679: 2012/02/10(金) 13:35:32.81ID:e2NZrqKR


真の姉ギリとは何か――。
仕事中でもそんなことを考えたらこんなSSになった。


※作中の個人、団体、事件はすべて架空のものです。


―――――

「姉さん、起きて、姉さん。ほぉら……!」
「……きちんと聞こえているから揺すらないでくれる?」
「ダメだよ、ほっといたら二度寝するじゃないか。
 明日から寮での生活をするのに、そんな調子で大丈夫なの?」
「そんな気遣い不要よ。……弟のクセに生意気ね」

そう文句を言いながらノッソリと起き上がる女性。
僕の姉さんだ。
パサつく寝癖も気にせず、欠伸をかみ頃しながら椅子に座った。
「朝ご飯」
「はいはい、もう少しで完成だよ」
フライパンで炒めたスクランブルエッグを二枚の食器に盛り付ける。
皿の隅っこにケチャップを添えれば出来上がった。
「はい、どうぞ」
「ん、ありがとう」
エプロンを椅子の背もたれに掛けて、僕も姉さんとは反対側の椅子に座る。
普段使うことのない、もう一つの椅子に。
「それでは手を合わせてください、いただきます」
「……いただきます」

それ以降、僕らは無言で朝食を食べて食器が鳴らす音しか響かなくなった。



まずはオーソドックスに自己紹介から始めたいと思う……。
僕の名前は霧切誠だ。

外見はご覧の通り、どうしようもないほど平均的な普通の高校生。
強いて特徴を挙げるとすれば、僕の家族が探偵一家だということだろうか。
行く先々で事件に遭遇し、お爺ちゃんの名をかけて華麗にズバッと解決する名探偵……ってわけもなく。
性格にも特技にも成績にもこれといった特徴はない。

むしろ、探偵一族の才能を色濃く発揮しているのは目の前にいる僕の姉、響子姉さんの方である。
だからこそ、当主であるお爺さんの傍にいて"超高校級の探偵"と呼ばれるくらいの凄腕の探偵になっているほどに。

そもそも僕らの家族も少々事情があったりする。
まず、父さんと母さんがいない。 正確には「いた」の過去形だ。
母さんは僕らが幼い頃に亡くなった。
そのすぐ後に今度は父さんが僕らの元を去るように家から出て行った。
姉さんはお爺さんに引き取られる形で海外にある霧切本家へ。
対する僕は母さんの親戚筋に引き取られた。

今の学費や生活費といったお金は、お爺さんからの援助で成り立っている。
そうして今はマンションの一部屋を借りて、一人暮らしをしながら高校に通っていた。

一家離散していたけど海外で暮らしていた姉さんがこのたび、希望ヶ峰学園に入学することになった。
荷物も既に送ったようで、手ぶらで僕の部屋にやってきた。
なんでも、ホテルで宿泊するよりは効率がいいという理由から僕を訪ねてきたようだ。

681: 2012/02/10(金) 13:39:13.51ID:e2NZrqKR
>>679続き

……でも年月の積み重ねは時に人を変えてしまうものだ。
昔はあんなに笑って一緒に遊んでいた姉さんが、物静かな印象になっている時はびっくりした。
それでも、姉という特権を駆使して僕を使い走りにしているところは相変わらずだったけど。

「姉さんは今日の予定、どうするの?」
「私はそうね……家で休んでいるわ。 昨日の誰かさんの引越しの手伝いをして疲れがまだ残っている感じね」
「それだったら僕の部屋のベッドを使う? ソファで寝てても疲れが取れると思うよ」
「あら、誠は出掛ける予定なの?」
「うん、人と会う約束があるんだ」
「そう……。ガールフレンドだったりする?」
「それは違うよ! あ、それとお昼は外で食べるから姉さんも適当に頼むね」
「わかったわ。それと、あまり遅くまで遊んでちゃ駄目よ?」
「もちろん、明日の入学式が朝の8時集合だからでしょ?」
「えぇ。入学早々、姉弟で遅刻なんていう失態は勘弁してほしいわ」

食べ終わった食器を洗いながら、そんな遣り取りをする。
そして僕は着替えて外出することになった。

―――――

希望ヶ峰学園には入学願書というものがない――。
それはスカウト制を今も貫いていて、姉さんのように才能溢れる人に入学案内の書類が届く。
それが僕のような普通の高校生がこのたび、姉さんと一緒に希望ヶ峰学園に入学することになった。なぜか。

