1:◆9sS7mnXqVw2016/05/31(火)22:47:31 8xj
男 カタカタカタカタ

男「ん……」

男「ん~」

――シーン。

男「……うん」

男 カタカタカタカタ
2:2016/05/31(火)22:50:45 8xj
――ピンポーン。

男 ピタッ

男「…………」

男 カタカタカタカタ

――ピンポーン。ピン……ポーン。

男 カタカタカタカタ

――ピンポーン。ピンポーン。ピンポピンポピンポピンピンピンピンピンピンポーン!

男「あぁもう!」

男 ガバッ スタスタスタ
3:2016/05/31(火)22:53:32 8xj
男「今開けまーす」

――ガチャッ

女「やほ、ウチやで。起きとったか?」
4:2016/05/31(火)22:56:31 8xj
男「…………」

女「何そんな顔しとんのよ」

男「……ハァ」

女「何でため息つくんよ」

男「女さん……顔真っ赤ですよ」

女「同期とちぃっと飲んで来たんや」

男「そうですか。ところで今何時かお分かりですか?」

女「……23時半やな。日またぐ前に帰ってこれて良かったわ」

男「いやいや、そうではなくて……」
5:2016/05/31(火)23:00:19 8xj
女「とりあえず上がらせてもらうで」

男「ストーーップ!!」ガシッ

女「何で止めるの」

男「いやいや。女さんのお部屋は隣りです、間違えてますよ。では」ガチャッ

女「ちょい待ち、ちょい待ち! そんな寂しいこと言わんとってよ!」ガシッ

男「何ですか?」

女「少しぐらいええやん。別に取って食ったりせんから」

男「えー……」
7:2016/05/31(火)23:03:29 8xj
男「小生とて一人の男です。こんな時間に男の家に上がるのは危険ですよ?」

女「何言ってんのそんな勇気ないくせに」ケラケラ

男「……おやすみなさい、女さん」ガチャッ

女「あぁ! ゴメン、ゴメンやて! 謝るから入れてぇな!」ガシッ

男「何であなたはお酒飲んでくるといつもうちに入ろうとするんですか」

女「ええやん。ウチ一人暮らしだから寂しいねん」

男「知りませんよ」
9:2016/05/31(火)23:05:31 8xj
女「ほら、お土産もあるんやで。駅前で買った焼き鳥さんよ」

男「……そんなので釣られませんから」

女「そうか? どうせまた遅くまでパソコンぱちぱちやってて小腹空いた頃やと思ったんやけどな」

男「まぁ、確かに……少しだけ、空いてますけど」

女「せやろ!? ほらほら、ここに美味しい焼き鳥さんあるで!」

男「…………」
10:2016/05/31(火)23:09:51 8xj
女「あぁ、ええ匂いや……。早よ食べな冷めてしまうわ~」チラッ チラッ

男 「……ハァ」

男「わかりました。焼き鳥に免じて入室を許可しましょう」

女「ホンマか!? 何か無理言ったみたいで悪いなぁ」

男「言ってますよ。自覚してください」

女「ゴメンやって」
11:2016/05/31(火)23:11:20 8xj
男「脱いだ靴は揃えて置いてくださいね」

女「わかっとるって」

女「いやーしかし、男の部屋ってあれやな、なんか落ち着くわ」

男「隣り部屋なんですから女さんの部屋と何も変わりませんよ」

女「そうやけど、なんか違うのよ。ホンマ落ち着くわ~」

男「そんなこと言って入り浸ろうとしてもダメですからね」

女「チッ」
12:2016/05/31(火)23:13:14 8xj
女「なんか飲み足りひんな」

男「え、まだ飲むんですか?」

女「ええやん。今日は無礼講や」

男「無礼講の使い方間違ってますよ」

女「まぁまぁ。で、男んチは何かお酒ある?」

男「ウイスキーか焼酎で良ければそこの棚にあります」

女「……ウチがそういう強いの飲めへんて知ってて言うとるやろ?」

男「あれ? そうでしたっけ?」

女「とぼけおって……もう!」
13:2016/05/31(火)23:17:11 8xj
男「冗談ですよ。リキュールとジュースがありますから適当にご自分で作ってください」

