?って、これがクリスマスプレゼントですよ!」

「この紙が?」

「もー!京子ちゃんここは喜ぶところだよ!」

変わらず二人は嬉しそうだ。
あなたが訳もわからず、紙に目を通そうと視線を落としたとき、もう一人の声が聞こえた。

「外出と外泊の許可証だよ、京子。」

「あ…、結衣…。」

「良かったですね、京子先輩!」

「あかりたち部室でクリスマスパーティーやるんだよ!」

「え?」

「その後は私の家でお泊りだ。」

「そう…なの?」

いまいち状況を飲み込めない。
結衣がそばに歩み寄り、あなたの肩に手をおく。

「もちろん京子も一緒にな。」

62: 2012/08/04(土) 23:19:04.64 ID:ep3WwVfnP
視界が徐々にぼやける。

「じゃあ…。」

「それじゃあ…またみんなで、あの部室で遊べるの?」

結衣は優しく微笑み、頷く。

「本当に…?」

「そんなに確認しなくても、本当に本当ですよ!」

「ぁ…。」

あなたは声を詰まらせ、ポタポタと落ちる水滴がシーツを濡らしていく。
「ありがとう。」は言葉にならない。
それでも、伝わる。

「きょ、京子ちゃん泣かないでよ!京子ちゃんが泣いたら…。」

「あかりまで…。」

あかりが京子に抱きつき、声をあげて泣き始める。
ちなつはもう顔をくしゃくしゃにして袖を濡らしていた。

「静かにしなよ、病院なんだから。」

そう言った結衣の涙も、シーツに落ちて、あなたのそれと混じった。

66: 2012/08/04(土) 23:24:29.15 ID:ep3WwVfnP
「うっわー!久しぶりだな!」

「私達もだ。京子が倒れてからここで集まることはなくなったからな。」

「そうなのか?なんか悪いな。」

バカ、と小さく呟いて結衣は車椅子を押す。
結衣とちなつはパーティーの準備だ。

「今日は生徒会の人達も来てくれるんだ。」

「おー、勢ぞろい!」

「やっとここに、みんなと戻ってこれたな。」

「ありがとうね、結衣。」

「京子。」

「ん?」

「お礼を言うのはこっちだよ。」

67: 2012/08/04(土) 23:29:39.15 ID:ep3WwVfnP
あなたは結衣に車椅子を押され部室に入る。
昔のように走っていくことは出来ない。
それでもこれほど嬉しいことがあっただろうか。
あなたはここに帰ってきた。

