310: 2011/01/17(月) 08:46:47ID:wTFyVGDQ

タイトル:僕の好きな人は
ジャンル:苗霧ラブシリアス?
時間軸:希望ヶ峰学園時代(よくある苗木が霧切さんの探偵助手的な)

311: 2011/01/17(月) 08:47:34ID:wTFyVGDQ
「苗木君、恋してる?」
 窓の外に広がる景色を眺めながら、霧切さんは唐突にそう切り出した。
「こい?」
 僕はただオウム返しに呟き返す。
「そう、恋愛の、恋」
 今度は真っ直ぐ僕の方を見ながら再びそう問いかけた。
 明日のテストが心配だったから居残っただけだったはずなのに、何だろう、この雰囲気は。

 放課後の教室。
 教室を出て行くみんなをよそに、霧切さんは僕の席にやってきた。
 いつも通り探偵助手のお誘いだろうか。
 流石にテスト前だからと断ろうとしたところで、彼女は僕の前――朝比奈さんの席に座った。
「苗木君、勉強していくの?」
「え、ああ、うん……」
 帰り支度をしていなかったことから察したのか、予想外の質問にちょっと慌ててしまう。
「だから、今日は――」
「私も一緒にしても構わない?」
 捜査の誘いを断ろうとしたところで、予想外の方向からパンチが飛んできた。
 僕の知ってる霧切さんは、自分からそんなことを言うキャラじゃない。
 でも、流石にそんなこと言えないので、とりあえず、目を白黒させてみた。
「今は何をやっているの?」
「え、古文の復習だけど……」
 ちょうど良かったわ、と言いながら、霧切さんは朝比奈さんの机の向きを変え、僕の机と合わせる。
 周りを見ると、既にみんなそれぞれ教室を出て行ったようだ。
「……ひとつ、良い?」
 鞄からノートなどを取り出す霧切さんに問いかける。
「何でまた、霧切さんが僕なんかと勉強を?」
 霧切さんは、無言で古文のノートを差し出す。
 中を開いてみると――所々空いているページがあった。
「捜査の所為で何度か授業に出そびれたのよ。あなたが教えてくれないかしら?」
 こうして、不思議な二人っきりの勉強会が始まった。



312: 2011/01/17(月) 08:49:04ID:wTFyVGDQ
「恋、って言われても……」
 いきなり何を訊くんだ、この人は。
 ここまでの勉強会はいたって普通だった。
 霧切さんの古文力は至って優秀で(僕が教えるまでもないくらいに)、僕が「好きだ」などと囁いたわけじゃないし、古文の内容が愛を綴ったものだったということもない。
 だから、僕には何でこんな話になったか理解できない。
「【質問の意図】が……」
 とりあえず、普通に返すことにする。
 霧切さんはため息を吐いた。
「(言弾:恋話)それは違うわ」
「えっ?」
 普段の表情から一瞬で鋭い視線に変え、僕に向ける。
「舞園さんや江ノ島さんが言っていたわ。男子も女子も高校生なら一つや二つする、って」
 何か予想外のところでゲームの要素を無理やり取り込まれた気がするが、僕が論破されたのは事実だ。
「霧切さんも、舞園さんたちとそういう話するんだ」
 僕がそう返すと、霧切さんの顔が一瞬だけ赤く染まった。
「た、たまたまそういう機会があったのよ。同じクラス男子と付き合うなら誰か、ってね」
 赤面した霧切さんも可愛いな、なんて思いつつも、女子たちがどんな話をしたのかが気になった。
「まあ、今現在、私が訊きたいのはそんなところじゃないわ」
 しかし、すぐに机に両肘を立てて組み、口元を隠す霧切さん。
 その表情はどこか作ったように無表情だ。
「恋の話、だっけ」
「そう、苗木君は誰が好きなの?」
 何故、誰かが好きということは確定なんですか。
「ここには色んな人がいるじゃない。これで好きな人がいなかったら、苗木君は間違いなくイ●ポよ。専門医に相談することをお勧めするわ」
 確かに個性的なメンバーだということは認める。それ以前に、その表現はどーなんですか。
 不名誉な称号を頂きたくないので、ここは真面目に考えることにする。
「私の勘は【舞園さん】か【朝比奈さん】ね。守りたくなるような女子は人気がある、って言ってたわ」
 確かに、彼女達は守ってやりたくなる。
 舞園さんは何てったって超高校級のアイドルだし、朝比奈さんは天然なところがあって危なっかしい。
「一方、頼れるって意味で【セレスさん】や【大神さん】、【戦刃さん】も捨てがたいんじゃないかしら?」
 セレスさんは時々恐ろしいまでのキャラでみんなを引っ張ってくれるし、大神さんや戦刃さんは体力面でも本当に頼りになる。
「【江ノ島さん】や【腐川さん】だってファンクラブがある程の人気だって聞いたわ」
 今時、ファンクラブなんてあるんですか?
 まあ、確かに江ノ島さんはカリスマモデルだし、腐川さんも喋らなければ十分可愛いだろう。
「誰なのかしら、苗木君の【好きな人】は?」
 だけど……どうもピンとこない。
 彼女達は、何処か遠いのだ。
 超高校級の彼女たちと、極々普通の高校生である僕。
「……眩しいんだよね」
「……そう」
 僕には、ちょっと眩しすぎる。
 僕はこれまで、普通の人生しか送ってこなかった。
 それを知って彼女達がどう思うのかが、怖いのだ。
 退屈だと思われるか、無駄だと思われるか、残念だと思われるか。