女「カシオレ飲みたい」

男「カシスも棚に、オレンジジュースは冷蔵庫にあります」

女「ホンマか!? どうしたん、ずいぶん用意ええやん!」

男「……あなたが前に持ってきた残り物ですよ」

女「せ、せやったかな」アセアセ
14:2016/05/31(火)23:22:20 8xj
女「なんかホントすまんなぁ」

男「いいから早く作ってきてくださいな。焼き鳥が冷めてしまいますよ?」

女「おっと、そうやな。ウチが戻るまで手ぇつけたらあかんで!?」

男「わかってますよ」
15:2016/05/31(火)23:27:35 8xj
女「アンタも何か飲むか? 一緒に作って来たるわ」

男「ありがとうございます。ではハイボールで。炭酸は冷蔵庫に入ってます」

女「はいよ! 任しとき! 日本一美味いの持って来るわ」

男「1ミリも期待しないで待ってますね」

女「少しくらい期待しろやアホ!」

男「あははは。失礼しました」

女「まったく……」

女 スタスタスタ

男「…………」
16:2016/05/31(火)23:32:00 8xj
男 カタカタカタカタ

男 ピタッ

男「んン…………、うん」

男 カタカタカタカタ
17:2016/05/31(火)23:34:21 8xj
男「…………」

男 カタカタカタカタ

女「お・ま・た・せ」

男「うえ!?」ガタッ

女「あははは! 変な声出しよったで!」ケラケラ

男「お、驚かさないでくださいよ!」

女「ゴメンゴメンて。お待ちどうさん、ハイボール」

男「ありがとうございます」
18:2016/05/31(火)23:37:46 8xj
女「焼き鳥さんよし、飲み物よし。準備OKやな」

男「それではカンパイしましょうか」

女「はいよ、カンパーイ!」

男「はい、カンパイ」

女「今日も一日お疲れ様や~!」
19:2016/05/31(火)23:40:30 8xj
女 パクッ

女「ん~、焼き鳥さん美味しいなぁ!」

女 クピッ

女「あ~、カシオレも美味しいわ~!」

男「飲み過ぎないように気をつけてくださいね」

女「はいよ! 男はどや、食べとるか? 飲んどるか?」

男「頂いてますよ。砂肝が美味しいです」
20:2016/05/31(火)23:45:45 8xj
女「ハイボールはどうや!? 女さん特製ハイボールの味は!」

男「とても美味しいです」

女「ホンマか!? 日本一か!?」

男「いえ、世界一美味しいです」

女「世界一かぁ~! そっかそっか~!」ニンマリ

男「嬉しそうですね」

女「当り前やん! でも目指すは宇宙一やな! 次は太陽系一取ったるわ!」

男「頑張ってくださいね。応援してます」

女「よぉし頑張るわ! おかわり欲しくなったら言ってや!」
21:2016/05/31(火)23:55:32 8xj
男 モグモグ ゴクッ

女 モグモグ クピッ

女「そういやアンタと知り合って明日でちょうど3ヶ月になるなぁ」

男「そうでしたか? よく覚えてますね」

女「ウチそういうのよう覚えてる人間なんよ」

男「へぇ。素晴らしいですね」

女「そう?」

男「出会いを覚えててもらえるのは嬉しいじゃないですか」

女「……ホンマか?」

男「少なくとも小生はそう思います」

女「そ……そっか~。そうなんかぁ~」
23:2016/06/01(水)00:04:41 djX
女「ウチ、それだけやないよ。初めて男と話した時の事も覚えてるしな」

