9: 2013/06/22(土) 23:15:30.97 ID:Y0maCKOCo
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切っ掛けは俺の発した何気ない質問だった。

「そういえば、真瀬先輩のその髪型ってどうやってセットしてるんですか?」

「……え?」

その瞬間、姫松高校麻雀部は揺れた。

洋榎先輩は拳を握りしめ、俺を睨み付けた。

絹江先輩はおろおろと周囲を見渡した。

末原先輩は厳しい顔でマジックのキャップを取ったり付けたりし、上重先輩は天を仰いだ。

代行は笑っていた。
咲-Saki- 25巻 (デジタル版ヤングガンガンコミックス)
10: 2013/06/22(土) 23:16:06.14 ID:Y0maCKOCo
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真っ先に口火を切ったのは洋榎先輩だった。

「おい須賀ァ!どういうつもりや!」

どうと言われましても

「須賀君……それはちょっとないわ」

き、絹江先輩まで!

「私がもっとしっかりしてればなぁ……ごめんなぁ須賀君」

いやいやいや、何で末原先輩が責任感じてるんですか?

「ガ~ス~は駄目やなぁ~」

代行、あなたは黙ってて下さい

11: 2013/06/22(土) 23:16:40.17 ID:Y0maCKOCo
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「あー……須賀君なぁ」

見かねた様子で上重先輩が俺にそっと耳打ちする。

「うちの部じゃ真瀬先輩の髪型に関しては禁句なんや」

そりゃまたどうして?

「詳しくは私も知らんけど、何でも髪を解いた姿を人にあまり見せたくないとかなんとか。ほら、真瀬先輩の方見てみ」

なるほど。
先程から一言も喋らないと思ったら、真瀬先輩はほのかに顔を赤らめて俯いている。

「知らなかったんだからしゃあないわな。謝れば許してくれると思うで」

そうだったんですか。ありがとうございます、上重先輩。

「同じイジられキャラのよしみやな。ところで須賀君」

はい?

「さっきから腕がもぞもぞしてんのやけど」

そりゃあ上重先輩が耳打ちの体勢になれば俺の腕に密着しますよね。何が密着するのかは俺の口からは言えませんが。

「須賀君……」

はい。

「今度たこ焼きおごりな」

それはたこ焼きをおごれば、またこのような事を――

「殴るで、グーで」

誠に申し訳ございませんでした。

12: 2013/06/22(土) 23:17:19.29 ID:Y0maCKOCo
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「ええと、真瀬先輩……」

周囲の冷たい視線(一人だけ面白がってる視線)を感じながらも俺が真瀬先輩に話しかけた時、真瀬先輩は伏せていた顔を上げて、言った。

「皆……ちょっと席を外してほしいのよー」

「ちょっと……由子!」

「恭子。由子の言う通りにしようや」

大将として部を引っ張って行く人間の自覚なのか、洋榎先輩が末原先輩を諌める。

「30分くらいしたら戻ってくる……それでええか?」

「うん……」

俺と真瀬先輩だけしかいなくなった部室。

いつもの賑やかさはどこにも見出だせず、二人の間に横たわる沈黙だけが存在感を誇示していた。

13: 2013/06/22(土) 23:17:56.42 ID:Y0maCKOCo
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「……真瀬せんぱ」

「本当にあの四人は……」



「髪型ツッコマれるだけで取り乱すとかどんだけガラスのハートなのよー」

あの

「そりゃ昔は髪型について触れられるのはちょっと嫌だったけど、いつまでも気にしてるわけないやん」

ちょっと

「みんな心配性が過ぎるというかなんというか……」

真瀬せんぱーい

「須賀君。なんか変な空気にしてごめんな……あの四人も悪気があったわけじゃないから許して欲しいのよー……」

許す許さないなんて考える必要もなく許すのでそれは良いんですが。それよりも

「この髪型?んー……口で説明するより実演して見せた方が早そうやね」

真瀬先輩が髪留めを外し、結われた髪の毛を解く。
僅かに水分を含んだ絹糸のようになめらかで、それでいて柔らかそうな彼女の髪の毛が広がる。
普段の髪の毛を結った真瀬先輩の少女趣味な可愛さとは違う、深窓の令嬢のような雰囲気に俺の心拍数が上がる。

「流石にそんな見つめられると恥ずかしいのよー……」

す、すいません。新鮮だったものでつい……

「気にしてるのよー、この癖っ毛」

俺は良いと思いますよ。綺麗にウェーブが掛かってて

「……そう?ありがとう」

14: 2013/06/22(土) 23:18:27.10 ID:Y0maCKOCo
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ところで真瀬先輩

「なに?」

そこの扉の隙間から除く目について心当たりはありますか?

「洋榎……」

「ちゃうねん!恭子がな、どうしても気になるって聞かんから!」

「私のせいにするんですか!?ほら!元はと言えば代行が『由子ちゃん貞操の危機やで~』とか言うから!」

「は?いくのんのせいとか喧嘩売っとんの?」

「こんな時だけ冷静にならないで下さいよ!」

またいつもと同じ様な喧噪の中、髪を下ろしたままの真瀬先輩がちょんちょんと俺をつつく。

「ねえ、須賀君。今日の部活はこの髪型で過ごそうか?」

良いんですか?俺としては嬉しいですけど。

「なーんて嘘なのよー」

ええー

「この髪型は二人っきりの時にね?」

しゅるしゅると手際よく髪を結い上げると、真瀬先輩はいつものようにふんわりと笑った。

引用: 京太郎「断片集」