「あ、京子ちゃん達もう来たの?」

「まだ準備終わってないですよ。」

「うん、早く連れてけってうるさくてさ。」

「いいだろー!楽しみだったんだよ!」

中は豪華な飾り付けでいっぱいだ。
だが確かにあなたの待ち望んだ場所。

68: 2012/08/04(土) 23:33:18.64 ID:ep3WwVfnP

「なんつーか…。」

「和室にクリスマスって似合わないな!」

なんとなく恥ずかしくてそんなことを言ってしまう。

「ひどーい!あかり一生懸命準備したのにー!」

「まあ私は少し思いましたけど…。」

「ええ!?先にいってよぉ~!」

「ご飯は綾乃達が持って来てくれるんだ。」

「おおー!今日はいっぱい食べるぞー!」

あなたは笑う。
楽しくて、嬉しくて。

69: 2012/08/04(土) 23:38:09.86 ID:ep3WwVfnP
「メリークリスマース!」

全員が揃い、クラッカーの音と共にパーティーが始まる。
昔のように動き回ることはできない。
それでも中心にはあなたがいる。
あなたが笑えばみんなが笑う。

「なあ、結衣。」

「なに?」

「楽しいな!」

「…そうだね。」

結衣が笑う。

「ほんと、楽しいよ。」

楽しい時間はあっという間だ。

72: 2012/08/04(土) 23:43:12.30 ID:ep3WwVfnP
結衣が電気を消し布団にもぐる。

「あかり今日はすっごく楽しかった。」

「私も!また来年もパーティーしようね。」

「来年かぁ…。私、走り回れるようになってるかな?」

「そうなれるようにリハビリ頑張るんだぞ。」

「へいへい。」

少しの沈黙の後、あかりが今にも眠りそうな声でつぶやく。

「サンタさん、京子ちゃんの身体治してくれないかな…。」

「あかりちゃん…。」

冬の夜は静かだ。

「ははっ、そんなこと…、あるわけないだろ。」

天井の向こうを見てそう答える。
結衣は黙ったまま寝返りをうった。

75: 2012/08/04(土) 23:47:43.08 ID:ep3WwVfnP
数時間後、結衣が起きあがり、あなたを抱き起こす。
あかりとちなつは静かに寝息をたてている。

「ごめんな、結衣。」

「いいよ。」

「やっぱり泊まるのは迷惑だったかな。」

「気にするなって。」

「うん…、ありがとう。」

体位変換を終えた結衣は、お休みと言って布団に戻った。
その背中を見ながら、右手に力を込める。

「結衣。」

「どうした?」

「サンタさん、来ないな。」

あなたはそっと目を閉じた。

「…うん。」

76: 2012/08/04(土) 23:52:55.71 ID:ep3WwVfnP
「今始まったぐらいかな。」

「結衣ちゃん大丈夫かなぁ。」

「結衣先輩だもん!大丈夫にきまってるよ!」

3月、結衣は受験をむかえる。

「これで結衣は高校生かー。私はなにをやってんだか。」

結局その年の受験をあなたは見送った。
まさかあかりの言ったことが本当になるとは、あの時思ってもみなかっただろう。

「相変わらず右っ側は動かないし。」

「京子先輩、そんなこと…。」

「そうだよ!前よりもかなり動くようになってるし…。」

77: 2012/08/04(土) 23:56:44.80 ID:ep3WwVfnP
「そうだけど…、殆ど役に立たないしなぁ。出来ないことだらけだ。」

「今月末には退院じゃないですか。誕生日もあるし…。」

ちなつは少し怒ったような声だ。

「これから出来ることもどんどん増えるはずたよ。」

「そうですよ。今出来ることを頑張ってください。」

「今出来ることか…。」

出来ることってなんだろう、とあなたは考える。
出来なくなったことは多い。
その代わりに、みんながあなたを助けてくれた。
自分の為に出来ること。
人の為に出来ること。
あなたの答えが出るのは、もう少しあと。

80: 2012/08/05(日) 00:02:15.28 ID:ZUbA9W0lP
「京子ちゃんなんか変だったね。」

「きっと、結衣先輩が先に行っちゃうから…。」

「そっか…。」

「無理もないよ。」

「でも…。」

あかりは立ち止まり、うつむく。

「あかり達、ずっと一緒だよね?」

「あったりまえじゃん!」

精一杯、元気に、ちなつは答えた。

86: 2012/08/05(日) 00:14:50.54 ID:ZUbA9W0lP
あなたの車椅子を押すのはいつも結衣だった。
心地よい暖かさに包まれ、部室に向かう。

