1: 2013/08/31(土) NY:AN:NY.ANID:XT5TBPk40
っていう妄想してたんだ
6: 2013/08/31(土) NY:AN:NY.ANID:XT5TBPk40
家に帰ったら床から女の子が生えてた。
首、首から上だけ。
首から上だけだよ? 信じられるか?
俺は信じられんくてまず自分の頬を叩いたさ。
それでも幻覚が消えないからしゃーなし拳で殴ったさ。
口ん中が切れて血の味がしても女の子はまだいて……目が合った。
さらっさらの黒髪。
青白い肌。
冷たい目。
魂持ってかれるんじゃないかってぐらいに惹かれてしまって。
不意に胸がどきっと苦しくなったんだよな。
……ホントに気が狂ったんかもしれない。
首、首から上だけ。
首から上だけだよ? 信じられるか?
俺は信じられんくてまず自分の頬を叩いたさ。
それでも幻覚が消えないからしゃーなし拳で殴ったさ。
口ん中が切れて血の味がしても女の子はまだいて……目が合った。
さらっさらの黒髪。
青白い肌。
冷たい目。
魂持ってかれるんじゃないかってぐらいに惹かれてしまって。
不意に胸がどきっと苦しくなったんだよな。
……ホントに気が狂ったんかもしれない。
12: 2013/08/31(土) NY:AN:NY.ANID:XT5TBPk40
シュールだよな、家に帰ったら床から生首だぜ?
因みに生首は床に動脈みたいな根を張ってる。
根は女の子の周囲でどくどくと脈打っていた。
俺の家は八畳一間のワンルームだ。
寝る場所も過ごす場所もずっとそこだから、まあずっとその子と一緒なんだよな、照れ臭い。
だからってわけじゃないけど俺はコミュニケーションを取ることにした。
好奇心も興味も深々だったから躊躇はなかったな。
「ハロー?」
まずは世界共通言語だろ? でもこれは失敗だったね。
なんせ女の子は明らかに日本人だったし。
無表情で無反応で冷たい目。ぞっと震えるもんがある。
「こんにちわ。こーんーにーちーわ」
あまりにもリアクションがないから口を大きく動かしてみた。
だからっていきなり女の子の舌が伸びて俺とでぃーぷちゅーなんて展開はないってか無反応。
でも目はたまに動くんだよな。
右に、左に、ってさ。
因みに生首は床に動脈みたいな根を張ってる。
根は女の子の周囲でどくどくと脈打っていた。
俺の家は八畳一間のワンルームだ。
寝る場所も過ごす場所もずっとそこだから、まあずっとその子と一緒なんだよな、照れ臭い。
だからってわけじゃないけど俺はコミュニケーションを取ることにした。
好奇心も興味も深々だったから躊躇はなかったな。
「ハロー?」
まずは世界共通言語だろ? でもこれは失敗だったね。
なんせ女の子は明らかに日本人だったし。
無表情で無反応で冷たい目。ぞっと震えるもんがある。
「こんにちわ。こーんーにーちーわ」
あまりにもリアクションがないから口を大きく動かしてみた。
だからっていきなり女の子の舌が伸びて俺とでぃーぷちゅーなんて展開はないってか無反応。
でも目はたまに動くんだよな。
右に、左に、ってさ。
13: 2013/08/31(土) NY:AN:NY.ANID:XT5TBPk40
喋らないけどたまに眼球が動く女の子、困ったもんだよ。
なにがお困りごとですかって女の子の位置がいけない。
八畳一間のワンルーム、やや長方形を思い浮かべて欲しい。
玄関から入ってちっさいキッチン付き廊下を横切って、ドアを開ければパソコンを置いた勉強机がある。
反対側の壁に沿って布団が敷いてあって、部屋の中心には本日生えてきた女の子っ!
どうよ、邪魔だろ?
このまま女の子にこの位置にいられたらアレができない。
そう、アレだよアレ。
布団で横になってパソコンの工口ムービー見ながらハッピータイムを過ごせないのさ。
氏活問題だろ?
俺が陰部をこねくり回してるのを冷たい目で女の子に凝視されてみ?
それはそれでいいかもしれないけど俺にだって羞恥心はある。
かといって布を被せたところでだ、俺と魅惑の映像の間には女の子だ。
その事実は拭えないから意識の横で生首がずっとちらつくわけだよ。
落ち着いて乳酸菌を発射できなくね?
ってなわけで俺は女の子を引っこ抜くことにした。
なにがお困りごとですかって女の子の位置がいけない。
八畳一間のワンルーム、やや長方形を思い浮かべて欲しい。
玄関から入ってちっさいキッチン付き廊下を横切って、ドアを開ければパソコンを置いた勉強机がある。
反対側の壁に沿って布団が敷いてあって、部屋の中心には本日生えてきた女の子っ!
どうよ、邪魔だろ?
このまま女の子にこの位置にいられたらアレができない。
そう、アレだよアレ。
布団で横になってパソコンの工口ムービー見ながらハッピータイムを過ごせないのさ。
氏活問題だろ?
俺が陰部をこねくり回してるのを冷たい目で女の子に凝視されてみ?
それはそれでいいかもしれないけど俺にだって羞恥心はある。
かといって布を被せたところでだ、俺と魅惑の映像の間には女の子だ。
その事実は拭えないから意識の横で生首がずっとちらつくわけだよ。
落ち着いて乳酸菌を発射できなくね?
ってなわけで俺は女の子を引っこ抜くことにした。
15: 2013/08/31(土) NY:AN:NY.ANID:XT5TBPk40
「失礼しまーすよー」
了解は得てないけど女の子の顎と後頭部を掴んだ俺はゆっくりと女の子を持ち上げる。
頭だけを持った経験はないけど予想外に重かった。
けれど軽く三十センチは持ち上げられてしまった。
床に張ってる動脈の根どうなってんのって見たら床がみょーんって伸びていた。
ふう、落ち着け。落ち着け俺。
しかし何度見直してもみょーんと伸びた床。
まるで床そのものが肌になっているかのような伸び方に、俺はギネス保持者の首の皮がよく伸びる人を思い出した。
だからといって諦めるわけにはいかない。
俺の快適生活はそんじょそこらで見知らぬ女の子に譲れないのだから。
「せーのっ」
勢いよく持ち上げると足元でとてつもなく不快な、ビニールが破れる音が聞こえた。
恐る恐る視線を傾けると破れた床から溢れる血。
遠のいていくライフに膝から崩れ落ちると耳元で鼻をすする音が聞こえた。
「泣くな……」自然に鼻をすする者を慰めようとしてしまったが、女の子がなんに対しても無反応だったことを思い出し、俺は血の気が引く。
慌てて女の子の真正面に戻り正座すると、想像通り女の子は泣いてしまっていた。
冷たい目が潤み、すんすんと鼻をすする女の子。
決して涙を流さないように顎を上げて、眉間に皺を寄せて堪えている。
俺は自分の残酷な行いに思わず土下座したよ。
「ごめん!」
了解は得てないけど女の子の顎と後頭部を掴んだ俺はゆっくりと女の子を持ち上げる。
頭だけを持った経験はないけど予想外に重かった。
けれど軽く三十センチは持ち上げられてしまった。
床に張ってる動脈の根どうなってんのって見たら床がみょーんって伸びていた。
ふう、落ち着け。落ち着け俺。
しかし何度見直してもみょーんと伸びた床。
まるで床そのものが肌になっているかのような伸び方に、俺はギネス保持者の首の皮がよく伸びる人を思い出した。
だからといって諦めるわけにはいかない。
俺の快適生活はそんじょそこらで見知らぬ女の子に譲れないのだから。
「せーのっ」
勢いよく持ち上げると足元でとてつもなく不快な、ビニールが破れる音が聞こえた。
恐る恐る視線を傾けると破れた床から溢れる血。
遠のいていくライフに膝から崩れ落ちると耳元で鼻をすする音が聞こえた。
「泣くな……」自然に鼻をすする者を慰めようとしてしまったが、女の子がなんに対しても無反応だったことを思い出し、俺は血の気が引く。
慌てて女の子の真正面に戻り正座すると、想像通り女の子は泣いてしまっていた。
冷たい目が潤み、すんすんと鼻をすする女の子。
決して涙を流さないように顎を上げて、眉間に皺を寄せて堪えている。
俺は自分の残酷な行いに思わず土下座したよ。
「ごめん!」
18: 2013/08/31(土) NY:AN:NY.ANID:XT5TBPk40
最低だよな。なにせ俺は自分のオXXーライフのことしか考えてなかったんだ。
床が全部肌みたいにひっついてるって言うならさ、思い切り持ち上げたらどうなるかと考えてあげるべきだった。
「ごめん! 本当にごめん!」
頭を振って再度土下座。だけど考えてみればこの行いだって馬鹿の所業。
なんせ土下座しても女の子の痛みが引くわけじゃない。
「ああえっと絆創膏! ちょっと待ってて!」
慌てて机に駆け寄って、ドラえもんばりに混乱しながらあれでもないこれでもないと引き出しを探って絆創膏を取りだした。
幸い肌なのか床なのか今となっては訳のわからん破れは酷くなくて、絆創膏で覆うことができた。
それで女の子の痛みが止んだわけじゃないだろうけど、鼻をすする音は幾許かマシになった。
俺は彼女の真正面に戻って、布団の上で、三度目の謝罪をした。
自分のことしか考えていなくてごめんなさい――そんな情けないことは口にしなかったけどさ。
「本当にごめん……俺が悪かった」
深く頭を下げて、上げると。
女の子は潤んだ瞳で俺を見詰めて、小さく頷いた。
その拍子に零れおちた雫がやけに印象的で、俺はまた女の子に惹かれていた。
床から首だけ生えた女の子に、二度も惹かれてしまったんだよ。
床が全部肌みたいにひっついてるって言うならさ、思い切り持ち上げたらどうなるかと考えてあげるべきだった。
「ごめん! 本当にごめん!」
頭を振って再度土下座。だけど考えてみればこの行いだって馬鹿の所業。
なんせ土下座しても女の子の痛みが引くわけじゃない。
「ああえっと絆創膏! ちょっと待ってて!」
慌てて机に駆け寄って、ドラえもんばりに混乱しながらあれでもないこれでもないと引き出しを探って絆創膏を取りだした。
幸い肌なのか床なのか今となっては訳のわからん破れは酷くなくて、絆創膏で覆うことができた。
それで女の子の痛みが止んだわけじゃないだろうけど、鼻をすする音は幾許かマシになった。
俺は彼女の真正面に戻って、布団の上で、三度目の謝罪をした。
自分のことしか考えていなくてごめんなさい――そんな情けないことは口にしなかったけどさ。
「本当にごめん……俺が悪かった」
深く頭を下げて、上げると。
女の子は潤んだ瞳で俺を見詰めて、小さく頷いた。
その拍子に零れおちた雫がやけに印象的で、俺はまた女の子に惹かれていた。
床から首だけ生えた女の子に、二度も惹かれてしまったんだよ。
19: 2013/08/31(土) NY:AN:NY.ANID:XT5TBPk40
綺麗なハンカチで女の子の涙を拭ってやった。
もう初対面のような顔で、無表情で無反応に逆戻りだ。
そして冷たい目で俺を見てくる、けど……少しだけ温かみを帯びたかな。気のせいだろうか。
傷つけてしまった手前、どうにも女の子から目が離せない。
それだけの理由じゃないかもしれんが、それはさておき。
やけに気まずい空気が流れていた。
「なんか食べるか?」
聞くがやはり反応はない。
眼球はぎょろっと動くがそれだけだ。
女の子とコミュニケーションを取るのは不可能なんだろうか。
俺童Oだしな。
腹が減ってたのは事実なので適当に自炊することにした。
といっても男の料理なんてたかが知れている。
油、にんにく、鶏肉、もやし、塩コショウ、醤油、完成!
これぞどんな材料でも同じ味になる男の料理一号だ。
いつもは勉強机でオカズを探しながら食べるんだが、今日は女の子の前にダンボールで簡易机を作って食べることにした。
もう初対面のような顔で、無表情で無反応に逆戻りだ。
そして冷たい目で俺を見てくる、けど……少しだけ温かみを帯びたかな。気のせいだろうか。
傷つけてしまった手前、どうにも女の子から目が離せない。
それだけの理由じゃないかもしれんが、それはさておき。
やけに気まずい空気が流れていた。
「なんか食べるか?」
聞くがやはり反応はない。
眼球はぎょろっと動くがそれだけだ。
女の子とコミュニケーションを取るのは不可能なんだろうか。
俺童Oだしな。
腹が減ってたのは事実なので適当に自炊することにした。
といっても男の料理なんてたかが知れている。
油、にんにく、鶏肉、もやし、塩コショウ、醤油、完成!
これぞどんな材料でも同じ味になる男の料理一号だ。
いつもは勉強机でオカズを探しながら食べるんだが、今日は女の子の前にダンボールで簡易机を作って食べることにした。
20: 2013/08/31(土) NY:AN:NY.ANID:XT5TBPk40
女の子は俺が作った料理にも冷たい視線を送っていた。
まあ女の子が食うには見た目も悪いしな。
ってか生首って飯食うのかな。ググっても出ないだろうな。
レンジでチンしたご飯くんを茶碗に盛りつけていただきます。
もやし鶏肉炒めを食べると日々変わらない味が口いっぱいに広がって、まあ別に美味いも不味いもない、ってか飽きた。
でもお腹が空いているので食べる、食べている、と……。
じゅるっ。
おや? なにか可愛らしい音が聞こえたぞ?
