494: 2012/12/26(水) 02:40:34.82 ID:BBH5Ty9/o

淡「わぁ、ツリーだぁ……」

誠子「ああ、折角のクリスマスだしな」

誠子「たまにはこういうのも悪くないだろ?」

淡「これ、亦野先輩が用意したんですか?」

淡「はい、素敵だと思います!」

誠子「い、いやに素直だな……」

せっかく褒めてあげたのに渋い顔をする先輩から、ツリーに視線を移す。

それにしても、大きなツリーだ。

モールや人形で綺羅びやかに飾り付けられて。

そして一番上には。

淡「おっきな、お星様……」

私の大好きな、お星様。

思わず、手を伸ばす。

……届かない。

誠子「なんだ、届かないのか?」

誠子「まぁ身長だけは、私の圧勝だもんな」

淡「と、届きますよっ!」

からかうような先輩の声に、ムキになって返事をしてしまう。

やっちゃった。

これで、踏み台を使うわけにはいかなくなってしまった。

淡(困ったなぁ……)

とりあえず、背伸びをしてみる。

届かない。

ジャンプをしてみる。

……やっぱり、あと少しなのに、届かない。

502: 2012/12/26(水) 05:42:10.68 ID:GyFLhrLco

「これが雪だったらいいのになぁ」

無邪気に笑いながら、憧がそう言った。

突然の雨に喫茶店に駆け込んでから、かれこれ一時間は経っている。

「雪でも濡れたら風邪引くけどね」

「でもちょっとだけ気分が上がらない?」

「それは、わかるかも」

日に日に見た目がオトナに近づいていって。

出会った頃のちんちくりんな面影は消え去って。

言動も、日々大人びていったけど、どこか子供じみたところが抜けなくて。

そんな憧が、私はとても、好きだった。

「……結局今年も初瀬とクリスマスだもんねぇ」

「まーそう言わない、一人ぼっちより楽しいじゃん」

何気ない冗談のつもりだったんだろうけど、あの時私、ちょっと、傷ついたんだよ。

笑って誤魔化したけどさ。
咲-Saki- 27巻 (デジタル版ヤングガンガンコミックス)
495: 2012/12/26(水) 02:42:51.77 ID:BBH5Ty9/o

淡(あれ、この感覚――――)

何度も飛び跳ねているうちに、不意に1年の頃を思い出した。

ああ、そうか。

今の私はまるで、テルーがいた頃の、私だ。

テルーっていう星を追いかけ続けて。

最後まで追い付くことが出来なかった、私だ。

淡(届いてよっ)

淡(どうして届かないのっ!?)

淡(どうして……)

何度挑戦しても、あの星は遠すぎて。

淡「テルー……」

誠子「……」 ハァ

後ろから聞こえる、ため息一つ。

気が付くと私は、亦野先輩に抱きかかえられていた。

496: 2012/12/26(水) 02:45:09.44 ID:BBH5Ty9/o

誠子「ごめんな、からかい過ぎた」

淡「先輩……」

誠子「しかし、あんなのがお前にとっては、宮永先輩なのか」

淡「あ、あんなのって……」

聞かれてたんだ。恥ずかしい。

誠子「ほら、行くぞ」

誠子「一人じゃ無理でも……」

誠子「二人でなら、宮永先輩にだって届くだろ?」

ニヤリと笑う先輩に、ほんの少しだけドキっとした。

淡「……どうせなら、たかみ先輩の方が良かったですけど」

悔しいから、軽口を叩く。

誠子「降ろすぞ!?」

そんなことを言いながらも、私をゆっくり持ち上げてくれる先輩。

段々と指先がお星様に近付く。

あと3センチ、

2センチ、

1センチ――――

ぐにょっ

淡(……ぐにょっ?)

