129: 2013/07/04(木) 23:54:38.67 ID:BPpqhOn9o
1/7


おはようございます、真瀬先輩

「……おはよ」

その日の朝は、真瀬先輩のいつもとは違う挨拶で始まった。
普段の真瀬先輩とは違う、固い――それでいて寂しげな表情。
俺の怪訝な表情に気付いたのか、挨拶を交わした後も言葉一つ残さず、逃げるように先輩はその場を立ち去って行った。
残された俺は呆けたように先輩の華奢な背中を見つめる。

――何が起こったんだ?

俺は自覚無しに、真瀬先輩に何か嫌な思いをさせてしまったのだろうか?
いや、もしかすると真瀬先輩だけじゃなく他の先輩方にも?

漠然とした不安感に襲われながらも、俺は次々と部室にやってくる先輩方に挨拶をする。

 おはようございます、上重先輩

「おはようさん、須賀君」

 おはようございます、絹恵先輩

「おはよう、須賀君」

 おはようございます、洋榎先輩

「おう、おはようさん」

 ……やっぱりおかしい

「え?なんでうち朝っぱらから後輩に喧嘩売られとんの?」
咲-Saki- 27巻 (デジタル版ヤングガンガンコミックス)
130: 2013/07/04(木) 23:55:12.75 ID:BPpqhOn9o
2/7


 いえいえ、洋榎先輩の事ではなくてですね、真瀬先輩の事です

「なんや?由子がどないしたん?」

 さっき、いつものように朝の挨拶を交わしたんですが、なんというかその……

 虫の居所が悪いと言いますか……まるで俺を避けているような感じがしたんです

「由子が?まさかぁ……由子が怒ったり、人を避ける所なんて一度も見たことないで」

 そうですか……俺の気のせいかな

「知らん間に壮絶なセクハラでもかましたんちゃうの?」

 ……壮絶なセクハラとは具体的に?

「女の口から何言わせようとしとんねん」

言えないような事を想像してたんか、あんた

131: 2013/07/04(木) 23:55:41.98 ID:BPpqhOn9o
3/7


そんな俺と洋榎先輩のやりとりを見守っていたのか、眉間に皺を寄せながら末原先輩が近づいてくる。

「朝から何やってるんですか、二人共……」

「お、恭子!おはようさん」

 おはようございます、末原先輩

「おはようございます。あ、そういえば須賀君おめでとう」

 はい?

あまりにも唐突な祝福に俺の目が点になる。

「知らばっくれるのがうまいなぁ。ほら、何か私たちに言うことがあるでしょう」

いつになく目を輝かせながら迫る末原先輩に、思わず頭を抱えそうになる。
……真瀬先輩の一件といい、今日はとことん厄日だ。

「まったく恭子は野暮なやっちゃな」

ちっちっちっと指を振りながらも末原先輩を制す洋榎先輩だが

「主将も知ってたんですか?」

「あったり前田のクラッカーや」

あんたもかよ。
あと古い、超古い。

132: 2013/07/04(木) 23:56:33.79 ID:BPpqhOn9o
4/7

そもそも"私たちに言うこと"とはなんだろう?末原先輩の表情から察するに悪いことじゃなさそうだけど






「それにしても、須賀が告白されるとはなぁ」

 ノーウェイノーウェイノーウェイノーウェイ!

「そんなにむきになって隠そうとしなくても」

 マジでないです!

照れ隠しとは思えぬ俺の剣幕に疑問を抱いたのか、先輩方は首をかしげる。

「……なぁ恭子、その話誰から聞いた?」

「……もしかして主将もですか?」

 ……ああ、大体わかりました

「呼ばれて飛び出ていくのん参上~」

赤阪郁乃監督代行。趣味は(おそらく)人を振り回す事。
やっぱりあんたか

133: 2013/07/04(木) 23:57:49.89 ID:BPpqhOn9o
5/7


「え~?だってガ~ス~が女の子と二人っきりでコソコソしてたの見たで~。あと何か手渡されてたやん?」

代行の言葉を受けて記憶を探る事、数秒。俺は思い出した。
確かに代行の言うような状況にはなった。だが――

 あれは俺の知り合いに渡すよう頼まれたもので俺宛だった訳じゃありませんよ

「うそん」

 ほんとん

無責任かつ適当な代行の反応を受けて末原先輩と洋榎先輩はやっと自分達の勘違いに気付いたようだった。

「このおばはんの言う事を素直に信じたうちらがアホやった……」

「右に同じです……」

「ていうかガ~ス~に告る女の子がいると思えへんしな~、いくのん失敗~」

「そうや!そっからおかしいやん!」

それを言ったら……戦争だろうが……!

134: 2013/07/04(木) 23:58:26.21 ID:BPpqhOn9o
6/7


ひとしきり言いたい事を言い終えると代行と先輩達は立ち去った。
……部活を始める前からなんで俺はこんなに疲れてるんだろう?
何はともあれ、いつまでもこんな所で油を売っている場合じゃない。
俺もその場を後にしようと振り返ると、

真瀬先輩がいた。

 ……

「……」

俺と真瀬先輩の視線はぶつからない。先輩の目線は出口を探すようにあちこちと彷徨う。
先輩はここで何をしていたんだろう?機嫌は直ったのか?そもそも、なんで怒ってたんだっけ?
怖い。沈黙が――先輩と目が合わせられない今この時が、怖い。

だけど、一番怖いのは、このまま先輩と何も話せなくなってしまうことだ。

腹に力を入れると、意を決して俺は口を開いた。

 ……あの!

「……あの!」

かぶった。

 ……先にどうぞ

「……先にどうぞ」

なんだこりゃ。これじゃあ、まるで――

135: 2013/07/04(木) 23:59:29.84 ID:BPpqhOn9o
7/7


俺と真瀬先輩は顔を見合わせ笑いあった。
他の部員が何事かと様子を見に来るのも構わずに。
――そして、笑いが治まると改めて向かい合う。

「……須賀君」

 はい

「ごめんなさいなのよー」

 わかりました

「……何も聞かないの?許してくれるの?」

 むしろ、俺が何かやってしまったんだと思ってましたから

「そんなことない!……私が」

 先輩

「……なに?」

 仲直りの握手で、手を打ちませんか?

「……うん」


長い間、牌を握り続けたために、少しだけ指の皮が固くなった先輩の手。
その手から伝わる力が少しづつ強くなるにつれて、先輩の表情は柔らかな笑顔へと変わっていく。
俺はただ、先輩の笑顔にいつまでも見惚れていた。

136: 2013/07/05(金) 00:00:54.87 ID:RU/Zu3KSo
次鋒戦が始まりますねー
のよーの出番が少しでも増える事を祈ってます


137: 2013/07/05(金) 00:04:06.40 ID:Bh6LI7umo
おつー
のよーかわいい

引用: 京太郎「断片集」