女の子を見るが変わらず冷たい視線だ。
寧ろ冷たさは凍てつきさえするほど鋭くなっていた。
気のせいだろうか。
お構いなしに食事を再開して暫くすると、またもやじゅるっ。
今度は視界の隅でこっそりと女の子を監視していた。
無表情だけど反応有りだ。
「食べたいなら食べたいって言えばいいのに」
女の子は素知らぬ顔だ。
……え、これって俺が食べさせなきゃいけないの?
まあ女の子が食うには見た目も悪いしな。
ってか生首って飯食うのかな。ググっても出ないだろうな。
レンジでチンしたご飯くんを茶碗に盛りつけていただきます。
もやし鶏肉炒めを食べると日々変わらない味が口いっぱいに広がって、まあ別に美味いも不味いもない、ってか飽きた。
でもお腹が空いているので食べる、食べている、と……。
じゅるっ。
おや? なにか可愛らしい音が聞こえたぞ?
女の子を見るが変わらず冷たい視線だ。
寧ろ冷たさは凍てつきさえするほど鋭くなっていた。
気のせいだろうか。
お構いなしに食事を再開して暫くすると、またもやじゅるっ。
今度は視界の隅でこっそりと女の子を監視していた。
無表情だけど反応有りだ。
「食べたいなら食べたいって言えばいいのに」
女の子は素知らぬ顔だ。
……え、これって俺が食べさせなきゃいけないの?
21: 2013/08/31(土) NY:AN:NY.ANID:XT5TBPk40
はい、あーん。
やーん、おいちぃ~。
男女憧れのエピソードじゃないか。
「はい、あーん」
なぜ俺は生首にあーんしてるんだろう。
折角のシチュだというのにこれでは喜びも半減だ。
俺の言葉に呼応して女の子は。
"視線を逸らして"小さく口を開けた。
……ん?
箸を持っていき口内に入れると、小さな口がしっとりと閉じる。
そこから箸を静かに引き抜いた時、俺の正中線目掛けて雷が落ちた。
「は、はい、あーん」
またも女の子は"視線を逸らして"口を開く。
箸を小さな口へ入れる、閉じる。
箸を引く、唇も微かに引かれる。
……やばい、なにこれ可愛い。
やーん、おいちぃ~。
男女憧れのエピソードじゃないか。
「はい、あーん」
なぜ俺は生首にあーんしてるんだろう。
折角のシチュだというのにこれでは喜びも半減だ。
俺の言葉に呼応して女の子は。
"視線を逸らして"小さく口を開けた。
……ん?
箸を持っていき口内に入れると、小さな口がしっとりと閉じる。
そこから箸を静かに引き抜いた時、俺の正中線目掛けて雷が落ちた。
「は、はい、あーん」
またも女の子は"視線を逸らして"口を開く。
箸を小さな口へ入れる、閉じる。
箸を引く、唇も微かに引かれる。
……やばい、なにこれ可愛い。
22: 2013/08/31(土) NY:AN:NY.ANID:XT5TBPk40
「ごちそうさまでした」
ご飯を全然食べてないのに満腹です、マジで。
まさか女の子にあーんするのがあんなに素晴らしいなんて、神様だって知らないだろうよ。
「さて……風呂入ってくるか」
女の子の風呂をどうすればいいのかは謎だ。
なにせ生首だし。
床から生えているし。
顔と首を拭くだけなら可能だが髪を洗うのは、流石に室内じゃ嫌だな。
どうしたものかな。
考えながらも脱衣所で衣類を脱いで浴室へ。
シャワーでざっと汗を流しているとぼうっと頭が冴えてくる。
その割になにも浮かんでこなくて、とりあえずさっぱりしようと屈んだ。
するとすりガラスのドア越しの足元に、なんか見覚えのある凸の影。
まだ出会ったばかりなのに強烈なインパクト馴染み深い影だ。
「って移動できるんの!?」
勢いよくドアを開け放った。
俺はてっきり、床をスライドするように移動したものだとばかり思っていた。
「……触手」
なんかうねうねと首の下から生えていた。
そして女の子は触手で自分の目を隠した。
いや、可愛げが微塵も感じられないです。
ご飯を全然食べてないのに満腹です、マジで。
まさか女の子にあーんするのがあんなに素晴らしいなんて、神様だって知らないだろうよ。
「さて……風呂入ってくるか」
女の子の風呂をどうすればいいのかは謎だ。
なにせ生首だし。
床から生えているし。
顔と首を拭くだけなら可能だが髪を洗うのは、流石に室内じゃ嫌だな。
どうしたものかな。
考えながらも脱衣所で衣類を脱いで浴室へ。
シャワーでざっと汗を流しているとぼうっと頭が冴えてくる。
その割になにも浮かんでこなくて、とりあえずさっぱりしようと屈んだ。
するとすりガラスのドア越しの足元に、なんか見覚えのある凸の影。
まだ出会ったばかりなのに強烈なインパクト馴染み深い影だ。
「って移動できるんの!?」
勢いよくドアを開け放った。
俺はてっきり、床をスライドするように移動したものだとばかり思っていた。
「……触手」
なんかうねうねと首の下から生えていた。
そして女の子は触手で自分の目を隠した。
いや、可愛げが微塵も感じられないです。
32: 2013/08/31(土) NY:AN:NY.ANID:XT5TBPk40
「動けるなら最初から動いてくれよ」
腰にタオルを巻いた俺は、なぜか触手移動する女の子の髪を洗っていた。
女の子には可哀想だが男用のシャンプーしかない。
でもまあそれなりに心地よいらしく、後頭部の機嫌は良い気がした。
「そしたら肌も……いや肌ってか床? ああもうわかんねえ」
女の子の髪はさらさらで、水に通しても尚綺麗だった。
逆に水に滴って艶やかさが増したと言うべきか。
「流すぞー」
シャワーで丁寧に泡を流し落としていく。
女の子を風呂で洗っているはずなのにピクリともしないマイサンにサムズアップ。
これで勃起してたら俺狂人やで。
女の子を洗い、先に外へ出して髪を拭いてやる。
「そんじゃ俺まだ途中だから」
ドアを閉めようとしたら隙間ににゅっと触手が伸びてきて抑えられた。
なにこれエイリアン……どうやらなにかがお気に召さないらしい。
女の子のシャワーを思い浮かべる、といっても童Oの妄想に過ぎないが、工口動画のお陰でその知識は豊富だ。
不必要なお風呂後自家発電等の要素を取り払い、なるほどっと手を叩く。
そういえばドライヤーするんだっけ、女の子って。
「わかった、すぐ俺も出るよ」
腰にタオルを巻いた俺は、なぜか触手移動する女の子の髪を洗っていた。
女の子には可哀想だが男用のシャンプーしかない。
でもまあそれなりに心地よいらしく、後頭部の機嫌は良い気がした。
「そしたら肌も……いや肌ってか床? ああもうわかんねえ」
女の子の髪はさらさらで、水に通しても尚綺麗だった。
逆に水に滴って艶やかさが増したと言うべきか。
「流すぞー」
シャワーで丁寧に泡を流し落としていく。
女の子を風呂で洗っているはずなのにピクリともしないマイサンにサムズアップ。
これで勃起してたら俺狂人やで。
女の子を洗い、先に外へ出して髪を拭いてやる。
「そんじゃ俺まだ途中だから」
ドアを閉めようとしたら隙間ににゅっと触手が伸びてきて抑えられた。
なにこれエイリアン……どうやらなにかがお気に召さないらしい。
女の子のシャワーを思い浮かべる、といっても童Oの妄想に過ぎないが、工口動画のお陰でその知識は豊富だ。
不必要なお風呂後自家発電等の要素を取り払い、なるほどっと手を叩く。
そういえばドライヤーするんだっけ、女の子って。
「わかった、すぐ俺も出るよ」
33: 2013/08/31(土) NY:AN:NY.ANID:XT5TBPk40
戻ると女の子は部屋の中心に根を張っていた。
その位置に来られると俺のベストポジションが失われたままだったが、しかし今更女の子のいる部屋でオナンに手は差し伸べられない。
あまり使うことのないドライヤーを引っ張りだして美容師っぽく髪を乾かしていく。
美容師っぽくしてるだけなので終わった後の彼女の髪は妙だった。
ふわっふわがあらぬ方向へ跳ねている。
「悪いがこんなんやったことなくてな」
言い訳無用と言わんばかりの冷たい視線。
わがままだとは言わないが、彼女はどうやらマゾではないらしい。
「じゃあもう寝るぞ。明日は昼から仕事だし」
女の子が答えることはなかった。
結局数時間付き合って微塵も距離が縮まらなかったな。
この生首は明日もいるのか?
その位置に来られると俺のベストポジションが失われたままだったが、しかし今更女の子のいる部屋でオナンに手は差し伸べられない。
あまり使うことのないドライヤーを引っ張りだして美容師っぽく髪を乾かしていく。
美容師っぽくしてるだけなので終わった後の彼女の髪は妙だった。
ふわっふわがあらぬ方向へ跳ねている。
「悪いがこんなんやったことなくてな」
言い訳無用と言わんばかりの冷たい視線。
わがままだとは言わないが、彼女はどうやらマゾではないらしい。
「じゃあもう寝るぞ。明日は昼から仕事だし」
女の子が答えることはなかった。
結局数時間付き合って微塵も距離が縮まらなかったな。
この生首は明日もいるのか?
34: 2013/08/31(土) NY:AN:NY.ANID:XT5TBPk40
ふと目覚めると女の子がこちらを伺っていた。
やけに冷たい視線だけど俺はなにかしただろうか?
考えてみるけど記憶にない。
それよりもこの女の子は誰だろう……。
そこで寝ぼけた頭が冴えてきた。
なにせ女の子には生首しかないからね。
さて、女の子は変わらずそこにいた。
やけに冷たい視線だけど俺はなにかしただろうか?