男「それは小生だって覚えていますよ。女さんが引っ越しのご挨拶に来た時でしょう?」

女「違うわ! そういうのは別モンやろ!」

男「いやぁでも、あのご挨拶はなかなかインパクトがありましたね」

男「まさか引っ越し挨拶の手土産にタコ焼き機をもらえるとは思いませんでしたから」

女「それ言わんといてよ! 会社の人にもめっちゃ笑われたんやから!」アセアセ

男「しかも結構立派で大きいヤツを」

女「う、うるさいわ! 一人暮らしするの初めてやから、何あげればいいんか分からんかったんよ!」
24:2016/06/01(水)00:07:29 djX
女「大阪じゃ一家に一台あるのに、こっちは全然無いて聞いたから、もらえたら嬉しいやろ思たんよ……」

男「えぇ、嬉しいですよ。おかげで週に1回はタコ焼きパーティーしてますから。ひとりで」

女「も、もうええやろ! ってか話違うやろ! アンタとウチが初めて話した時の話やろ!」
25:2016/06/01(水)00:12:38 djX
女「男はホンマ覚えてるんか?」

男「挨拶以外ですよね。もちろん覚えてますよ」

女「ホンマか!?」

男「えぇ、もちろん」

女「そっかぁ。まぁでもあれよ、あの時はビックリしたわ~」

男「本当ですよ。驚き過ぎて心臓が飛び出るかと思いました」

女「そんなにか。でもそっちが燃えるゴミの日に大量の酒瓶捨てようとしとったからやろ。あれウケたわ」ケラケラ

男「え?」

女「は?」
26:2016/06/01(水)00:15:45 djX
男「え……あぁ、なるほどですね」

女「え、えぇ!? 何がなるほどなんよ! アンタは何を覚えてたの?」

男「女さんが酔っ払ってエントランスの床で寝てた時の事かと」

女「ああああ! また小っ恥ずかしいこと思い出すなや!」
27:2016/06/01(水)00:21:44 djX
女「ってかそれも違うやろ! ゴミ置き場で『今日はビンの日ちゃいますよ』って話しかけたのが最初やん!」

男「そうでしたっけ?」

女「そうやて! そしたらアンタ、『どおりで置き場が無いはずですね』とか言って酒瓶パンパンのゴミ袋しぶしぶ持って帰ったやんか!」

男「日常のこと過ぎてさすがに覚えてませんよ……」

女「覚えてないんかい! ウチは覚えてたのに!」

男「むしろそんなことよく覚えてますね。軽く引くレベルです」

女「なんでよ! 出会い覚えてると嬉しいんやろ!?」

男「ドン引きするレベルを覚えられてても困ります」

女「だからなんでよ! 嬉しい思えや! 感動しろや!」

男「立派なタコ焼き機を頂けたのは感動しました」

女「ああああ! その話はもうええ! ぶり返すな!」
28:2016/06/01(水)00:25:52 djX
男「しかし出会いって面白いですよね。あの日酔ってエントランスで寝転んでた女さんを介抱したのが切っ掛けで、よく話すようになりましたからね」

女「うぅ……実はその日のことあまりよく覚えてへんねん……」

男「スーツ姿の女性が大の字でうつ伏せで寝てて、最初は事件かと思いましたよ」

女「そんなことなってたんか……」

男「しかもなぜか満面の笑みでした」

女「ホンマか!?」

男「話し掛けたら何かムニャムニャ言ってましたから、きっといい夢見てたのでしょう」

女「やめてぇな……もう恥ずかし過ぎるわ……」
29:2016/06/01(水)00:28:40 djX
男「それからこうして焼き鳥食べ合ってるんですから、縁ってものは分からないものですね」

女「せやな。そこは確かに、そうやね」

男「それにしてもこの焼き鳥、本当に美味しいですね」

女「せやろ? ウチここの焼き鳥さんホンマ好きやねん。男は焼き鳥さんだとどこが好き?」

男「小生は内臓系ですね。砂肝とかハツとか」

女「歯応えあるのが好みなんやな。ほら、ナンコツも買うて来てるで」

男「ありがとうございます。やはり焼き鳥は塩が良いですね」

女「せやろせやろ? わかるわ~、私も焼き鳥さんは塩って決めとんねん」
30:2016/06/01(水)00:30:48 djX
男「でもつくねとレバーだけはタレ派です」