「もうみんな待ってると思うよ。」

「いやー、悪いねー。私ばっか祝って貰って。」

「めでたいんだから祝うのは当たり前だろ。」

「そっか!じゃあ祝え、もっと祝えー!」

「全く…。」

あなたは振り向き笑いかける。
結衣は少し照れながら笑い返した。

89: 2012/08/05(日) 00:19:07.41 ID:ZUbA9W0lP
「ああ!!」

「どうした?」

「忘れ物した…。」

「忘れ物?何忘れたの?」

「いやー、ちょっと。」

「戻ろうか?」

「あー…、いいよ。また今度で。」

「いいの?」

「いいって!それより早く部室に連れてけー!」

「はいはい。」

91: 2012/08/05(日) 00:25:09.72 ID:ZUbA9W0lP
「退院あーんど誕生日おめでとー!!」

ケーキの上には15本の蝋燭。
周りには多くの友人。

「いやー、私も無事15歳だよー。」

心の底からの言葉だった。

「ほんとだね!それに退院もできたし!」

「長かったですね~。」

「全くだよ!コムケにも行けなかった!」

「そこかよ!」

あなたの顔は晴れやかだった。
かけがえのない友人達がいる。
どんなことがあっても、ずっと一緒だと思える。

「私、幸せだー!」

言葉に思いをのせ、力一杯叫ぶ。
みんなが驚きあなたを見る。
それぞれの顔を見て、とびっきりの笑顔でもう一度いう。

「私、幸せだよ!」

93: 2012/08/05(日) 00:30:20.25 ID:ZUbA9W0lP
退院から一週間、いつものように結衣があなたを散歩に連れ出す。

「あー、明日が入学式なのか。」

「そうなんだよ。学校もちょっと遠いし、毎日は来れなくなるかな。」

「そっか。」

「ごめんな。」

「全然いいよ~。」

それでも結衣は申し訳なさそうな顔で、あなたをみる。

「私はさ、自分に出来ることは全部頑張るって決めたんだ。」

「え?」

「だから結衣も私の心配ばっかしないでいいんだよ?」

「う、うん。」

「私は大丈夫!」

この時の結衣の顔を、あなたは見ていない。

94: 2012/08/05(日) 00:35:56.73 ID:ZUbA9W0lP
その夜あなたは夢を見た。
あの部室に、ごらく部の四人がいる。
結衣は中学の制服を着ている。
あなたの手足は自由に動き、また昔のように走り回る。
久しぶりの「いつも通り」がそこにあった。

あなたが見た、最後の夢。

96: 2012/08/05(日) 00:39:55.05 ID:ZUbA9W0lP
「何が、私は大丈夫だよ……、バカ…。」

少女の目から涙がこぼれた。

「出来ることって……これなのか……?」

「私はどうすればいいんだよ……京子…!」

100: 2012/08/05(日) 00:43:36.60 ID:ZUbA9W0lP
廊下を走る二つの足音がしだいに近付き、勢いよく扉が開く。

「京子ちゃんは!?」

あかりは肩で息をしながら問う。
目に映るのは椅子に座り俯く結衣と、ベッドに横たわるあなた。

「ねえ、結衣ちゃん…。京子ちゃん、どうなったの…。」

結衣が重い口を開く。

「まだ、氏んではいない。たぶん。」

「たぶんって…、たぶんってどういうことですか!?」

「氏んだわけじゃない…、けど。」

「京子が目を覚ますことは…、もうない。」

101: 2012/08/05(日) 00:45:20.47 ID:ZUbA9W0lP
「そんな…。嘘、だよね…?」

「や、やだなぁ…、結衣先輩。エイプリルフールはもう終わってますよ。」

ちなつは無理やり笑顔をつくる。

「ねぇ…、起きてよ、京子ちゃん。あかりだよ?ねえ、京子ちゃん!」

あかりはあなたの手を握り、泣きながら、あなたの名を呼び続ける。

「京子先輩、こんな冗談笑えないですよ…?あかりちゃんも
泣いちゃったじゃないですか。」

「そ、そうだ!特別に京子先輩の大好きなミラクるんのモノマネしますから…、ちゃんと見てくださいよ。」

ちなつの笑顔が消えていく。
声は震え、目には涙をためている。

「ま、魔女っ娘ミラクるんっ、華麗に…さん…じょ….。」

ちなつはその場に泣き崩れ、あかり同様あなたの名前をひたすらに呼ぶ。
結衣はただうなだれる。
誰もが信じたくはなかった。
あなたの声をもう聞けないということを。
あなたの笑顔を二度と見られないということを。

102: 2012/08/05(日) 00:50:55.72 ID:ZUbA9W0lP
どれだけの時間泣いていただろう。
ちなつがゆっくりと顔を上げ、鼻を啜りながら尋ねる。