考えてみるけど記憶にない。
それよりもこの女の子は誰だろう……。
そこで寝ぼけた頭が冴えてきた。
なにせ女の子には生首しかないからね。
さて、女の子は変わらずそこにいた。
35: 2013/08/31(土) NY:AN:NY.ANID:XT5TBPk40
昨日生首見ちゃってさ。
俺の言葉にバイト仲間の彼女は首を傾げた。
「スプラッタ?」
「いやリアルで」
「リアルなってこと?」
「生首だよ。リアルリアルネック」
「翻訳力が低いことは伝わったけど」
どうにも彼女に通じない。
いや仕方ないか。
誰が生首を見たと言って信じるんだろう。
俺がおかしい。
なにかがおかしい。
でもそれがなにかわからない。
俺の言葉にバイト仲間の彼女は首を傾げた。
「スプラッタ?」
「いやリアルで」
「リアルなってこと?」
「生首だよ。リアルリアルネック」
「翻訳力が低いことは伝わったけど」
どうにも彼女に通じない。
いや仕方ないか。
誰が生首を見たと言って信じるんだろう。
俺がおかしい。
なにかがおかしい。
でもそれがなにかわからない。
36: 2013/08/31(土) NY:AN:NY.ANID:XT5TBPk40
「そんなおかしな妄想してるから彼女ができないんだよ」
「否定できんけど」
「否定してくれよ。おかしな妄想してるバイト仲間なんて恐いよ」
「いやでも仮にさ、いたらどうする?」
「生首?」
頷く。
「叫ぶ、逃げる、通報する」
「ですよねー」
「仮に生首がいたらどうするの?」
「……愛でた」
「君とバイトのシフト被らないようにしてもらおう」
「待って待って待って」
「待ちたくない。変Oを許せても狂人は恐い」
「俺の目を見てよ、これが狂人に見える?」
「濁ってる」
「そうですか」
これは俺と彼女の日常だ。
「否定できんけど」
「否定してくれよ。おかしな妄想してるバイト仲間なんて恐いよ」
「いやでも仮にさ、いたらどうする?」
「生首?」
頷く。
「叫ぶ、逃げる、通報する」
「ですよねー」
「仮に生首がいたらどうするの?」
「……愛でた」
「君とバイトのシフト被らないようにしてもらおう」
「待って待って待って」
「待ちたくない。変Oを許せても狂人は恐い」
「俺の目を見てよ、これが狂人に見える?」
「濁ってる」
「そうですか」
これは俺と彼女の日常だ。
37: 2013/08/31(土) NY:AN:NY.ANID:XT5TBPk40
バイトを続けてそのままフリーターになってしまった系就職浪人。
お決まりのテンプレだけど置いといて、俺がここまで仲がいいのも彼女だけだった。
彼女はバイト先の先輩で、俺の一つ歳上の女性だ。
入った時に教育担当になってくれて、それからの縁。
こうして彼女に遊ばれている俺。
もちろん、このポジションを美味しく思っています。
彼女が俺を異性として見ていないことは接していればわかってしまう。
童O故のセンサーがビンビンと、彼女お前のこと弟と思ってるぜーと教えてくれる。
だからか、俺も彼女に対しては気楽であれた。
叶わぬ恋心を抱かないなら、緊張はほぐれるというものだ。
付き合いも長いしね。
「でもさ、本当なんだよね、生首。家にあるんだ」
その長い付き合いを壊したいわけじゃない。
俺はなぜこの時にこんなことを言ってしまったのだろう。
お決まりのテンプレだけど置いといて、俺がここまで仲がいいのも彼女だけだった。
彼女はバイト先の先輩で、俺の一つ歳上の女性だ。
入った時に教育担当になってくれて、それからの縁。
こうして彼女に遊ばれている俺。
もちろん、このポジションを美味しく思っています。
彼女が俺を異性として見ていないことは接していればわかってしまう。
童O故のセンサーがビンビンと、彼女お前のこと弟と思ってるぜーと教えてくれる。
だからか、俺も彼女に対しては気楽であれた。
叶わぬ恋心を抱かないなら、緊張はほぐれるというものだ。
付き合いも長いしね。
「でもさ、本当なんだよね、生首。家にあるんだ」
その長い付き合いを壊したいわけじゃない。
俺はなぜこの時にこんなことを言ってしまったのだろう。
39: 2013/08/31(土) NY:AN:NY.ANID:XT5TBPk40
「君、冗談で言っているならドン引きだよ?」
「本当なんだ」
「……はあ。疲れてるなら休みを」
彼女がちらりと俺を見る。
まっすぐに俺は見つめた。
嘘じゃない、と気持ちを込めた。
「おーけい、わかったよ。君の家に行こう」
「……なぜ?」
「こちらの台詞だよ。どうして君の家に生首があるのかは知らない。だけど」
確かめてあげるよ、そう言って。
彼女が俺の家に来ることになってしまった。
「本当なんだ」
「……はあ。疲れてるなら休みを」
彼女がちらりと俺を見る。
まっすぐに俺は見つめた。
嘘じゃない、と気持ちを込めた。
「おーけい、わかったよ。君の家に行こう」
「……なぜ?」
「こちらの台詞だよ。どうして君の家に生首があるのかは知らない。だけど」
確かめてあげるよ、そう言って。
彼女が俺の家に来ることになってしまった。
42: 2013/08/31(土) NY:AN:NY.ANID:XT5TBPk40
嘘だ、と彼女は言った。
続けて嘘だ、と俺も言った。
「床から女の子が、え、これ、生えてるの?」
「そう。生えてて、そんで」
女の子は成長していた。
首から上しか、生首しかなかった女の子は、
鎖骨の辺りまで成長していた。
「どうなってるの?」
彼女が女の子をぐるっと見回る。
そんな彼女を冷たい視線でぐるっと追う。
「わからない。けど本当だったろ?」
「妄想だと思ってた」
「俺は幻覚だと思ってたよ」
だけど女の子は俺にも彼女にも見えていた。
続けて嘘だ、と俺も言った。
「床から女の子が、え、これ、生えてるの?」
「そう。生えてて、そんで」
女の子は成長していた。
首から上しか、生首しかなかった女の子は、
鎖骨の辺りまで成長していた。
「どうなってるの?」
彼女が女の子をぐるっと見回る。
そんな彼女を冷たい視線でぐるっと追う。
「わからない。けど本当だったろ?」
「妄想だと思ってた」
「俺は幻覚だと思ってたよ」
だけど女の子は俺にも彼女にも見えていた。
43: 2013/08/31(土) NY:AN:NY.ANID:XT5TBPk40
「え、と……こんにちわ」
「ダメだよ、この子話さないんだ」
話さなかったはずの女の子の口元が上がる。
『ふふ……』
「笑った!?」
「笑う、のは変なの?」
「昨日までは笑うもなかったから」
そんな明確なリアクションはなかった。
どういうことだろう。
成長したからだろうか。
「でもなんか……可愛いね」
「でしょ?」
俺と彼女は二人並んで女の子を眺めた。
なぜだか見ていると癒されてしまう、不思議な首に。
「ダメだよ、この子話さないんだ」
話さなかったはずの女の子の口元が上がる。
『ふふ……』
「笑った!?」
「笑う、のは変なの?」
「昨日までは笑うもなかったから」
そんな明確なリアクションはなかった。
どういうことだろう。
成長したからだろうか。
「でもなんか……可愛いね」
「でしょ?」
俺と彼女は二人並んで女の子を眺めた。
なぜだか見ていると癒されてしまう、不思議な首に。
44: 2013/08/31(土) NY:AN:NY.ANID:XT5TBPk40
なにかあったら連絡して?
女じゃないと解らないこともあるだろうから。
彼女はそう言って帰っていった。
出会ったばかりの女の子を気遣ってくれる。
彼女がいい人であることはずっと前から知っていた。
「なあ」
「なあって」
「なあ!」
女の子はまた無口に戻ってしまった。
俺に笑いかけてくれることはないんだろうか。
どうして彼女には笑みを零したんだろうか。
いいな、彼女。
女の子に笑ってもらえて。
その日も食事を一緒にした後、
足りない部分を触手で補って、
俺は彼女の髪を洗ってあげた。
でも、彼女は一度も笑わなかった。
女じゃないと解らないこともあるだろうから。
彼女はそう言って帰っていった。
出会ったばかりの女の子を気遣ってくれる。
彼女がいい人であることはずっと前から知っていた。
「なあ」
「なあって」
「なあ!」
女の子はまた無口に戻ってしまった。
俺に笑いかけてくれることはないんだろうか。
どうして彼女には笑みを零したんだろうか。
いいな、彼女。
女の子に笑ってもらえて。
その日も食事を一緒にした後、
足りない部分を触手で補って、
俺は彼女の髪を洗ってあげた。
でも、彼女は一度も笑わなかった。
45: 2013/08/31(土) NY:AN:NY.ANID:XT5TBPk40
彼女が家に来てから一週間。
女の子が成長したのは結局一度きりだ。
あの時以来、女の子の姿に変化はない。
だけど鎖骨に近い部分まで現れてしまったから、
俺は少しだけ目のやり場に困った。
髪、目、肌、それに加えて鎖骨。
そのどれもに惹かれてしまう。
女の子は俺の理想像が具現化したような存在だ。
「外に出かけない?」
聞くと、女の子は興味がなさそうに目を逸らした。
俺と女の子のコミュニケーション手段は目のやりとりだけ。
だけどこれも曖昧なものだ。
俺の一方的な解釈にすぎないんだから始末に負えない。
それでも女の子と話すためには、そう思うしかない。
「なにがしたい?」
聞くと、女の子は初めて喋った。
まんま、と。
女の子が成長したのは結局一度きりだ。
あの時以来、女の子の姿に変化はない。
だけど鎖骨に近い部分まで現れてしまったから、
俺は少しだけ目のやり場に困った。
髪、目、肌、それに加えて鎖骨。
そのどれもに惹かれてしまう。
女の子は俺の理想像が具現化したような存在だ。
「外に出かけない?」
聞くと、女の子は興味がなさそうに目を逸らした。
俺と女の子のコミュニケーション手段は目のやりとりだけ。
だけどこれも曖昧なものだ。
俺の一方的な解釈にすぎないんだから始末に負えない。
それでも女の子と話すためには、そう思うしかない。
「なにがしたい?」
聞くと、女の子は初めて喋った。
まんま、と。
46: 2013/08/31(土) NY:AN:NY.ANID:XT5TBPk40
女の子が食べたいものがなにかまではわからない。
例えば出前を頼んでも、料理をしても、
笑顔になることはやはり一度もないのだから。
「どうしたら笑ってくれるんだろうな」
無表情で無機質な瞳をこちらに向けて、口を開ける。
目を逸らしてご飯を食べる女の子は何度見ても愛らしい。
「なにが食べたいのか教えてくれたらいいのに」
小さな輪郭をすっと撫でる。
こうしていられる喜びは大きくても、反応はない。
女の子にとって俺とはなんだろう。
餌を運ぶ道具だろうか。
だから相手にされない。
ただの従者は生きてすらいない。
そういった視線なんだろうか。
「まんま」
女の子が俺の指をかぷっと咥えた。
例えば出前を頼んでも、料理をしても、
笑顔になることはやはり一度もないのだから。
「どうしたら笑ってくれるんだろうな」
無表情で無機質な瞳をこちらに向けて、口を開ける。
目を逸らしてご飯を食べる女の子は何度見ても愛らしい。
「なにが食べたいのか教えてくれたらいいのに」
小さな輪郭をすっと撫でる。
こうしていられる喜びは大きくても、反応はない。
女の子にとって俺とはなんだろう。
餌を運ぶ道具だろうか。
だから相手にされない。
ただの従者は生きてすらいない。
そういった視線なんだろうか。
「まんま」
女の子が俺の指をかぷっと咥えた。
47: 2013/08/31(土) NY:AN:NY.ANID:XT5TBPk40
こうしてこちらから触ることはあっても、
女の子から触りにくることは初めてだった。
口を包んで吸う女の子の愛らしさに指を任せる。
すると吸う力が強まったので奥に入れた。
舌に埋めたり、頬内を撫でたり、歯に引っ掛けたり。
よだれまみれになる俺の人差し指。
鎖骨から上しかない女の子に、
俺は初めて性欲を感じていた。
何度も舐め吸われる指を優しく引き抜くと、
第一関節から先が無くなっていた。
「まんま」
女の子にしては珍しく暖かみのある視線がそこにはあった。
女の子から触りにくることは初めてだった。
口を包んで吸う女の子の愛らしさに指を任せる。
すると吸う力が強まったので奥に入れた。
舌に埋めたり、頬内を撫でたり、歯に引っ掛けたり。
よだれまみれになる俺の人差し指。
鎖骨から上しかない女の子に、
俺は初めて性欲を感じていた。
何度も舐め吸われる指を優しく引き抜くと、
第一関節から先が無くなっていた。
「まんま」
女の子にしては珍しく暖かみのある視線がそこにはあった。
55: 2013/09/01(日) 00:32:55.83ID:t8IbXdXZ0
「久しぶりだね」
バイトが終わると彼女がいた。
「シフトずらして私と被らないようにしてるみたいだ」
その通りだった。
「別に」
気にせず帰ってしまおうと歩くと肩を掴まれる。
「別にじゃない。私はそういうのが嫌いなん……」
途中で気づいたのだろう、俺の左手の包帯に。
「これどうしたの!?」
「関係ない」
鬱陶しい。
こうなることが目に見えていた。
だからシフトをずらしていたっていうのに。
「顔色も悪い。幽霊みたいな面だ」
「元々だ」
「そんなことはない。血色はいいほうだったよ」
「放っておけ」
鬱陶しい。
鬱陶しい。
鬱陶しい。
「放っておけるか!」
頬を強くビンタされた。
音がやけに響いて反響する。
バイトが終わると彼女がいた。
「シフトずらして私と被らないようにしてるみたいだ」
その通りだった。
「別に」
気にせず帰ってしまおうと歩くと肩を掴まれる。
「別にじゃない。私はそういうのが嫌いなん……」
途中で気づいたのだろう、俺の左手の包帯に。
「これどうしたの!?」
「関係ない」
鬱陶しい。
こうなることが目に見えていた。
だからシフトをずらしていたっていうのに。
「顔色も悪い。幽霊みたいな面だ」
「元々だ」
「そんなことはない。血色はいいほうだったよ」
「放っておけ」
鬱陶しい。
鬱陶しい。
鬱陶しい。
「放っておけるか!」
頬を強くビンタされた。
音がやけに響いて反響する。
56: 2013/09/01(日) 00:33:26.84ID:t8IbXdXZ0
「私はあれから女の子に会ってない」
心の奥でなにかがざわめく。
「だからわかる。やっぱりあの子はおかしい」
「そういうことか」
彼女がなにを企んでいるのかわかってしまった。
「あんたは女の子が欲しいんだろ」
「はあ? なにを言ってるの」
「うるさい! わかってんだぞ! あの子は俺のだ!」
「落ち着け」
「うるさい!」
彼女の肩が震える。
そんな華奢な体で。
臆病な心で。
女の子のなにが守れるっていうんだ。
女の子を守れるのは俺だけだ。
「女の子に微笑まれたからって調子に乗りやがって」
彼女の首を締める。
そうだ、あの子は。
微笑むほどの彼女の肉なら、
喜んで食べてくれるだろうか。
心の奥でなにかがざわめく。
「だからわかる。やっぱりあの子はおかしい」
「そういうことか」
彼女がなにを企んでいるのかわかってしまった。
「あんたは女の子が欲しいんだろ」
「はあ? なにを言ってるの」
「うるさい! わかってんだぞ! あの子は俺のだ!」
「落ち着け」
「うるさい!」
彼女の肩が震える。
そんな華奢な体で。
臆病な心で。
女の子のなにが守れるっていうんだ。
女の子を守れるのは俺だけだ。
「女の子に微笑まれたからって調子に乗りやがって」
彼女の首を締める。
そうだ、あの子は。
微笑むほどの彼女の肉なら、
喜んで食べてくれるだろうか。
57: 2013/09/01(日) 00:34:00.92ID:t8IbXdXZ0
「やめ、ろ……」
「うるさいうるさいうるさい!
なんだってんだよあんたは!
そうやって俺に近づいてなにがしたい!
俺なんかに近づく必要がないだろ!
あんたと俺なんて、たかがバイトの仲だ!
羨ましいのか? 俺と女の子が仲良くしていて!」
首を締める手に力が込もる。
彼女の頬がふと緩んだ。
頼りない手が上がってくる。
抵抗なんてしても俺はこのまま彼女を――
彼女はぽんと俺の頭に手を置いて、
優しく慈しみをもって撫でた。
俺、なんで彼女の首を絞めてるんだ?