313: 2011/01/17(月) 08:49:56ID:wTFyVGDQ
「そうね、でも、彼女達は問題なく受け入れてくれると思うわ」
 そういって、霧切さんも苦笑いを浮かべる。
 この展開は考えていなかったのだろう。珍しくちょっと焦った様子だ。
 そういえば、霧切さんは彼女自身を選択肢に入れなかった。
 いつも通り一歩引いたところから僕たちを見てるのだろうか。
「霧切さんは、何で僕の好きな人を知りたいの?」
「そ、それは……今後、私の捜査を手伝ってくれるあなたの好きな人が、犯人に狙われないとも限らないからよ」
 論破するまでもなく、霧切さんの言葉は嘘だと分かった。
 声は震えていたし、目は逸らしている。
 そんな彼女が愛おしいと思ったのは、いつからだろうか。
 霧切さんの捜査を手伝っているとき?
 霧切さんとよく話すようになったとき?
 霧切さんと初めて話したとき?
 霧切さんを初めて見たとき?
 分からない、でも、いつの間にか僕は――。
(“言弾:霧切さん”を入手しました)
「僕が一番好きな人は――」
 それは何処からきた感情だろうか。
 羨望か、連帯感か。
「【好きな人】は?」
 そうじゃない。
 もっと、言葉では言い表せない何かから生まれた感情だ。
 長く伸びた髪とワンポイントの三つ編み、瞳に真実を見つめる光を溜め、手には悲しい思い出を手袋で封じ込んでいる、一番僕を必要としてくれる女の子。
「(言弾:霧切さん)――霧切さんかも、しれない」
 好きという感情がこれで正しいのなら、僕は彼女が好きなのだろう。