女「あっ、それもわかるわ~。ウチもそこだけはタレにする。ってかしてきた。こっちの袋がタレで、つくねとレバーよ」

男「ずいぶん買ってきましたね」

女「酔った勢いで頼み過ぎてしもてな。男が起きとってよかったわ」

男「確かに女性一人でこれは多すぎますね」
31:2016/06/01(水)00:31:10 djX
男「あっ、そうだ。後でお金払いますね」

女「ええよええよ。押しかけとるんやからウチの奢りよ」

男「少しくらい払いますよ」

女「ええって。お姉さんに任せしときって」

男「……わかりました。すみません。ご馳走になります」
33:2016/06/01(水)04:26:42 djX
女「その代わり一つ聞かせてくれへん?」

男「何ですか?」

女「男は何で自分の事を俺とか僕じゃなくて小生って言うん?」

男「…………」

女「どしたん?」

男「……これは子供の頃からの癖なんです」

女「なになに、もっと詳しく教えてよ。気になるやん」
34:2016/06/01(水)04:34:02 djX
男「あれは小生が小学3年生の冬、父から、とある書生が主人公の小説を借りたのです」

女「うんうん。それでそれで?」

男「小説はその主人公の視点で書かれていて、自分のことを小生と呼ぶのです」

男「その言葉の響きと物珍しさが面白くて毎日真似していました」

女「ちょい待ち。まさか……嘘やろ……?」

男「いえ、そのまさかです。1年くらい使い続けてたら元に戻せなくなってしまいました」

女「あはははは! ホンマかいな、アホやん!」ケラケラ

男「変なことするもんじゃないですね」
35:2016/06/01(水)04:37:42 djX
男「もう小生という言葉から離れられなくなってしまいました」

女「あははははは! アホやわ!」ケラケラ

男「初めて会う人には驚かれます。そして若干引かれます」

女「当たり前や! 今時小生なんか使う奴おらへんやもん!」ケラケラ

男「いや、小生は小生使ってますよ?」

女「小生小生やかましいわ!」ケラケラ
36:2016/06/01(水)04:39:24 djX
女「あー、久々に大声で笑ったわ。涙出る」

男「楽しんで頂けて幸いです」

女「もう一個聞いてええか?」

男「どうぞ」

女「何でいつも敬語口調なん?」

男「これは母親からの影響です。母がこういう喋り方でしたので」

女「なんや、案外普通の答えやな」

男「ご期待にお答えできず申し訳ありません」

女「そんなことないよ。敬語口調なのが逆に小生を引き立たせてておもろいわ」

男「ありがとうございます」
37:2016/06/01(水)04:40:51 djX
女「もう1個聞いてええか?」

男「もう3個目ですけど、いいでしょう。どうぞ」

女「男っていつもパソコンぱちぱち叩いとるけど、それ何作っとん?」

男「これですか? ……それに答えるのはちょっと恥ずかしいですね」

女「何でよ。小生の由来も聞いた仲やし恥ずかしがらんでもええやん」
41:2016/06/01(水)19:19:49 djX
男「ん~……笑わないならいいですよ」

女「笑わへんよ」

男「本当ですか?」

女「本当やって」

男「絶対ですか?」

女「絶対やって」

男「天の神様に誓いますか?」

女「しつこいわ! ってか天の神様とか子供か!」
42:2016/06/01(水)19:24:27 djX
女「宣誓! ウチは何聞いても笑わへんことを約束します!」