疑問より先に恐怖が上回って手を離す。
彼女は大きく咳き込んでむせた。
「ごめ、んなさい……」
わからない、わからない。
自分がなにをしているのかわからない。
「うるさいうるさいうるさい!
なんだってんだよあんたは!
そうやって俺に近づいてなにがしたい!
俺なんかに近づく必要がないだろ!
あんたと俺なんて、たかがバイトの仲だ!
羨ましいのか? 俺と女の子が仲良くしていて!」
首を締める手に力が込もる。
彼女の頬がふと緩んだ。
頼りない手が上がってくる。
抵抗なんてしても俺はこのまま彼女を――
彼女はぽんと俺の頭に手を置いて、
優しく慈しみをもって撫でた。
俺、なんで彼女の首を絞めてるんだ?
疑問より先に恐怖が上回って手を離す。
彼女は大きく咳き込んでむせた。
「ごめ、んなさい……」
わからない、わからない。
自分がなにをしているのかわからない。
58: 2013/09/01(日) 00:34:38.81ID:t8IbXdXZ0
「氏ぬかと思ったよ」
「ごめんなさい……」
「良くはないけどまあいい。おいで」
「?」
「おいで、DV男」
罪悪感がぎゅっと心臓を鷲掴みにする。
彼女の言う通り一歩近づく。
「しゃがみな」
「え」
「いいから早く。君は私より背が高い」
このまま膝で思い切り蹴られても文句が言えない。
なにかが恐い。
すっとしゃがむ。
すると彼女は俺の頭を抱き寄せた。
「私が欲しいのはあの子じゃない。君だ」
続けて言う。
「大切な者が壊れていく様なんて見たくない」
胸の奥にある塊が綻んで崩れていく。
……暖かい。
「ごめんなさい……」
「良くはないけどまあいい。おいで」
「?」
「おいで、DV男」
罪悪感がぎゅっと心臓を鷲掴みにする。
彼女の言う通り一歩近づく。
「しゃがみな」
「え」
「いいから早く。君は私より背が高い」
このまま膝で思い切り蹴られても文句が言えない。
なにかが恐い。
すっとしゃがむ。
すると彼女は俺の頭を抱き寄せた。
「私が欲しいのはあの子じゃない。君だ」
続けて言う。
「大切な者が壊れていく様なんて見たくない」
胸の奥にある塊が綻んで崩れていく。
……暖かい。
59: 2013/09/01(日) 00:35:21.34ID:t8IbXdXZ0
「君は生首をどう思う」
「どうって、その」
答えられない。
「あの女の子の話じゃない。生首をどう思う」
「あの子じゃない、生首」
考えてみる。
今の時代に生首なんてありえない。
ありえてしまえば殺人事件だ。
自殺の結果でもあるだろう。
「……生きてない。でもあの子は!」
「そう、あの子は生きている。でもあの子も生首だ」
そんなことはわかってる、はずなのに。
「君と違って一度しか会っていないからだろう。
私は自分の考えがおかしいことに気づけた。
ずっと一緒にいた君には解らないかもしれないけどね」
「……言うな」
「君もどこかで疑ってたはずだ。
どうして自分はあの子を受け入れてるんだろうって」
「言うな!」
「私はどうしてあの女の子を……いや、化物を受け入れることができた?」
「やめろ!」
化物じゃない。
あの子は、あの子は、あの女の子は……。
「どうって、その」
答えられない。
「あの女の子の話じゃない。生首をどう思う」
「あの子じゃない、生首」
考えてみる。
今の時代に生首なんてありえない。
ありえてしまえば殺人事件だ。
自殺の結果でもあるだろう。
「……生きてない。でもあの子は!」
「そう、あの子は生きている。でもあの子も生首だ」
そんなことはわかってる、はずなのに。
「君と違って一度しか会っていないからだろう。
私は自分の考えがおかしいことに気づけた。
ずっと一緒にいた君には解らないかもしれないけどね」
「……言うな」
「君もどこかで疑ってたはずだ。
どうして自分はあの子を受け入れてるんだろうって」
「言うな!」
「私はどうしてあの女の子を……いや、化物を受け入れることができた?」
「やめろ!」
化物じゃない。
あの子は、あの子は、あの女の子は……。
60: 2013/09/01(日) 00:36:20.82ID:t8IbXdXZ0
「もうそれだけで充分におかしいんだ。
生首があって、受け入れる私達はおかしいんだ。
きっと全世界の誰もがあの子を受け入れるだろう。
だけどそれがおかしい。生首だぞ?」
「わかってる、そんなことは……」
「わかってない。あっちゃ駄目なんだ、生首を受け入れるなんて。
ましてや保護するなんて……なあ、その指の包帯」
言葉は続かないがなにを意味するかわかった。
時間の流れに俺は折れて、包帯を解く。
「あげたんだ」
それだけで彼女は理解していた。
理解することなんて到底不可能なはずなのに。
あの女の子を介せば理解できてしまった。
「あの子はどうなった?」
「どう、って」
「変わりなし?」
「……」
あれから俺は、女の子に肉を与え続けた。
生首があって、受け入れる私達はおかしいんだ。
きっと全世界の誰もがあの子を受け入れるだろう。
だけどそれがおかしい。生首だぞ?」
「わかってる、そんなことは……」
「わかってない。あっちゃ駄目なんだ、生首を受け入れるなんて。
ましてや保護するなんて……なあ、その指の包帯」
言葉は続かないがなにを意味するかわかった。
時間の流れに俺は折れて、包帯を解く。
「あげたんだ」
それだけで彼女は理解していた。
理解することなんて到底不可能なはずなのに。
あの女の子を介せば理解できてしまった。
「あの子はどうなった?」
「どう、って」
「変わりなし?」
「……」
あれから俺は、女の子に肉を与え続けた。
61: 2013/09/01(日) 00:36:50.12ID:t8IbXdXZ0
あの子は未だに俺に微笑んでくれない。
だけど肉を食べている時だけは柔らかい表情だった。
もっと見たくて俺は、女の子に肉を与え続けた。
「取ってきたよ、食べて」
「取ってきたよ、食べて」
「取ってきたよ、食べて」
なにをとは言わない。
人によって大好きな動物を思い浮かべて欲しい。
俺はそれの首を落として、女の子に血を浴びせた。
肉をそのまま与えた。
最初は犬のように食べていた女の子も、
次第に腕が生えて手で持つようになった。
美味しそうに食べる女の子が見たくて、
俺は何匹も女の子に与え続けた。
「綺麗だね」
女の子はもう、腰の辺りまで成長している。
とても綺麗な女の子。
だけど肉を食べている時だけは柔らかい表情だった。
もっと見たくて俺は、女の子に肉を与え続けた。
「取ってきたよ、食べて」
「取ってきたよ、食べて」
「取ってきたよ、食べて」
なにをとは言わない。
人によって大好きな動物を思い浮かべて欲しい。
俺はそれの首を落として、女の子に血を浴びせた。
肉をそのまま与えた。
最初は犬のように食べていた女の子も、
次第に腕が生えて手で持つようになった。
美味しそうに食べる女の子が見たくて、
俺は何匹も女の子に与え続けた。
「綺麗だね」
女の子はもう、腰の辺りまで成長している。
とても綺麗な女の子。
62: 2013/09/01(日) 00:37:39.21ID:t8IbXdXZ0
「そうだ、あの子にご飯……」
「もうやめろ!」
「うるさい! あの子は、俺がいないと駄目なんだよ!」
「やめてくれ!」
引き止める彼女が泣いていた。
泣くような性格の人じゃないのに。
ポロポロと多くの涙を零している。
「なにかが欲しいなら私が与えてあげるから。
君が望むことをしてあげるから。
目を覚ましてくれ!」
そういって、彼女は俺の唇に唇を被せる。
思えばそれはファーストキスで、涙の味で塩っからい。
幸せじゃないか、自分を愛してくれる人がいて。
自分をこんなにも大切だと言ってくれる人がいて、充分だろ?
それでもお前は女の子を取るのか?
自分であって自分じゃない俺が問いかけてくる。
俺、俺は……。
>1、女の子を選ぶ
>2、彼女を選ぶ
安価>>63
「もうやめろ!」
「うるさい! あの子は、俺がいないと駄目なんだよ!」
「やめてくれ!」
引き止める彼女が泣いていた。
泣くような性格の人じゃないのに。
ポロポロと多くの涙を零している。
「なにかが欲しいなら私が与えてあげるから。
君が望むことをしてあげるから。
目を覚ましてくれ!」
そういって、彼女は俺の唇に唇を被せる。
思えばそれはファーストキスで、涙の味で塩っからい。
幸せじゃないか、自分を愛してくれる人がいて。
自分をこんなにも大切だと言ってくれる人がいて、充分だろ?
それでもお前は女の子を取るのか?
自分であって自分じゃない俺が問いかけてくる。
俺、俺は……。
>1、女の子を選ぶ
>2、彼女を選ぶ
安価>>63
65: 2013/09/01(日) 01:22:35.21ID:t8IbXdXZ0
俺、俺は……やはり異常だったんだ。
どこもかしこも狂っていた。
あの女の子を愛する想いに乱れはなくても、
生首を愛するなんておかしなことに決まっている。
「ありがとう……目が覚めたよ」
「本当か?」
「うん。ありがとう、本当に」
本当に俺はどうかしていた。
「あの子、どうしような」
「あの子はなんなんだろう」
「わからない。人間じゃないということしか」
人じゃないのに人を魅了してやまない。
幽霊? 化物? 怪物?
それでも俺は良かったのだけど。
もう手遅れなほどに引き返せなくても、
このまま終わってしまうことが恐くなった。
どこもかしこも狂っていた。
あの女の子を愛する想いに乱れはなくても、
生首を愛するなんておかしなことに決まっている。
「ありがとう……目が覚めたよ」
「本当か?」
「うん。ありがとう、本当に」
本当に俺はどうかしていた。
「あの子、どうしような」
「あの子はなんなんだろう」
「わからない。人間じゃないということしか」
人じゃないのに人を魅了してやまない。
幽霊? 化物? 怪物?
それでも俺は良かったのだけど。
もう手遅れなほどに引き返せなくても、
このまま終わってしまうことが恐くなった。
66: 2013/09/01(日) 01:24:04.62ID:t8IbXdXZ0
「燃やそうか」
彼女は言った。
67: 2013/09/01(日) 01:26:04.45ID:t8IbXdXZ0
「燃やす? 燃やすって、家を?」
「うん。あのアパートに他の住民は?」
「いるよ」
「じゃあ家を燃やして大騒ぎしよう。出てきてくれるだろうから」
「いや、それでも、燃やすって、その」
「犯罪?」
「そう」
「そんなことどうでもいい」
「どうでもいいって……」
「君は勘違いしてないか? 私達がするのは、化物退治だ。
あの家に生えているなら、家を無くしてしまえばいい。
他の人に迷惑だとか考えてる場合じゃない」
「凄い発想だ」
「そりゃ、ね。あれをそのままにしておくのは君が危ないから」
「そのあと、俺はどこに住もう」
「うちに来ればいいよ」
それは同棲ってことなんだけど、安直に喜べはしない。
自分が犯した罪とこれから犯す罪。
なによりも愛する女の子を焼くことを考えれば。
「うん。あのアパートに他の住民は?」
「いるよ」
「じゃあ家を燃やして大騒ぎしよう。出てきてくれるだろうから」
「いや、それでも、燃やすって、その」
「犯罪?」
「そう」
「そんなことどうでもいい」
「どうでもいいって……」
「君は勘違いしてないか? 私達がするのは、化物退治だ。
あの家に生えているなら、家を無くしてしまえばいい。
他の人に迷惑だとか考えてる場合じゃない」
「凄い発想だ」
「そりゃ、ね。あれをそのままにしておくのは君が危ないから」
「そのあと、俺はどこに住もう」
「うちに来ればいいよ」
それは同棲ってことなんだけど、安直に喜べはしない。
自分が犯した罪とこれから犯す罪。
なによりも愛する女の子を焼くことを考えれば。
68: 2013/09/01(日) 01:30:19.39ID:t8IbXdXZ0
決行は早い方がいいと彼女は言った。
俺も同じ気持ちだ。
今の覚悟を煽ってでも決行しなけりゃ一生できそうもない。
ホームセンターで着火剤を購入して家に向かった。
うちの玄関は慣れ親しんだ物のはずなのに、どこか遠い世界への入口のようだ。
「大丈夫、私もいるから」
背中を支えてくれる彼女がいる。
意を決して家に踏み入れる。
玄関とワンルームの間にはおざなりなキッチンがある。
三歩もない廊下だが、そこに着火剤をぶちまけた。
ワンルームを覗いてしまえば女の子がいる。
目が合ってしまったら、僕は……。
『ふふっ』
女の子の声が笑い声。
俺には向けられない微笑み。
彼女がいることを察しているんだろうか。
「耳を傾けちゃ駄目」
「うん」
女の子の笑い声が一層増す。
それはワンルームから放たれてるはずなのに、
気づけば三百六十度から降る笑いの雨。
俺も同じ気持ちだ。
今の覚悟を煽ってでも決行しなけりゃ一生できそうもない。
ホームセンターで着火剤を購入して家に向かった。
うちの玄関は慣れ親しんだ物のはずなのに、どこか遠い世界への入口のようだ。
「大丈夫、私もいるから」
背中を支えてくれる彼女がいる。
意を決して家に踏み入れる。
玄関とワンルームの間にはおざなりなキッチンがある。
三歩もない廊下だが、そこに着火剤をぶちまけた。
ワンルームを覗いてしまえば女の子がいる。
目が合ってしまったら、僕は……。
『ふふっ』
女の子の声が笑い声。
俺には向けられない微笑み。
彼女がいることを察しているんだろうか。
「耳を傾けちゃ駄目」
「うん」
女の子の笑い声が一層増す。
それはワンルームから放たれてるはずなのに、
気づけば三百六十度から降る笑いの雨。
69: 2013/09/01(日) 01:32:24.73ID:t8IbXdXZ0
「さあ、火をつけて」
着火剤は廊下だけでも至るところにぶちまけた。
これだけ付ければ燃え移って、少なくともこの家は全焼するだろう。
それなのに。いやそれだから?