314: 2011/01/17(月) 08:50:38ID:wTFyVGDQ
 一方の霧切さんは、一瞬、ぽかんとした後、凄く困ったような表情を浮かべた。
「そういう冗談はよろしくないわ、苗木君」
「いや、冗談じゃないんだよね」
 今の一言で動揺したのが手に取るように分かった。
 いつもは見られない一面、といった感じか。
 なるほど、先人の言うとおり、それには恋するだけの魅力がある。
 困った表情に若干の笑みが混じる。どうやら僕は嫌われてはいなかったようだ。
「いや、でも、そんな……」
 照れているのだろう、だんだんとその顔に朱が差してくる。
「予想外だった?」
「ええ、完全にね」
 どこか嬉しそうに彼女は答えた。
「私も、苗木君は嫌いじゃないわ。むしろ好意を持っていると言って良いかもしれない」
 だけど、と彼女は少し表情を強張らせて続ける。
「あなたには、私よりも舞園さんたちを好きになって欲しいわ」
「え?」
「彼女たちは、それぞれの夢に向かって全力で進んでいる。そして、彼女達には支えが必要なのよ」
 何故だろう。
 何故この人は、ここまで自分を追い詰められるのだろう。
「苗木君、ここまで言えば分かるわね?」
 何故もっと、自分の幸せを望まないのだろう……。
「ごめんなさい、変なことを訊いて。私、そろそろ帰るわ」
 霧切さんは、そう言ってそそくさと勉強道具をしまい始める。
 焦っているのだろう。手が若干震えている。
 僕は彼女に何も声をかけなかった。いや、かけられなかったのだ。
 何と言えば良いのか分からなかった。
 否定すればいいのか、肯定すれば良いのか、でも――。
 そう考えているうちに、霧切さんは鞄に勉強道具をしまい終えていた。
「また明日、苗木君」
 それだけ言って、逃げるように教室を出て行ってしまう。
 彼女が見えなくなってから、大きくため息を吐いて椅子にもたれかかった。
 窓の外はいつの間にかザアザアと雨が降り始めていた。
 そういえば、天気予報が嵐が来ると告げていたはずだ。成る程、みんながそそくさと帰るわけだ。

 僕は霧切さんを――。
 ・追う
 ・追わない

493: 2011/01/27(木) 02:54:19ID:6DlTxR/u
 霧切さんを追いかけなければ、と思った。だけど身体は鉛のように重くて、まるで追うのを拒んでいるかのようだ。
 頭の中では先程の霧切さんの言葉が幾重にも響いていた。嫌な汗が全身から吹き出していく。
『苗木君、ここまで言えばわかるわね?』
 ――ボクは振られたのか?
 頭では分かっているつもりだったが、噛み砕いてみると鈍器で殴られたような衝撃が広がった。
 霧切さんに拒絶された事実と、それに対して何も言葉をかけられなかった自分に対しての絶望感。

 それでも追わなくちゃ、と思った。

 ボクに好意を持っていると言ってくれた霧切さんの言葉と、今にも泣き出しそうだった霧切さんの表情。
「矛盾してる……」
 まだ、決まったわけじゃない。
 まだ、謎が残っている。
「矛盾してるよ、霧切さん」

 ――もしこの矛盾が、霧切さんのついた嘘だとしたら、ボクはそれを論破する。

 気がつくと、ボクは走りだしていた。
 避けられるとしても、改めて拒絶されるとしても、霧切さんの言葉を聞きたい。ボクの言葉をぶつけたい。
 そうしなければ、ボクらは一生後悔するような気がするから。

494: 2011/01/27(木) 02:55:30ID:6DlTxR/u
「あれ、苗木じゃん。アンタ何してんの?
 霧切? あたしは見てないね。少なくとも、寄宿舎の方には来てないと思うけど。
 ……何したのよ、アンタ。マジで泣きそうな良い顔してんじゃん。
 アハハ、まさか霧切に振られたとか? ……もしかして、マジ?
 あちゃー、やっちゃったねェ。乙女心も分からずにがっついたんじゃないの?
 そっか、でも、霧切はアンタのこと好きだったと思ったんだけどね。
 何でってそりゃ、この前そういう話になったからよ。
 “同じクラス男子と付き合うなら誰か”? 違う違う。正解は“苗木が好きなのは誰か”って話。
 だってアンタってさ、マジ優柔不断じゃん? マジ八方美人じゃん? だから本命は誰かっつー話になったのよ。
 そんときは珍しく霧切まで輪に入ってきたからさ。こういう話に入ってこないイメージだから以外じゃん。しかも、妙にソワソワしてるから、ああ、もうこれはあれだなー、と。
 だからちょっと、あたしとセレスでからかってみたのよ。舞園を守ってやりたいって言ってたとか、セレスは頼りになるって言ってたとか、実はあたしのファンクラブ入ってるとか。
 そんな顔しないでよ、謝るから! うん、後で霧切にも謝るって! あたしが悪かったよ。
 そんときに妙に納得した表情してたからさー、これで二人の仲も進展するんじゃないかって思ったんだけど、ミスったなァ。お節介だったね、ごめんごめん。
 でも、マジで霧切はアンタのこと好きだよ。これは女の勘ってやつ?
 ……うん、アタシから言えるのは以上。じゃ、後はアンタが頑張ってねー!」

