1:2018/06/12(火) 02:38:27.494
少女「マッチいかがですか~?」

少女「いかがですか~?」

少女「…………」

少女「ムキーッ! 全然売れない!」

少女「このままじゃババアにどやされちゃうじゃん!」

少女「こんないたいけな少女が、こんな健気にマッチ売ってるのに、誰も見抜きもしないなんて……」

少女「世の中間違ってる! 狂ってる! こんな世界は燃え尽きりゃいいのよ!」

少女「こうなったら、何でもいいから燃やしてやるわ!」


3:2018/06/12(火) 02:40:18.679
チンピラ「へへへ……おい」

少女「んー?」

チンピラ「さっきから見てたが、マッチ全然売れてねえなぁ」

少女「ほっとけ」

チンピラ「オレに体売るなら、マッチ買ってやってもいいぜ」

少女「あらホント?」

少女「じゃ、後ろ向いて」

チンピラ「お? 脱ぐところ見られるのは恥ずかしいってか?」クルッ
4:2018/06/12(火) 02:41:42.547
少女「…………」シュボッ

チンピラ「!?」メラメラ…

チンピラ「あちちちちちっ! あっちゃ~~~~~~!!!」

チンピラ「ケツに火が! 水、水ぅ~~~~~~!!!」タタタタタ…





少女「悪いけど、“はじめて”は白馬に乗った王子様に捧げるって決めてんのよ」
6:2018/06/12(火) 02:43:46.747
<レストラン>

シェフ「う~ん……」

少女「あれ、シェフ? なに悩んでんの?」ヒョコッ

シェフ「珍しい動物の肉が手に入ったんで、ステーキにしてみようと焼いてみてるんだが」

シェフ「なかなかしっくりいく焼き方にならんのだよ」

少女「だったら、あたしが焼いてあげる!」シュボッ

少女「ほーら!」

ゴォワァァァァァッ!

シェフ「うわぁぁぁぁぁ!!!」
7:2018/06/12(火) 02:45:23.609
プスプスプス…

シェフ「ああ……なんてことするんだ!」

少女「アハハ、じゃあね~!」タタタッ

シェフ「まったく……! 高いんだぞ、この肉……」

シェフ「……む!? 肉が今までにない香ばしい匂いを発している!?」

シェフ「味もいい……」モグ…

シェフ「そうか、この激しい焼き方こそが、この肉にマッチする焼き方だったのか……!」

シェフ「マッチだけに!」
8:2018/06/12(火) 02:48:03.762
歌手「Yo! Yo! みんな、騒ごうZe~♪」

歌手「なんかイマイチだな……」

少女「ヤッホー!」

歌手「おお、マッチ売りの少女ちゃん! ノッてるか~い!?」

少女「全然! あんたは?」

歌手「オイラもノリきれてないんだよなぁ~……スランプってやつかな!」

少女「だったらノるようにしたげる!」シュボッ

歌手「!?」ボワッ…

歌手「あちゃちゃぁぁぁぁぁっ! 髪がっ、髪の毛がぁっ!」
10:2018/06/12(火) 02:50:18.749
歌手「Hey、どうすんだよ!」

歌手「オイラの髪の毛が綿菓子みたいになっちゃったじゃないか~!」ボムッ

少女「キャハハ、よく似合ってるよ! じゃあね~!」タタタタタッ

歌手「……たしかに」

歌手「この髪型、いいかもしれない! 不思議なパワーが湧き出てくるZe!」

歌手「ノッてきたZe~! ワオ!!!」
11:2018/06/12(火) 02:52:06.001 ID:esDIFMsVr.net
この少女有能だな
12:2018/06/12(火) 02:53:14.450
少女(あそこにいるのは……チンピラと、たまに町に水を売りにくる“水売り”じゃん)