火がつけられない。
『ふふっ』『ふふっ』『ふふっ』『ふふっ』
「私がつける」
揺らぎかけた意思を彼女が汲んで、
着火剤に火をつけた。
一瞬にして広がっていく炎の群れ。
『ふふっ』『ふふっ』『ふふっ』『ふふっ』
ああ、これはもう、どうしようもない。
着火剤は廊下だけでも至るところにぶちまけた。
これだけ付ければ燃え移って、少なくともこの家は全焼するだろう。
それなのに。いやそれだから?
火がつけられない。
『ふふっ』『ふふっ』『ふふっ』『ふふっ』
「私がつける」
揺らぎかけた意思を彼女が汲んで、
着火剤に火をつけた。
一瞬にして広がっていく炎の群れ。
『ふふっ』『ふふっ』『ふふっ』『ふふっ』
ああ、これはもう、どうしようもない。
70: 2013/09/01(日) 01:36:25.10ID:t8IbXdXZ0
徐々にワンルームへ伸びていく炎に後ろ髪を引かれる。
俺は彼女に半ば無理矢理外へ連れ出された。
「もう少ししたら騒ごう」
うちの玄関から昇る煙は夜空に溶けていく。
幸い人っ気もなくて上手くいくだろう。
胸の内が締めつけられる。
女の子と暮らした約三週間の思い出が溢れてくる。
流麗な黒い髪、口の潤い、照れ屋な視線、
冷たい瞳、無機質な表情、反応ない心、
青白い肌、美しい鎖骨、丸みのある胸、
女の子にあげた指、女の子にあげた肉、女の子にあげた血。
「ああ……あああっ」
「君! 待て! 行くな!」
激情が頭を支配する。
狂おしい愛が猛々しく。
それは風の音色だったのか。
どんどん燃えていき炎が空を焼いた時、
耳にそっと触れた。
すんすん……すんすん。
「女の子が、泣いている!」
俺は彼女の静止を振り払って燃える家に駆けていく。
俺は彼女に半ば無理矢理外へ連れ出された。
「もう少ししたら騒ごう」
うちの玄関から昇る煙は夜空に溶けていく。
幸い人っ気もなくて上手くいくだろう。
胸の内が締めつけられる。
女の子と暮らした約三週間の思い出が溢れてくる。
流麗な黒い髪、口の潤い、照れ屋な視線、
冷たい瞳、無機質な表情、反応ない心、
青白い肌、美しい鎖骨、丸みのある胸、
女の子にあげた指、女の子にあげた肉、女の子にあげた血。
「ああ……あああっ」
「君! 待て! 行くな!」
激情が頭を支配する。
狂おしい愛が猛々しく。
それは風の音色だったのか。
どんどん燃えていき炎が空を焼いた時、
耳にそっと触れた。
すんすん……すんすん。
「女の子が、泣いている!」
俺は彼女の静止を振り払って燃える家に駆けていく。
71: 2013/09/01(日) 01:41:07.33ID:t8IbXdXZ0
彼女がなにか言っている。
聞こえない。
彼女がなにを言おうと、俺の耳には届かない。
すんすん、すんすん。
聞こえるのは女の子が鼻をすする音だけ。
きっとあの時と同じく、あの子は涙を堪えて顎を上げている。
誰かがあの子を慰めてやらなきゃならない。
そして、あの子を慰めてあげられるのは俺だけだ。
玄関を開けると発火元である廊下は炎が踊っていた。
異常な燃え広がり方をしていると思った。
きっとそれは、ここが家じゃないから。
この全てが彼女の体だから。
「ごめん、ごめん!」
俺が間違っていた、そうは思わない。
女の子が生きる限り、俺はどこまでも壊れていく。
誰かとなにかを犠牲にして女の子を愛し続けただろう。
だから女の子はこうなることが必然だろう。
「だから」
聞こえない。
彼女がなにを言おうと、俺の耳には届かない。
すんすん、すんすん。
聞こえるのは女の子が鼻をすする音だけ。
きっとあの時と同じく、あの子は涙を堪えて顎を上げている。
誰かがあの子を慰めてやらなきゃならない。
そして、あの子を慰めてあげられるのは俺だけだ。
玄関を開けると発火元である廊下は炎が踊っていた。
異常な燃え広がり方をしていると思った。
きっとそれは、ここが家じゃないから。
この全てが彼女の体だから。
「ごめん、ごめん!」
俺が間違っていた、そうは思わない。
女の子が生きる限り、俺はどこまでも壊れていく。
誰かとなにかを犠牲にして女の子を愛し続けただろう。
だから女の子はこうなることが必然だろう。
「だから」
72: 2013/09/01(日) 01:42:18.74ID:t8IbXdXZ0
ワンルームの中心から生える女の子は、腰の辺りまで成長している。
綺麗な女の子だ。
俺の理想そのものだ。
「どうして逃げないの?」
女の子は答えない。
ただ涙を堪えている。
堪えきれない涙を落としている。
顎を上げて、眉間に皺を寄せて、鼻をすする。
「そう、それなら」
俺にとって女の子は愛情を注ぐ全てで、これからもそうだろう。
だから胸いっぱいに抱きしめて、燃え尽きるまでこの子を愛そう。
「大好きだよ」
すんすん、と鼻をすする音の中。
燃えていく最中の幻聴かもしれないけれど、はっきりと聞いた。
『ふふっ』
初めて向けられた女の子の微笑みに包まれて、
骨が溶けるまで抱きしめた。
END
綺麗な女の子だ。
俺の理想そのものだ。
「どうして逃げないの?」
女の子は答えない。
ただ涙を堪えている。
堪えきれない涙を落としている。
顎を上げて、眉間に皺を寄せて、鼻をすする。
「そう、それなら」
俺にとって女の子は愛情を注ぐ全てで、これからもそうだろう。
だから胸いっぱいに抱きしめて、燃え尽きるまでこの子を愛そう。
「大好きだよ」
すんすん、と鼻をすする音の中。
燃えていく最中の幻聴かもしれないけれど、はっきりと聞いた。
『ふふっ』
初めて向けられた女の子の微笑みに包まれて、
骨が溶けるまで抱きしめた。
END
75: 2013/09/01(日) 01:56:34.56ID:t8IbXdXZ0
選ぶなんて馬鹿馬鹿しい。
俺に必要なのは女の子に決まってる。
だから……。
「あの子を弔いたい。手伝ってくれる?」
「弔う、か。いいよ、手伝おう」
家に帰る道中はやけに手が汗ばんだ。
彼女と交わす言葉は一つもなくて、沈黙が風に流れた。
玄関を開けて中に入る。
女の子はいつもなら冷たい視線を投げかけるだけだというのに、
彼女を見つけてやはり。
『ふふっ』
それが俺に拍車をかけた。
俺に必要なのは女の子に決まってる。
だから……。
「あの子を弔いたい。手伝ってくれる?」
「弔う、か。いいよ、手伝おう」
家に帰る道中はやけに手が汗ばんだ。
彼女と交わす言葉は一つもなくて、沈黙が風に流れた。
玄関を開けて中に入る。
女の子はいつもなら冷たい視線を投げかけるだけだというのに、
彼女を見つけてやはり。
『ふふっ』
それが俺に拍車をかけた。
76: 2013/09/01(日) 01:57:38.45ID:t8IbXdXZ0
「酷い臭いだ……掃除してないの?」
それは氏臭だと彼女に言うのは躊躇われた。
様々な動物が氏んでいった暗鬱な臭い。
「成長するのか……どうやって弔う?」
女の子を観察していた彼女が振り向くより先に赴くままに、
全力で彼女の腹を殴る。
くの字に折れた彼女は床に倒れて、
必氏の形相で俺を見詰めていた。
自分になにが起きているのかとわからないというように。
自分になにが起きるのかわかってしまったように。
俺は調理場から鋭利な包丁を持ってくる。
「どうして」
彼女の瞳が絶望に染まる。
「なんで……」
「嬉しいだろ? だって、女の子の血肉になれるんだから」
それは氏臭だと彼女に言うのは躊躇われた。
様々な動物が氏んでいった暗鬱な臭い。
「成長するのか……どうやって弔う?」
女の子を観察していた彼女が振り向くより先に赴くままに、
全力で彼女の腹を殴る。
くの字に折れた彼女は床に倒れて、
必氏の形相で俺を見詰めていた。
自分になにが起きているのかとわからないというように。
自分になにが起きるのかわかってしまったように。
俺は調理場から鋭利な包丁を持ってくる。
「どうして」
彼女の瞳が絶望に染まる。
「なんで……」
「嬉しいだろ? だって、女の子の血肉になれるんだから」
77: 2013/09/01(日) 01:58:11.00ID:t8IbXdXZ0
彼女の首をざっくりと包丁で切り開く。
溢れる血はこれまでの動物の比じゃない。
痛みに悲鳴をあげたのも束の間、俺は彼女の血を女の子に浴びせた。
「ご飯だよ」
女の子の腕が彼女を求める。
そこにいつものような獰猛さがない。
なぜだか女の子は彼女に愛着を持っている。
嫉妬、嫉妬、嫉妬。
『まんま』
ぎゅうっと力いっぱいに抱きしめた女の子は彼女を砕いた。
鮮血を全身で浴びながら、口から吐かれた臓物を、小さな口で噛みちぎる。
嫉妬、嫉妬、嫉妬。
溢れる血はこれまでの動物の比じゃない。
痛みに悲鳴をあげたのも束の間、俺は彼女の血を女の子に浴びせた。
「ご飯だよ」
女の子の腕が彼女を求める。
そこにいつものような獰猛さがない。
なぜだか女の子は彼女に愛着を持っている。
嫉妬、嫉妬、嫉妬。
『まんま』
ぎゅうっと力いっぱいに抱きしめた女の子は彼女を砕いた。
鮮血を全身で浴びながら、口から吐かれた臓物を、小さな口で噛みちぎる。
嫉妬、嫉妬、嫉妬。
78: 2013/09/01(日) 01:59:35.11ID:t8IbXdXZ0
俺も女の子に食べられたい。
女の子はきっと俺を食べてくれるだろうけど、
こんな風に食べてはくれないだろう。
そこらの動物を食するように、ただ貪るだけだろう。
だから俺は生きていたい。
生きて、女の子を生かせ続けたい。
奇妙な光景だ。
どう考えても食べつくせないだろう物量を、女の子は遂に食べ終える。
飲み込むように噛み砕いて肉と臓物の一片も残さずに食べ終えた。
そこに彼女はもういない。
気づくと女の子に足が生えていた。
女の子は足にひっつく床を、肌を引きちぎる。
べりべりと不気味な音が響くが、ようやく女の子は自由になった。
女の子はきっと俺を食べてくれるだろうけど、
こんな風に食べてはくれないだろう。
そこらの動物を食するように、ただ貪るだけだろう。
だから俺は生きていたい。
生きて、女の子を生かせ続けたい。
奇妙な光景だ。
どう考えても食べつくせないだろう物量を、女の子は遂に食べ終える。
飲み込むように噛み砕いて肉と臓物の一片も残さずに食べ終えた。
そこに彼女はもういない。
気づくと女の子に足が生えていた。
女の子は足にひっつく床を、肌を引きちぎる。
べりべりと不気味な音が響くが、ようやく女の子は自由になった。
79: 2013/09/01(日) 02:01:06.44ID:t8IbXdXZ0
なにを言えばいいのかわからない。
今更愛を語ることは馬鹿馬鹿しかった。
これ以上なく行動で示したものだから。
だから、女の子にそっと抱きしめられた時、俺は感涙した。
今までの行いが無駄じゃなかったんだと心から感謝した。
そして女の子はそっと呟く。
『まんま』
生きたまま血肉を貪られる。
愛も慈しみも情もない、そこらの動物と同じように。
体が意識を放つ際まで、俺は女の子を見詰め続けた。
最後まで女の子が俺に微笑むことはなかった。
END
今更愛を語ることは馬鹿馬鹿しかった。
これ以上なく行動で示したものだから。
だから、女の子にそっと抱きしめられた時、俺は感涙した。
今までの行いが無駄じゃなかったんだと心から感謝した。
そして女の子はそっと呟く。
『まんま』
生きたまま血肉を貪られる。
愛も慈しみも情もない、そこらの動物と同じように。
体が意識を放つ際まで、俺は女の子を見詰め続けた。
最後まで女の子が俺に微笑むことはなかった。
END
80: 2013/09/01(日) 02:09:52.92ID:t8IbXdXZ0
今からもういっこEND書いてくる
これはちょっと時間かかると思う、真END扱いのつもりで書くから
よかったらAルートとBルートの女の子の心情を想像してくれるとありがたい
そしたら真ENDがちょっとはマシな見え方するかな? と思うよ
超簡易的な見方向け↓
>>1-34 俺と女の子の一日目
次第に俺は女の子に惹かれていく
>>35-44 俺と彼女、彼女と女の子
>>45-47 狂気へ
>>55-62 彼女に諭され揺らぐ想い
分岐点
>>63-72 A-END
>>75-79 B-END
これはちょっと時間かかると思う、真END扱いのつもりで書くから
よかったらAルートとBルートの女の子の心情を想像してくれるとありがたい
そしたら真ENDがちょっとはマシな見え方するかな? と思うよ
超簡易的な見方向け↓
>>1-34 俺と女の子の一日目
次第に俺は女の子に惹かれていく
>>35-44 俺と彼女、彼女と女の子
>>45-47 狂気へ
>>55-62 彼女に諭され揺らぐ想い
分岐点
>>63-72 A-END
>>75-79 B-END
85: 2013/09/01(日) 18:23:24.49ID:t8IbXdXZ0
真エンド
分岐点で彼女を選ぶを選択
>>63の次から
―――――――――
「逃げようか」
と彼女は言った。
分岐点で彼女を選ぶを選択
>>63の次から
―――――――――
「逃げようか」
と彼女は言った。
86: 2013/09/01(日) 18:24:07.68ID:t8IbXdXZ0
あれから二年が経つ。
あのおかしなことだらけの日々は、気づけば私の中でぼんやりとしていた。
封印してしまいたかった。
