29: 2015/03/21(土) 01:27:55.60 ID:hD5JILxZ0


最初から:三日月「もっと……もっと頑張らないと……私は」電「……三日月ちゃん」
「艦これ」運営鎮守府 公式カレンダー二○二六


 〈鎮守府近海〉

 ザー、ザー

電「く、訓練以外で航海するのは初めてなのです」 オロオロ

三日月「電さん、大丈夫ですか?」

電「は、はい。三日月ちゃんの足を引っ張らないように……頑張るのです」

三日月「……電さん」

三日月「そんな気にしなくて大丈夫ですよ」

三日月「何事も経験ですし、助け合い協力し合うのが仲間です」

三日月「足を引っ張らないように頑張るのではなく、一緒に支え合って頑張りましょうっ。私だって、まだまだ未熟者ですから」 ニッコリ

電「み、三日月ちゃん」

三日月「ね?」

電「は、はい。……あ、あの……ありがとう」 ニコリ

三日月「ふふふ、いえいえっ」

30: 2015/03/21(土) 01:36:07.17 ID:hD5JILxZ0

 ザー、ザー

電「深海棲艦は、いなそうですね」

三日月「ですね。けど、用心するに越したことはありませんよ」

電「……」

三日月「電さん? どうかしましたか?」

電「……変な事、聞いても大丈夫ですか?」

三日月「変な事、というと……?」

電「そ、それは……その……」

三日月「ゆっくりで大丈夫ですよ?」

電「はい…………三日月ちゃんは」

電「戦争には勝ちたいけど、命は助けたいって……おかしいと思いますか?」

三日月「……え?」

 彼女からの問いは、私が今まで聞かれたことが無いものだった。

31: 2015/03/21(土) 02:04:55.06 ID:hD5JILxZ0

電「変な事言ってるのは……電が一番分かっていることなのです」

電「けど、電は……あまり戦いたくはないのです。沈んだ船も……できれば助けたいのです」

電「……それが“人類の敵”である、深海棲艦であってもなのです」

三日月「……」

 この時、私は改めて理解した。電さんは、優しすぎるんだって事を。
 どう答えればいいか、すぐには頭に浮かばなかった。聞かれたことが無かったから。そんなこと、誰かから聞かれるとは思っていなかったから。

三日月「私は……電さんの言っていることは……おかしいとは思いません」

 だからこそ、私は素直に伝えた。

三日月「だけど、私達は……深海棲艦を倒すために造られた存在です。私達が戦わなければ、人類は制海権を奪われてしまいます」

電「……はい……」

三日月「私は、個人的に深海棲艦へ恨みは今のところありません。ですが、家族が乗っていた船を深海棲艦に襲撃され、家族を亡くした人だって世の中にはいたりします」

三日月「今もどこかで、深海棲艦が人類を脅かしているかもしれません。私達はそんな人類の、希望の光なんです」

三日月「だから私は、負けたくはありません。……戦いなんですから」

電「……やっぱり、電が言っていることは間違っ――」

三日月「けど、電さんが言っていることを私は間違っているなんて思いません。いや、思いたくありません」

 ギュ

電「み、三日月ちゃん……」

32: 2015/03/21(土) 02:54:47.53 ID:hD5JILxZ0

三日月「深海棲艦も、もしかしたら私達と立場は同じなのかもしれません。本当は戦いたくないのかもしれません」

三日月「でも、私達は……深海棲艦が何なのであるかすら解明できてません」

三日月「それでも、戦っているんです。……戦争をして……いるんです」

三日月「そんな中でその優しい気持ちを持てることを、間違っていることだなんて思いたくありません。例え周りが電さんに何か言ったとしても……私は立派だと思います」 ギュー

電「……そんなこと言われたの、初めてなのです」

三日月「……争いを争いで解決するなんて、本当は良くない事だと思います。けれど、私達は戦わなければいけません」

三日月「私が今握っているこのあなたの手でも、いつかは深海棲艦を撃たなければいけない時が絶対に来ます。その時は、迷わないで……」

三日月「……そうでないと……やられてしまうのは電さんなんです。そんなの、私はいやです」

電「……はい、なのです」

電「三日月ちゃんに言ってみて……良かったのです。……ありがとう」 ギュー

三日月「はいっ」

 ……いつか、戦争が終わる時、平和が訪れる時。その結果が和解で終わるためには、電さんのような優しい心を持った人が絶対に必要だと私は思う。

三日月(何も感じないまま戦うより、全然いいに決まってる……)

 ブクブク

電「? 何の音でしょうか?」

 ブクブクブクブク

三日月「――!! 電さん!! こっちに!!」 グイ

電「――はにゃあ!?」

 バシャーンッ!!