(“言弾:江ノ島盾子の証言”を入手しました)


「おや、苗木誠殿ではございませんか。こんなところで如何なされましたかな?
 霧切響子殿ですか? ええ、確かに見ましたぞ。
 それにこれ、霧切響子殿の鞄なのです。上の階からいきなり走ってきたかと思えば、これを全力で壁に投げ付けておりました。
 よっぽどむしゃくしゃすることがあったんでございましょうなぁ……。三次元の女性はこれだから怖い。ぶー子ちゃんマジ天使!
 ……声をかけようかとも思ったのですが、そこは持ち前のスルー技術でやり過ごすことにしたわけで。
 まあ、結果的に目があって合って睨またんですけどね! あの目は正に僕の氏を直視しているとしか思えませんでしたけどね!
 その後? そのまま、外にかけ出していきましたよ。こんな雨の中、傘もささずに。
 一体、どうしてしまったのでしょうなぁ、霧切響子殿は。なにやら泣いているようでしたし。
 ええ、きっと泣いておりましたぞ。珍しかったので記憶に残っております。
 あれ、苗木誠殿も行くの? 傘ささないの?
 えーっと、お気をつけてー!」

(“言弾:山田一二三の証言”を入手しました)


「……む、苗木か。傘もささずに、ずぶ濡れではないか。
 霧切だと? ふっ、今日はつくづく縁のある日だな。
 この人形を見ろ。これは霧切の人形なのだが、先ほど見ていたらその橋の上から投げ捨てたのだ。
 とても思いつめた表情をしていたので、身投げするのではないかと思ったほどだった。
 霧切はこれを捨ててすぐに立ち去ってしまったのだが、あの表情だ、なにか理由があると思ってな。
 そうだ。川に飛び込めばすぐに拾えたぞ。視界は悪かったが、心の目で見れば何とでもなる。
 我にかかればこの程度の濁流なら造作も無い。過去にナイアガラで滝を登ったときに比べれば、な。
 ……苗木よ、これはお前が霧切に届けるがいい。いや、そうしなければならぬ。
 我とて一人の女。霧切の表情に何が込められていたかは大体察しがつく。
 お主が後悔する道だけは歩まぬことだ」

(“言弾:人形”を入手しました)


「ん、苗木っちじゃねーか。びしょ濡れで何してんだべ。
 霧切っち? 見た見た。この先の公園で座ってたべ。
 その顔は何かやらかしたんだな、苗木っち。それで霧切っちが怒って追いかけてる、と。
 ふふふ、カップルの喧嘩と言ったら、その解決法は占いって相場が決まってるべ。大昔からの理だべ!
 苗木っちには世話になってるから、特別出世払いで良いって!
 むむ、見えた。苗木っちは霧切っちの手を“握りしめる”と良いべ! 俺の占いは三割当たる!
 あれ、苗木っち、ちょっと、聞いてる? おーい……」

(“言弾:握りしめる”を入手しました)