男「……ハァ。まあ良いでしょう。これはSSってやつです」

女「エスエス?」

男「サイドストーリーやショートストーリーの略で、元は二次創作のネット小説のことを言うのですが……」

男「今はもうネットで披露する台本形式の簡易的な小説がそう総称されています」

女「じゃあ男は小説を書いてるんか? すごいやん」

男「小説と言ってもそんなに高尚なものではないですよ。ネットでの遊びの一種だと思ってください」

女「へぇ~。なんやおもろそうやん」
43:2016/06/01(水)19:29:06 djX
女「今ネットでそんなんが流行ってんの?」

男「何年か前までは一部で流行ってましたが、今はずいぶん下火になりました」

女「そうなんか。へぇ~、でも初めて知ったわそんなの」」

女「何か簡単に読めるオススメのものある? 試しに一個読んでみたいわ」

男「オススメですか。どんなジャンルがいいですかね……」

女「あっ、ちょっと待ち。やっぱあれや、男の書いたやつが読みたい」

男「小生のですか!?」

女「そっ。男の」
44:2016/06/01(水)19:32:23 djX
男「いや、それはちょっと……恥ずかしいですよ……」

女「何でよ。ええやん、せっかくだから男の書いたやつが読みたいんよ」

男「申し出はありがたいんですが……さすがに目の前で読まれるのは……」

女「何よそんなに恥ずかしがって。……あっ! まさかエッチなやつ書いてるんやろ? それで見られたくないんや!」

男「なっ!?」

女「そら見られたくないわなぁ。男の性癖がバレてしまうもんなぁ」ニヤニヤ

男「小生はそんなもの書きませんよ!」
45:2016/06/01(水)19:39:26 djX
女「ゴメンなぁ、お母さん変なこと言ってしもて。男ちゃんもオトコの子やもんなぁ」

男「関西人特有のお母さん化やめてください! 書いてませんから!」

女「ホンマかなぁ~。実際に読ませてもらわんとわからへんわなぁ~」

男「……ハァ。わかりました。降参です。お見せしますよ」

女「にひひ。素直にそうしてればええのよ」ニカッ
46:2016/06/01(水)19:42:37 djX
男「LINEでとあるサイトのURL送りますから、焼き鳥食べながらそれ読んでてください」

女「まさかエッチなサイト?」

男「そんな訳ないでしょう! 送るのやめますよ!?」

女「じょ、冗談やて。ゴメンゴメンて。堪忍堪忍」ペコペコ

男「もう……。ほら、送りました。静かに読んでてくださいね」

女「はいよ!」
47:2016/06/01(水)19:48:04 djX
男 カタカタカタカタ

男 カタカタカタ……

男「…………」

男「…………」チラッ


女「…………」モグモグ

女 スッ

女「…………」クピッ

女 スッ

女「…………」


男「…………」

男 カタカタカタカタ
48:2016/06/01(水)19:59:06 djX
――1時間後。


男 カタカタカタカタ

――グスッ。

男「?」

女「……うぅ」グスッ グスッ

男「女さん?」

女「……読み終わったで」グスッ グスッ

男「どうでした?」

女「アカン……これ泣けるわ……ようこんな話思いついたなぁ……うぅ」グスッ グスッ

男「あはは。楽しんでもらえて光栄です。ティッシュです、どうぞ」

女「ありがとうな……」グスッ
49:2016/06/01(水)20:13:19 djX
女「なんや、遊び言うからもっと簡単なものかと思っとったけど十分おもろいやん」フキフキ

男「どうせ書くなら楽しんでもらいたいですからね。そう言ってもらえると本当に嬉しいです」

女「こんな書けるんやったら作家でも目指したらええのに」

男「……実は作家を目指そうと思ったこともあるんですよ」

女「そうなん?」

男「えぇ、先ほどの小生の件で、父の持っている小説を読むようになったのが切っ掛けで」
50:2016/06/01(水)20:20:32 djX
男「でも小生では学も経験も、何より情熱が足りませんでした」

男「何かに挑戦したり大きな努力をした訳ではないのですが、小生では無理だと勝手に悟って早々に諦めてしまいました」

男「ですがこのSSというものを知り、今になっておめおめと作家になりたかった夢が思い起こされて……」

女「…………」

男「あっ、いや、今更作家を目指している訳ではないんです。ただ知りたかったし、試したかったんです」

女「何を?」

男「自分が作る話が面白いと思ってもらえるのかどうかを、です」
51:2016/06/01(水)20:24:47 djX
男「多くの方に読んでもらって良い評価を頂ければ、せめて『面白い話を作る才能だけはあったんだ』と――」