イ級「……」


電「深海……棲艦……?」


33: 2015/03/21(土) 03:33:56.61 ID:hD5JILxZ0

 海から浮上してきたそれは、私達の敵だった。深海棲艦、駆逐艦イ級。

三日月「……嫌な、タイミング……ですね」

電「し、司令官さん! 聞こえますか!?」

 ザザ

提督『こちら、司令室。私だ。電、もしかして深海棲艦が現れたのか?』

電「は、はいなのです! 数は駆逐艦イ級一隻、なのです!」

イ級「ィ――!!」 ギー

電・三日月「「!!」」

バン!

三日月「電さん!」 グイ

ザバーン!!

電「三日月ちゃん! あ、ありがとうなのです!」

三日月「大丈夫です!」

提督『……音からして、発砲してきたな』

提督『やむを得ないな……二人とも、なんとか撃沈させるんだ。無茶はしないようにな』

電「――ッ!」

電「は、はいなのです」

三日月「…………」

 私が握っている電さんの手は、震えていた。

三日月「……私が、やらないと……」

三日月(私が、この子を守るんだ)

イ級「……」 ギー

三日月「!! 電さん、動きますよ!!」 グイ

電「は、はい!」 ザッ

ザー、ザー

バンバン!!――ザバーン!!

三日月「……しつこいです……!!」

電(だ、ダメだ……わたし、三日月ちゃんの足引っ張っちゃってる……)

ザー、ザー

三日月「よし、ここまでくれば……! 電さん、手を放しますよ!」 ピタ

電「へ? あっ、はい!」 バッ

三日月「イ級は……私が倒します」 ザッ

電「み、三日月ちゃん!」

 一旦イ級から離れ距離を置く。そして私は単艦で再びイ級に近づく。こうすれば、ヤツは私を狙ってくる。電さんに攻撃はいかせない。

イ級「……」 ギー

三日月「当たってっ……!」 ガチャ

 バンッ!!

34: 2015/03/21(土) 06:15:28.29 ID:hD5JILxZ0

イ級「!?」

 ドカーン!

三日月「当たった!」

イ級「……ィイイイイ――!!」 バン!

三日月「!?」 シュッ

 バシャーン!!

三日月(あ、危なかった……反応がもう少し遅れてたら、直撃してた)


電「み、三日月ちゃん! ……い、電だって、戦わなきゃ……」 プルプル

電(……あ、足が……動かない……手も震えてる……三日月ちゃんが、戦っているのに)


三日月「えぇい!!」

 バンバン、バン!!

イ級「――!!」

三日月(当たってる。ちゃんと弾は当たってるはずなのに、直撃しているはずなのに!)

三日月「まだ、倒せないの!?」

イ級「イィィィイイ――!!」

三日月「いや、効いては……いる。――それなら!」 カチャ

三日月「魚雷を――ひぃあ!?」

 ドーン!!


電「み、三日月ちゃん!!」


イ級「……イィィィィ」 ギー

三日月「ぁ、ぐぅ……!」

三日月(……直撃……中破……)

三日月「なんてこと、するのよ……服が台無し……」

三日月「……こんなの、痛く……ない!!」

三日月「私が……頑張らないと……!」

35: 2015/03/21(土) 06:46:36.58 ID:hD5JILxZ0


電(お願い! 動いて……電の身体……動かないと、三日月ちゃんが!!)

提督『――づま! 電! 今どうなっているんだ! 状況は!』

電「――!!」

―――――――――――――――――――――


提督『誰だって最初は素人なんだ。三日月もいる。君は一人じゃない。……頑張れ、電』 ナデナデ

電『……は、はい! 頑張ります……電の本気を見るのです!』


―――――――――――――――――――――

電「……電が……電が……頑張らなきゃ……!! あんなこと言ったのに……三日月ちゃんが……必氏に戦ってるのに……!!」

電「電が……頑張らないと……!」 プルプル

電「電が……いなづまが!!」 ジワァ

 ザー!!

電「電だって!! 電だってぇ!!」ガチャ

 バン!!


イ級「!?」 

ボカーン!

三日月「……え?」

 ザッ!

