155: 2013/07/22(月) 00:52:04.36 ID:fIizW0/io
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その帰り道を選んだのは"なんとなく"だった。
ただ、今日の対局で一度も泉の順位を上回る事が無く、一日中あいつのドヤ顔を目にする羽目になったとか――
船久保先輩のデータ整理につき合わされて氏ぬ思いをしたとか――

――そういう出来事でクサクサした頭の中を入れ替えたいから、気分転換にいつもと違う道で帰ろうと思っただけだ
虫の知らせとか、そういう第六感めいたものがあった訳ではない、決して。
そう、予定外の行動だった。





そういう予定外の行動をとったからこそ、俺は道に迷った。



――どこだよ、ここ……

歩き疲れた足は既に棒を超えて鉛のように重くなっていた。
目に入る度に見覚えの無い街角には何の親しみも気安さも無く、むしろ俺の不安感を掻き立てる。
携帯は充電切れ。タクシーに乗れるような金も無ければ、道を聞ける人も見当たらない。
認めたくない。認めたくはないが――

人、その状態を迷子と言う。

……認めたら認めたらで更に気分が重くなるのが迷子の恐ろしい所だ。
どん底にまで落ち切った気分が、平時なら絶対に考えない、ありえないほど馬鹿馬鹿しい想像を呼ぶ。


このまま家に帰りつかなかったら?
このまま体力が尽きて途中で倒れてしまったら?

『――男子高校生、行き倒れ。原因は迷子』


――ああ、もっと親孝行すれば良かったな

ついでに泉にも優しくすれば良かった。

あと、一回くらい清水谷先輩の膝枕を堪能――

「いや、そこは私専用やし」

……ああ、ついに幻聴まで聞こえてきたな

「誰が幻聴やねん。勝手に人の存在を亡き者にせんといて――最も、本当の意味で亡き者になりそうやけど」

幻聴にしては発言がとんでもない。
というか、このあまりにも不穏すぎるブラックジョークは!

「園城寺先輩!」

「よーっす、須賀君」
咲-Saki- 27巻 (デジタル版ヤングガンガンコミックス)
156: 2013/07/22(月) 00:52:42.59 ID:fIizW0/io
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気だるげに、そして飄々とした感じで園城寺先輩が笑う。
その姿は校内であった時となんら変わりなく、偶然の出会いを必然だと錯覚させるほどに自然だった。

「こんちはっす」

「どしたん?こんな所で。ははーん……さては迷子か」

当たり前のように俺の現状を言い当てる。
この人の勘の良さは、もはや俺の理解の範疇を超えている。
さっきの発言だって、なんで俺が清水谷先輩の事を考えているとわかったんだろう?

「そら、女の勘って奴やな」

「……俺が考えてる事に返事すんのやめません?」

「白状すると、須賀君が発言しようとしてる内容の"先を読んでる"だけなんやけどな」

「スナック感覚で寿命削るの止めて下さい」

クスクスと笑う先輩の姿に、疲れも相俟って座り込みそうになる。
……駄目だ
この人と話してると、雲をつかむような会話しかできない。

だが、地獄で仏とはまさにこの事。
先輩ならきっと道を知っているに違いない。

「……俺の事はさておいて、園城寺先輩はここで何を?」








「迷子や」

……ん?

「すいません、もう一回良いですか?ちょっと聞き逃し「迷子や」」

…………んん?

157: 2013/07/22(月) 00:53:19.78 ID:fIizW0/io
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「人ってこんなに顔が青くなるもんなんやなぁ……」

「なんで地元民が道に迷ってんすか!?」

「そらウチにも知らん場所くらいあるに決まってるやん」



地獄で仏に会ったと思ったら、鬼だった。

「鬼とは失礼やな……せめて三途の川の渡し守くらいに」

あまりにものほほんとした園城寺先輩の言葉につい口が滑る。


「だから寿命削んなよ!」





「ほうほう……先輩にタメ口とはええ度胸やなぁ?」

儚げな雰囲気に似合わぬゲス笑い。
まるで最初からこれを狙っていたと言わんばかりの表情に、俺は悟る。

――嵌められた



「お詫びとして……」

「……お詫びとして?」

にやり、と園城寺先輩が笑う。
……やばい、この流れは……
次の瞬間、先輩は視界から消え――

――ぽふりと、俺の背中に何か柔らかくて暖かいものが飛び乗った。

「先輩のタクシーとして頑張りや」

「……お詫びなんですかね、これ?」

……只今絶賛密着中の背中のアレとか

「ふふっ、正直者やなぁ。まぁ、せめてもの駄賃やね」

顔は見えなくとも、俺の耳元で聞こえる先輩の笑い声が今の彼女がどんな顔をしているのかを雄弁に物語る。

「ほれ急いだ急いだ。歩き疲れたし、はよ家に帰りたいんや」

158: 2013/07/22(月) 00:53:55.11 ID:fIizW0/io
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確かに"お詫び"だ。
俺だって歩き疲れてるのに、人一人分の重さがプラスされるのだから。
普通だったら、それは十分に"罰"と成り得る
でも、背中から伝わる先輩の重さは同じ人間のそれとはとても思えなくて、俺に疲れよりも不安を強く感じさせた。
こんなにも暖かいのに、この人の体はあまりにも軽い。

――そんな俺の想いが、先輩の足を持つ手に力が入った事から伝わったのだろうか。
園城寺先輩はクスリと笑って、俺の首元にまわした腕に力を込めた。


「……苦しいっす」

「これくらい強くしがみついてれば、振り落とされることもないやろ?」

「……別に、何があっても落としませんよ、絶対に」

「ん……まぁ、信じとるよ」

少しだけ、背中の重みが増したような気がした。

俺は園城寺先輩を背負いなおすと、また一歩見知らぬ街を進む。






「ところで園城寺先輩」

「何や?」

「どの道を行けばいいんですか?」

「いや、だからわからんってば」

「……はい」

159: 2013/07/22(月) 00:58:05.46 ID:fIizW0/io
不定期とはいえ週二、三回は投下したいですねー

台本形式も好きなんですが、文章が下手糞なせいでついつい地の文に逃げちゃいますね
もっとお気楽にさくっと読める話を作りたいものです d⌒)   し   つ

161: 2013/07/22(月) 01:19:17.09 ID:NOO2ZvCQo
乙乙

引用: 京太郎「断片集」