全国にいる高校生の一人から抽選で選ぶ"超高校級の幸運"という枠に僕が選ばれたからだ。
そんな当選を伝える文面と一緒に入学案内の書類が入った封筒が先日、僕の部屋に届いた。
そこからは慌てるように転校手続きや、入学に必要な書類の準備を用意していた。
昨日になって姉さんの力を借りながら寄宿舎に送る荷物を送ったばかりだ。


そんなここ数日のドタバタぶりを振り返りながら腕時計の刻む時間を確認する。
約束の時間まで2分を切っていた。

指定した喫茶店の窓から外の様子を眺めていると、黒塗りのリムジンが駐車する。
その後部座席から出てくる黒スーツの男性が、そのまま喫茶店の入り口のドアを開けて入店した。
入り口で店員と二三、遣り取りをした後に僕の向かいの席に座った。

「私はブレンドを一つ。……お前は何を飲む?」
「同じもので」
「じゃあブレンド二つで」
「かしこまりました」

そう言って店員は店の奥に下がっていった。

「さて、私にはあまり時間がない……。話せるとしても10分だ」
「……10分でも僕には十分な時間だよ」
「そうか」

希望ヶ峰学園の学園長であるあなたと話が出来る時間があるならば。
僕の父さん、霧切仁と親子の会話が数年ぶりに交わされた。

「まずは……入学案内の書類の中にあった"来い"っていう手紙を書いた理由を教えてくれる?」


続く

817: 2012/02/22(水) 15:00:19.93ID:0S2ti4dg
>>679-681
姉弟SSの続きを投下


"来い"

希望ヶ峰学園から届いた封筒の中にあった一枚の紙切れ。
誓約書みたいな署名を記入する欄が一つもなく、その二文字だけが書かれていた。

最初は書類の誤送か何かと思って、電話で問合せ先の学生課に確認をとってもらった。
そして保留中に流れるメロディの後に応対した人が学園長の父さん本人だったわけだ。
予想外の展開に僕は戸惑っていると、父さんの方からここで会うように指定してきた。
「詳しいことはその時に話す」って一方的に電話は切られたけど。


僕らの席のテーブルにブレンドコーヒーが2つ置かれた。
お互いソレに手を付けず、カップから浮き出る湯気だけが浮いている。

「まず、その書面は本当に私以外の人が書いたものだと疑わなかったのか?」
「それは……思わなかった」
「……その理由を聞かせてくれるか?」
「学園長という立場が忙しいから、かな。
 回りくどいことをする手間すら時間がないと思ったから」

だからこそ僕が確認の電話を入れたら父さんが出てきた。
まるで、僕が父さんの用意したシナリオ通りに動いてくれるように。

「ふむ……。やはり探偵の素質はサッパリのようだな」
「サッパリって……」
「他人の裏側を覗き込んで背面を盗み見て、一切の未知を許さないのが探偵だ」
吐かれる溜め息と共に、どこかで安堵しているのか口角が上がっている。

「僕に探偵の才能がないってことがわかってるなら、どうして姉さんと一緒に呼び寄せたの?」
「それは……お前にも利用価値があると思ったからだよ」

今まで僕が見たことのない父さんの顔を始めて見たような気がした。
実の息子と言えど、値踏みをするようにひどく鋭い目つきで。
「第二のカムクライズルを生み出す鍵としての、な」

第二のカムクライズル? 鍵だって?
頭の上で「?」が次々と浮かぶ。
父さんは少しだけ僕の方に顔を近づけて小声で話す。
どうやら、あまり周りの人に聞かれると都合が悪い話らしい。

818: 2012/02/22(水) 15:01:58.26ID:0S2ti4dg
「要点をまとめるとこうだ……。そいつは"超高校級の希望"なんて呼ばれる凄い人間を作り出す計画でな。
 カムクライズルってのも、学園は総力を挙げて研究をして育て上げたあらゆる才能を身に付けた超人を作り出したんだ」
「はぁ……」
とにかくそのカムクライズルっていうのは凄い人らしいことだけは掴めた。
「そいつがどこの誰で男か女かは秘密だけど、第2のカムクライズルを作るっていうプロジェクトもあってな。
 ……その候補に響子が浮かび上がったんだ」
「ね、姉さんがっ!?」
「今は"超高校級の探偵"ではあるが、この環境に置けば"超高校級の希望"に覚醒を促せる可能性があると思ってな」
「そうなんだ……。でも、なんで姉さんに白羽の矢が立ったのさ?」
ネットの掲示板で判明している人達ではなく、なぜ表沙汰にされない姉さんなんだ?