電「はぁ、はぁ……」

三日月「い、電さん……」

36: 2015/03/21(土) 07:30:03.31 ID:hD5JILxZ0

電「ひぐ……ひっぐ……!」

イ級「……」 ザバーン

三日月「て、敵艦……撃沈……」

電「み、三日月ちゃん……!!」 バッ

 ギュー

三日月「電さん……あなた……敵を」

電「ごめんなさい!! いなづまの!! 電の、せいで……三日月ちゃんが……三日月ちゃんが……!!」

三日月「……電さん」

三日月「私は、大丈夫ですよ? だから、泣かないで?」 ヨシヨシ

電「でも、でもぉ……!!」

三日月「…………」 ギュー

三日月(……私がすぐにイ級を倒せていたら……電さんは悲しむことはなかったのかもしれない……)

 申し訳ない気持ちになった。それと同時に、12.7cm連装砲を三発も当ててもイ級すら倒せない自分の無力さを改めて感じた。出撃したことがまだ一回もなかった、電さんの12cm単装砲の一発で倒せた敵ですら、私は倒せなかったんだ。恐らく、私はイ級が小破になるくらいしかダメージを与えることができなかっただろう。


『艦娘が使用する装備の性能は、使用者によって大きく変わるんだ。つまり、“使用者の実力が無い”と、例え良い装備を使ってもその性能は発揮されないんだ』


三日月「…………」

 前の司令官に教わった言葉が、頭を過ぎった。

三日月(私は……本当に……弱いんだなぁ……)

電「うっく、うう……!!」 ギュー

三日月「……」 ギュー

 私は、ただただ電さんを抱きしめる事しかできなかった。

45: 2015/03/22(日) 08:00:17.39 ID:tYygIWBm0

 ――ザザザ

提督『電! 三日月! 大丈夫か!? 状況はどうなっている』

電「ぐす、ぐす……」

提督『電……泣いているのか……?』

三日月「電さん、少し通信機借りますね」

三日月「司令官、私です。三日月です」

提督『!! 三日月、大丈夫か!?』

三日月「……私は一発被弾してしまい、中破状態です。でも、安心してください。電さんは無傷ですし、イ級は撃沈しました」

提督『……お前が中破状態でどう安心しろって言うんだ! ふざけるんじゃない!!』

三日月「!?」

電「え?」

提督「――!! ……す、すまん。……とりあえず、状況は分かった。詳しくは戻ってきたときにまた聞く。すぐに帰還するんだ」

三日月「りょ、了解……しました。失礼しました」

 ――ブッ

三日月「…………」

 まさか、怒られるだなんて思ってもいなかった。

三日月(……司令官は、私のことをそんなに知らないからあんなこと言えるんだ。……私の事を詳しく知ったら……絶対に)

46: 2015/03/22(日) 08:34:34.05 ID:tYygIWBm0

 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

三日月「い、電さん……別に大丈夫ですよ?」

電「ダメなのです! 電のせいで……三日月ちゃんは怪我をしまったのです。これくらいさせてください」

三日月「……わかりました。なら、お言葉に甘えます」

 電さんは、私の手をずっと引っ張ってくれた。別に、そんなに気にしなくてもいいのに……電さんは罪悪感を覚えてしまっているのかもしれない。むしろ、申し訳ないのは私なのに。

電「あっ、司令官さんが港にいるのです」

三日月「……」

 ザザン

提督「二人とも、お疲れ様」

電「は、はい……艦隊がお戻りになったのです」

三日月「……艦隊、帰還しました」

 司令官は、戻った私達を見て安心したかのように笑っていた。

提督「初の出撃で、大変だったろう。詳しい報告は入渠が終わってから聞くから、今は休むんだ」

電「……電は……足を引っ張っちゃっただけなのです……」

提督「ほら、そういうのは後だ。君たちが帰ってきただけでも私は安心だよ。とりあえず入渠だ入渠」 ポンポン

提督「それと、三日月」

三日月「……はい、何でしょう」

 スタスタ

三日月(司令官が、私の方にやってくる……やはり先ほどの事で怒られるだろうか……それよりも、失礼の無いようにしなきゃ)

 スタスタ ピタ

提督「……」

三日月「……」 フルフル

 司令官が、私の前でじっと見つめてくる。たったそれだけのことで、私の身体はなぜか震える。……必氏に自分語りかける。

三日月(失礼の無いようにしなきゃ……失礼の無いようにしなきゃ、失礼の無いようにしなきゃ失礼の無いようにしなきゃ)

三日月(それに、怯えるな私……震えるな私。この人は、前の司令官じゃない。優しい人だって、会って間もないけど分かる。本当に心配していることだってわかる)

 ――でも、前の司令官だって……“最初”は優しかった。

47: 2015/03/22(日) 09:43:48.72 ID:tYygIWBm0

 ――転属命令が出たのだって、私のせいだ。優しくなくなったのも、私のせいだ。姉妹を馬鹿にされるようになったのも、私のせいだ。

三日月(……全部、私のせいなのは……分かってるんだ……でも、でも……)

 ――それだけは、許せなかったんだ。

提督「三日月」 スッ

 司令官が、手を伸ばしてくる。

三日月(――!! 何もしちゃダメだ、拒絶なんかしちゃダメだ、三日月。大丈夫、この人が私を……“殴る”わけないんだから……!!)

