268: 2013/09/02(月) 03:35:45.88 ID:024i2vXno
1/5
この土地に来て、初めて迎えた夜を今でもはっきりと覚えている。
右も左もわからないのに、手持無沙汰で家を出て気の赴くまま歩いた、あの夜の事を。
真夏なのに上着が無ければ凍えてしまうほどの寒さに驚いて、
以前いた場所と同じくらいの緑の濃さに安心して、
目に映るものが似ているからこそ、そこにいない人間――例えば”あいつ”とか――の事を考えてしまって、
俺は立ち止まった。
俺の事を知る人が一人もいないこの土地が――俺が知っている人が一人もいないこの土地が、たまらなく嫌だった。
誰かに名前を呼んでもらいたかった。
誰かの名前を呼びたかった。
要するに俺は、ホームシックに陥っていたのだ。
この土地に来て、初めて迎えた夜を今でもはっきりと覚えている。
右も左もわからないのに、手持無沙汰で家を出て気の赴くまま歩いた、あの夜の事を。
真夏なのに上着が無ければ凍えてしまうほどの寒さに驚いて、
以前いた場所と同じくらいの緑の濃さに安心して、
目に映るものが似ているからこそ、そこにいない人間――例えば”あいつ”とか――の事を考えてしまって、
俺は立ち止まった。
俺の事を知る人が一人もいないこの土地が――俺が知っている人が一人もいないこの土地が、たまらなく嫌だった。
誰かに名前を呼んでもらいたかった。
誰かの名前を呼びたかった。
要するに俺は、ホームシックに陥っていたのだ。
269: 2013/09/02(月) 03:36:18.79 ID:024i2vXno
2/5
あの時、どうして空を見上げたのだろう。
天体観測なんて趣味は俺には無いし、そもそも星座すらまともに覚えていないくらい星に対する興味が薄かったのに。
理由はどうあれ――俺は、空を見上げた。
懐かしい――と、思った。
綺麗だとか、凄いだとか、そんな感想の前に、体に染みついた記憶が蘇ってきた。
部活で遅くなって、仲間達とくだらない事を喋った帰リ道、あの一際輝く大きな星を見た。
大会で皆が頑張っている姿を見て、悔しさと嬉しさで一杯になった夜、あの星の並びを目で追った。
雪崩れこむように次々と思い出されてゆく記憶に俺はただ茫然としてしまって――
――先輩と出会った。
あの時、どうして空を見上げたのだろう。
天体観測なんて趣味は俺には無いし、そもそも星座すらまともに覚えていないくらい星に対する興味が薄かったのに。
理由はどうあれ――俺は、空を見上げた。
懐かしい――と、思った。
綺麗だとか、凄いだとか、そんな感想の前に、体に染みついた記憶が蘇ってきた。
部活で遅くなって、仲間達とくだらない事を喋った帰リ道、あの一際輝く大きな星を見た。
大会で皆が頑張っている姿を見て、悔しさと嬉しさで一杯になった夜、あの星の並びを目で追った。
雪崩れこむように次々と思い出されてゆく記憶に俺はただ茫然としてしまって――
――先輩と出会った。
270: 2013/09/02(月) 03:36:53.23 ID:024i2vXno
3/5
「しっかし、よくあんな道の真ん中でだらだら涙流してる奴に話しかけられましたね」
「確かにちょっと怖かったんですけど……」
隣を歩く先輩は、身長にだいぶ差のある俺の歩くペースに追いつこうと急ぎ足で歩いている。
少し歩みを遅くすると、ありがとうございます、とわざわざ話を中断して礼を言った。
先輩は話を再開する。
「私と同じ高校生に見えましたし、それに……」
「それに?」
「……凄く寂しそうでしたから」
彼女の左目が俺を見ている。
――先輩が練習で遅くなって偶然あの道を通った、あの日。
道の真ん中で泣いていた俺に先輩は少し怯えながらも話しかけてくれて、俺の話を聞いてくれた。
俺の話が終わった後、俺が通うことになる高校が先輩と同じだということがわかり彼女は言ってくれたのだ。
”私の部活に来ませんか?”、”新しい思い出を作りましょう”と――
我に返った俺は、さっきからずっと先輩と目を合わせていたことに気がついた。
小さな体をもっと縮めて先輩は顔を真っ赤にしていた。
「あの……そんなに見つめられると……」
「……え?ああ!すいません!」
「しっかし、よくあんな道の真ん中でだらだら涙流してる奴に話しかけられましたね」
「確かにちょっと怖かったんですけど……」
隣を歩く先輩は、身長にだいぶ差のある俺の歩くペースに追いつこうと急ぎ足で歩いている。
少し歩みを遅くすると、ありがとうございます、とわざわざ話を中断して礼を言った。