497: 2012/12/26(水) 02:46:30.30 ID:BBH5Ty9/o

誠子「しっかし、そんなにヒトデに触りたかったとはな」

誠子「可愛いところもあるじゃないか」

誠子「綺麗なのが釣れたは良いけど、処分に困ってなぁ」

誠子「ちょうど星が足りなかったから、飾り付けることにしたんだ」

愉快そうに笑う先輩。

誠子「ん? どうした?」

私もニッコリと笑って。

手に持ったヒトデを、思いっきり亦野先輩の顔に貼り付けた。

498: 2012/12/26(水) 02:56:13.60 ID:BBH5Ty9/o
あ、終わりです

503: 2012/12/26(水) 05:43:33.14 ID:GyFLhrLco

「まぁねぇ。でも皆は彼氏とデートだもんなぁ」

「……なぁに、憧。彼氏ほしいの?」

あの頃には、とっくにコレが恋心だって気付いてたから。

だから、ちょっと、胸が痛くて。

NOという返事がほしくて。

「んー……まあ、ぶっちゃけあんまり男の人は得意じゃないけどさぁ」

「へえ。おじさんとかにモテそうなのに」

「いやいやどういうイメージよ」

……本当はね。

去年一緒にクリスマス会を開いたメンツが集まらなくて、少しだけ、嬉しかったんだよ。

やな奴だって思うかもしれないけどさ。

……二人だけでも集まらないって言葉を伝えるのに、どれだけ苦労をしたことか、きっと憧は知らないんだろうな。

504: 2012/12/26(水) 05:44:19.69 ID:GyFLhrLco

「来年も私ら二人でいるかもね」

「それは避けたーい!」

「じゃあ、独り身になってたら、来年は一人でケンタッキーに一日篭るってことで」

「何その苦行」

「……まあでも、来年は、お互い恋人と過ごせるといいね」

出来る事なら、来年も二人一緒に居たいから。

その恋人が、私であることを願って。

でも、願うだけで、想いを言葉にすることすらしなくて。

結局、中3のクリスマスは、冬期講習やらのせいで、遊ぶ余裕なんてなくて。

それでも――そこで頑張りさえすれば、高1の冬は、一緒に居られるだなんて勝手に思い込んでて。

「ふぁ……もうこんな時間……」

でも現実は、そうじゃなくて。

受験直前に願った通り、今こうして晩成高校の生徒として夜遅くまでクリスマス会は出来たけど。

そこに、憧の姿はなくて。

頭がいいからきっと受かると思っていたのに、受験してすらいなくて。

……そのことを、話してもくれなくて。

「……片付け、しとこうかな」

私は、好きだと言葉にするより早く、憧にフラれてしまった。

私が憧を想っている程、憧は私を思っていないと、行動を持って示されてしまった。

505: 2012/12/26(水) 05:46:19.13 ID:GyFLhrLco

「おはよう、初瀬」

「あ、小走先輩……もう起きてらしたんですか?」

「ま、誰かが片付け始めないと終わらないしな」

「言ってくれたらそーいう雑用は私ら1年が……」

「まぁそう気にしなさんな」

……別に、今に不満があるわけじゃない。

晩成の皆はいい人だし、クリスマス会も楽しかった。

それでもやっぱり、憧と過ごすクリスマスを夢想してしまう。

「それに、早起きは三文の得だからな」

「え?」

「昨日、皆でサンタさんへのプレゼント書いたろ?」

「書きましたね。結局通常のプレゼント交換会でしたし、プレゼントもないですけど、何の意味が……」

「毎年これを一番に起きた者が回収し、シャッフルしてから公表し皆で笑うのが伝統行事でな」

「えええええええ!? わ、私、その、アレなこと書いちゃってるんですけど……!」

小走先輩と話しながらも、頭の片隅に居座っていた憧の顔が、ほんの一瞬だけ消える。

そりゃそうだ。

なにせ、発表なんて聞いてなかったし匿名でやるみたいだったから、恥ずかしい内容を書いてしまっている。