三日月「…………ッ」 フルフル

 スー

提督「……そんなに、怯えなくて大丈夫だ」

 ナデナデ

三日月「……し、しれい……かん?」

提督「……三日月が前の鎮守府でどんな風に過ごしていたとかは、まだ分からない」

提督「でも、何かあったんだなって事は……なんとなくわかるさ」

三日月「……」

53: 2015/03/22(日) 10:35:28.25 ID:tYygIWBm0

提督「別に、話してくれとは言わないさ。俺の最初の仕事は、お前達から信頼してもらえる提督になることだって思ってる。信頼もしていない上官に、打ち明ける事なんてできるはずないしな」

提督「幻滅するかもしれないけど、ぶっちゃける。俺、仕事中はできるだけ威厳がありそうにしゃべってる。……けど、実際は見かけどおり若造だ。まぁ、口調なんか変えても意味ないかもしれないけどさ」

提督「……んで、今は上官とかそういうのは関係なく言う。……お前らは、俺の仲間だ。遠慮なんかいらないし、何かあった時は全力で俺がお前らを支えてやる」

提督「だから三日月……怯えなくていい。震えなくていい。手を振り払ったことだって、気にすんな。……自分を軽く見るな。相談だって、いつでも受ける」 ナデナデ

三日月「……司令官……」

電「……司令官さん……」

 震えは、いつの間にか止まっていた。私の頭を優しくなでる司令官の手は、とても大きく感じた。

提督「……いや、ごめんな。入渠前だってのに長い話しちゃってさ。……とりあえず三日月、これ羽織っとけ」 バサ

三日月「え? だ、大丈夫ですよ! 私、塩水で濡れちゃってますし……これじゃ司令官の上着が」

提督「そんなの関係すんなって。……女の子が素肌晒すもんじゃないしな」 ポンポン

三日月「あっ……///」

 自分の状態を、ついつい忘れてしまっていた。結構痛かったはずなのに、なぜ忘れていたのだろうか。

提督「そんじゃ、入渠するとこまで案内するから付いてきてくれ。行くぞー」 スタスタ

電「……三日月ちゃん、行きましょうなのです」 ギュ

三日月「……はいっ」

 司令官の上着は、とても暖かかった。手を引いてくれる電さんの手も、温かかった。

54: 2015/03/22(日) 11:02:58.61 ID:tYygIWBm0

〈入渠場〉

 カポーン

電「はぅぅ……あったかいのですぅ~」

三日月「ですねぇ~……これは……すごく癒されます~」

 私達艦娘は、入渠するとなぜか身体の痛みとかが消え、傷が癒える。いったいどういう事なのかは、自分でも疑問です。

電「……三日月ちゃん、本当にごめんなさいなのです……」

三日月「ふふ、もう。電さんは優しすぎますよ。もう……大丈夫ですから。私ももう、あんな無茶はしません。それに、私が不甲斐ないばかりに電さんに敵を撃たせてしまって、本当にごめんなさい」

電「み、三日月ちゃんが謝ることなんて何も!」

三日月「電さん! ……もう、この話はおしまいです」

電「……はいなのです」

三日月「そういえば、電さんに聞きたいことがあるんです」

電「? 何ですか?」

三日月「司令官を、どう思いますか?」

電「……え?」

三日月「……私、お二人が察してくれているように……前の鎮守府で色々と問題起こしちゃったし、色々あったんです」

三日月「だから……提督、と人が自然と怖くなってしまって……司令官にもできるだけ干渉しないようにしちゃっていました」

三日月「話しかけてくれても、素っ気無い反応だったり、遅れた反応しちゃってたり……失礼な態度ばかり取っていました」

電「…………」

三日月「でも、司令官は……本当に優しい人です。そんな私の事も心配してくれていて、あんなことも言ってくれました」

電「……電は、ここが初めての鎮守府なので、あの人が初めての司令官さんなのです」

電「でも、あの人が司令官さんで良かったと思っているのです」

55: 2015/03/22(日) 11:15:46.18 ID:tYygIWBm0
もう書きすぎてますね……。
遅筆で少しずつしか進まないのと、わかりにくい部分があるかもしれません。申し訳ありません。
また後ほど再開します。

三日月「もっと……もっと頑張らないと……私は」電「……三日月ちゃん」【第三夜】

引用: 【艦これ】三日月「もっと……もっと頑張らないと……私は」電「……三日月ちゃん」