「京子先輩は…これからどうなるんですか?」

少しの間を置いて、結衣が答える。

「これがあった…。」

ポケットからあなたの意思を取り出し、二人にみせる。

「これって…。」

「京子先輩のモノ…、なんですか…?」

黄色のカード。
中心には天使。

「ドナーカード…?」

あかりは震える手でそれを受け取り、裏返す。
1にひどく不恰好な丸がついていた。

104: 2012/08/05(日) 00:57:05.50 ID:ZUbA9W0lP
「結衣ちゃん…、どういう…。」

「京子は…氏んだわけじゃない。」

「それじゃあ…!」

「ただ…、京子の脳はもう元には戻らない。」

「それに…、ドナーカードがある。」

「の、脳氏…っていうことですか?」

「ちょっと待って…。」

結衣はサイドテーブルの上の封筒から1枚の紙を取り出す。
紙には赤や黄色のペンでいつくも線が引かれていた。

「結衣ちゃん?」

「正確には『まだ』脳氏じゃない。だけど臓器提供が決まれば脳氏判定が行われて、法的に脳氏になる。」

結衣は文章を読み上げるように抑揚なく話す。
その目はまるでぽっかりとあいた穴のようだった。

106: 2012/08/05(日) 01:02:45.47 ID:ZUbA9W0lP
「そしたらそのあとは…。」

「わかんないよ!!」

あかりがベッドに顔をうずめたまま、叫ぶ。

「そんな難しいこと、あかりわからないよ…。」

「あかりちゃん…。」

「でもドナーなんてしたら京子ちゃんがまた元気になった時に困っちゃうよ。」

「あかり、京子はもう…。」

「どうして京子ちゃんなの?なんにも悪いことしてないのに…。」

「少し前まで元気だったのに…。あんなにリハビリも頑張ってて…。」

107: 2012/08/05(日) 01:06:09.33 ID:ZUbA9W0lP
「あかり、京子の身体の一部は病気で困ってるひとのところにいって、そこで…。」

「嫌だよ!京子ちゃんまだ生きてるもん!」

あかりは胸の前で手を組む。

「お願い神様…京子ちゃんを元気にして。」

「やめなよ、あかり。そんなことしても…。」

「信じさせてよ…。」

あかりの手に力が入る。

「神様ぐらい信じさせて!」

109: 2012/08/05(日) 01:11:24.23 ID:ZUbA9W0lP
少女の悲痛な叫びが病室に響く。
その叫びは堪えたはずの涙を、心の底に押し込めたはずの悲しみを呼び起こす。

「もう京子はこのまま氏ぬのを待つだけなんだ…。」

「結衣先輩…!?」

「機械を外せば心臓は止まる…。奇跡なんて起きない…。」

「やだ…嫌だよ…。」

「神様なんていないんだよ!」

「結衣先輩っ!」

パンッっという音が病室こだまする。
一瞬の静寂。
ちなつはあっと小さく声をもらし、余韻の残る右手を見る。

「わ…わたし…。」

ピリピリとした感覚を握りしめ、ちなつはその場から逃げ出した。

112: 2012/08/05(日) 01:17:45.65 ID:ZUbA9W0lP
結衣は力なく座り込む。
あかりは祈る手を崩そうとはしない。
この運命を背負うには、彼女達は若すぎた。
四人はバラバラになり、ごらく部は終わる。
大切な人を失う悲しみを、あなたは知らないままだった。

二度と開くことのないあなたの瞳から、涙がこぼれる。
それに気付いたものはいない。

大切な人を置いていく悲しみを、あなたは知っていた。

113: 2012/08/05(日) 01:21:27.93 ID:ZUbA9W0lP
三人が車から降りた。
結衣は少しの離れたところでタバコに火をつける。

「お家の人いるかな?」

「え?連絡してないの?」

「う、うん。」

「まあ、いるでしょ。」

ちなつがチャイムを押す。
はーい、という返事のあとドアが開き、あなたの母親が顔をだす。

「あら。今日は…。」

あかりとちなつを確認したあと、チラと道路にいる結衣をみる。

「三人で来てくれたのね。よかった。」

115: 2012/08/05(日) 01:26:56.27 ID:ZUbA9W0lP
「私たち京子ちゃんに…。」

「ありがとうね。どうぞ、あがって。」

二人がお邪魔しますと家に入った後も扉は開いたままだった。
それを見て結衣は小走りで玄関に向かう。

「すみません。」

「いいのよ。久しぶりね、結衣ちゃん。」

「はい…。」

117: 2012/08/05(日) 01:32:36.13 ID:ZUbA9W0lP
二人が線香をあげ、手を合わせる。
暫く目を閉じた後、もう一人の為に二人は横にずれた。