男「――そう自分に言い聞かすことができて、少しは満足できるような気がして……」

男「我ながら女々しいなとは思うのですけどね、あはは」

女「…………」
52:2016/06/01(水)20:28:53 djX
女「そうやったんやね」

男「今日は色々話しましたが、とうとう一番恥ずかしいことを知られてしまいましたね」

女「何でそんなに恥ずかしがるんよ。別にウチはそれ恥ずかしいことだなんて思っとらんし」

男「え?」

女「アンタが書いた話は面白いよ。他の人もほら、おもろかった、感動したって言うてくれてるやん」

女「少なくともここに一人、アンタの書いた話でめっちゃ感動した人間がおるんよ」

男「…………」
53:2016/06/01(水)20:31:33 djX
女「男は夢は諦めてんけど、でもまだ憧れてんやろ? なれんかって悔しいからこうして書いとるんやろ?」

男「………」

女「なら自信持って、誇り持って書けばええやん」

女「だって男は、こんなに素敵な話を書いて、人を感動させられるんやから!」

女「女さんが保証したる! アンタの書くこれは面白い! 絶対よ!」

男「……ありがとうございます。何だか、救われた気分です」

女「アンタの小説読んだ、読者の生の声や。しっかり心に刻んどき」

男「えぇ、確かに刻みました」
54:2016/06/01(水)20:34:30 djX
女「ちなみに他に書き終わってるやつあるんか?」

男「あと2つあります」

女「よし、なら紹介してもらおか。読むわ」

男「えぇ、これから読むんですか!?」

女「ええやん! 今しがた自信持ちって言ったばっかりやん!」

男「いや、そうじゃなくて、もう夜の1時ですよ。帰って寝られた方が良いのでは……」

女「あら、もうそんな時間かいな」
55:2016/06/01(水)20:37:32 djX
男「夜更かしは美容の大敵ですよ。お酒もずいぶん飲んでますし」

女「……いや、読む!」

男「えぇ!?」

女「男が他にどんなの書いてるのか気になるんやもん!」

男「こんなのいつでも読めますから、ほら、帰りましょう」

女「イヤや! ウチが読むったら読むんや!」
56:2016/06/01(水)20:44:28 djX
男「遅いんだからもう帰って寝ましょうよ」

女「イヤや!」

男「お互い明日も仕事ですし」

女「イヤや!」

男「続きはまた今度です」

女「イヤや!」

男「ちょっと聞いてくださいよ」

女「イヤや!」

男「女さん」

女「イヤや!」

男「いい歳した女性が駄々っ子しないでください」

女「う、うるさい!」
57:2016/06/01(水)20:45:43 djX
男「そんなにわがままばかり言わないでくださいよ……」

女「だって他のも気になるんやもん!」

男「まったく……。あまり夜遅くまで居続けるなら襲ってしまいますよ?」

女「……別に男になら襲われてもええよ」ボソッ

男「え?」
58:2016/06/01(水)20:48:03 djX
男「……女さん、酔ってますね?///」

女「……男やって、そうやろ///」

男「…………///」

女「…………///」

女「や、やっぱ帰ろかな! 夜更かしはお肌に悪いし!」アセアセ

男「そ、そうですよ」アセアセ
59:2016/06/01(水)20:50:53 djX
女「ちゃんと歯磨いて寝るんやで?」

男「こっちの台詞ですよ。お化粧落として、お風呂も入るんですよ?」

女「そうやった……うぅ……今からやるのメンドくさいわぁ……やっぱ帰りたなくなって来た……」

男「女性は大変ですよね。ほら、お部屋まで送りますから一緒に帰りましょう」グイッ

女「うぅ……ありがとうな」
60:2016/06/01(水)20:53:12 djX
男「おぉ、夜はまだ肌寒いですね……。鍵はありますか? 無くしてないですか?」