決して忘れることができないとしても。
「おかえり」と彼が迎えてくれた。
キッチンの方からいい匂いがする。
「ただいま。ご飯作ったんだ」
「うん、時間あったからね」
「無理しなくていいのに」
私は彼とあの家から数百キロも離れた家で暮らしている。
私も彼も仕事して、色々と上手い具合に事が運んでいた。
「時間があるなら作ってあげたいんだよ」
「かわいいこと言うね」
「かわいいだろ?」
「正直かわいい」
彼も私の想いに答えてくれて、私を大切にしてくれている。
私が彼を大切に想っていることは言うまでもないこと。
あのおかしなことだらけの日々は、気づけば私の中でぼんやりとしていた。
封印してしまいたかった。
決して忘れることができないとしても。
「おかえり」と彼が迎えてくれた。
キッチンの方からいい匂いがする。
「ただいま。ご飯作ったんだ」
「うん、時間あったからね」
「無理しなくていいのに」
私は彼とあの家から数百キロも離れた家で暮らしている。
私も彼も仕事して、色々と上手い具合に事が運んでいた。
「時間があるなら作ってあげたいんだよ」
「かわいいこと言うね」
「かわいいだろ?」
「正直かわいい」
彼も私の想いに答えてくれて、私を大切にしてくれている。
私が彼を大切に想っていることは言うまでもないこと。
87: 2013/09/01(日) 18:24:46.93ID:t8IbXdXZ0
あの家を引き払う時不思議なことはあった。
彼を家の中に入れたくなかった私は、全てを処分してもいいと業者に頼んだ。
だからここで女の子の存在が明るみに出るだろうと思っていたら、
業者はなにも言ってこなかった。
もしかしたら業者が隔離したのかもしれない。
それだけ魅了するなにかが女の子にはある。
だけどもしかしたらあの子は……。
想像を振り払う。
もうあれから二年も経っている。
大丈夫だろう。
このつきまとう不安は一生続く、呪いだ。
ただそれだけの物――だけど当たり前に終わっていない。
なにも。
彼を家の中に入れたくなかった私は、全てを処分してもいいと業者に頼んだ。
だからここで女の子の存在が明るみに出るだろうと思っていたら、
業者はなにも言ってこなかった。
もしかしたら業者が隔離したのかもしれない。
それだけ魅了するなにかが女の子にはある。
だけどもしかしたらあの子は……。
想像を振り払う。
もうあれから二年も経っている。
大丈夫だろう。
このつきまとう不安は一生続く、呪いだ。
ただそれだけの物――だけど当たり前に終わっていない。
なにも。
88: 2013/09/01(日) 18:25:17.03ID:t8IbXdXZ0
ある日の夕方、私は仕事帰りにスーパーに寄って帰路についた。
夕暮れが影を伸ばす時間帯、不意に私は影を気にした。
伸びる影が私に向かって融けている。
後ろに誰かいる。
そこまでおかしなことじゃない。
人通りの多い時間だ、私の後ろに人がいてもおかしくない。
そこまで考えて――人通りの多い時間に私と"後ろの人"しかいないことに気づいた。
だからおかしい。
もっと通行人が多いはずなのに、影は二つしかない。
動機が激しくなる。
元々こういったことに弱い方だというのに、勘弁してほしい。
彼は私を強いと言うけれど、蓋を開けてみれば強がりなのだ。
弱い女を演じたくないだけだ。
夕暮れが影を伸ばす時間帯、不意に私は影を気にした。
伸びる影が私に向かって融けている。
後ろに誰かいる。
そこまでおかしなことじゃない。
人通りの多い時間だ、私の後ろに人がいてもおかしくない。
そこまで考えて――人通りの多い時間に私と"後ろの人"しかいないことに気づいた。
だからおかしい。
もっと通行人が多いはずなのに、影は二つしかない。
動機が激しくなる。
元々こういったことに弱い方だというのに、勘弁してほしい。
彼は私を強いと言うけれど、蓋を開けてみれば強がりなのだ。
弱い女を演じたくないだけだ。
89: 2013/09/01(日) 18:25:48.58ID:t8IbXdXZ0
手を強く握り締める。
気をしっかり持て。
大丈夫、考えすぎだ。
その不安は"呪い"だ。
深呼吸。
とんっと肩を叩かれた。
不穏な影が真後ろにいる。
私は小さく飛び跳ねた。
「おお、すいません」
そこには見知らぬ男がいた。
気をしっかり持て。
大丈夫、考えすぎだ。
その不安は"呪い"だ。
深呼吸。
とんっと肩を叩かれた。
不穏な影が真後ろにいる。
私は小さく飛び跳ねた。
「おお、すいません」
そこには見知らぬ男がいた。
90: 2013/09/01(日) 18:26:30.20ID:t8IbXdXZ0
「あ……はい、大丈夫です」
シルクハットの帽子を被った、胡散臭い中年だった。
大柄でがっしりとしている。
「なんでしょう?」
聞くと、男は彼の名前を口に出した。
「……を、探しているんですけどね。知りませんか?」
「知りません」
私はきっぱりと答えた。
怪しい。
あの家からは遠く離れているというのに、
ピンポイントで私に聞くなんて妙だ。
私と彼に接点があると思っているに違いない。
「わたくし、こういうものです」
不信を払うように男が取りだした警察手帳だった。
「いやぁ驚かしてしまってすいません」
警察が彼になんの用だろう、と思ったけど。
私はすぐに理解した。
彼の過去の行いが問題なのだろう。
シルクハットの帽子を被った、胡散臭い中年だった。
大柄でがっしりとしている。
「なんでしょう?」
聞くと、男は彼の名前を口に出した。
「……を、探しているんですけどね。知りませんか?」
「知りません」
私はきっぱりと答えた。
怪しい。
あの家からは遠く離れているというのに、
ピンポイントで私に聞くなんて妙だ。
私と彼に接点があると思っているに違いない。
「わたくし、こういうものです」
不信を払うように男が取りだした警察手帳だった。
「いやぁ驚かしてしまってすいません」
警察が彼になんの用だろう、と思ったけど。
私はすぐに理解した。
彼の過去の行いが問題なのだろう。
91: 2013/09/01(日) 18:27:16.52ID:t8IbXdXZ0
彼が指を失くした原因は知っている。
そして、当時の彼の精神状態も知っている。
詳しくは彼に聞いていないし、聞かなかった。
きっと彼は話さないだろうから。
最悪、彼は人を頃している。
人の肉をあの子に与えている可能性は充分にあった。
それだけ当時の彼は狂っていたから。
バイトを同時に辞めて、彼の失踪と共に私もいなくなった。
足がつくのは当然だと言える。
念のため、彼の住民票は移していないけど。
「そういえば、前の職場にいましたね」
下手な嘘は危なっかしかった。
私が彼と親密だったことは店長に聞けばすぐわかることだ。
「彼、なにかしたんですか?」
「それがね、人を頃してしまったようなんですよ」
最悪の可能性が決定的になる。
そして、当時の彼の精神状態も知っている。
詳しくは彼に聞いていないし、聞かなかった。
きっと彼は話さないだろうから。
最悪、彼は人を頃している。
人の肉をあの子に与えている可能性は充分にあった。
それだけ当時の彼は狂っていたから。
バイトを同時に辞めて、彼の失踪と共に私もいなくなった。
足がつくのは当然だと言える。
念のため、彼の住民票は移していないけど。
「そういえば、前の職場にいましたね」
下手な嘘は危なっかしかった。
私が彼と親密だったことは店長に聞けばすぐわかることだ。
「彼、なにかしたんですか?」
「それがね、人を頃してしまったようなんですよ」
最悪の可能性が決定的になる。
92: 2013/09/01(日) 18:27:52.30ID:t8IbXdXZ0
「いやぁそうですか、知らなかったのなら申し訳ない。
彼の失踪と貴方の引越しが重なっていたようなので勘ぐってしまって」
「そうだったんですか。私もばたばたしていたので」
「そうでしょうそうでしょう。
ではまたなにか、解ったことがあればこちらに連絡を」
そう言って渡された名刺には刑事の名前と電話番号が記載されていた。
どこか胡散臭い大柄の中年は、のっしのっしと歩いていく。
彼が……人を頃している。
考えていなかったことじゃない。
それは当時、女の子に狂わされた衝動に過ぎないのだから。
だから彼だって被害者だ。
あの女の子に魅了されれば私だって同じことをしただろう。
だから私は彼を受け入れた。
それはこの先も変わらない。
彼の失踪と貴方の引越しが重なっていたようなので勘ぐってしまって」
「そうだったんですか。私もばたばたしていたので」
「そうでしょうそうでしょう。
ではまたなにか、解ったことがあればこちらに連絡を」
そう言って渡された名刺には刑事の名前と電話番号が記載されていた。
どこか胡散臭い大柄の中年は、のっしのっしと歩いていく。
彼が……人を頃している。
考えていなかったことじゃない。
それは当時、女の子に狂わされた衝動に過ぎないのだから。
だから彼だって被害者だ。
あの女の子に魅了されれば私だって同じことをしただろう。
だから私は彼を受け入れた。
それはこの先も変わらない。
93: 2013/09/01(日) 18:28:24.08ID:t8IbXdXZ0
家に帰ると彼が迎えてくれた。
基本的に彼の方が家に帰るのは早いので、いつもこうなる。
「ただいま」
「おかえり」
いつも通りだ。
なにも変わらない、いつも通りの彼だ。
あの刑事が言っていたことは忘れてしまおう。
「あ、ゴミついてる」
彼が私に手を伸ばす。
「やっ」
必要以上に体を反って避けてしまった。
目を丸くした彼が首を傾げている。
「ごめん、ちょっと疲れてて」
「そっか。じゃあ先にお風呂入ってきなよ」
「うん、ごめんね」
ほら、彼はなにも変わらない。
私の目が曇っているだけだ。
どうしてか、彼があの時のように見えてしまった。
基本的に彼の方が家に帰るのは早いので、いつもこうなる。
「ただいま」
「おかえり」
いつも通りだ。
なにも変わらない、いつも通りの彼だ。
あの刑事が言っていたことは忘れてしまおう。
「あ、ゴミついてる」
彼が私に手を伸ばす。
「やっ」
必要以上に体を反って避けてしまった。
目を丸くした彼が首を傾げている。
「ごめん、ちょっと疲れてて」
「そっか。じゃあ先にお風呂入ってきなよ」
「うん、ごめんね」
ほら、彼はなにも変わらない。
私の目が曇っているだけだ。
どうしてか、彼があの時のように見えてしまった。
94: 2013/09/01(日) 18:28:57.72ID:t8IbXdXZ0
湯船に浸かって考えていた。
あの時の、狂っていた時の彼のことを。
長い間一緒だったからか、次第に彼へ恋をしていた。
そんな彼は得体の知れない物に魅了されて、壊れていった。
私にしてみれば。
あの生首よりも、魅了された彼の方が恐かった。
彼は熱心に、信者のように、盲信して彼女を愛していた。
……あの愛情が失くなることなんてありえるのだろうか。
恋愛なんてものは時の流れで風化していくものだ。
その感情は一時のもので、だからずっと愛し続けるなんて異常なこと。
愛が他の形に成り代わり、結婚が成立することは理解できる。
だけど、だけどあの愛情は元々が異常だ。
生首の不思議な空気にあてられて植えつけられた愛情だ。
それを振り払うことなんて、私達人間に可能だろうか。
「……馬鹿馬鹿しい」
弱気になりすぎだ。
彼を信じよう。
お風呂を出て体を拭き、パジャマに着替えてリビングに行く。
なんの気もなく入ろうとして、躊躇った。
彼がぼうっと宙を眺めていたから。
ただそれだけのことが私に恐怖を植えつけた。
あの時の、狂っていた時の彼のことを。
長い間一緒だったからか、次第に彼へ恋をしていた。
そんな彼は得体の知れない物に魅了されて、壊れていった。
私にしてみれば。
あの生首よりも、魅了された彼の方が恐かった。
彼は熱心に、信者のように、盲信して彼女を愛していた。
……あの愛情が失くなることなんてありえるのだろうか。
恋愛なんてものは時の流れで風化していくものだ。
その感情は一時のもので、だからずっと愛し続けるなんて異常なこと。
愛が他の形に成り代わり、結婚が成立することは理解できる。
だけど、だけどあの愛情は元々が異常だ。
生首の不思議な空気にあてられて植えつけられた愛情だ。
それを振り払うことなんて、私達人間に可能だろうか。
「……馬鹿馬鹿しい」
弱気になりすぎだ。
彼を信じよう。
お風呂を出て体を拭き、パジャマに着替えてリビングに行く。
なんの気もなく入ろうとして、躊躇った。
彼がぼうっと宙を眺めていたから。
ただそれだけのことが私に恐怖を植えつけた。
95: 2013/09/01(日) 18:29:29.14ID:t8IbXdXZ0
「あの、さ」
意を決してリビングに入り彼に問いかける。
ぼうっとしている彼は、ぼうっとしたままで「なに?」と答えた。
「君は、あの時……」
聞かないほうがいい。聞いてもきっといいことにはならない。
あの日々を彼に思い出させるのは酷なことだ。
なにかを見詰める彼の視線がこちらに向く。
無機質な瞳。無感情な表情。ぞっとする。
まるでこれじゃあ……。
「人を、頃したの?」
首を横に振って欲しい。当たり前だ、違うに決まっている。
どうしたんだ私は。それでもいいと言っていたのは嘘だったのか?