「結衣ちゃん。」

「うん。」

結衣は写真をみつめ、小さく京子とつぶやいた。
手を合わせ、目を閉じる。
潤んだ瞳の奥には、あの頃と変わらないあなたの笑顔。
あなたはいつも笑っている。

「何が…、正しかったのかな。」

目を閉じたまま、自問するように結衣が言った。

「京子のために、私たちはどうすればよかったのかな。」

「そんなこと…、わかりませんよ…。」

「あかりも…。」

あの時から、答えは出ていない。

119: 2012/08/05(日) 01:37:35.41 ID:ZUbA9W0lP
「ごめんなさいね。碌なもの出せなくて。」

「い、いえ、おかまいなく。」

「それにしても、三人揃って来てくれて嬉しいわ。」

「やっとこれが渡せるもの。」

そう言って引き出しから4枚の封筒を取り出し、そのうちの三枚を一人ずつにわたす。
もう一枚は三人の中心に。

「これは…?」

ちなつが封筒をじっくりと見つめながら尋ねた。

「あの子があなた達に宛てた手紙よ。」

「15歳の誕生日、ドナーカードと一緒に書いてたわ。」

結衣はハッとする。

「あの時の、忘れ物…?」

「え?結衣ちゃんどうしたの?」

121: 2012/08/05(日) 01:41:53.60 ID:ZUbA9W0lP
結衣はその問いには答えず、丁寧に封筒を開き始め、二人もそれに続いた。
中には一枚の便箋。
魔女っ娘ミラクるんが隅にプリントされている。

「これ…。」

「京子ちゃん…。」

それぞれの名前と「だいすき」の文字。
紙いっぱいに、震える不安定な筆跡で。
それに込められた、あなたの思い。

「京子先輩…、京子先輩…!」

「ぅう…。うわあああ!」

堪えきれず泣き出す二人の後輩。
結衣はもう一枚の封筒を震える手で、ゆっくりと開く。

123: 2012/08/05(日) 01:49:00.23 ID:ZUbA9W0lP
「あの、バカ…。」

手紙の文字が滲んだ。

『みんなずっといっしょだよ』

124: 2012/08/05(日) 01:50:44.24 ID:ZUbA9W0lP
三人の女性が墓前に立つ。

「ごめんな、京子。」

「寂しかったですよね。」

「でも、これからはあかり達とずっと一緒だからね!」

四人が揃う。
また部活が始まる。

「そうだ…。」

結衣がポケットから煙草を取り出し火をつける。

「ちょっと結衣先輩、こんな時まで吸わなくても…。」

ふふっ、と結衣は軽く笑い、線香の隣に煙草を立てた。
その横に半分ほど残った箱を置く。

126: 2012/08/05(日) 01:54:26.58 ID:ZUbA9W0lP
「京子ちゃん煙草吸わないよ?」

「京子ラムレーズン好きだったろ。かわりだよ。」

二人の後輩は顔を見合わせる。

「どういうことですか?結衣先輩。」

んーっと伸びをして結衣は元気に笑う。

「じゃあ行こうか。」

「ねえ、結衣ちゃん~!」

三人は歩き始める。
もう「ひとり」にはならない。
これからはいつもあなたがいて、いつも四人。
あなたは他人の身体の中で生きているわけではなかった。
彼女たちの、残された人達の心の中で生きていたから。

128: 2012/08/05(日) 01:57:06.29 ID:ZUbA9W0lP
「え!?結衣先輩、そんな理由であの煙草吸ってたんですか!?」

「う、うん…。」

「なんて言うか…、結衣先輩ってやっぱりさみしがりやですね…。」

「い、いいだろ!そんなこと!」

「結衣ちゃん顔真っ赤~!」

あなたに会えて、幸せだった。
そしてあなたを愛した。
ありがとう。

だからこの物語はあなたに。
感謝しなさいよね、歳納京子。

129: 2012/08/05(日) 01:58:04.93 ID:ZUbA9W0lP
おわり
お前ら手厳しいな

引用: あかり「神様ぐらい信じさせて!」