「霧切一族の逸材と呼ぶにふさわしい才能だったからだな。
 だが、私個人としては探偵という存在に囚われる必要はないって思っているからさ」

今度は顔の前に組んだ両手を置いている姿勢なりながら父さん続きを語る。
何だか昔見たロボットアニメの司令みたいだ。

「探偵というのは事件が終わるまで何もできない……。もしくは事件になる前に解決することができない」

声に抑揚はなかったけど、苦虫を噛むように悔しそうな表情を浮かべている姿に僕は見えた。

「つまり……、僕は姉さんが"超高校級の希望"になるためのキーパーソンだったりするんだね?」
「そうだ。ゆくゆくはカムクライズルとの間に子供を授けてもらって、生まれてきた子供により効率的な"超高校級の希望"を生み出す教育を受けてもらうことにするのが目的の最終地点だ。
 どうだ、わかってくれたか……?」

その言葉からカムクライズルっていう人が男の人だってことは僕でもわかることができた。

819: 2012/02/22(水) 15:04:46.42ID:0S2ti4dg
でも――。

「そんなの、そんなのわかるわけないよ……!」

太腿の上に置いていた両手が震えている。
実の子供達を自分の目的のために道具として利用する父さんに――。
そんな父さんを止める術がなく、歯車の一つとして扱われる自分の無力に――。
僕は憤りで震えていた。


「だったら、立候補するか?」
「……へ?」
「お前も"超高校級の希望"に」

思いもよらない提案に僕は素っ頓狂な声を出してしまう。

「生まれや育ちだけで全ての才能が発揮するとは限らない。土壇場の状況になって真価を発揮するような才能のケースだってある。
 今は何の才能も開花していないお前も、案外そのタイプだったりするかもな」 

そう言っておもむろに僕の頭をくしゃくしゃと撫で回す父さん。
「やめてよ父さん、恥ずかしいよ……」

――嘘だ。
本当は子供の頃から大好きだった仕草の一つなのに。
もっと撫でて欲しくてぐずっている子供と一緒じゃないか。

「そうだな、すまん。お前の成長した姿を見れたものだから、つい嬉しくて昔のようにやってしまった……」
「べ、別にそこまで怒っているわけじゃないから気にしなくていいよ」
「……誠。気づけばお前も大人の仲間入りをしていたんだな」
「な、何を突然言い出すのさ。年齢的にもまだまだ子供じゃないか」

もっと撫でてください、って言える雰囲気じゃなくなってきた。

「そうじゃないさ。一人暮らしをしながら高校に通うようにしたのは自分から申し出だったんだろう?」
「えっ、父さんは知っていたの?」
「あぁ。仕事が忙しいから知り合いの興信所に頼んで調査結果を聞くだけのレベルだけどな」

なんだか、こういうところは実に探偵一家らしい。

「一人暮らしを選んだのは叔父さんと叔母さんにあまり迷惑をかけたくなかったって理由からなんだろ?
 ……お前から見れば私は家とお前達姉弟を捨てた男でしかない。それでも見守りたかった気持ちが抑えられなくて、な」
「まさか、一人暮らしの援助をしてくれていたのって父さんが……!」
「その辺の事情はノーコメントってことにしてくれないかな? それよりも大事なことは誠が大人になっていることだ」
「大人……」
「自分で考えて、自分の意思で行動すれば大人の仲間入りだと私は思っている。
 もちろん、響子も自分の意思で探偵になったことを知っているから一人の大人として対応するさ」

そう言って腕時計の時刻をチラリと見た後、眉を顰めたのだった。

「本当はもっと時間を設けて話をしたかったけどな……。
 誠、宿題だ。お前は明日までに自分の戸籍謄本を調べて来い」
「えっ?」
「市役所に行って取り寄せたら、次は民法を調べてくれ。817条だ」
父さんが支払伝票の紙を持って席を立つ。
「父さん!」
「時間だ。続きは入学式の後で! ……なんてな」

820: 2012/02/22(水) 15:06:22.14ID:0S2ti4dg
そう言って足早にレジにお札だけを置いて、待たせていたリムジンに乗って走り去っていった――。
実に数年ぶりの親子の再会はあっさりと、それでいて宿題が出るという妙な形で終わった。


続く


次回、スーパーアネギリタイム。
家族=何でも許されるという解釈したが故に、とんでもない内容に。

忙しさと遅れたバレンタインSSの製作を進めた理由でアネギリSSがかなり遅れてしまいました。
どうもすいません。
もう少しアネギリSSにお付き合いください。

超高校級の姉弟【後編】

引用: 【ダンガンロンパ】霧切響子はクーデレかわいい【FILE.7】