違う、そういうことじゃない。
その壊れ方を知りたくないだけだ。
壊れ方、狂い方を知って、今もそのままだと思いたくないだけだ。
「俺はあの時……」
途端に彼の顔色が青ざめる。
同時に私も。
意を決してリビングに入り彼に問いかける。
ぼうっとしている彼は、ぼうっとしたままで「なに?」と答えた。
「君は、あの時……」
聞かないほうがいい。聞いてもきっといいことにはならない。
あの日々を彼に思い出させるのは酷なことだ。
なにかを見詰める彼の視線がこちらに向く。
無機質な瞳。無感情な表情。ぞっとする。
まるでこれじゃあ……。
「人を、頃したの?」
首を横に振って欲しい。当たり前だ、違うに決まっている。
どうしたんだ私は。それでもいいと言っていたのは嘘だったのか?
違う、そういうことじゃない。
その壊れ方を知りたくないだけだ。
壊れ方、狂い方を知って、今もそのままだと思いたくないだけだ。
「俺はあの時……」
途端に彼の顔色が青ざめる。
同時に私も。
96: 2013/09/01(日) 18:30:00.99ID:t8IbXdXZ0
「人は殺さなかったよ」
予想外の答えだった。
それを願っていたはずなのに、不安が的中する気がしたから。
「でも、山ほど動物を頃した」
「動物……?」
「うん。犬、猫、鳥、虫も、ネズミも、山ほど」
「そ、っか」
「ごめん。嫌だよな、こんな奴。ずっと言えなくて苦しかった。
騙してるみたいで……でも腹くくったよ。ありがとう、聞いてくれて。
……出てくね」
私は堪らず彼を抱きしめた。
「出て行かなくていい!」
自然と涙が溢れていた。
感情が高ぶると我慢が効かなくなるのは昔からだ。
予想外の答えだった。
それを願っていたはずなのに、不安が的中する気がしたから。
「でも、山ほど動物を頃した」
「動物……?」
「うん。犬、猫、鳥、虫も、ネズミも、山ほど」
「そ、っか」
「ごめん。嫌だよな、こんな奴。ずっと言えなくて苦しかった。
騙してるみたいで……でも腹くくったよ。ありがとう、聞いてくれて。
……出てくね」
私は堪らず彼を抱きしめた。
「出て行かなくていい!」
自然と涙が溢れていた。
感情が高ぶると我慢が効かなくなるのは昔からだ。
97: 2013/09/01(日) 18:30:35.98ID:t8IbXdXZ0
「ごめん、私……ごめんっ」
「どうしたの? 泣かないでよ。謝るのは俺の方だ」
「違う、違うんだ、私は」
彼のために聞いたんじゃない。
私の保身のために聞いたんだ。
それなのに彼は私のことを考えてくれていた。
馬鹿だ、私は。
「よしよし」
「こ、子供扱いするな」
「ごめん。女性のあやし方を知らなくってさ」
歳下の癖に、そのギャップからか顔が火照る。
「でもどうしてそのことを急に?」
「ああ、いや、その……」
私は散々迷ったけれど刑事のことは話さなかった。
思い立ってとはぐらかして、刑事のことは忘れることにした。
彼が嘘をついているようには見えない。
嘘をついているのはあの胡散臭い刑事だ。
名刺は、ポケットの中に入れてある。
■□■□■
「こんなところに呼び出すなんて趣味が悪いですね」
「いやいや、来てくれて嬉しいですよ」
刑事に連絡して、思い出したことがあるから会って話したいと伝えた。
それによって呼び出された場所が薄暗い廃ビルの中だ。
いよいよ刑事の言葉は胡散臭い。
「どうしたの? 泣かないでよ。謝るのは俺の方だ」
「違う、違うんだ、私は」
彼のために聞いたんじゃない。
私の保身のために聞いたんだ。
それなのに彼は私のことを考えてくれていた。
馬鹿だ、私は。
「よしよし」
「こ、子供扱いするな」
「ごめん。女性のあやし方を知らなくってさ」
歳下の癖に、そのギャップからか顔が火照る。
「でもどうしてそのことを急に?」
「ああ、いや、その……」
私は散々迷ったけれど刑事のことは話さなかった。
思い立ってとはぐらかして、刑事のことは忘れることにした。
彼が嘘をついているようには見えない。
嘘をついているのはあの胡散臭い刑事だ。
名刺は、ポケットの中に入れてある。
■□■□■
「こんなところに呼び出すなんて趣味が悪いですね」
「いやいや、来てくれて嬉しいですよ」
刑事に連絡して、思い出したことがあるから会って話したいと伝えた。
それによって呼び出された場所が薄暗い廃ビルの中だ。
いよいよ刑事の言葉は胡散臭い。
98: 2013/09/01(日) 18:31:09.67ID:t8IbXdXZ0
区切る
101: 2013/09/01(日) 20:45:02.14ID:t8IbXdXZ0
「それで、思い出したこととは?」
「そのことなんだけど……なにもない」
「はて、ではなぜ貴方は電話をしたのでしょう」
「刑事さんに聞きたいことがあってね」
今日は動きやすい服を着てきた。
そして、カバンの中に覚悟も置いてある。
「なんの用で近づいたの?」
「なんの用って……言ったでしょう? わたくしはあの男を」
「嘘はもういいからさ、なんの用か教えてよ」
すると大柄の中年は、ぐふふと卑しい笑みを浮かべた。
「もうバレてしまいましたか……話が終わってから、と思いましたがねぇ」
そして刑事は奥の方へ歩いていく。
距離を保って付いていくと、刑事は古びたデスクの前で止まった。
デスクにはシーツがかけられていて、その中心は大きく膨らんでいる。
そのシルエットから安易に連想してしまう呪い。
ぐふふ、と。それは高飛車な笑いに変化して薄汚れた廃ビルに響く。
そして勢いよく刑事はシーツを掴み取った。
――女の子。
「そのことなんだけど……なにもない」
「はて、ではなぜ貴方は電話をしたのでしょう」
「刑事さんに聞きたいことがあってね」
今日は動きやすい服を着てきた。
そして、カバンの中に覚悟も置いてある。
「なんの用で近づいたの?」
「なんの用って……言ったでしょう? わたくしはあの男を」
「嘘はもういいからさ、なんの用か教えてよ」
すると大柄の中年は、ぐふふと卑しい笑みを浮かべた。
「もうバレてしまいましたか……話が終わってから、と思いましたがねぇ」
そして刑事は奥の方へ歩いていく。
距離を保って付いていくと、刑事は古びたデスクの前で止まった。
デスクにはシーツがかけられていて、その中心は大きく膨らんでいる。
そのシルエットから安易に連想してしまう呪い。
ぐふふ、と。それは高飛車な笑いに変化して薄汚れた廃ビルに響く。
そして勢いよく刑事はシーツを掴み取った。
――女の子。
102: 2013/09/01(日) 20:45:36.37ID:t8IbXdXZ0
私が最後に見たのは鎖骨の辺りから生える女の子だ。
けれど今は腰の辺りまで成長している。
女の私が生唾を飲むほどに綺麗な女の子。
当たり前だ。
それは人間じゃない。
「その反応、女の子とは初対面じゃないですね?」
「まあ、ね」
気を抜いた瞬間に見惚れてしまいそうになる。
歯を食いしばって集中する。
あれは人間じゃない。
「ある日わたくしは女の子を拾いました。
不思議な存在だと思いましたがね、この子には奇妙な魅力がありますから。
女の子はわたくしの手を引いてあるアパートへ連れて行ったのですよ。
なにも喋らない女の子ですが、ここにいたのだとわかりました。
女の子はわたくしになにかを訴えかけている……そう思って調べたのですよ、あの家の住人のことを」
けれど今は腰の辺りまで成長している。
女の私が生唾を飲むほどに綺麗な女の子。
当たり前だ。
それは人間じゃない。
「その反応、女の子とは初対面じゃないですね?」
「まあ、ね」
気を抜いた瞬間に見惚れてしまいそうになる。
歯を食いしばって集中する。
あれは人間じゃない。
「ある日わたくしは女の子を拾いました。
不思議な存在だと思いましたがね、この子には奇妙な魅力がありますから。
女の子はわたくしの手を引いてあるアパートへ連れて行ったのですよ。
なにも喋らない女の子ですが、ここにいたのだとわかりました。
女の子はわたくしになにかを訴えかけている……そう思って調べたのですよ、あの家の住人のことを」
103: 2013/09/01(日) 20:46:07.87ID:t8IbXdXZ0
「調べてみればどこかおかしい家の引き払い方をしていましたね。
そして実家にも帰られていない……。
彼の両親は無頓着な方たちで、あっけらかんとしていましたけどね。
同時に、少し探れば貴方のことを知るのは簡単でしたよ。
その時わたくし、思ったんです。
なんて女だ、ってねぇ」
「酷い言い草だ」
「酷い? 酷いのはてめぇだろうがぁ!」
恫喝に体が硬直する。腹に力を込めて気力を奮う。
「この子はなにもかもを魅了する、きっとそうでしょう。
全世界はこの子から目が離せない、それなのに!
てめぇはこの子から人を奪った! 許せねぇ! 最低だぁ!」
私にしてみればこれは焼き直しだった。
夢に何度も出てきて、擦り切れてしまったビデオテープの焼き直し。
狂わされた男と私。
だけどあの時と決定的に違うことがある。
私はカバンに入れていた覚悟を握り締めた。
「頃す! 頃してやる! 生き地獄を味わせてやる! ぐふふはははははははっ!」
男が近づいていくる。
そして実家にも帰られていない……。
彼の両親は無頓着な方たちで、あっけらかんとしていましたけどね。
同時に、少し探れば貴方のことを知るのは簡単でしたよ。
その時わたくし、思ったんです。
なんて女だ、ってねぇ」
「酷い言い草だ」
「酷い? 酷いのはてめぇだろうがぁ!」
恫喝に体が硬直する。腹に力を込めて気力を奮う。
「この子はなにもかもを魅了する、きっとそうでしょう。
全世界はこの子から目が離せない、それなのに!