少年「そりゃ!」バシャッ

チンピラ「ふぅ~、火が消えた……。あのガキ、ふざけやがって……」プスプス…

少年「大丈夫ですか? お代はもちろん結構ですので」

チンピラ「たりめーだろ! 緊急事態だったんだからよ!」

チンピラ「あ、そうだ! 水もらったついでに、売上金もよこせや!」

少年「へ!? そ、そんな……」

チンピラ「いいじゃねえか! 恵まれないチンピラに愛の手を!」

少年「や、やめろ……!」
13:2018/06/12(火) 02:56:08.618
少女「なにやってんのよ、このクズ!」

チンピラ「!?」ギクッ

チンピラ「またお前かよ……邪魔すんな!」

少女「また燃やされたいの?」シュボッ…

チンピラ「ぐっ……! 覚えてやがれ~っ!」タタタタタ…

少年「あ、ありがとう……」

少女「シケた礼なんていらないから、水一杯もらうわね」グビグビ

少女「ぷはーっ! 相変わらずいい水売ってんじゃん!」

少年「どうも……」

少女「ったくぅ~、しっかりしなさいよね、水売り! いつもいつも情けない!」

少女「そんなんじゃ、本当に男の身で水商売しなきゃなんなくなるっつーの!」

少年「ご、ごめん」
14:2018/06/12(火) 02:58:11.742
少女「……ほら!」サッ

少女「水の代金代わりに、マッチあげる!」

少年「……いいの?」

少女「いちいち確認しないで、とっとと受け取る!」

少年「ありがとう、宝物にするよ!」

少女「キャハハ、大げさな奴~!」
15:2018/06/12(火) 02:58:45.068 ID:ML48M9Il0.net
マッチ売りの姉貴
18:2018/06/12(火) 03:00:21.373
<アトリエ>

ペタペタ… ヌリヌリ…

画家「うむむむ……ダメだ!」

画家「いくら描いても全然地獄っぽくならない! こんな絵は駄作だぁ!」

少女「だったら燃やしたげる!」

画家「え?」

少女「ほーら!」シュボッ

ボォォォォォ……!

少女「さすが油絵! よく燃えるわ~!」

画家「わあああああ!!!」

少女「駄作だったんでしょ? いいじゃん!」

画家「よくねえよ!」
19:2018/06/12(火) 03:01:42.038 ID:esDIFMsVr.net
燃やしすぎィ!
20:2018/06/12(火) 03:02:47.379
少女「じゃあね~!」タタタタタッ

画家「なんて子だ! 勝手に忍び込んで、人の絵を燃やすなんて!」

プスプスプス…

画家「――むむ!?」

画家(私の絵が焼け焦げて……まるで地獄のような光景に……)

画家「これだ! これぞ地獄だ! 私が描きたかったのは、これだったんだ!」

画家「あのマッチ売りの少女……さては地獄からやってきた鬼なのか!?」
21:2018/06/12(火) 03:04:20.573
老人「立派な家じゃのう~」

詐欺師「この家ならば、絶対安心でございます!」

詐欺師「大雨が降ろうと、台風が来ようと、地震が起きようと、絶対にあなたをお守りします!」

老人「よし、この家を買おうかのう」

詐欺師「ありがとうございます。では、この契約書にサインを……」

少女「ねえ、火災はどうなの?」

詐欺師「そりゃもう! もちろん大丈夫!」

少女「ふーん、じゃ試してみよ!」シュボッ

詐欺師「へ?」
23:2018/06/12(火) 03:04:46.405 ID:esDIFMsVr.net
鬼扱いw
24:2018/06/12(火) 03:06:58.578
ゴォォォォォ……! ゴォォォォォ……!



少女「なーんだ、よく燃えるじゃん」

老人「ひどい家じゃ」

詐欺師「うわぁぁぁ~~~~!!! あれだけ苦労して見た目だけ整えたボロ家がぁ~~~~~!!!」
27:2018/06/12(火) 03:09:13.236
少年「はぁ、はぁ……」タタタッ

少女「あら? 水売りじゃん、何してんの? 万引きでもやらかした?」

少年「マッチ売りちゃん!」

少年「また君に会えて嬉しいけど……今、人に追われててね! またね!」タタタッ

老紳士「お待ち下さい、若! お忍びも程々にして下され!」タタタッ

老紳士「しかも、高貴な方しか入れない山の湧き水を持ち出すなどと……!」タタタッ



少女「行っちゃった……」
28:2018/06/12(火) 03:10:53.178
少女「…………」

少女(若、お忍び、高貴な方、たまにしか町に来ない……)

少女(もしかしてあいつ、結構いいとこのお坊ちゃんなのかも!)