先輩は話を再開する。
「私と同じ高校生に見えましたし、それに……」
「それに?」
「……凄く寂しそうでしたから」
彼女の左目が俺を見ている。
――先輩が練習で遅くなって偶然あの道を通った、あの日。
道の真ん中で泣いていた俺に先輩は少し怯えながらも話しかけてくれて、俺の話を聞いてくれた。
俺の話が終わった後、俺が通うことになる高校が先輩と同じだということがわかり彼女は言ってくれたのだ。
”私の部活に来ませんか?”、”新しい思い出を作りましょう”と――
我に返った俺は、さっきからずっと先輩と目を合わせていたことに気がついた。
小さな体をもっと縮めて先輩は顔を真っ赤にしていた。
「あの……そんなに見つめられると……」
「……え?ああ!すいません!」
271: 2013/09/02(月) 03:37:30.57 ID:024i2vXno
4/5
風が吹き付ける。
故郷とは違う、夏の匂いがしない北の大地の冷たい風だった。
その冷たさが俺達の間の火照りを取り去ってもくれたが、俺には少し涼しすぎた。
「あの夜もそうでしたけど……やっぱり夏でもこの時間は結構寒いですよね、この辺」
「私はもう慣れてしまいましたけど……須賀くんは寒いですか?」
「あはは……習慣のせいか、どうしても半袖で出ちゃうんですよ」
「そうですか……」
突然、彼女は俯いてしまう。
そのまま何かを祈るようにぎゅっと目をつぶると、よしっ、という掛け声の後、目を開けた。
「……寒いなら、手、つなぎませんか……?」
「……はい?」
風が吹き付ける。
故郷とは違う、夏の匂いがしない北の大地の冷たい風だった。
その冷たさが俺達の間の火照りを取り去ってもくれたが、俺には少し涼しすぎた。
「あの夜もそうでしたけど……やっぱり夏でもこの時間は結構寒いですよね、この辺」
「私はもう慣れてしまいましたけど……須賀くんは寒いですか?」
「あはは……習慣のせいか、どうしても半袖で出ちゃうんですよ」
「そうですか……」
突然、彼女は俯いてしまう。
そのまま何かを祈るようにぎゅっと目をつぶると、よしっ、という掛け声の後、目を開けた。
「……寒いなら、手、つなぎませんか……?」
「……はい?」
272: 2013/09/02(月) 03:38:05.67 ID:024i2vXno
5/5
あの夜のような震え声だった。
本当は誰よりも怖がりな彼女が、小さな体からありったけの勇気を出して行動しようとした証。
差し出された手は所在なさげに俺に向かって差し出されていて、助けを求めているようにも――こちらを助けようとしているようにも見えた。
「あの……嫌でしたか……?」
「いえ!嫌じゃないんです!嫌じゃないんですけど……」
「?」
「……良いんですか?」
俺の言葉に一瞬ぽかんとしたものの、彼女はすぐに答えた。
「だって、須賀くんですから!」
……その言葉をどう受け取ればいいのだろう。
ほんのりと暖かい彼女の小さな手を握って俺は悩む。
彼女の真意はわからないが、一つだけ確かなことがある。
きっと、これもまた新たな思い出になるということだ。
星がまた一つ、輝きを増したような気がした。
あの夜のような震え声だった。
本当は誰よりも怖がりな彼女が、小さな体からありったけの勇気を出して行動しようとした証。
差し出された手は所在なさげに俺に向かって差し出されていて、助けを求めているようにも――こちらを助けようとしているようにも見えた。
「あの……嫌でしたか……?」
「いえ!嫌じゃないんです!嫌じゃないんですけど……」
「?」
「……良いんですか?」
俺の言葉に一瞬ぽかんとしたものの、彼女はすぐに答えた。
「だって、須賀くんですから!」
……その言葉をどう受け取ればいいのだろう。
ほんのりと暖かい彼女の小さな手を握って俺は悩む。
彼女の真意はわからないが、一つだけ確かなことがある。
きっと、これもまた新たな思い出になるということだ。
星がまた一つ、輝きを増したような気がした。
273: 2013/09/02(月) 03:39:41.39 ID:024i2vXno
誰かはご想像におまかせします
と言ってもバレバレなわけですが
そういえば、阿智ポにまさかの出演&しおり化おめとうございますー
と言ってもバレバレなわけですが
そういえば、阿智ポにまさかの出演&しおり化おめとうございますー
引用: 京太郎「断片集」



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