てめぇはこの子から人を奪った! 許せねぇ! 最低だぁ!」
私にしてみればこれは焼き直しだった。
夢に何度も出てきて、擦り切れてしまったビデオテープの焼き直し。
狂わされた男と私。
だけどあの時と決定的に違うことがある。
私はカバンに入れていた覚悟を握り締めた。
「頃す! 頃してやる! 生き地獄を味わせてやる! ぐふふはははははははっ!」
男が近づいていくる。
104: 2013/09/01(日) 20:47:38.77ID:t8IbXdXZ0
あの時、彼は狂っていて、私の首を絞めた。
なんの用意もなかった私はただ為すがままだった。
けれど仮に用意をする時間があっても、同じことをする。
恐がる彼を、受け入れて、慰めただろう。
そうして欲しそうにしていたから。
今、目の前にいる狂った男は私の首を絞めた。
あの時と違って疑念と時間があった私は、カバンに用意をした。
為すがままに殺されるなんてまっぴらだし、
彼を追い詰める得体の知れない男を生かしておくのもまっぴらだった。
「っ」
カバンから出した包丁を間髪いれずに突き刺した。
鳩尾に刺した鉄を刑事は凝視する。
私は覚悟を決めてここに来た。
女の子に出会ったことで、彼のみでなく私の人生も狂っているのだから。
どれだけ間違っていようと本気でなければ運命は壊れていく。
邪魔する者を私は許さない。
包丁を、上から下へ引きながら振り下ろす。
服をズタズタに引き裂きながら、その内部も同じく切り開いて、
刑事は腹から溢れた内蔵を溢れないように抱え、沈んだ。
なんの用意もなかった私はただ為すがままだった。
けれど仮に用意をする時間があっても、同じことをする。
恐がる彼を、受け入れて、慰めただろう。
そうして欲しそうにしていたから。
今、目の前にいる狂った男は私の首を絞めた。
あの時と違って疑念と時間があった私は、カバンに用意をした。
為すがままに殺されるなんてまっぴらだし、
彼を追い詰める得体の知れない男を生かしておくのもまっぴらだった。
「っ」
カバンから出した包丁を間髪いれずに突き刺した。
鳩尾に刺した鉄を刑事は凝視する。
私は覚悟を決めてここに来た。
女の子に出会ったことで、彼のみでなく私の人生も狂っているのだから。
どれだけ間違っていようと本気でなければ運命は壊れていく。
邪魔する者を私は許さない。
包丁を、上から下へ引きながら振り下ろす。
服をズタズタに引き裂きながら、その内部も同じく切り開いて、
刑事は腹から溢れた内蔵を溢れないように抱え、沈んだ。
105: 2013/09/01(日) 20:48:11.59ID:t8IbXdXZ0
「はあっ……はぁっ……は、う、うう」
人を頃した恐怖が全身にのしかかって、私は知らず知らずの内に泣いていた。
この先どれだけ幸福を得ようと、私の脳裏にこの刑事はつきまとう。
その恐ろしい呪いに気が触れそうだった。
でも、まだ終わっていない。
必氏に顔を持ち上げて、デスクの上の女の子を見る。
この子がいる限り、今日のような惨劇は続くだろう。
この子は未来永劫人を狂わせて、そして私達を狂わせる。
終わらせなくちゃならない。
この包丁で。
この手で。
近づいていく。
二年ぶりの女の子。
目を逸らすことはできない。
不気味な物体だというのに、二年前と同じ。
これは――愛情だろうか。
頃したくない。
人を頃した恐怖が全身にのしかかって、私は知らず知らずの内に泣いていた。
この先どれだけ幸福を得ようと、私の脳裏にこの刑事はつきまとう。
その恐ろしい呪いに気が触れそうだった。
でも、まだ終わっていない。
必氏に顔を持ち上げて、デスクの上の女の子を見る。
この子がいる限り、今日のような惨劇は続くだろう。
この子は未来永劫人を狂わせて、そして私達を狂わせる。
終わらせなくちゃならない。
この包丁で。
この手で。
近づいていく。
二年ぶりの女の子。
目を逸らすことはできない。
不気味な物体だというのに、二年前と同じ。
これは――愛情だろうか。
頃したくない。
106: 2013/09/01(日) 20:48:44.96ID:t8IbXdXZ0
女の子が私を見る。
『ふふっ』
どうしてこの子は私に微笑むのだろう。
これから私は君を頃すんだよ?
女の子が手を広げる。
『ふふっ』
私を求めるように、手を広げる。
無邪気な微笑みだ。
愛くるしい笑顔だ。
頃したくない。
だけど、だからこそ、包丁を深く、奥深く、胸に刺した。
女の子は笑っている。
『ふふっ』
どうしてこの子は私に微笑むのだろう。
これから私は君を頃すんだよ?
女の子が手を広げる。
『ふふっ』
私を求めるように、手を広げる。
無邪気な微笑みだ。
愛くるしい笑顔だ。
頃したくない。
だけど、だからこそ、包丁を深く、奥深く、胸に刺した。
女の子は笑っている。
107: 2013/09/01(日) 20:49:18.62ID:t8IbXdXZ0
「ごめんね……」
女の子の血が流れ落ちる。
考えてみれば、この行いにどれだけの意味があるのだろう。
人間じゃないこの子を刺したところで。
だから、二度も刺す。
三度も刺す。四度も五度も、女の子の微笑みが失われるまで。
ごめんね、と刺す度に口にしながら。
さながら悲鳴のように。
『ふふっ』
微笑むことしかないこの子の代わりの悲鳴。
何度も何度も刺し続けて、その度に肉が抉れ、開かれた。
血も湯水のごとく溢れでた。
ゆっくりと閉じていく腕に気づかないまま。
刺した。
腕が閉じる。
女の子が私を抱きしめる。
まんま、と。
女の子の血が流れ落ちる。
考えてみれば、この行いにどれだけの意味があるのだろう。
人間じゃないこの子を刺したところで。
だから、二度も刺す。
三度も刺す。四度も五度も、女の子の微笑みが失われるまで。
ごめんね、と刺す度に口にしながら。
さながら悲鳴のように。
『ふふっ』
微笑むことしかないこの子の代わりの悲鳴。
何度も何度も刺し続けて、その度に肉が抉れ、開かれた。
血も湯水のごとく溢れでた。
ゆっくりと閉じていく腕に気づかないまま。
刺した。
腕が閉じる。
女の子が私を抱きしめる。
まんま、と。
108: 2013/09/01(日) 20:49:55.27ID:t8IbXdXZ0
なにが起こっているのだろう。
この子は全てが不思議、不気味、非現実的だけど、
今ほどおかしなことはなかった。
何度も何度も刺して、頃す私を、まんまと"呼びながら"抱きしめる。
舌っ足らずな口で、"まま"と呼びながら抱きしめる。
私の胸に顔を埋めて、安心しきって全てを委ねてくる。
ずっと探し求めていたモノを充分に堪能するように。
この子、この女の子は……。
いつしか私の手から包丁はこぼれ落ちていた。
握る力を忘れて、開いた手のひらで、私は私に縋る女の子を抱きしめる。
腰から上しかない女の子。
その瞬間、私の意識に芽生えた性こそが全ての答えだった。
自然とこの子が歩んできた道が頭に流れ込む。
この子は全てが不思議、不気味、非現実的だけど、
今ほどおかしなことはなかった。
何度も何度も刺して、頃す私を、まんまと"呼びながら"抱きしめる。
舌っ足らずな口で、"まま"と呼びながら抱きしめる。
私の胸に顔を埋めて、安心しきって全てを委ねてくる。
ずっと探し求めていたモノを充分に堪能するように。
この子、この女の子は……。
いつしか私の手から包丁はこぼれ落ちていた。
握る力を忘れて、開いた手のひらで、私は私に縋る女の子を抱きしめる。
腰から上しかない女の子。
その瞬間、私の意識に芽生えた性こそが全ての答えだった。
自然とこの子が歩んできた道が頭に流れ込む。
109: 2013/09/01(日) 20:50:29.02ID:t8IbXdXZ0
産まれなかった命がある。
中でも彼、彼女達は望まれずに氏んでいった。
いや氏んでいったなんて言い方は逃げだ。
人は自分の都合で彼、彼女達を頃していった。
例えば父親に否定されて。
例えば育てる膂力がなくて。
例えば宿るには早すぎて。
残酷に殺され続ける命。
けれど誰もが一度は母親に愛された。
精一杯に愛された子供もいれば、
母親が感知しない深層意識で愛された子がいた。
誰もが持つ母性によって、ほんの一瞬でも愛されていた。
たった一瞬でも産まれなかった彼、彼女達にとって、
母親から受ける愛が世界の全てだ。
女の子は堕胎した赤ん坊の悲しみの形だった。
父親を恨み、母親を求めた寂しい命の塊だった。
この子はずっと母親に甘えたかっただけなんだ。
中でも彼、彼女達は望まれずに氏んでいった。
いや氏んでいったなんて言い方は逃げだ。
人は自分の都合で彼、彼女達を頃していった。
例えば父親に否定されて。
例えば育てる膂力がなくて。
例えば宿るには早すぎて。
残酷に殺され続ける命。
けれど誰もが一度は母親に愛された。
精一杯に愛された子供もいれば、
母親が感知しない深層意識で愛された子がいた。
誰もが持つ母性によって、ほんの一瞬でも愛されていた。
たった一瞬でも産まれなかった彼、彼女達にとって、
母親から受ける愛が世界の全てだ。
女の子は堕胎した赤ん坊の悲しみの形だった。
父親を恨み、母親を求めた寂しい命の塊だった。
この子はずっと母親に甘えたかっただけなんだ。
110: 2013/09/01(日) 20:51:02.14ID:t8IbXdXZ0
「ごめんなさい」
謝るしかない。
人間が何度も行った殺人の怨念。
無邪気に愛を求める悲しみを前に、私ができることなんてたかが知れている。
『まんま』
私を求める手。
抱きしめる腕。
母を探す心。
父を憎む心。
何十回と刺した傷から血が流れて、流れて、流れ続けて、
数十分の時を経て、女の子の涙が止まる。
もう、口は開かない。
謝るしかない。
人間が何度も行った殺人の怨念。
無邪気に愛を求める悲しみを前に、私ができることなんてたかが知れている。
『まんま』
私を求める手。
抱きしめる腕。
母を探す心。
父を憎む心。
何十回と刺した傷から血が流れて、流れて、流れ続けて、
数十分の時を経て、女の子の涙が止まる。
もう、口は開かない。
111: 2013/09/01(日) 20:51:34.71ID:t8IbXdXZ0
私が君にしてあげられることはこんなことしかないけど、
これで私達人間を許してだなんて言わないけど、
今度産まれてくる時は、
どうか私達を愛してほしい。
私はこの命が尽きるまで、
君のことを愛し続けるから。
その廃ビルに残されたのは、女の子に狂わされた不憫な中年の氏体だけだった。
112: 2013/09/01(日) 20:52:08.26ID:t8IbXdXZ0
■一ヶ月後
「ねえねえ、仕事は順調?」
「順調だよ。社員になって暫く経つし、上手くいってる」
「そっか。それで、あのさ」
「あーっとごめんごめん。君から言わせないから。結婚だよね? ちゃんと考えてる」
「それはそうなんだけど、それ以上にね」
察しの悪い彼が首をかしげる。
こういうところがかわいいんだよね。
「子供ができたみたいなの」
「え、うそ、避妊してたのに?」
「避妊も完璧じゃないって言うし……もしかして他の男とか疑ってる?」
「いや君に限ってそれはないと思うけど」
「自信あるんだね」
「うん、愛されてる自信があるよ」
恥ずかしいやつだ。
そんなこと面と向かって言わないでほしい。
「そっか、子供か、嬉しいな。じゃあ早く結婚しなくちゃ」
「喜んでくれるの?」
「もちろん! お腹が大きくなる前に盛大に祝おう!」
113: 2013/09/01(日) 20:52:39.76ID:t8IbXdXZ0
「仮にさ」
「ん?」
「産まれてくる子が生首だったらどうする?」
「冗談でも笑えないよ」
「冗談じゃないよ」
「……そっか、そうだな。ありえない話でもないか、俺達なら」
「まあ、ね」
彼が知らない事情がある。
きっとそれは当然の未来だと私は思っている。
「関係ないよ、俺達の子供だし」
「そう思える?」
「うん、そりゃね。あの子の影響はあるかもしれないけど……そうでなくても、って思いたい」
「そっか……よかった。君がこの子のお父さんで」
照れ臭そうに彼がそっぽを向く。
「ん?」
「産まれてくる子が生首だったらどうする?」
「冗談でも笑えないよ」
「冗談じゃないよ」
「……そっか、そうだな。ありえない話でもないか、俺達なら」
「まあ、ね」
彼が知らない事情がある。
きっとそれは当然の未来だと私は思っている。
「関係ないよ、俺達の子供だし」
「そう思える?」
「うん、そりゃね。あの子の影響はあるかもしれないけど……そうでなくても、って思いたい」
「そっか……よかった。君がこの子のお父さんで」
照れ臭そうに彼がそっぽを向く。
114: 2013/09/01(日) 20:54:05.18ID:t8IbXdXZ0
「まあ俺は子供好きだし色々手伝うよ。もしかしたら俺が先にぱぱって呼ばれるかもね」
「それはないよ」
「即答しないでよ」
「ごめんごめん。でもさ、きっと産まれてくる子は女の子で、お母さんっ子だよ」
「なにそれ、女の勘?」
「そんなとこ」
「外れりゃいいのに、そんな勘」
「あははっ」
115: 2013/09/01(日) 20:54:37.58ID:t8IbXdXZ0
遠くない未来、この家にもう一人いるんだろう。
きっとその子は長く黒い髪が綺麗で、
もしかしたら首から下はないかもしれない。
それでも人を魅了するなにかを持っていて、
誰にでも愛される可愛らしい子に育つだろう。
そして舌っ足らずなその口で、
無邪気に微笑んで呼んでくれる。
まんま、って。
私も君に魅了されたのかな?
きっと、違うよね?
私は優しくお腹を撫でる。
END
116: 2013/09/01(日) 20:57:30.33ID:t8IbXdXZ0
というわけで真ENDでした
考えうるBADEND回避に最善を尽くした
でもこれがホラー映画なら出産時に生首の女の子が産まれて彼女が氏んで俺がまた女の子に魅了されて終わりだよな
読んでくれた方ありがとう
暇つぶしになったら幸いだ
ではまたどこかで
考えうるBADEND回避に最善を尽くした
でもこれがホラー映画なら出産時に生首の女の子が産まれて彼女が氏んで俺がまた女の子に魅了されて終わりだよな
読んでくれた方ありがとう
暇つぶしになったら幸いだ
ではまたどこかで
引用: 床から女の子が生えてきた



コメントは節度を持った内容でお願いします、 荒らし行為や過度な暴言、NG避けを行った場合はBAN 悪質な場合はIPホストの開示、さらにプロバイダに通報する事もあります