女「大丈夫やて。お酒は飲んでも飲まれるな、これ鉄則よ」

男「カシオレぐらいで泥酔されても困りますけどね」

女「な、なんよそれ! カシスとオレンジは最強の組み合わせや! ナメたらアカンで!」

男「シーッ! もう真夜中ですから!」ヒソヒソ

女「せやった……。ゴメンゴメンて」ヒソヒソ
61:2016/06/01(水)20:55:57 djX
――ガチャッ。

男「ほらお姫様、ドアが開きましたよ」

女「おう。苦しゅうないで」

男「それじゃお殿様でしょう」

女「あははは。ええツッコミやな。褒めてつかわすわ」

男「ありがたき幸せ、ってだからそれお殿様ですって」

女「あはははは」ケラケラ
62:2016/06/01(水)20:58:30 djX
男「床で寝たりしないよう気をつけてくださいね」

女「男こそ、パチパチはもうやめて早よ寝るんやで」

男「わかりました」

女「今書いてるヤツも書き終えたら教えてな。一番に見たるから」

男「えぇ、お約束します」

女「それと最後にもう一度言ったる。アンタの書いたSSっての、本当に面白かったわ」

女「作家になれんかったんは残念やろうけど、ウチはアンタの書く話、好きやで」

男「……ありがとうございます」
63:2016/06/01(水)21:00:47 djX
女「それじゃ、おやすみな」

男「はい。おやすみなさい」

女 ノシ

男 ノシ

――ガチャリ。

男「…………」

男 クルッ スタスタスタ
64:2016/06/01(水)21:02:08 djX
[翌日の夜]

男 カタカタカタカタ

男 カタカタカタカタ

――ピンポーン。

男 ピタッ

――ピンポーン。ピン……ポーン。

男「…………」

――ピンポーン。ピンポーン。ピンポピンポピンポピンピンピンピンピンピンポーン!

男「あぁもう!」

男 ガバッ スタスタスタ
65:2016/06/01(水)21:03:07 djX
男「今開けまーす」

――ガチャッ。

女「やほ。ウチやで」
66:2016/06/01(水)21:05:42 djX
男「……ハァ」

女「なんよ、昨日と同じ顔して同じ溜め息までついて」

男「今日はお早いのですね」

女「お仕事早く終わったんよ」

男「……あれ?」

女「え?」

男「今日は酔ってらっしゃらないのですか?」

女「はぁ!?」
67:2016/06/01(水)21:07:46 djX
男「いや、素面みたいだなと思いまして」

女「何言っとんよ! 素面っぽいじゃなくて素面やっての!」

男「えぇ!?」

女「なんよ! 人のこと酒浸り扱いして!」

男「違うんですか?」

女「違うわ!」
68:2016/06/01(水)21:11:09 djX
女「なんよなんよ! 男まだ夜ご飯食べてへんやろうから昨日のお礼と詫びに作ってやろかと思たのに!」

男「そうだったんですか。すみません……」

女「乙女心を踏みにじりおって! この鈍臭男!」

男「ちょ、ちょっと外ではお静かに! 謝りますから!」ヒソヒソ

女「うるさい! 何もわからへんのか、このパソコンパチ男!」

男「わかってますから! ごめんなさい! ですからお静かにお願いします!」ヒソヒソ

女「嘘つき! 何もわかってへん!」
69:2016/06/01(水)21:14:37 djX
女「なんよ……また小説読ませてもろて、一緒にお話ししよう思っとったのに……」

男「…………」

女「それとも、ウチが飲んでて仕方なくでないと入れてくれへんの……?」

男「…………」ポリポリ

男「……わかりました。では晩御飯に免じて入室を許可しましょう」

女「よっしゃ! なら早速上がらせてもらうわ!」バッ

男「切り替え早過ぎて尊敬します」
70:2016/06/01(水)21:16:44 djX
男「女さん、靴は――」

女「揃えて置くんやろ? わかっとるって」

男「……なら良いでしょう。では、晩御飯よろしくお願いします」

女「はいよ! 任しとき! 日本一美味いもの食わしたるわ!」

男「1グラムも期待せずに待ってますね」

女「だから少しくらい期待しろやアホ! もうええわ!」



~終わり~
71:2016/06/01(水)21:36:57 0sX
おつ
男「とあるSS書きの日常」
引用元:http://hayabusa.open2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1464702451