506: 2012/12/26(水) 05:47:00.26 ID:GyFLhrLco

「ああ、なら、こっそり捨てるか取り替えておけ。それが出来るのは早起きによる得の一つだ」

「はあ……」

「他にも、紙を回収する際にどれが誰のお願いごとか分かるという悪趣味な得もある」

「うへえ」

「まあ、何も知らなかった1年生がワーキャー言うのを見るのがメインだし、本当に嫌なものなら変えてもいいさ」

「は、はは……」

とりあえず、お言葉に甘えようか。

そう思い、まっさらな紙を手に、筆記具を探しカバンを漁る。

その作業の最中に、携帯電話にメール受信という単語が表示されているのを見た。

(……誰だろ。TSUTAYAのメルマガかな)

少なくとも晩成の皆はここに居たわけだし、メールをしてくる理由がない。

家族は皆メールを面倒臭がって電話に頼る傾向にあるので、もう候補としてはメールマガジンかスパムくらいしかなかった。

しかし。

「え」

思わず漏らした声に、小走先輩が「ん? どうかしたか」と反応する。

しかし、失礼なことに、その言葉に反応することができなかった。

ディスプレイに表示されたアルファベット。

随分前に、半ば自棄っぱち半ば未練を断ち切るようにアドレス帳から消したため、名前が表示されないアドレス。

だけど私は、その送り主のアドレスを、ソラで言えてしまうから。

それが、メールなんて送ってくるはずのないと思っていた誰さんからということは、よくわかった。

507: 2012/12/26(水) 05:48:41.04 ID:GyFLhrLco

「憧……」

メールを、開く。

不思議そうに小走先輩が肩越しに画面を見ていたが、気にせずに本文を読み進める。

どうやら、憧は、今年のクリスマス・イブに、ちょっと足を伸ばしたらしい。

添付されたファイルには、神戸の綺麗な夜景が映っていた。

と言っても、夜景だけの写真じゃない。

センターには、憧と――――

「む、これは阿知賀の中堅と大将か」

憧と一緒に楽しげに写った少女。

……あの時コンビニで会ってから、ずっとそんな気はしていた。

憧は、あの時夢見ていたように、イブの日を二人で過ごす相手を見つけたのだ。

「楽しそうで羨ましいな」

小走先輩の言うとおり、憧の顔は、本当に幸せそうで。

こうやって、久しぶりに楽しげなメールを送って貰える程度に仲良く思ってくれてはいたのだろうけど。

こんな顔をさせてあげられる程は、私は想ってもらえなかった。

「……小走先輩」

「ん?」

「やっぱり……サンタへのお願いごとの紙、書き直さなくていいです」

叶うのならば、憧が欲しい。

心も、体も、すべて手に入れてしまいたい。

だけど。

「恥ずかしいですけど――今、これ以上に望むものなんてないですから」

憧が、そんな幸せそうな顔をしてくれるなら。

私の心が、ズキズキと痛みながらも、憧の笑みに癒されているのなら。

せめて、顔が見られず、声の震えも伝わらない、メールや願い事でくらい、カッコつけてやろうじゃないか。

『私の分まで、憧に、幸せを届けてください』

願いの書いた紙を握りしめ、窓越しに空を仰ぐ。

あの日のように小雨の空に向かって、小さな声で呟いた。

「メリー・クリスマス、憧」

隣にいるのは私じゃないけど。

憧のサンタに、私はなれなかったけど。

せめて、私の代わりに隣にいる誰かさんが、私の分も憧を幸せにしてくれますように。

(幸せに、なってね)

会えなかった去年や、二人きりだけど意識の違いを感じた一昨年のように、

今年も一人ぼっちではないけど、どこか孤独なクリスマスだった。

でも、やっぱり今まで通り、どこか少しだけ幸せなクリスマスだった。

ねえ、憧。

私――――憧が好きで、幸せだったよ。



カン!

508: 2012/12/26(水) 06:49:51.51 ID:irtk7r0po
超乙…!
初瀬ちゃんSSが投下されて本当に嬉しい

引用: 咲SS総合スレ