少女(将来の結婚相手の……候補ぐらいにはしといてやるか!)ニヤッ
29:2018/06/12(火) 03:13:22.907
剣闘士「ふぅ……」

剣闘士(我は強い……強すぎる。もはや闘技場で我の相手になる者はいなくなってしまった)

剣闘士(かつて、初めて闘技場の試合に出た時のような情熱を取り戻したい……)

剣闘士(あの頃の、心が焼けつくような緊張感をもう一度味わいたい)

剣闘士「燃えたい!」

少女「なら燃やしてあげる!」シュボッ

剣闘士「あっぢいいいいい!!!」
30:2018/06/12(火) 03:15:34.791
剣闘士「いきなり何をするか、小娘!」

少女「なにって燃えたいっていったから、燃やしてあげたんじゃん」

剣闘士「なんという態度だ! 闘技場チャンプである我を知らんのか?」

少女「知るわけないじゃん。マッチ売りに忙しくて試合観戦なんてする暇ないし」

剣闘士「むう……! 小娘、オシオキしてやろう! 抜けい!」ジャキッ

少女「おっもしれぇ! このババア特製・特大マッチ棒で相手してあげる!」サッ

剣闘士「てりゃああああっ!」

少女「えええええいっ!」

ガキンッ!
31:2018/06/12(火) 03:17:10.276 ID:35I1EzLYr.net
特大あるのか…
32:2018/06/12(火) 03:17:35.163
ガキッ! キンッ! キィンッ!

剣闘士(この少女、なかなかやる!)

少女(うわ、こいつ思ったよりずっと強いんだけど!)


――ギィンッ!


剣闘士「……ぬう」

少女「あっぶね……」

剣闘士「…………」チャキッ

少女(やば……もしかして本気モードになっちゃうとか?)
33:2018/06/12(火) 03:20:15.358
剣闘士「…………」ニヤッ

少女「何笑ってんの?」

剣闘士「君と剣を交えたら、世の中まだまだ我も知らぬ強者がいると分かった……」

剣闘士「おかげで心に火が灯った。今は勝負を預けよう!」

少女「そりゃどうも」

剣闘士「もし、よかったら……一度、闘技場に観戦に来てほしい」

少女「暇と金があって、なおかつ気が向いたらね」

剣闘士「うおおおおおっ! 燃えてきたぁぁぁぁぁ!!!」タタタタタッ

少女(闘技場の剣闘士ってのは、ああいう変な奴ばっかなのかな)
34:2018/06/12(火) 03:23:11.547
<町外れ>

少女「あれは……チンピラ?」


親分「バカヤロウが!」バキッ

チンピラ「す、すんません」

親分「早いとこ、この町をシメて上納金持ってこねえと、指どころじゃ済まさねえぞ!」

チンピラ「ゆ、許して下さい! もう少し待って下さい!」

親分「もう待てねえっていってんだろ!」ドカッ

チンピラ「ぎゃふっ!」


少女(ふうん、チンピラはチンピラで、上の奴にいわれて横暴を働いてたわけか)
35:2018/06/12(火) 03:26:04.847
少女「その辺にしときなさいな」

親分「なんだ、このクソガキは?」ギロッ

少女「クソにクソ呼ばわりされたくなぁ~い。あたしは人呼んで……マッチ売りの美少女!」ビシッ

チンピラ「う……なんでお前ここに……?」ヨロ…

少女「あたし、弱い者イジメするのは好きだけど――」

少女「弱い者イジメ見るのは嫌いなのよね」

少女「チンピラ、あんたはクズだけど、今回だけは助けてあげる」

チンピラ「うう……!」ジーン…

親分「よく分からねえが、オレ様の邪魔をしたいってわけか」
36:2018/06/12(火) 03:28:22.790
少女「さあ、覚悟なさい!」

少女「この愛と炎の戦士、マッチ売りの少女が来たからには――」

親分「お嬢ちゃん、腕っぷしに自信があるようだが、この人数でもか?」


ズラッ…


少女「ゲ、こんなに手下がいたの!? 最初から出しといてよぉ! そしたら助けに入らなかったのに!」

チンピラ「おいおい」

チンピラ(だけどこの人数、いくらこいつでも……!)

少女(こりゃ人生ワースト5に入るくらいの大ピンチかも……)
37:2018/06/12(火) 03:29:59.940 ID:mWhupe63a.net
いきなりバトル漫画ぽくなったな
38:2018/06/12(火) 03:30:08.971
親分「オレ様はお尋ね者だからな! いつだってこれぐらいの用心はしてるのさ!」

親分「これが数の暴力ってやつよ! さあ、覚悟してもらおうかぁ!」





少女「ううう……やってやるわよ! かかってきんしゃい!」

少女(明日の朝刊の一面は『哀れマッチ売りの少女、集団婦女暴行の餌食に!』で決まりか……)
39:2018/06/12(火) 03:32:04.033 ID:Mx6/HTgMM.net
そこで俺よ
40:2018/06/12(火) 03:33:07.907
王子「やめたまえ!」パカラッ