495: 2011/01/27(木) 02:56:25ID:6DlTxR/u
 希望ヶ峰学園から少し歩いたところにある公園。
 平日の夕方だが、生憎の雨の所為で人影はなかった。彼女――霧切さんを除いては。
 霧切さんはまるで捨てられた子犬のように、公園のベンチに座って俯いていた。その顔色を窺い知ることはできないが、彼女の長い銀髪はびしょ濡れで、白い肌は病的なまでに血の気が薄い。
「――霧切さん」
 正面に立ったボクの呼びかけに、彼女はびくりと身体を震わせた。それでも俯いたままで、こちらに視線を向けることはない。
「……何かしら、苗木君」
 霧切さんの声は震えていた。泣きはらした後で、必氏に搾り出した声のようだ。
 それはまるで硝子細工のように繊細で、脆い。
「何で、こんなところにいるの?」
「それはこっちの台詞だよ。霧切さんこそ、何で急に逃げ出したのさ」
「逃げ出してなんていないわ。ただ、雨に当たりたい気分だっただけよ」
 いつものような強気な言葉だが、今の霧切さんでは説得力に欠ける。
 それにその肩の震えを見てしまったら、そんな言葉を鵜呑みになんてできる訳がなかった。
「苗木君は、忙しいんでしょう? 舞園さんの相談にのったり、セレスさんのために買い物に行ったり、江ノ島さんとゲームしたり……」
 ごめんなさい、と霧切さんはボクに謝った。
「私はいつの間にか苗木君の優しさに甘えてしまっていたのね。毎日のようにあなたを引きずり回して、危険な場所に連れて行ったりしていたわ」
 霧切さんはまるで自分を攻めているようだった。彼女なりにボクのことを想っての言葉なのだろう。
「【あなたの気持ち】も分からないなんて、探偵失格ね」
「(言弾:江ノ島盾子の証言)それは違うよ、霧切さん」
 ボクの言葉に、霧切さんが顔を上げる。
 彼女は今にも――いや、すでに泣いているのだろう。
「ボクは確かに流されやすい性格だけど、霧切さんと一緒にいて一度も嫌な思いをしたことなんてないよ」
 希望ヶ峰学園に入る前は考えられなかった世界。考えられなかった体験。
 普通に生きてきただけのボクに、霧切さんが見せてくれたんじゃないか。
「ボクは舞薗さんを守りたいとも言ってないし、セレスさんが頼りになるとも言ってないし、江ノ島さんのファンクラブにも入ってない――」
 彼女たちには悪いけれど、ここは否定させてもらおう。
 今、ボクが肯定しなければいけないのは、目の前の彼女への気持ち。

「――ボクは霧切さんの助手で、霧切さんを頼りにしていて、霧切さんを守りたいと思ってるんだ」

 まだ守るなんてことはできないだろうけど、それでもいつか守れるようになりたいと思っているんだ。
 ボクの言葉を聞いて、霧切さんは再び顔を伏せる。彼女は強く自身を抱きしめた。
「……嘘よ」
「嘘をついているのは霧切さんの方じゃないか」
「私は、嘘なんてついていないわ」
 それは静かな口調だったが、最早叫びに近かった。霧切さんには珍しく、真っ直ぐな拒絶の意思。
「じゃあ、何で霧切さんはそんなに泣いているのさ?」
「これは……【雨の所為】でそう見えるだけよ……」
 でも、その意思を受け入れる訳にはいかない。しつこい男だと思われても、うざい男だと思われても、彼女に拒絶されるよりずっと良い。
「(言弾:山田一二三の証言)嘘だよ、霧切さん。教室を出たときから泣いていたって、知ってるんだ」
「――っ」
 霧切さんは息を飲んだ。いつものポーカーフェイスからは想像できないほどに狼狽えているのが見て取れる。
「霧切さん、さっきはちゃんと言えなかったけれど、もう一度、ちゃんと言わせて」
 ごくり、とボクは唾を飲んだ。緊張で、呼吸が苦しい。
 霧切さんは顔を上げ、ボクの方を見つめる。その視線は、まるで言わないでと訴えているようだった。

「ボクは霧切さんのことが好き、です」

496: 2011/01/27(木) 02:57:30ID:6DlTxR/u
 二度目の告白に、霧切さんは表情を歪めた。困ったような、焦っているような表情。
 そして小さく、駄目よと言った。
「……私には、そんな資格がないもの」
「誰か、他の人のことが好きなの?」
「いいえ、そういう意味じゃないわ。私は、誰も好きにならないことに決めたの。それは、私が探偵を始めるときに決めた誓い」

 もし、好きな人が殺されたら?
 もし、好きな人が犯人だったら?
 もし、好きな人を信じることができなかったら?
 もし、好きな人を裏切らねばならなかったら?

「私は一人の探偵として、【誰も好きにならない】のよ、苗木君」
 蚊の鳴くような声で、彼女は言う。
 これが、ボクの想いと、彼女自身の想いを拒絶する理由。
 自分の信念を貫くために、彼女はボクを拒絶している。
 だとしたら、ボクも自分の信念を貫くために、彼女を拒絶しなければならない。

 ――矛盾を撃ち抜け、論破しろ!

 ボクはポケットから、大神さんに受け取った人形を取り出した。それを霧切さんの方へ差し出す。
「(言弾:人形)これ、霧切さんの人形でしょ?」
 霧切さんは人形を見つめて、凄く驚いた表情を浮かべた。濁流の中に投げ捨てたはずの人形が戻ってきたのだから当然だろう。
 彼女はボクの手から人形を受け取ると、しっかりと抱きしめた。
「男の子の足が交差したボージョボー人形は、恋愛の願いを叶えるおまじない」
 それはいつか、ボクが霧切さんにあげたボージョボー人形だった。
 男の子と女の子のペア人形で、その手足を結ぶことで色々なおまじないになるそうだ。購買で当たったものを霧切さんにプレゼントしたのだが、そのとき付いていた解説書にこの結び方も書いてあった。
 固く結ばれた男の子の足。それが意味するのは、誰かが好きだということだ。
「【……】」
「霧切さん、ボクのことが好きじゃないなら、そう言ってくれても良いんだ。だけど――」
 ボクは、霧切さんの手を握りしめた。

「(言弾:握りしめる)霧切さんは一人の探偵の前に、一人の女の子じゃないか。誰も好きにならないなんて、言わないでよ」

 彼女のしている手袋の所為で、霧切さんの体温を感じることはできなかった。感じ取れたとしても、それは雨の所為でボクと同じくらい冷たいだろう。
 それでもその下で、霧切さんの手がボクの手を握り返してくれるのを感じた。

 霧切さんは再び俯いた。肩が震え、呼吸に嗚咽が交じる。
 ボクは何も言わなかった。ただ、辺りに降る雨音だけが響く。
 どの位そうしていただろうか。
 沈黙を破ったのは、霧切さんの言葉だった。

497: 2011/01/27(木) 02:58:22ID:6DlTxR/u
「……苗木君は、私の誓いすら守らせてくれないのね」
「ごめんね、霧切さん」
 謝らないで、と彼女は微笑んだ。
 まだ歪なところはあるけれど、それでも確かに微笑んでくれた。
「私は、真実を求めるためならあなたを裏切ってしまうかもしれない。そんな女よ?」
「ボクは霧切さんのためなら殺されたって文句を言わないよ。そりゃ、氏なないほうが良いけどさ」
「きっと隠しごとも一杯するわ」
「全部話して欲しいけど、好きだから我慢する」
「でも、あなたが隠しごとなんかしたら怒ると思う」
「それは酷いけど、好きだからなるべくしないようにする」
 いつも霧切さんとの会話。
 冗談なのか本気なのかボクには分からなかったけれど、きっと彼女はそうするだろうし、きっとボクはそう思うだろう。

「霧切さんは、ボクのことをどう思っているの?」
「……この期に及んで、よくそんなことが訊けたものね」
 霧切さんは呆れたようにため息を吐く。
 先ほどからずっと繋いだままの手を、彼女は一層握りしめた。
「私の手を明日まで離さないって約束できる?」
「え? うん、もちろんだよ!」
「私もよ。今はあなたと少しでも近くにいたいし、あなたに触れていたい」

 霧切さんは、くすりと意地悪そうに微笑んだ。

「苗木君、ここまで言えば分かるわね?」

【了】

498: 2011/01/27(木) 03:02:52ID:6DlTxR/u
以上となります
ちょっと霧切さんの口調に不安が残りますが、何とかなったと思いたい

ところで、この後、手を繋いだまま寄宿舎に帰ったり、手を繋いだままシャワー浴びたり、手を繋いだままベッドインしたりするプロットがあるんだが……

『不純異性交遊でおしおきされました』

引用: 【ダンガンロンパ】霧切響子の正体は俺の嫁Part2