親分「あん!? 誰だ!?」

少女「え、ウソ……白馬に乗った王子様!?」

親分「王子だと!? かまうもんか、やっちまえ――」

王子「無駄な抵抗はよすんだ。こちらには大勢の兵士がいる」


ズラズラッ…


親分「ひいいいいい! 数の暴力反対ぃぃぃぃぃ!!!」
41:2018/06/12(火) 03:35:49.826
チンピラ「すっげえ、親分達があっという間に捕まっちまった……」

少女「国家権力サイコー!」キャッキャッ

王子「大丈夫かい?」

少女「はいっ! 傷一つ負ってませんわ! “はじめて”も奪われてません!」

王子「よかった……(“はじめて”ってなんだろ?)」

少女「ですが、どうして王子様がこちらへ?」

王子「あの者たちは町の治安を乱す者として、我々もマークしていたからね」

王子「今日、捕縛に乗り出したというわけだよ」

少女「あんなベリーナイスなタイミングで来て下さるなんて……」

少女「ありがとうございます、王子様」

王子「いや、さっき君はボクを助けてくれたんだから、お互い様だよ」

少女「え?」

王子「あ、いや……何でもないよ! アハハハハ……」

少女「?」
42:2018/06/12(火) 03:37:07.884 ID:4v29W4UT0.net
王子……まさかあんた…
43:2018/06/12(火) 03:37:15.016
ポトッ

王子「あ……」

少女「あれ? これ、あたしのマッチ……」

少女「どうして王子様がこのマッチを?」

王子「さっきたまたま拾ったんだよ! アハハハハハハ!」

少女「なーんだ、そうでしたのね! オホホホホホホ!」
44:2018/06/12(火) 03:38:32.734
王子「ところで……」

少女「なんでしょうか、王子様?」

王子「もしよかったら、今度デート……」







祖母「ゴラァァァァァッ!!!」
45:2018/06/12(火) 03:40:20.307 ID:ML48M9Il0.net
婆出てきちゃった
46:2018/06/12(火) 03:42:05.681
祖母「こんなところで何やっとるんじゃあああああああ!!!」

少女「ゲ、ババア! 地獄から戻ってきたの!?」

祖母「勝手に頃すんじゃないよ、このバカ孫がァ!」ゴツンッ

少女「あぶっ!」

祖母「町で散々色んなもん燃やしたそうじゃないか! マッチ売らずに油売りやがって!」ゴツンッ

少女「ぎょぼっ!」

父「まったく……いつもの場所にいないから心配したよ。ママも家で待ってる」

少女「パパ……ごめん」

祖母「すみませんねえ、王子様! うちのバカ孫がとんだご迷惑を!」ゴツッ ゴツッ

王子「い、いやそんなことは」

祖母「いいえいいえ! かばわなくて結構! 我が家できっちり叱っておきますから!」ガツンッ
49:2018/06/12(火) 03:44:16.687
祖母「どうせ、マッチが売れないから何でもいいから燃やす、なんてバカなこと考えてたんだろ!?」

少女「なんで分かるのぉ!」

祖母「さ、帰るよ!」グイッ

少女「たぁすけてぇぇぇ!!!」ズルズルズル…




チンピラ「うへえ……あんなバアさんに育てられたんじゃ、たくましくなるわけだ……」


王子「…………」

王子(また会おうね、マッチ売りちゃん)
52:2018/06/12(火) 03:47:23.072
……

……



少女「いやー、こないだはせっかく王子様に会えたのに、ひでえ目にあったわ」

少年「大変だったね……」

少女「あのババア、いつか生きたまま火葬してやる……!」

少年「お婆様は大切にね……」

少女「ふん、あんなババアは粗末にした方が長生きすんのよ!」

少女「それにしても、王子様……かっこよかったなぁ。どこかで見たような気もするけど」

少年「き、気のせいだよ、きっと」
55:2018/06/12(火) 03:49:37.737
少女「あ、そうだ! 水売り!」

少年「なに?」

少女「今度デートしない? 王子様にアタックする前に練習したいの!」

少年「……いいよ! 喜んで!」

少女「よっしゃ決まり! 絶対王子様を振り向かせてやる! あたしのハートも燃えてきたぁ!」

少女(だけど、案外あたしの“はじめて”の相手って、水売りになっちゃうような予感がするわ)







~おわり~
56:2018/06/12(火) 03:51:18.924 ID:ML48M9Il0.net
マッチ売りの姉姫
57:2018/06/12(火) 03:58:20.095 ID:xI1CY6qX0.net
58:2018/06/12(火) 03:58:26.196 ID:C9BAFupI0.net
よかったです
59:2018/06/12(火) 04:02:26.022 ID:/4UVUx2/r.net

俺の心も燃えたわ